賑やかになりました。
「ごきげんよう! わたくし様がいらっしゃいましたわよ!」
めでぃの部屋のドアを勝手に開き、みっしょんは居丈高に入室した。
「相変わらず、薄暗い部屋ですこと。明かりでも足したらどうですの?」
「わたしは暗いほうが落ち着くのですよ」
部屋の中央にあるモニターと、鍵盤のような入力端末。その前に置かれた一本足の椅子に座っている黒髪の少女、めでぃ。
彼女はみっしょんに背を向けたまま、返事をしている。
長い髪は床まで届き、まるで黒い液体がこぼれ落ちているように拡がっていた。
「ふーん。相変わらずダークな趣味をお持ちなようで」
片眉を上げながら大きな砂時計を見やり、みっしょんは苦笑する。
その対角にある鳥かごへ顔を向けると、ねぎが胸に抱いた人形の腕を掴み、こちらへ手を振らせいていた。
みっしょんが手を振り返していると、めでぃが咳払いをした。
「昨日は結局、日和見ひよ子を始末しなかったようですね」
「びじょんが妨害してきたので、加減して差しあげましたのよ」
「日和見ひよ子が一人でいる隙きを狙うなり、やりようはいくらでもあったはずでしょう? どうして正面から挑んだのですか」
「わたくしが資源少女へ攻撃を加えたら、びじょんがどう反応するか興味がありましたの」
「満足したのなら、びじょんと日和見ひよ子には関わらないでください」
「答えはハイパー・ノー! でしてよ」
「ハイパー付きで否定されました。意味がわかりませんね」
「とにかく、わたくしはちょっかい出しに降りますわ! ヘイト・ヒマーですの!」
「それなら勝手に降りたらいいではありませんか。なんの目的でここへ来たのですか」
「わたくし、少し困っていましてよ」
「奇遇ですね、わたしもキミの勝手な行動にはかなり困っています」
「そんな些事、どーでもいいですわ」
「……些事ですか」
「わたくしの困りごとを、なんとかさせてあげますから、なんとかして欲しいですの」
「凄まじく上からな相談事ですね。まあ、話してください」
「ぱわわが乱反射しながらバグっていて、困っていますの」
みっしょんの言葉を理解できなかったのか、めでぃは真顔のまま沈黙した。
「え?」
「ぱわわが乱反射しながら、つけまわしてきますのよ。わたくしを」
椅子を反転させ、めでぃはみっしょんへと向き直る。
「……乱反射してバグるとは、なにかの比喩ですか?」
「そのまんまの意味でしてよ」
みっしょんが呆れ顔で廊下を指さしたので、めでぃはそちらへと顔を向けた。
「どういう意──」
開いたままの扉の向こうは、人が二人歩ける程度の狭い廊下になっている。見れば、その廊下を、なにかが高速で跳ね回っていた。
「何事ですか?」
「ですから、ぱわわが乱反射してバグってますの」
めでぃは思わず椅子から立ち上がり、廊下に一歩近づいた。
「ぱわわねー! みっしょんと一緒にお外行きたいのだー!」
「なにをしているのですか、ぱわわ」
「お外ー! 行きたいのだー!」
高速で動く物体を目で追うと、それは確かにぱわわだった。彼女は両膝を抱え、丸まった体勢で、ボールのように壁を反射しながら騒いでいる。
「ちょっと落ち着いてください、本当に」
「ややー! お外ー! お外行くのー! みっしょんについてくのだああああああああああああああああああああああああああああ!」
「確かに……乱反射しながらバグっているのです」
「ややああああああああああああああああああああああああああ! 目が回ってきたのだああああああああああああああああああああああああああああ!」
「今朝からずっと、この有様でしてよ。困っていますわ」
「これは困りますね」
めでぃの横に浮かび、みっしょんは首を振りながらため息を漏らした。
「止まんないのだああああああああああああああああああああああ! たしゅけてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ──」
奇声を上げながら、ぱわわは廊下の奥へと、跳ねながら消え去った。
「もう連れていってあげたらいいじゃないですか」
「え、ええぇ。わたくし、わがままな子と、散らかった部屋は苦手ですのに……」
「わがままな子が苦手ですか……そうですか」
「──のだああああああああああああああああああああああああああああああ!」
廊下の奥から、ガシャコーンという金属音と衝撃、そして断末魔のような叫びが響く。
その衝撃で、ねぎの収監されている鳥かごが左右に小さく揺れた。
「と、いうわけで、ぱわわも連れてきましてよ」
「え? どういうわけ……?」
ここは暑さが和らいできた夕刻の世田谷。チャイムが鳴ったので、ひよ子が自宅のドアを開けると、そこにはみっしょんが浮いていた。
その後ろに緑髪の少女がいる。
「はじめまして、ぱわわなのだー」
「ど、どうも、日和見です」
「知ってるのだー! 日和見ぴよ子ー!」
「ち、違うよ。PIYOKOじゃなくて、HIYOKOだよ」
「ねえねえ、おうちの中に入ってもいいー? 地球人のおうちで遊びたいのだー!」
緑の子がひよ子の両手首をつかみ、甘えるように上目遣いで見上げてきた。
「え、う、うん。いいけど……」
「やったのだー! わーい!」
ドアを大きく開くと、少女は満面の笑顔で家の中へと入っていった。
「人様のハウスで乱反射してはいけませんわよ、ぱわわ」
「はーい!」
元気の良い返事にみっしょんは頷くと、ひよ子へと鋭い視線を向けてきた。乱反射とはいったいなんの話かと、問えるような雰囲気ではない。
「のんきなものですわね」
「よく言われる……」
「前回、わたくしはあなたをキルしに来ましたのよ? お忘れでして?」
「お、覚えてるけど」
「平然と接客していますけれど、わたくしが怖くありませんの?」
「びじょんが守ってくれるって言ってたから、大丈夫かなって」
「そのびじょんは、どこにいますのよ」
「あっ」
ひよ子は息を呑む。びじょんは今、入浴中でこの場にいない。つまり誰が危険な宇宙人から、ひよ子を守ってくれるというのだろう。
ひよ子は慌てて、ドアを閉めて家の中へ隠れようとした。
「おおっと。そうはいきませんわよ」
が、みっしょんにドアを掴まれてしまった。彼女は凄まじい力でドアを固定してる。フワフワ浮いている小さな体の持ち主の力とは思えない。
「こんなドア、薄氷を砕くよりもイージーに破壊できますのよ。無駄な抵抗はおよしになって」
「わ、わかった」
ドアから手を離すと、みっしょんは満足げな顔で、よろしくってよと言った。
「安心なさって。びじょんがいない間に、あなたをキルするつもりはありませんわ」
凍るような冷たい笑顔でそう言うと、みっしょんはズイッと家の中へ入ってきた。
「びじょんがどのような場所で生活しているのか、興味がわきましたわ」
「えっと、みっしょんさんも、うちで遊んでく?」
「散らかっていない、最も綺麗なルームに案内なさい」
「は、はい」
妙な展開になってきた。
「ねえねえ、これって、なあに?」
「それはダルマっていう置物だよ」
「へえー! ダルマさんっていうのー? 可愛いのだー!」
和室に飾ってあったダルマを持ち上げて、ぱわわは部屋の中を走りだした。
部屋の中央で、ひよ子とみっしょんは向かい合って、座布団の上に正座をしていた。
「ぱわわねー。オキモノって、どういう意味かわかんないけど、気に入ったのだー!」
「そ、それは良かったね」
はしゃいでいるぱわわにどう反応したらいいのか、ひよ子にはわからない。わからないが、楽しそうなので、まあいっかという心持ちだ。
「あまり人様のハウスを散らかしてはいけませんわよ、ぱわわ」
「はーい!」
ぱわわはダルマを持ったまま、部屋から出ていってしまった。パタパタパタと走る音が遠ざかっていく。
正座をしているみっしょんの横には、フワフワと例の乗り物が浮かんでいた。
「整理整頓が行き届いていて、好感が持てるルームですわね」
「うん、お父さんとお母さんの部屋だったんだけどね。誰も使わなくなってからも掃除は欠かしてないの」
「使っていないのに、最も綺麗にしていますのね」
「思い出があるから大事にしてるの」
「ふーん。家族というものでしたっけ」
「うん、家族」
家族という言葉に反応したかのように、みっしょんは一瞬だけ目を細めて、ひよ子を見つめてきた。
「あなたたちの家族という概念。その線引きは理解できませんわ。この場合、あなたたちというのは地球の生命体、全てをさしていますわ」
「線引きって?」
「どこまでが家族で、どこまでが他人でして? 他人はキルされても悲しくもないんですのよね?」
「そ、それは……」
「家族がデスったら、嘆き悲しむ。亡き家族へと想いを馳せますのよね。先程のあなたのように」
ひよ子はどう返していいかわからず、口を噤む。
「同じ星の生命ですわよね? みんな家族ではなくって?」
「……難しい話だね」
「難しくありませんわ。わたくしは同じ船の仲間を全員、大切に思っていますわ」
少し意外だった。びじょんの話から、ひよ子は彼女たちの種族は仲間同士の繋がりが薄い印象を持っていたのだ。
「狭い星の中で暮らしていて、仲間同士で傷つけ合ったり、キルしあったり。理解できませんわ。違う星に侵略に向かえないから、仲間同士で揉めていますの?」
「狭い星って、凄いこと言うね……」
「わたくしが言いたいのは──」
みっしょんは立ち上がり、ひよ子を冷たく見下ろした。
「びじょんも大切な仲間ですの」
真剣な表情。彼女は本心から、びじょんを大切に思っているのだろう。
「びじょんを傷つけ、悲しませたらたら許しませんわよ」
ひよ子も立ち上がり、強く頷いた。
「約束する。絶対に大事にするし、好きになってもら──」
「頭が高くってよ! お座んなさい!」
「ひ……!?」
「見下されるのは好きではありませんわ」
「ごめんなさい……」
ひよ子が慌てて座布団に戻ると、みっしょんは微笑み頷いた。
「あなたを守ろうとしていましたわね」
「え? びじょんが?」
「ええ。仲がよろしいこと」
どこか淋しげな微笑みを浮かべて、みっしょんも座布団に正座した。
「……あなたをキルしたら、あの子が悲しみますわね」
「そうだといいな」
きっと自分も淋しげな微笑みを浮かべているだろう。と、ひよ子は思った。
「みっしょんさんって」
「なんですの」
「びじょんちゃんのこと大好きなんだね」
「はぁ!?」
勢いよく立ち上がり、みっしょんは真っ赤になった。
「大好きという言葉は気安く使うものじゃなくってよ!」
「ご、ごめん、みっしょんさんたちの文化には、まったく詳しくなくて……」
「大好きということは、大好きってことでしてよ? それはめっちゃ恥ずかしいタイミングで、それこそ大好きな相手に伝える言葉ですわ!」
「え、ええ!? びじょんちゃんが、ワレワレは愛を知らない種族ダーって言ってたよ!? 大好きっていう概念があるの!?」
「あんな生まれて二年チョイの小娘に、愛のなにがわかりますのよ! わたくしたちには家族という概念がないだけで、仲間への敬愛も友情も、そして深き愛もこの胸に存在してましてよ!」
「みっしょんさんって情熱的な人だったのね……!?」
「当然ですわ! パッションとラヴを内包し、そしてエレガンスにしてエクセレントな存在! それがわたくし様!」
「みっしょん様! 熱い!」
ひよ子はノリと勢いで、つい様付けで呼んでしまった。ノリって怖い。
「おーっほっほっほ! もっと、おだてなさい! よろしくって──」
「みっしょん。わたしのこと大好きなの?」
「びじょん!? どっから現れましたのよ!?」
見ると、開いた襖のところに、湯上がりのびじょんが立っていた。彼女は近くの服屋で買ってきた白いパジャマを着ている。
「お風呂から出てきて現れた」
「お帰りー、びじょんちゃん」
「すばらしい体験をした。湯船に浸かる文化。気持ち良い。とてもすごく」
びじょんは嬉しそうな表情で、ひよ子の横にチョコンと正座した。
「昨日はシャワーだけだったもんね」
「うん。湯を浴びるというのも良かったけど、湯船に浸かるのはもっと良い」
「ふーん。わたくしたちの洗浄装置的なアレは、あまり気持ちが良いとは言い難いですものね」
「滅菌と消臭に特化しすぎていて、あの装置は目や皮膚が痛い」
「どんな装置なのそれ……」
「スーっとする薬剤やら、なにやらぶっかけられますのよ──って、それより! びじょん!」
みっしょんはびじょんを指さしながら、鼻息を荒くしている。
「大好きとか……誤解なさらないでくださいまし!」
「理解している。みっしょんは、わたしにいつも辛辣に接してくる」
「わ、わたくし、そんなに辛辣でして?」
「うん。だから好かれていないのは理解している」
「わたくしが、いつあなたを好きじゃないって言いましたですのよ……!?」
みっしょんは真っ赤になっている。真っ赤になってプリプリ怒っている。きっとびじょんのことが大好きなんだろうなーっと、傍目で見てもわかるような反応だった。
「なんなの。好きなのか好きじゃないのか、はっきりして欲しい」
とても面倒そうに、びじょんはそう言い捨てた。
「わ、わたくし、帰らせていただきます!」
「え? お夕飯、食べてけばいいのに」
引き留めようとするひよ子の言葉に躊躇いを見せながらも、みっしょんは窓を開けて外に出ていってしまった。
「今日のところは見逃して差し上げますわ!」
「待って、みっしょん。話したいことがある」
「わたくしには話したいことなんて、ありませんわよ……!」
プイッと、そっぽを向いて、みっしょんは空へと昇って行く。
「それではみなさん、テイク・ケアですわ! おーっほっほっほ!」
高笑いを残して、彼女は視界から消えてしまった。
「お風呂の良さについて語りたかったのに。行ってしまった」
びじょんの言葉に苦笑しながら、ひよ子は立ち上がる。
「お夕飯の支度、手伝ってもらえるかな」
「喜んで援護させてもらう」
びじょんが立ち上がった直後、部屋にぱわわが戻ってきた。
「ねえねえ、これはなんなのだー?」
「それはねー。スリッパっていう履物だよ」
「へえー! スリッパってハキモノなのかー! ハキモノってなんだ、すごいのだー!」
「ぱわわも来てたの?」
「おー! びじょん! 気がつかなかったのだー! 許せ!」
「気にしないでいい。珍しい物を目にすると、周りが見えなくなるくらい気が昂ぶるのは理解できる」
表面上の性格や雰囲気は違うが、二人とも好奇心旺盛でよく似てる気がしてる。と、ひよ子は思った。
「あれー? みっしょんはどこ行っちゃったのだー?」
「みっしょんなら、帰った」
「えええ!?」
ぱわわは後ろにコテンと回転して、廊下まで転がっていってしまった。
「ぱわわはねー! 一人じゃ飛べないのだー! お船に帰れないのだー!」
「わたしが送っていってもかまわないけど」
「ほんとー!?」
嬉しそうに部屋に戻ってきて、ぱわわはびじょんに抱きついた。
「あ、ぱわわさん、せっかくだしお夕飯食べてく?」
「ほんと!? いいの!?」
頷くと、ぱわわは目をキラキラさせながら、ピョンピョンと跳ねて喜んだ。
「やったー! 地球のご飯はおいちいって聞いてるから嬉しいのだー!」
「ぱわわ、一緒に地球の料理を楽しもう」
「うん! 一緒! 一緒!」
「それじゃ支度しよっか。二人とも手伝ってくれるかなー?」
「うん!」「うん」
二人の元気の良い返事に、ひよ子は満面の笑みを浮かべた。。
「地球の料理。日本の料理。いや、日和見ひよ子の料理ですね」
空に浮かぶ船の中。めでぃは自室で独り言を漏らし、モニターに映るひよ子たちを見つめていた。三人の少女は仲良く食材の皮を剥いたり、フライパンに油を引いたりしている。
「あの星の食べ物は、アナタにとって懐かしい味デショウネ、めでぃ」
部屋の隅に生えている木の枝に吊り下げられている鳥かごから、含み笑いとともに言葉が届いた。
「どうでしょうか、ねぎ。あの少女たちが作っているのは、わたしの知っている料理とは別物なのです」
鳥かごに目も向けず、めでぃは答えた。
「アナタも三人に混ざって、仲良く一緒に食べてきたらどうデスカネ」
「それは自らの願望ですか? キミは何十年も栄養をとっていませんでしたね」
「最後に栄養をとったのは五十年前デス。まあ、あと二千年は飲まず食わずでも元気にしてマスヨ」
ねぎは抱きかかえている二体の人形の頭を、それぞれ撫でながら微笑む。
「この子たちも元気デス」
「それはなによりで──」
「わたくし様が帰りましたわよ!」
めでぃの言葉を遮るように、みっしょんが部屋に入ってきた。
「ドアはロックしてあったはずなのですが」
「このわたくしにロックなど無意味でしてよ」
ドアに顔を向けると、ちょうどみっしょんが通れる程度の穴があけられていた。彼女の力で破壊したのだろう。
「今度はなんの用ですか」
「びじょんについてですの」
めでぃはモニターに向き直り、みっしょんに背を向ける。長い黒髪が床を這うように動いた。
「びじょんが日和見ひよ子を好きになったら、この星での刈り取りをやめるという取り決め。守るつもりはありませんわよね?」
「さて、どうでしょうか」
「酔狂で交わした約束かもしれませんが、あの子、本気でしてよ」
「本気でしょうね」
みっしょんは目を細め、眉間に皺を寄せる。
「今回の刈り取りをやめて次の星へ向かうとしても結局は必ず、刈り取りは行わなければいけませんわ」
「当然ですね。資源を刈り取らなければ、わたしたちが滅んでしまうのです」
「びじょんが再び、星の生き物を滅ぼしたくないと言い出したら、どうしますの?」
「さて、どうしましょうか」
みっしょんはモニターの右隣に移動し、めでぃの視界に入ってきた。
「今回の刈り取り。どうあっても行うつもりですわよね?」
めでぃは答えず、モニターを見つめ続けている。
「無駄ですものね。今回だけ刈り取りをやめても。次の星は? 見逃す基準は? びじょんが嫌と言っても、さきほども言いましたが、刈り取りは必ず行わなければいけませんわ」
楽しそうに料理をするびじょんたちがモニターに映っている。その姿を横目に、みっしょんは語気を強める。
「一度、刈り取りを見逃せば、次も必ずありますわ。びじょんは再び資源に同情するでしょう。そんな無駄、あなたが認めるわけありませんわよね? めでぃ」
みっしょんの言葉に反応せず、めでぃはモニターを見つめ続けている。
「このまま日和見ひよ子となれ合いを続けても、びじょんが悲しむだけですわ」
めでぃの視線が、みっしょんに向いた。
「あの子が悲しむ結果になるのは、わたくし、ムカつきますのよ」
「びじょんの意向を無視して刈り取りを行っても、彼女は傷つくのです」
「資源に感情移入をしてから行うより、マシですわ」
「キミはびじょんが大好きですからね」
「ええ、わたくし、びじょんが大好きですわ」
みっしょんはめでぃの視線を強く見返した。
「めでぃ、あなたのことも大好きでしてよ」
「それは初耳ですね」
「そんな仲間たちが傷つき悲しむ姿を見るのは、わたくし、散らかった部屋よりも好きではありませんの」
「それで、わたしにどうしろというのですか」
「刈り取りを即座に実行なさい。なれ合う時間が増えれば増えるほど、びじょんの傷が深まりますの」
「その必要はありません。びじょんが日和見ひよ子を好きになれば、約束通り刈り取りを中止にします」
一瞬の沈黙が暗い部屋に漂う。
「嘘ですわね」
「キミがわたしを好きだという言葉こそ嘘なのです」
再び沈黙が部屋に満ちる。その沈黙を破ったのは、クスクスと笑うねぎの声だった。
「もういいですわー。わたくし、部屋に戻ってスリープしますの」
めでぃに背を向け、みっしょんは出口に足を進めた。
「わたくし、これから勝手に動かせていただきますわ」
「どうするつもりなのですか」
「地球の見物でもして暇を潰しますわ」
「見物ですか」
「わたくし、退屈は散らかった部屋なみに好きではありませんの」
おーっほっほっほ! と高笑いをしながら、みっしょんは部屋から出ていった。
あとには、ねぎの小さな笑い声だけが残った。
存亡か滅亡か。約束の日まで二十八日。
毎週金曜日更新予定です。