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1.生き残りのお姫様

 ロゼルヴィア・エルフィールドという名前を名乗らなくなって7年の月日が経った。


 エルフィールド王国を、あの日を忘れたことは一度もない。けれど、現実として自身が知るエルフィールドの人間が誰一人として生き残らなかったのは確かだ。数年間探し回っても、見つけることはできなかった。その事実を受け入れるまで数年もの時間がかかった。


 トゥーレン国に復讐を誓った日もあった。だが、トゥーレンはこの世から魔法を消したことを咎められ世界中の国々を敵に回した。トゥーレンの名を耳にしなくなるのに時間はかからなかった。


 生き残りという名の同族がいなければ、復讐という生きる糧も失った私は、数年かけてようやく新しい人生を歩み始めている。



 そもそも、私だけが生き延びたのは、ただ本当に強運だったとしか言いようがない。



 追手から必死に逃げるために走り続けた結果、断崖絶壁の崖から落ちるも行き着いた先が知り合いだったために介抱を受け、命を引き留めた。崖から落ちた瞬間、自身に保護魔法をかけた。この選択を何度後悔したことだろう。あの時魔法を使わなければ、自分も────。そう考えたことは1度や2度ではなかった。

 



 あれから7年の間、私は介抱を受けた知り合いの元でお世話になっている。


 知り合いの名は、ライナック・アトリスタ。出会いの当時、彼はアトリスタ商会の会長を務めていた。アトリスタ商会は立ち上げの為に様々な国を回っていて、エルフィールドを訪れた時に知り合ったのだ。


 アトリスタ商会並びにアトリスタ子爵家は、武力や統治力で世界一を誇るデューハイトン帝国に属する。このデューハイトン帝国はエルフィールドと最も仲が良好で、信頼のおける国だった。そして、私の婚約者も帝国の王子だった。これが、帝国で過ごすのが最も安全だと判断できた理由。


 だからといって、ロゼルヴィアの名前は決して名乗らなかった。新しい人生を始めるために、今から4年前にライナックは私を養子として迎えてくれたのだ。



 シュイナ・アトリスタ。



 これが今の私の名前であり、新しい人生。

 名を変えるだけでなく、見た目も変えた。

 エルフィールド王家の一員であることを示す銀色の髪は、今では平凡な茶色に。顔立ちは平凡なものに見えるよう認識阻害魔法を使っている。どこにでもいるような低位貴族の令嬢。それが今の私だ。


 ライナックはここ数年でアトリスタ商会をかなり大きなものにした。その腕は確かなものだ。家督は弟に任せて、自分は商会へと本腰を入れたのだ。彼は一言で言うと、随分と変わっている。それでも、私にとっては命の恩人である。



 現在22歳。商会で働きながら、ライナックの身の回りの世話をする日々を過ごしている。



 新しい日常に慣れた今でも、このままではいけないと感じる時がある。何かしないといけないと。だが、それが具体的に何を指すのかはわからない。一時期、生き残りでも魔法使いなのだから世界を良くするために魔法を使うことを悩んだ。すぐにライナックに否定されて終わった。魔法は以前とは比べ物にならないほどの価値に変わったのだから、むやみやたらに使うことに利点は何もないと。むしろ、魔法が使えることは秘密にして墓場まで持っていけとまで言われた。


 頭が冷えた頃、ライナックの言い分は身に染みるほど伝わった。




 以降、代わり映えのしない平凡な日常を過ごしている。

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