表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/28

第八話 決着①


***


 そうしてこれまた前代未聞の魔族の王都襲来の事件も貴族の中での噂が広まってきたころ――私と父は、王城で開かれる祝宴の席に呼ばれていた。

 当然断れるはずもなく、私たちは相当気合を入れたおめかしをして王城に足を運びました。

 そこは仮にも公爵家。他の家の人に見劣りしないレベルの衣装だったりと、注目を集めている気がします。


 いえ、違いますね。――今代の『勇者』が現れたと触れ込みがあったせいでしょう。

 多少は広まっていると覚悟していましたが……ここまで広がっているとは。

 ええ、誰かが(・・・)広めたんでしょう。誰かが。


「ふんっ」

「……はぁ」


 もう予想するまでもありません。この父は、どこまでも愚かなのでしょう。……まあ、後少しの付き合いです。ここはぐっとこらえておきましょう。



「これより、魔族討伐を祝して――そして、新たな勇者の誕生を祝って……国王陛下より、お言葉がある。しかと拝聴するように」



 厳かに、その式は幕を上げるのだった。





 私は会場の隅っこで豪華な食事を楚々として盛り付けては食べるを繰り返しています。

 王様のお言葉は? なんかつらつらと長ったらしく感謝とこれからがんばろう、といった感じの言葉を並べているだけでした。


 なので半分ほど聞いて、あとは言い終えたあとに拍手してあげましたよ。


「ふぅ……まったく。国王があんな人だとは思いませんでしたよ」


 事前に聞いていた人柄と違いすぎて、もう何がなにやら。

 ……本当に、あんな堅物そーな人に、私の家の断罪を任せてもよいものか。……っと、人がきましたね。さっさとどこかへ逃げますか。


「ちょ――」


 なにやら、引き留めるような声が聞こえたような気がしますが、きっと気のせいでしょう。あんな身なりもよくて、いかにもな金髪碧眼な王子様キャラはお呼びではないのです。

 どうせ話しかけられるなら兄さんがいいです。


「ま、待ってくれ。君はディーリヤ・ディバルトだろう?」

「……そうですが。なにか?」

「ああ、よかった。人違いじゃなかったか」

「はあ」


 なにやら、いちいち行動が癪に障る人ですね。

 こう、言語化が難しいですが、生理的に受け付けない人というのはこういうことを指すのでしょうか。


「実は、魔族を倒したっていう『勇者』を一目見てみたかったんだ」

「……なるほど。で、実際に見てみてどうですか?」

「そうだね。……うん、僕と同じくらいだなあ……って」


 なんですかそれは。バカにしているんでしょうか。

 どこをどう見たら、あなたと私が同じなのでしょうか――って、いかにも同年代でしたね。肉体的には。


「いやあ、すごいなあ。こんな小さな女の子が魔族を倒したなんて」

「信じるか信じないかは、ご自由に」

「あ、そうじゃなくてっ。ただ、僕もそれくらい強くなれればなあ……って」


 ああ、この人。気付いていないようですが、無意識に上から目線ですね。

 というか、まるで自分のことのように魔族を倒したことを喜んでいるところが、すごく気持ち悪いですね。

 あなたはまったく関わりがないでしょう。勝手に私の気持ちを汲み取って、間違っていると信じていない。


 苦手を通り越して、関わりたくないですね。さっさと退散しましょう。


「あ……」


 私がその場から、そそくさと立ち去って、今度こそ人に見つからないように気配を殺して……時は過ぎていく。

 待ちわびたその時は、突然やってきます。

 私が、壁の花になって、食事がデザートになったころでしょうか。久しぶりの甘味に酔いしれていると、会場がざわめきだします。


「へ、陛下!? どうしてこのようなところに!?」

「どうして、か。なに、不思議なことではあるまい。ここは、我の城なのだからな」

「そっ、それは……その通りでございますが……」

「それよりも、だ。我が息子と、ディバルト公爵の姿が見えないのだが……お前、見ておらぬか?」


 ――きた。


 約束(・・)通り、場をひっかきまわしてくれています。

 私は、【光速移動】で即座に父を連れ出して、王様の前へと差し出す。


「おお。そこに居たのか。……っと、そちらのお嬢さんは?」

「……お初にお目にかかります陛下。わたくしは、ディーリヤ・ディバルト。ディバルト公爵が長女にてございます」

「ふむ。……そなたが噂の『光の勇者』か」

「そのように、噂されていることは」


 ああ、なんて白々しい挨拶なのでしょうね。

 とっくのとうに、勇者――『光魔法』の使い手であることも、挨拶だって済ませているというのに。

 けれど、こうした場では体裁というものは重要なのです。……忌々しいことですが。


「して、公爵はどうしたのだ? なにやら顔色が優れぬようだが」

「は、はっ。何分、陛下の御前にてあらせられる故……少々緊張しておりまして」

「そうかそうか。なに、我の勝手な呼び出しだ。気にすることはない」


 なんてやり取りの後、騒ぎを聞きつけたのか――先程の王子みたいな少年が現れる。

 そして私を見つけると、「あ……!」と嬉しそうに手を振ってくるものですから……私は思い切り知らないふりをします。

 だいだい、この空気を察せられない鈍感な人にはとっとと退場してほしいです。

 せっかくのチャンスをみすみす逃してはいけないのですから。


「おお! 我が息子よ。そこにいたのか!!」

「はい、父上! 申し訳ありません!」


 ……


 …………


「え?」


 親子、なんですか……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ