表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/79

25. 不穏な影

誤字報告ありがとうございます。気付くのが遅くなり、申し訳ありません。訂正しました。


 ベアトリーチェ嬢と一度鉢合わせをして以降、奇跡的にか再び会うことはなかった。


 順調に授業が進む中、授業最終日となった。

 翌日から選考自体は始まるものの、最初のパートナーを務めるのはベアトリーチェ嬢だ。お嬢様は1日自由にできるが、最終日は負担に感じることも多いため自習を行うだろう。


「今日で最後なのが寂しいわ」


「そうですね」


 大公家での学びを気に入っているお嬢様からすれば、残念でならないだろう。

 最後ということもあり、いつもよりか気合いを入れて授業に取り組んでいた。


「次が最後ね」


「最後の最後ですね」


「ふふっ、間違ってないわ」


 最終日を締めくくる授業が始まる。

 授業はダンスで、本館のダンスホールへ向かう。


「ちなみに明日は1日自室で過ごされますか」


「そうするわ」


「わかりました」


 他愛ないやり取りをする内に教師の方が来た。


「先生、よろしくお願いします」


「えぇ、お願いしますね」


「………………」


 ふと、違和感を感じた。

 以前見た時に比べて、悪い雰囲気が出ている気がしたのだ。


「……」


 何かあると思い教師の方を観察することにした。だが、授業はいつもと変わらず普通に行われている。特段怪しいことは見当たらない。


「もう完璧です。胸を張ってパーティーへ挑まれてください」


「ありがとうございます」


 注視し続けたものの、最後まで違和感の正体はわからなかった。


「では、以上で授業を終了とさせていただきますね」


「はい。お付き合いいただき、本当にありがとうございました」

 

「ご武運を」


 観察を止めてお嬢様と別館へ戻る。

 そこそこの疲労が見え、明日は1日中休んでも良いのではないかと思ってしまった。別館の入り口にたどり着いた、その時。


「…………っ!」


 気配がした、微力な魔法の。

 ベアトリーチェ嬢が何かしている気がする。そして、それに先程のダンスの教師が関わっているのではないか。ここから現場までそう遠くない。不安を払拭するためにも行くべきだ、そう思いとっさにお嬢様へ告げる。


「大変申し訳ありませんお嬢様。先程のダンスホールへ忘れ物をしてしまいました。取りに行って参ります」


「なら、私も」


「いえ、お嬢様からは疲労が感じられます。是非とも自室でお休みください。取りに行くだけですから」


「わかったわ、ありがとう」


 お嬢様へ一礼すると、急いで事の現場近くへ向かった。



 


 ダンスホールの奥にある備品室には二人の人影があった。ここは人気がなく、普段は誰も立ち入らない場所だ。


 一人は先程の教師の方、もう一人はベアトリーチェ嬢であった。


 話し声が聞こえる。聞き耳を立てるのは不躾なことだが、万が一にでも悪事を企んでいるのならば聞かなくてはならない。緊急事態ということで不躾を許してほしいと、願いながら結局聞き耳を立てた。


「……手筈は順調なのよね?」


「もちろんにございます、お嬢様」


「決してしくじらないで」


「決行はいつにしましょうか」


「ギリギリでいいわよ。パーティーに参加させないことが目的ですから。間違えても殺しはしないでね」


「かしこまりました。では当日の昼頃に致しましょう」


「えぇ、誘拐と言っても身代金が目的じゃないわ。ただパーティーへ参加できなかったらそれだけで十分よ」


「伝えておきます」


「上手く敷地内にいれてちょうだい」


「はい」


 そのやり取りを終えると、私のいる反対側から二人は出ていった。


「…………どうして」


 計画に関しても色々考えなくてはならないが、それ以上におかしな点があった。


 以前感じた時よりも、ベアトリーチェ嬢の魔法の力が強くなっているのだ。そのせいかリブル夫人に比べて、強力な契約魔法をダンスの教師へかけていた。


 使う魔法を強くするにはいくつか方法がある。その中でも主流なものは二つ。


 一つは技術。修練を重ねることで技術力を上げるのだ。そうすることで、より高度な魔法を使えることに繋がる。

 だが、これは自分よりも技術力が優秀な人に教わることが条件だ。自己流で極めることができるのは、余程の才能を持つ者のみだ。

 もう一つは魔力量。多ければ多いほど魔法は強くなるし、それが高位魔法にも匹敵する。


 冷静に考えて、ベアトリーチェ嬢は両方不可能だ。悪魔でも召喚したのか……いや、悪魔召喚でも多く魔力は使う。


 悪魔とはエルフィールドに古くから伝わるものだ。大量の魔力を使って召喚することが可能とされる。命と引き換えに願いを叶えるというものではなく、単純に使役対象として呼び出すのだ。


 悪魔は魔法使いと比べて万能だが、利益だけの存在ではない。有能な悪魔ほど、仕える者を選びたがる。(悪魔)自身よりも強いものに従いたいのが性らしい。だから、自分達より弱い者に召喚された場合は殺してしまうようだ。


 また、力関係が覆されることもある。悪魔は召喚されると召喚者の魔力を使う。その量は膨大で、最悪搾り取られて死に至るとされてきた。有能だが圧倒的不利益が多く、いつしか禁忌とされてきた存在。


 さすがにベアトリーチェ嬢の魔力量では無理がある。


 一体何が彼女の魔法を強くしたのか、考えても答えがみつからない。


 取り敢えず計画の対処法を考えよう。そう思いながら、急いでお嬢様の元へ戻った。


「忘れ物はあった?」


「はい、無事に回収できました」


 日が沈み、就寝時間となる。

 仕事を終えて自室へ戻った。


「…………どうしたものか」


 ベアトリーチェ嬢の計画としては、パーティー最終日にお嬢様をどこかへ誘拐することで、パーティーへの出席をさせないことが目的だろう。


 誘拐して参加させなければ、選考としてはやり直しをすることになる。内容が変わるかはわからないが、総じて見ると選考への影響は少ないと思われる。


 恐らくだが、そこまで頭が回っていないのではないか。パーティー不参加となれば、選考の勝敗はつかずとも自分が有利になると考えているのかもしれない。


 浅はかな考えと言えばそうだが、実際に実行されればたまったものではない。

 お嬢様の日々の努力を踏みにじることになるのだ。それは避けたい。


「……決行は昼」


 伝える、上手く敷地内に入れる。この言葉から決行者はあの二人でない可能性が高い。


「それなら」


 考えを巡らせて対処法をまとめる。

 お嬢様を必ず悪意から守りきるという強い思いで当日を迎えるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ