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侵略日和  作者: ことさん
9/12

またまたきました?!

「昨日は大変だったのだ」

「大変だった。少しはみっしょんとわかりあえただろうか」

「うん! きっと大丈夫なのだ! みっしょんも優しい人なのだ!」

 びじょんとぱわわは、日和見家のリビングでくつろいでいた。部屋は洋室で、フローリングの床にはカーペットが敷かれ、柔らかくて大きなソファーも置いてある。

 二人はそこに座り、会話をしていた。

 ちなみにひよ子はお風呂の掃除をしている。

 びじょんとぱわわは手伝おうとしたが、特に手伝えることもないので、とりあえず部屋で待っててと指示を受けた。

「それでも、ぱわわとひよ子を傷つけようとしたのが、とても悲しい」

「ぱわわねー、みっしょんはぱわわを本気で傷つけようとしたわけじゃないと思うのだ」

「どうして?」

「バラバラにしようと思えば、いつでもできたのに、ぱわわが逃げた時になにもしないでくれたのだ」

「……確かに」

 びじょんは驚きの表情を浮かべ、そして頬んだ。

「ぱわわは本当に色々と考えていたのか」

「か、考えてるのだ! びじょんも、みっしょんもあんまりなのだ!」

「ごめん」

 口を尖らせるぱわわの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細める。

「ひよ子のことも、本気でやっつけようとしてたわけじゃないと思うのだ」

「どうして?」

「だってね、みっしょんが本気の本気になったら、びじょんとぱわわじゃ止められないかもしれないのだ」

「難しいかもしれない」

「ひよ子を傷つけるのをためらってるわけじゃないと思うけど、びじょんが悲しむってわかってるから、だからね、みっしょんは本気で戦えなかったのだ」

「みっしょんが、わたしの心配をしてくれていたなんて知らなかった」

「う、うーん。言いたくないけど、びじょんは……人の気持ちとかに、ちょっと鈍いところあるのだ」

「ごめん」

「人生の経験値は二年分だもん、仕方ないのだ!」

「ありがとう。ぱわわはもっと幼い思考回路の持ち主と認識していた。改める」

「嬉しいのだ!」

「今まで交流が少なかったので、どんな性格と行動原理の持ち主か知らなかった。なので、これからもっと、ぱわわのことを知りたい」

「びじょんのことも、もっと知りたいのだ」

「仲良くしよう」

「うん! 仲良し! わーい!」

 ぱわわは立ち上がり、部屋を駆け回り始めた。

「そろそろお料理の時間かなー! 今夜のご飯も楽しみなのだー!」

「うん。とてもすごく楽しみ」

 二人は頷き、夕食に思いを馳せた。




「さーて、お夕飯の支度の前に、お風呂洗っちゃいますか」

 そう意気込み、風呂場へ続く洗面所に入ると、何故か中には湯気がこもっていた。

「え? あ、あれ? 誰かお風呂つかってる?」

 風呂場から扉越しに楽しそうな会話も聞こえてくる。どうやら女の子が二人、お風呂に入っているようだった。

──あれ? びじょんちゃんたちに、さっきリビングで待っててって伝えたような……?

 それにタイミング的にもおかしい。ついさっき、風呂場とは反対側のリビングに向かう二人を見送ったところだった。

「これがお風呂。悪くないわ。ねえ、らすと」

「ええ、すりる姉さん。入浴している人と感覚をリンクした時に、どんな感じなのかは知っていたけれど、実際に入ったほうが気持ちが良いわね」

「お風呂から立ち上る湯気も良いわ。お鼻が幸せよ」

「わかるわ。喉にも良さそうね」

──こ、この声は。

「あら。日和見ひよ子さんが、わたしたちに気がついたみたいよ、らすと」

「日和見ひよ子さん、お風呂をいただいているわ」

──この子たち、地球外生命体なのに、どうし──

「地球外生命体なのに、どうしてお風呂の使い方を知っているのか、ですって」

「すべての地球人の持つ情報にアクセスできるのに、湯の張り方を知らないほうが、どうかしているわよね」

──それより、どうしてうちのお風呂に入ってるんですか……!?

「どうしてって、ねえ?」

「興味があったから、お借りしたとしか答えようがないわよね」

「ふ、二人とも、なにしに来たのー!?」

 思わず扉を開いてしまった。


挿絵(By みてみん)


 双子が湯船につかって、気持ちよさそうな顔をしていた。

「ちょっと。レディが入浴中なのに、闖入してくるなんて礼儀がなっていないわよ」

「ご、ごめんなさい」

 双子のお姉さんのほうに指をさされ、叱られてしまった。

「日和見ひよ子さんもレディだから、この星の文化では女性同士の入浴に闖入してきても問題ないのよ、きっと」

「なにを言っているのよ、らすと。他人が入浴していたら、勝手に扉を開いてはダメでしょう? わたしの知る限り、地球の文化では失礼な行為よ」

「お言葉だけれど、すりる姉さん。ここの家主は日和見ひよ子さんよ? 闖入者は、わたしたちではないのかしら?」

「それもそうね。失礼なのは、わたしたちのほうだわ」

「お邪魔していますくらいの言葉は、伝えてもいいのではないかしら」

「お邪魔しています」

「お邪魔しています」

「うふふ、わたし、この状態を知っているわよ」

「すりる姉さん、なんのこと?」

「絶句って言うのよ。日和見ひよ子さんの状態を」

「確かに絶句状態ね。唖然としている姿は笑いを誘うわ」

「思考停止状態とも言えるわね」

「あ、あの……」

「なあに?」

「なあに?」

「今日は生身で来ているんですか……! なんか生っぽい!」

「あら。この人、考えるより言葉が先に出たみたいね」

「思考が読めなかったわね。凄いわ、絶句状態って」

「考えるより言葉が先に出る人って、結構いるけれど」

「それでも思考は読めるじゃない? 日和見ひよ子さんの考えは読めなかったわ」

「頭が真っ白って感じだったわ」

──あ、相変わらず、この双子ちゃんの口数……凄い!

「あら。わたしたち、またお喋りって思われているわ」

「お喋り過ぎないように、ちゃんと質問に答えましょうか」

「そうね」

「今回は生身よ。当然でしょ? お風呂に入っているんですもの」

「お風呂を楽しむために、わざわざ生身でやって来たんですものね」

「って、違うわよ。今回の用件はラーメン屋さんの話」

「そうそう。ラーメン屋さんに行ってきてもらったでしょう?」

「どうだったのかしら?」

「ど、どうって。美味しかったよ」

「味の話じゃないのよ」

「そういえば、この前は話の途中で去らざるを得なかったから、ラーメン屋さんに行ってもらう意図を伝え損ねていたわね」

「あら。うっかりしていたわ。実はあなたにお願いしたい人がいるのよ」

「お願いしたい人っていうのは、その人が困っていたら、助けてあげて欲しいって意味よ」

──その人? 誰のこと?

「その人の名前は、こんふぃ姉さん」

「なにを思ったのか、地球でお仕事をして生活しているのよ」

「物好きよね」

「こんふぃさんって、確か偵察をする人。……だったような」

「そうそう、その偵察をする人よ」

「なにせ、わたしたちって地球の生活は素人でしょう?」

「こんふぃ姉さんも、なにかと不慣れで大変だと思うのよね」

「だからね、たまーに様子を見に行って、雑談のついでに悩みとか聞いてあげて欲しいのよ」

「さりげなーく、こんふぃ姉さんの友達になってあげてもらえないかしら?」

「それはかまわないけど……」

「けど?」

「なにか問題かしら?」

「こんふぃさんが誰なのか、顔も知らないよ」

「それもそうね」

「ラーメン屋さんの場所みたいに、こんふぃ姉さんのデータを脳に直接送ってもいいけれど」

「特徴を伝えれば、きっとすぐにわかるわ」

「背が高くて肌の色が濃い目の──」

「そ、そういえば店員さんの見た目がそうだったような」

 昨日のことなのにほとんど覚えていない。ラムネをくれた店長の背格好は、ほぼ完全に覚えているのだが。

「こんふぃ姉さんは恥ずかしがり屋さんな上に、背は大きい割に声が小さいから、印象に残りにくいのかもしれないわ、らすと」

「声以外は大きいから目立つはずなのに」

「こんふぃ姉さんは偵察が主な任務よ。存在感、それ自体が少ない能力を持っているのかもしれないわ」

「可能性はあるわね」

「同じホムサイダーズには離れていては能力が作用しないもの。存在感がないなんて、わたしたちには気がつけなかったのかもしれないわ」

「姿を消す的な能力は作用しているじゃない?」

 こんふぃは姿を消す能力があるのか。ひよ子は、その部分だけ頭に入った。

「あの力は自分に作用して消えているからじゃない?」

「それなら存在感がなくなる能力だって、自分に作用して効果がでるんじゃない?」

「よくわからないわ」

「よくわからないわね」

「そういえば、わたしたちが報告するまで、行方不明になっているって、めでぃさんも把握していなかったわ」

「忘れられてしまうなんて、こんふぃ姉さんったら、可哀想ね」

「わたしたちが影で手助けしないと、こんふぃ姉さんは、きっと生きていけないわ」

「あ、あの。わたしのことも忘れないで欲しいんですけど……」

「あら。ごめんなさい、忘れていたわ」

「つい、お喋りに夢中になってしまうのよね」

「それじゃ、こんふぃ姉さんのデータを送るわ、日和見ひよ子さん」

「う、うん、お願いし──」

 薄い桜色の長い髪をポニーテールにしている、大柄の女性。瞳の色も髪と同じ。

「あー! 多分、食券を受け取ってくれた店員さん!」

 双子は湯船から見える上半身で、お辞儀するように頷いた。

「話は変わるけれど」

「本当にまったく関係ない話になるけれど」

「え? う、うん。なんだろ」

「わたしとらすとの口調の話よ」

「え!? 口調の話……!? まったく関係ないね、ほんとに……」

「らすとは語尾に『ね』をつける場合が多いわ」

「ちなみにすりる姉さんは『よ』と『わ』の後に『ね』を、まったくつけていないのよね」

「気がつかないうちに『ね』って言ってしまう時もあるかもしれないけれど」

「そ、そうなんですか」

──そうなんですか、としか言いようがない。

「困惑しているわよ、この人」

「わたしたちと話していて、困惑しない人のほうが少ないわよね」

「それじゃ、お暇させてもらうわ」

「お風呂、ありがとう」

「次に会う時までお元気で──」

 その言葉が終わるや否や、水しぶきと共に二人の姿は消えてしまった。

 不思議なことに、その水しぶきはひよ子を避けるように拡散していた。

 濡れないように気を遣って移動してくれたのかもしれない。

「生身でも一瞬で消えちゃうんだ……」

 妙に感心して、ひよ子は頭をポリポリとかいた。


毎週金曜日更新予定です。

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