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42. 追憶する姫君⑨


 今年のデューハイトン帝国の建国祭は無事に終幕し、ウィルの訪問日を迎えた。


「元気にしてたかい、ヴィー」


「見ての通り。前回別れてからそう時間は経ってないでしょ。そう変わらないわよ」


「なら良かった」


「ねぇウィル。貴方これ以上、どこまで押し花のクオリティを上げる気なの。いっそのこと本格的に身に付けて商売にでもしたらどう」


「わかってないねヴィー。ああいうのは、たまにやるから良いんだ。それに、押し花だけではそう簡単に商売にはならないよ」


「それもそうね」


 いつものように軽いやり取りから会話が始まる。


「ウィル、やっとよ」


「あぁ……そうだね」


「来年は、ようやく私もウィルの国に行けるのよ。1年後の建国祭、楽しみだわ」


「ヴィーが想像しているようなものじゃないけどね」


「夢のないこと言わないで。外の国を自分の目で見られるってだけで、好奇心は最大まで膨らんでるのですから」


「暴走しないよう萎ませておいてくれるかな」


「失礼ね、しないわ」


 運ばれてくる紅茶の入ったカップを手に取り、一口飲むウィルとお菓子も食べる私。


「まぁ……気持ちはわかるよ。15年は少し長いからね」


「そうでしょう、そうでしょう。私一度真面目に考えてみたのよ。いくらなんでも15歳を越えるまで婚約者の国を訪問できなかったり、国内でも交流に制限があったり……些か過保護が過ぎるのではないかって」


「おや、ようやく気づいたのかい」


「やっぱりウィルから見たらエルフィールド王家(うち)は過保護なのね……」


「一概には言えないけれどね。可愛い子には旅をさせよって考える国もあれば、ヴィーのように過保護に育てる国もあるだろうからさ。……まぁ、15歳は少し長いかなとは個人的に思うけれどね」


「私も旅をさせてほしかった」


「それは僕としても少し不安かな」


 どうやら、今よりも好奇心旺盛だった幼少期に旅をさせては危険が大きいとウィルは考えるようだ。ウィル曰く、成長して落ち着いたものの好奇心が人よりある部分は変化がないのだとか。


「……でも、いいわ。ようやく行けるのですから、過去の事を気にしても仕方ないし。それよりもウィル、建国祭について教えて欲しいのだけれど」


「特に教えるようなことは無いけど」


「そんなわけないでしょ。内容とか作法とか山ほどあるわ。本を読んで知識として身に付けてはいるけれど、圧倒的に不足していると感じるの」


「そう」


「わかっていないようだから言うけれどね、ウィル貴方の為でもあるのよ?」


「へぇ、僕のため?面白い視点からきたね」


「だってそうじゃない。私は貴方の婚約者として訪問するだから。私の行いは貴方自身にも響くの。婚約者は言ってしまえば運命共同体でしょう。だから自分の為と思って教えて」


「…………わかった」


「よし」


 何故か一瞬固まったウィルを軽く流して、早速建国祭についての話をしてもらった。


「そうだな、認識としては普段よりも盛り上がるそこそこ重要なパーティーでいいんじゃないかな」


「その言葉から、ウィルが建国祭をどういう風に見ているかわかったわ」


「嘘はついてないよ。そもそもヴィーはパーティーに参加したことがあるのかい」


「まだかな。エルフィールド国は変わっているのかもしれないけど、滅多にパーティーは開かないからね。そこまで重要な催しとして捉えられてないし」


「王家に子どもが生まれればお披露目会みたいなパーティーがあると思うけれど、それはどうかな」


「それはやった……確か5歳だった気がする。けどね、同い年の子が参加することはなかったしあくまでも貴族に向けての報告だったの。それに生誕祭は大袈裟にやらないし」


「身内でやるのがエルフィールド国の文化だよね」


「うん。それにデビュタントがまだと言うこともあるから、国内のパーティーでも参加できないのよね」


「そうだったね」


 王族ならば早めに社交の場に出るべきだと普通ならば考えるが、私はまだいいと父から言われていた。他の貴族と同じく16歳に迎えるべきという考えであった。不思議に思うも、交流ならばお茶会を開くように言われたのだ。納得しながら、ご令嬢方との交流はここで深めている。異性との交流は、ウィルがこちらに正式に来てからのほうが安定して行えるだろうと言われている。


「お茶会で交流を深めているんだよね。手応えはあるのかい」


「完璧に近いと思う。昨年から他国のご令嬢をお呼びして交流もしているから、大丈夫ではないかしら」


「そういえばデューハイトン帝国(うち)からも一人か二人訪れたんだったね」


「えぇ。一度しかお会いできてないから、まだ深く交流はできてかったのだけど。でも、緊張しすぎていたせいであまり覚えてないの……」


「覚える必要はないよ。こちらとしても形式的な参加に過ぎないから。将来的にその家がエルフィールド国と私的な関係を結ぶことはないからね」


「だとしても、デューハイトン帝国の方よ。建国祭でお会いした時に、またお話ししたいわ。とても聡明な方だったの」


「……予想はつくけれど、ヴィーの女性同士の交流には口を挟まないとしよう」


「そうね、野暮というものよ」


「……撤回しようかなぁ」

 

 私のどや顔が気にくわなかったのか、撤回を考えるウィル。


「でもウィルのお陰で思い出して整理しておく出来事が増えたわ。建国祭は他国の来賓は毎年あるの?」


「ある程度はね」


「では、あとでお茶会に呼んだご令嬢と姫君について話すから、迎える方を教えてね」


「それは重要だね」


 少しずつ、真面目な話へと戻っていくのであった。

長いので一旦切ります!


次回、回想編ラストです。

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