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32. 二人だけの女子会


 翌日の早朝。


 恐らく本館と別館のほとんどの人がまだ寝静まっているであろう朝の始まり。


 私は昨日の森へと来ていた。


「……よし」


 まずは広範囲に結界を展開させる。


「お、できた」


 一度に使う魔力が少し多いが負担に感じること無く展開が完了する。


「……やるか」


 体を完全に起こして、少しずつ攻撃魔法を試す。段々と威力と範囲を変えていく。


「…………っ」


 だが、やはり鈍っているようで体が重く感じる魔法もあった。


 特訓が必要な魔法の確認がある程度済むと、周囲を見渡す。結界をはった場所だけ跡形もなく森が消えてしまっていた。


 誰もこの森にくることはないとは思うが、絶対とは言い切れない。復元魔法で凪払ってしまった木々を元に戻しておく。


「帰るか」


 夢中になって魔法を打っていたが、もう日は昇りだしていた。そろそろお嬢様も起きるかもしれない。


 転移魔法を使用して、自室へと戻った。















「おはようございます、お嬢様」


「おはようシュイナ」


 いつものように身支度を整えて朝食を済ませる。今日から数日間は次の選考が決定するまでの休日となっている。その休日を利用して、お嬢様はやりたいことがあるようだ。


「さ、座って」


 何故かお嬢様の向かいに座らされる。


「あの、どうしました」


「昨日言ったでしょう。もっとお互いを知りましょうって」


「確かに、ありましたが」


「そこで休日を利用して、私はシュイナと二人だけの女子会をするわ」


「女、女子会?」


「そんなに気張らなくていいの。ただそう名付けただけですから。目的はお互いの仲を深めること」


「わかりました……」 


 お嬢様のやる気が凄く感じられる。


「早速だけど、シュイナから何かあるかしら」


 何かというのは恐らく聞きたいことだろう。初手ということもあり、無難なことから始めようと思った。


「では……昨日はどうでしたか。その、具体的にパーティーで何をされたのかなと」


「まず、陛下への挨拶を終えて。その後は最低限の挨拶回りを殿下に連れ添って行ったわね」


「どうでしたか」


 はっきり言って一番重要なものはこれだろう。


「問題なく終えられたわ。殿下本人からも賞賛いただけたくらい」


「それは良かったです」


 これは大公殿下から好印象に見えたということ。大きな前進に嬉しくなる。


「選考が終わってからは自由にしていいと言われたから、久しぶりに友人に会いに行ったりしたわ」


「楽しめたようで何よりです」


「えぇ。本当に楽しかったわ。でも、こう見えてあまりパーティーは得意じゃないの。久しぶりに参加できたからっていうことが大きかったかもしれないわ」


 肩をすくめながら笑うお嬢様。


 どうやら公爵令嬢という身分から、以前はどこかしらのパーティーへほぼ毎日足を運んだりしたこともあるのだという。誘いが多く舞い込む中、断れるものを断りきった後でもかなりの数だったのだとか。


「シュイナはパーティーは好き?」


「あまり好きではありませんね。得意でもありませんよ」


「あら。似た者同士かもしれないわね」


「そうかもしれませんね」


「パーティーとかお茶会って行く方も準備があるけれど、用意する側は更に大変でしょう?一人席が増えるだけで手間も増えるのだから、なるべくお断りしてるのだけど」


「主催者はお嬢様には来て欲しいと思いますよ」


 公爵令嬢を招けるというのは、言ってしまえば見栄になるし、ステータスにもなる。公爵家との繋がりを狙う人間達にはお嬢様は重要なお客様だろう。


「そうね。当時は付き合う人間はよく考えた上でお誘いに乗っていたわ。私と同年代の友人にはあまり腹黒い人や家の繋がりをと考える人は少なかったの。だからできるだけ応えていたの。忙しかったけれどね」


 お嬢様のその姿は他のご令嬢方にとってとても好意的なものに見えただろう。以前ベアトリーチェ嬢はお嬢様に対して悪い噂を告げたが、実際そこまで酷くならないのはこれまでのお嬢様の行動があるからだ。


「今度はシュイナと一緒に顔を出したいわ」


「いくらでも付き添いますよ」


「あら。侍女としてではなく、アトリスタ家の令嬢として来るのよ?」


「遠慮しても良いですか」 


 侍女としてではなく令嬢としてドレスを着ていくのには抵抗したい。完璧すぎるお嬢様の隣に立つのはかなり気が引ける。それに、あまり社交の場には顔を出さない。お嬢様の足を引っ張ること間違いなしだ。


「ふふっ。そんなに嫌かしら」


「あまり高位な方々の集まりには顔を出したことがないのです。何分、田舎に住んでいましたから」


「アトリスタ領には行ったことがないのよね。今度案内して欲しいわ」


「何もありませんが……」


 苦笑しながら答える。


「話が脱線しすぎたわね。後、昨日のことで話してないと言えば」


 昨日のことを振り返り、思い付いたような表情を浮かべる。


「そう言えばダンスについて話してなかったわね」


「あれだけ練習なさっていたので、てっきり先程の答えに含まれていたと思いました」


「あぁ……だとしたらごめんなさい、違うの。実は学んだ成果は発揮できなくて」


「あ……踊れませんでしたか、大公殿下と」


「えぇ。話を聞けばベアトリーチェ嬢も駄目だったようよ。……まぁ、踊れるとは思っていなかったのだけれどね」


「良いのですか、それで」


「もちろん」


 選考外ではあるものの、お嬢様にも矜持というものがある。それに傷が付いていないか心配だ。


「ベアトリーチェ嬢のように憧れていたり好いている相手に誘いを断られれば、私も落ち込むでしょうけど」


「そうですか。…………え?」


「どうかしたの、シュイナ」


「今の言い方ですと、まるでお嬢様が大公殿下に好意が無いというふうに聞こえますが」


「間違いじゃないわよ?」


「えっ」


「私、大公殿下のことは恋愛面で好意的に見たことはありませんもの」


 嘘偽りがまるで見えない清々しい声で答えたお嬢様に、かなりの衝撃を受けるのだった。

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