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14. 1つ目の選考


 その後もベアトリーチェ嬢による訪問が続く……と思っていたが、どうやら大公側に必要のない接触は控えるよう注意を受けたらしく、お嬢様は静かな日々を送れていた。


「失礼いたします、リフェイン公爵令嬢様」


 ここでの生活にほんの少しだけ慣れてきた数日後、案内人の方がお嬢様を呼びに来た。

 どうやら大公による一つ目の選考方法が決まったようだ。


「いよいよね……」


 読んでいた本に栞を挟み、残りの紅茶を飲み干す。


「着替えますか」


「この格好で十分よ」


 初日に着た勝負ドレスへ着替えることなく、本館へと向かう。本日のお嬢様の装いは、薄い緑を基調とした落ち着いた印象を受けるものだった。読書の為に、髪を上でまとめてみたが我ながら良いできだと思う。


 今回はベアトリーチェ嬢と同時刻に呼ばれているため、説明は一度に行うようだ。


「…………」


 さすがに大公の目の前で魔法を使うなどという暴挙はしないと思うが、用心はしておく。


「どうぞ」


 前回と違って扉は既に開いており、ベアトリーチェ嬢は到着していた。大公殿下と二人で話をしていたのか、お嬢様の姿が見えた瞬間「ふんっ」と聞こえた。

 動ずることなく、ベアトリーチェ嬢の隣に座るお嬢様。

 

 簡易的な挨拶を済ませる。

 人が揃ったところで、説明が始まった。


「数日ぶりだね。選考内容をまとめるのに時間がかかってしまい、申し訳ない」


「大丈夫でしてよ?」


 媚を売るような言い方には、教養の無さが見える。気を遣えていることを示したいのであれば逆効果だ。そもそもこの状況になったことを謝罪すべきは、大公殿下ではなくベアトリーチェ嬢だからだ。


「……それなら良かった。それで、本題だが」


 さすがは王族。

 洗練された対応で、軽くあしらっているのがわかる。


「二人の大公妃としての素質を見る為に、まずはそれぞれお茶会を開いてもらおうと思う」


「まぁ、お茶会ですわね!」


「…………」


「招待客はこちらで用意させてもらう。同じ客人をもてなしてもらい、彼女達にまずは素質を見極めてもらうことにする。私は遠目から見させてもらうよ」


 まずは一つ目の選考。


 お茶会にした目的は、主に教養とマナー、そして社交性を見る為だろう。だが、名誉あるリフェイン公爵家のご令嬢であるフローラお嬢様に対して行うには少し失礼に値する気がする。幼い頃から一流の教育を受けてきた彼女からすれば、教養やマナーを選考対象とするのは些か侮辱にもなる。それでも行うのは、ベアトリーチェ嬢がお茶会というものを正しく理解できているか見るためだろう。

 その意図は、当然お嬢様にも伝わっている。


「お茶会は三日後に行うとする。先攻後攻を決めたいが、何か希望はあるかい」


「では、先攻を」


 躊躇なく自分の要望を告げるベアトリーチェ嬢。


「……後攻で構いませんわ」


「では、そうしよう。何か困ったことがあれば、うちの使用人を使ってかまわない」


 特に大きな問題が起こることなく、説明は終わった。魔法を使う様子もないことから、頻繁に使えないのかもしれないと予測をしてしまう。


 その場を去ろうとお嬢様が立った時、ベアトリーチェ嬢が声をあげた。


「殿下、よろしければこの後お茶でもいかがでしょうか」


「……すまないが、立て込んでいる仕事が多くてね。またの機会に」


「ではその時が来たら、是非とも教えてくださいまし」


「…………そうだね」


 大公殿下との個人的な交流は禁止されてないとはいえ、“本館立ち入り禁止”からある程度のことは察せられる。しかし、ベアトリーチェ嬢には間接的ではなく直球で物事を伝えなくてはならないだろう。


 大公殿下は表情が崩れることなく、対応として完璧だった。

 しかし、僅かに漏れだす雰囲気(オーラ)からは、黒いものが見えた気がした。


「……では、失礼いたします」


 これ以上ここにいる意味はないと判断したお嬢様は、颯爽と部屋を後にした。









 翌日、お茶会の招待客のリストを見てお嬢様は手を頬に添えて首をかしげた。


「あら……」


「どうかなさいましたか」


「最初の課題は、主にベアトリーチェ嬢の為にあるものだと思っていたけれど……そうでもないみたいよ」


 どうやら招待客の中には、他国からのお客様も数名いるようだ。となれば、試されるのは教養とマナーと社交性だけではなくなる。


「他国からのお客様は、通常のお茶会に比べて求められる知識が多いわ。このリストを見ると、ある程度語学も必要ね」


「語学もですか」


「えぇ。安心して、シュイナ。私、勉強の中でも語学が一番得意なの」


「それは素晴らしいですね」


 語学や他国の文化への知識は、大きくいえば教養に分類される。だが、普段は使わない上に、高位貴族の令嬢でも学ぶ人は分かれるため、誰もがやっているとは限らない。それでも、この大公家に嫁ぐのであればどれも必須事項だ。


「気合いをいれないと」


「私にできることは少ないですが、何かあれば仰ってください」


「もちろんよ」


 どの国の方が来るかはわからない。微量だが、他国の文化に関する知識はある。これもライナックとした旅のおかげだ。なんて考える必要もなく、お嬢様の高い教養が発揮されて、お茶会の準備は滞りなく進んだのだった。



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