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鏡の世界  作者: あにやん
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コーヒー(3)


 とうとうたまらなくなり、口を開いた。と同時に自分が今までずっと黙ったままなのに気付いた。いかんいかん。こういう場面に直面した場合の対処法は自分の頭の中のマニュアルには載っていないけど、そういうときは恐らくこう言えばいいのだ。

「変わってる。」

実際に自分で使ってみるとやっぱりこれは便利な言葉だと分かる。

だが、すぐさま自分は明らかに初期微動で動揺しすぎたことに気付くことになった。

なんと、相手は度肝を抜かれたような顔して「そんな当たり前のこと言うなんて、本当に普通だな。」なんて言ってきたではないか。

ここはあくまで平和主義。自分は穏和にいこう。

「普通で面白くない?ここボケるとこ?そうか〜いや、こりゃ失礼!」

「普通で面白いよ。普通でいるなんて面白い。なかなかそういう人いないから珍しい。」

自分はこの台詞を耳にした直後、“きょとんとした”という表現がまさに当てはまる表情をしていたにちがいない。君、もう何も言わなくていいから速やかにこの場から立ち去ってくれないかな。頭の整理が必要。

 ありがたいことに友人は素早くコーヒーを飲みほすとさっさと帰っていった。なんだか風のようなやつだ。友人の登場の後は呆気にとられていたせいで自分のはすっかりアイスコーヒーになっていた。まったくもう。

 物事を分析したいときにはより多くの情報があるに越したことはない。「冷めても美味しい。」と自分に暗示したコーヒーを一気に飲んだらすぐに、近所に住む同い年のいとこに会いに行った。もともと暇だったのでいとこお勧めのDVDでも観ようと訪問することは朝から決めていたのだけど。

 確かそうだった。この人もコーヒー好きなんだ。しかも皮肉にもブラックコーヒー。自分は今飲んできたからお茶でいいと言ったのに、コーヒー出してきたよ。そっちの方が手間はかからないから文句は言わないけど、砂糖と牛乳の注文は抜け目なく行う。

「いつもブラック飲んでるよね。」

と今まで気にとめなかった部分に今日はあえて突っ込んでみた。

「仕方ないだろ。甘いの苦手なんだから。」

今日は不機嫌なのかな。自分の台詞が気に障ったのか、ちょっと怒ったようなふてくされたような感じだった。ブラックコーヒーはそこまでタブーだったのか。知らなかった。

 雨が降りだした。自分は雨が好きだ。晴れより曇りより雪より、断然空から落ちる水の滴が好きだ。好きなものに関することに対して人間は凝るもので、おかげで自分は傘を十本も持っている。多いよね。しかし今日はあいにくマイアンブレラは連れ添ってきていない。

「帰るとき降っていたら傘貸すよ」と申し出てくれたが

「大丈夫。濡れて帰るの好きだから。」とにこにこして返事してしまった。あちゃー。一言余計だった。本当に好きだけど、言う必要はなかっただろう。相手の次の言葉は恐らく「変わってる。」で決まりだな。

ところが、

「あっそう。」

あれ違ったよ。あっさりだな。普通もうちょっと突っ込むべき部分だと思うんだけど。



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