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41. 追憶する姫君⑧


 時は流れて、私は14回目の夏を迎えた。


 今年で15歳を迎える。


 ここ数年間は特に大きな出来事はなく、変わらない日々を過ごしていた。穏やかで、平和な日々が静かに流れていた。


 あれから押し花の栞は毎年送られるようになった。私にとって、すっかりそれが夏の始まりを告げる合図になった。同封される手紙の内容も毎年変わらず、建国祭が終わり次第訪問するというものだった。この一連の流れが、数年で当たり前と化していた。


「何気に上手くなっている」


 押し花の完成度は年々上達する一方で、もはやそれを極めたと言っても過言では無いほどであった。


 去年からはその栞を手にして、とある場所へと足を運ぶようにしている。それは王城内にある書庫室であった。


 王立図書館と違うのは、王城内の書庫室は完全に使用許可が下りるのが王族のみという点だ。持ち出し不可の禁書や他国にまつわる本が置いてある。書庫室自体かなり広い部屋で、種類ごとに本が厳格に分けられており、踏み入れて良いエリアと後に解禁されるエリアとに分けられていた。


 15歳を迎えるのに1年をきったことから、他国に関する本があるエリアのみ立ち入りの許可が下りた。とは言え、主に手にするのはデューハイトン帝国の本ばかりだ。来年の建国祭は訪問することが決まっているので、それに備えて知識を補うためだ。


 ちなみに、許可の下りない場所は制約魔法の発動により立ち入ることはほぼ不可能になっている。


 1年間、時間を見つけては通い続けた甲斐かエリア内の本は全て読み終わってしまった。特に読みたいと感じる本もなく、ただ本棚を見て回る。もう一度同じ本を読んでも良いのだが、それよりも別の何か新しい本を読みたいという気持ちが優先されてしまう。


「……入れるわけないけど」


 今のところ許可の下りていない場所を眺め、思わず足を踏み出しそうになるものの寸前で止める。約束を破れば、父か母にすぐ伝わるからだ。諦めて2周目を決めたその時、ふと壁際の本棚に違和感を感じた。一度読んだことのある本の筈だが、何かある気がして手を伸ばした。取り出した奥の出っ張っているような部分を好奇心で押してみる。すると、カチッという音と共にゆっくりと本棚が左へ動く。


「隠し部屋だ」


 特別に魔法がかかっている訳でもなく、許可が必要なエリアでもない場所が存在していた。その事実に驚きながらも踏み入れる。


 このエリアに関しては見つけられたら使用して良いという、歴代の王族によるちょっとした遊び心の表れなのだろうか。などと考察をしながら部屋を見渡すと、面白そうな本がたくさん見受けられた。


「妖精に…………精霊…………魔族…………幻獣」


 全て想像上のものとされる存在達だ。

 しかし、想像上のものとしているのは魔法のない国、エルフィールド国以外の話である。エルフィールド国では語り継がれる話はいくつかあって、それは伝説でも神話でもなく実際に以前起きた出来事とされている。中でも教訓になっているものが多い。


 例えば、「妖精は気まぐれで自分本位な集団

、だから何かを期待してはいけない。眺めるだけにしておけ」や「精霊はプライドが高いから契約に応じることは滅多にない。だからと言って使役をしようとすれば返り討ちにされる。馬鹿な真似はしないように」ということもあれば「魔族は禁忌そのもの。命が惜しければ知らないフリ」もある。幻獣は特段情報量が少ないために、あまり教訓は存在しない。


 昔から教訓として伝えられた存在ではあるが、他に知識として身に付ける機会はあまりなかった。


「……あれ?」


 数々の本が並ぶ中、一つの場所だけぽっかりと空間が空いていた。どうやら父か母が読んでいるようだ。持ち出していることから禁書ではないのだろうけれど、同時に何冊も持ち出しているのは調べたいことがあるからだろう。もしかして妖精等の目撃情報でもあったのだろうか。だとしたら興味深い。


 取り敢えず目を引くものから読み進めていくと、気がつけば書庫室へ長時間の滞在となってしまった。退室時、何か怪しまれるのではないかと内心胸の鼓動が早くなった。しかし、父からは「勉強熱心で何よりだ」と褒められたので安心した。


 本を持ち出すことを一瞬考えたが、父か母の使用形跡が見られた為に何かしらまた資料として持ち出す可能性が考えられた。使う人がいるのだから、それはまた次の機会にしようと思い部屋へと戻った。


 それからは書庫室の隠し部屋に通って本を手にしていた。


 例年よりも夏の進みが早く感じられたのはこの隠し部屋のお陰だろう。


 気がつけば、ウィルの訪問日は迫っていた。


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