コーヒー(4)
さて、結局雨は止んだので濡れずに帰宅した自分は、自分で意外だと思う、まさかの結論を導いてしまった。これが帰納法というやつか。でも数学はちょっと苦手だ。
簡単に言うと、どうやら自分は鏡の世界にいるらしい。鏡の中ってのは現実と左右が逆だけど、今自分は実際に文字とか時計とかに違和感は感じない。現実で右にあったものが鏡では左にあってもそれは右と呼ぶことには変わりない。太陽が西の方から昇ろうがテストには東から昇ると書かなくては誤り。世界全てが反対になれば、何も変化がないように見える。そういうことだと思う。だから見える部分では鏡の世界だという実感はない。ホクロに気付いたのは、前に現実で鏡を通して見ていたからなのか。うーん、これだけが唯一いまいちしっくりこない。
表面上では現実と変わらないように感じる世界だけど、どうしたものか、鏡の中では現実と概念が逆転しているのではなかろうか。人間の中身が大きく異なっているということだ。鏡の中ってそういう世界だったのか。
自分は説明が苦手だけど、どういうことか、もう少し分かりやすく示すように努力してみる。じゃないと自分が気違い染みたことを言っているように見えてしまうから。
データ不足かもしれないが、限られた事実を照合してみる。普通に生きるのは珍しい。かっこいいことをするのは心底恥ずかしい。友人といとこからそういう印象を受けた。つまり、ここでは皆変わった言動行動をとり、普通なものほど希少価値がある。普通の概念が通用しないなんて、なんと生きづらい。ただ人目を気にせず、変わったことができるのはいいな。平凡であればあるほど面白いけど孤立するみたいだ。普通だと友達ができないのか。それなら自分もあまり無難なことをしないように気をつけないといけないな。恐らくここでは現実で栄誉あることをしたら見下されてしまうようだ。劣等感が優越感に変わる場所ということか。現実でコンプレックスに悩める人に誂え向きだな。今度は誰か誘ってこようっと。
今からこの“鏡の世界”理論を確かめてみなくては。そろそろばれているかもしれないが、自分は至って暇な人間だ。