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26. 奔走する侍女

 

 春シーズン最終日。

 今日はお嬢様の選考日である。


 私は朝からバタバタと忙しくしていた。


「お嬢様、湯浴みをしましょう!」


「えぇ、お願い」


 夕刻開催だが、女性の準備は時間のかかるものだ。


 普通、昼前までにある程度下準備を済ませておかなくてはならない。だが、ある考えを持つ私は昼前までに全てを終わらせるつもりでいた。

 また、誰かのパーティー準備など初めてである私は、時間の使い方がいまいちわからなくて焦っていた。


「お嬢様、髪を乾かしますね」


「ありがとう」

 

 普段ならお嬢様付きの侍女は複数いた為、準備は楽なものであっただろう。今回は私一人で全てをこなすので、異常なほど時間がかかる。


「お嬢様、ドレスが先ですか?髪のセットが先ですか?それとも」


「髪と化粧を先にしましょう」


「はい!」


 化粧と言ってもお嬢様はとても整った顔立ちなので、少し薄いくらいが丁度よい。髪の毛は下ろすが、綺麗に揃えた。頭の左側に装飾品をつける。


「ドレスにいきます」


「えぇ」


 コルセットをきつく閉めるが、私の腕の力が足りない。限界値まで踏ん張った。さすがお嬢様、全く動じない。


「痛くないですか」


「慣れているから平気よ」


 下準備が終わり、ドレスを取り出す。


 今回パーティードレスは大公家から用意された。お嬢様が紫色の髪の毛に合わせた水色のもの。お嬢様曰く、このドレスは王家お抱えの有名なデザイナーの方によるドレスだそうで。昨日偶然ベアトリーチェ嬢のドレス姿を見かけたが、全く違うデザインの黄色を基調にしたものだった。


「それにしてもとても華やかなドレスですね。普段お嬢様が着られているものとは、タイプが違うと言いますか」


「まさかこんなに素敵なドレスを用意していただけるとは思わなかったわ」


 お嬢様の美貌や品の良さが映える、よくできたドレスだ。裾を通してシワができないように丁寧に扱う。


「で、できました……」


 何とか昼前に終えることができた。

 この後は本館へ移動して、大公家の方々に最終調整をしていただく。

 

 実は、これを利用させてもらった。

 フローラ様付きの侍女は一人でかつ初心者で準備には不馴れな者。だから、ベアトリーチェ嬢と比べて遥かにお直しの時間がかかる。と大公家の使用人へ伝えた。結果、昼前に来るよう返事がきた。


 本来ならば本館にお嬢様と向かい手直しの手伝いをするのだが、侍女同伴を控えるように言われた。何でも昨日のベアトリーチェ嬢のお直しの際、お付きの侍女達が異常にうるさかったようだ。集中できないことから大公家の侍女長より、今回は侍女は別館待機となった。いい迷惑であるが、良かったとも言える。


「ご苦労様シュイナ。ゆっくり休んでちょうだい」


「はい、見送りはここまでですが健闘を祈っています」


「ありがとう。…………では、いってくるわ」


「いってらっしゃいませ」

 

 昨日の夜から朝まで見せていた緊張は嘘のように消え去り、堂々とした後ろ姿を見送ることができた。


「………よし」


 ここまでも大切な時間だったが、これからも重要な任務が控えている。


 お嬢様を本館へ送り出す時間を早めたことは、当然ながらベアトリーチェ嬢達は知らない。まだ別館にいるという考えを利用して、お嬢様の代わりに()()()()()()()ことにした。いわゆる身代わりというやつだ。もちろん本人は何も知らないが。


 急いでお嬢様の部屋に戻ると、結界を展開させて魔法を使った。今日使うのは変身魔法である。いつも使っている認識阻害魔法では、持続的に使うとなると魔力が漏れてベアトリーチェ嬢にバレてしまう可能性がある。普段のは顔だけで範囲が狭いために使う魔力が少なく、誰にも気づかれていない。だが、今回は私の体全体に魔法をかけてお嬢様に見せるのだ。だとしたら、変身魔法の方がリスクは低い。


 そして、今回誘拐の実行犯はベアトリーチェ嬢ではなくどこかから雇った人間だ。それならば、特徴さえ似せれば例え背丈が多少違っても気づかれはしないだろう。


「よし」


 鏡の前で、先程まで見ていたお嬢様の髪型からドレスまで同じものにする。クオリティは申し分なく、本人そのものである。


「後は待つだけ」


 何らかの接触から誘拐へと発展させるだろう。その時が来るまで待つことにした。


 しばらく経過して、昼を少し過ぎた。


「……来た」


 気配を察知した直後、扉のノック音が響きわたる。


「はい」


「リフェイン公爵令嬢様、準備はお済みでしょうか本館へお越しください」

 

「わかりました」


 なるほど、使用人に変装して別館へ立ち入ったのか。今日と昨日のこの時間帯は使用人方も忙しく、別館には人気があまりない。護衛さえくぐれば案外簡単に別館にならば入ることができる。その護衛を掻い潜るためにダンスの教師は利用されたのだろう。


「お待たせしました」


 扉を開けて使用人に背を向けた瞬間、後ろから睡眠薬を嗅がされる。

 残念ながら耐性のある私には効かないが、ここは効いたふりをして倒れた。

 

 使用人に変装した男は私を担いで別館の外へと急ぎ足で向かう。起きていることに気づかれないように、微動だにして動かない。


「……………!」


 裏門へたどりつく際、感じた異変に少しだけ目を開ければフィーディリアの花々がかすかに光っていた。


 それを見て、ようやくベアトリーチェ嬢の謎がわかったのであった。

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