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3. 田舎に届いた噂話


 翌日、普段よりも遅く帰ってきたライナックは、神妙な面持ちをしていた。

 何か面倒事でも頼まれた様子に見え、悩みながらも「食事の後に話がある」と告げた。

 食事中も頭を悩ませる姿は変わらず、少し心配になるほどであった。


「それで、話とは」


「……あぁ」


 いつになく真剣な眼差しを向けるライナック。よほどの大事か、はたまた迷惑案件か。


「……シュイナ、お前に関わる話だ。というかお前への話だ」


「私?」


 予想外の言葉にお茶を飲もうとした手が止まる。

 ゆっくりと頷かれ、聞き間違いで無いことがわかる。


「……最近、王都で話題になってる噂があってな」


 アトリスタ商会の拠点は王都ではなく、アトリスタ家のある所謂田舎に存在する。その為に、王都の噂がここまでくるのはかなり時間がかかる。そして、この田舎まで届くのはよほど大きな特徴のある噂だ。


「ようやく、大公になられた第2王子が婚約を結ぶらしい」


「……!」


 ここ、デューハイトン帝国には二人の王子がいる。


 先ずは第1王子アレクサンド殿下。今では王位を継いで、アレクサンド陛下となられた。人望が厚く、相当な切れ者で統治者に相応しい風格の持ち主。


 次が第2王子ウィリアード殿下。神童と呼ばれるほど優秀な人だが、幼い頃から王位に興味を示さなかったこともあり、エルフィールドとの縁が切れても早々に王位継承権を放棄したと言われる。そして、アレクサンドの即位と同時に大公として王家を離れた。


 この第2王子が、昔の私────ロゼルヴィアの婚約者であった。


 私が死んだとされて婚約は自然消滅したが、新たな婚約は未だに結ばれていない。


「……だとしたら、おめでたいね」


 どこか安堵するような声色でライナックに伝える。

 

 私とウィリアード殿下の婚約者としての仲はかなり良好なものだったと思う。ウィリアード殿下がエルフィールドに婿入りする形で話が進んでいた。未来の統治者として、互いを支える良き盟友に感じていた。

 

 それ以外に、私は彼に恩のようなものを感じている。祖国エルフィールドを滅ぼした国トゥーレンを世界中が咎めて戦いを起こした際、先陣をきってトゥーレンを滅ぼすのに貢献し、最終的に王の首を取ったのはウィリアード殿下だと言われている。私がするべきだった敵討ちを代わりに行ってくれた……勝手にそう思っているのだ。


 以来、返すことのできない恩を持ち続けている。


「なぁシュイナ。ウィリアード殿下はどういう御方なんだ?」


「……そう言われても、私が知ってるのは7年以上前の殿下だからな……。大人になって変わられた姿は一度も目にしてないよ」


「こんな田舎なんか来ることねぇしな」


 辺境の一歩手前にあるこの土地には、貴族が訪れることは滅多にない。ましてや王族が来る気配は一切ない。

 その部分をライナックは一番気に入ってるのだが……。


「私が知る殿下は……優しいだけじゃなくて周囲への気遣いがまさに王子様だった。優秀なのはもちろんなんだけど、それを鼻にかけることなく常に努力してた人だよ。その姿に影響されて昔はよく頑張ってたな」


「……なるほどな」


 思えばウィリアード殿下に限らず、王家に関しては今まで一度も私たちの間で話題にならなかった。

 それだけ縁遠いものになったのだと、改めて実感する。

 

「ようやく縁談がまとまったなら良い事だよ」


 王族である為に婚約が慎重になった結果、満を持しての発表ならば是非とも明るい未来を歩んで欲しいものだ。


「それがな問題が発生してるんだよ」


「問題?」


「あぁ。婚約ができない状況みたいだ」


 問題という言葉に一瞬反応するも、婚約などは当事者や周囲に関することで私達には関係のないもののはずだ。


「…………それは大変かもしれないけど、私達は関係ないでしょ」


「そうなんだよ。普通に考えたら俺達みたいな田舎貴族は関係無い。商会だってターゲットは貴族じゃなくて平民が中心だから、まさかの出来事で関わる可能性はないだろうな」


 普通に考えたら、という言葉に違和感を感じる。

 ちなみにアトリスタ商会は平民を対象にした生活用品などを中心に商売を行っている。


「だけど普通じゃない事態が起こってるんだ」


「普通じゃない事態……」


「ある公爵家の令嬢がどうもその婚約を邪魔しているようでな。……いや、わかるぞ。たかが公爵令嬢一人が反発できるような案件じゃないって事くらい」


 公爵令嬢は子爵家に対してなら絶対的な権力を持つし、圧力も当然かけられる。だが、相手は大公になったとはいえ王家の血が流れる存在。そこに首を突っ込むのは、さすがの公爵家も躊躇するものがあるはずだ。


「無視できない理由があるんだ?」


「あぁ……」


 途端に神妙な面持ちへ戻る。その表情はついさっき、ライナックの帰宅時に目にしたものだ。


「その令嬢なんだがな」


「うん」


「養子なんだ」


「……養子」


 公爵家が養子を取るのは主に跡取りが目的だろうが、私の知る限りこの国の公爵家はどこも跡取りは間に合っている筈だ。そうなると、余程囲っておきたい人材に思える。大公の恋路を邪魔できているのなら、その影響力は相当なものだろう。均衡を乱す何かをその令嬢は持っているようだ。



 それは一体何かと考え始めた直後、思いもよらない事をライナックは口にする。




「どうやらその養子である公爵令嬢は魔法が使えるみたいだ」


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