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鏡の世界  作者: あにやん
9/9

音楽(4)

 後日、ニット帽のミュージシャンと再び駅で遭遇した。自分が現れた頃には弾き語りを終えていて帰ろうと歩き出したところだった。もう少し早く来れば聴けたのに、コンビニで長く立ち読みしすぎた。惜しかった。実に惜しかった。まあいい。

 また歌の実力があがったのか、肩を落として歩いていたミュージシャンは、自分に気付くとにこりと微笑んできた。普通のリアクションだなー。

 二人はどちらからというわけでもなくベンチに腰掛けた。聴けなかったことが残念だ。と自分が告げるとミュージシャンはおもむろにアコースティックギターを取り出した。新しい曲だと言って前奏を弾き始めた。良い音だな。

 

 才能なんて要らない

 才能なんて要らない

 はずれくじをひいてしまったら

 お荷物を抱えて

 生きていかなくちゃいけない


 何ももたなくていい

 何にももたなくていい

 別に望んだわけでもないから

 いきなりもたされても

 途方にくれるばかり


 上手にできればできるほど

 両手が塞がっていく気がする

 何にもできない、何ももたない

 そんな人はいつも手ぶらで

 その手でたくさんの自由をつかむ


 この世界はおかしい

 でも仕方がないこと

 受け入れなければならないこと

 これが世界の道理


 希望も自由もつかめない

 明日は笑えるか分からない

 不安や苦しさが胸を締め付ける

 だから少し息がしづらい

 いっそもたされたこれらのものを

 無視して捨ててしまおうか

 そうしようと決めたその手は

 まだ離せない

 しっかり掴んだまま


 一緒に笑えたらいいのに

 才能なんて要らない

何ももたなくていい

 こんなもの要らない要らない


 もっと他に欲しいものがあるから




 そのメロディはあまりに悲しくてあまりに美しかった。でも自分は後奏に入ったのに気付くとすぐにその場から立ち去った。なんてズルい歌を歌うんだろう。まったくもって贅沢な悩みを抱えている。もう相手してらんない。勝手にしろ。

 頭からその曲は離れない。たった一度聴いただけなのに、離れない。そんな曲をうめるのがあのミュージシャンの才能なんだろう。本当にすごい人間だな。でも全く羨ましくない。自分は自分のままでいい。才能なんて要らない。


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