第五話 無能の烙印と誓い
そうして、とうとうやってきた兄さんの誕生日――そして魔法開花の儀。
中庭に関係者を集められて、兄さんはその中心で眺められていました。緊張した赴きで、膝をつき神に祈っています。
一説……というよりも常識でしょうね。
神によって魔法の種は人に与えられ、成長とともに花開くと言われています。……つまり、魔法とは神の力の一端ということになります。
それを授かることは神聖な儀式であるため――こうして厳格な雰囲気の中で行っているのでしょう。
「……っ」
兄さんの表情が険しいものに変わります。
すると、兄さんの周りに漂う空気が変貌します……禍々しく、刺々しい……重く、陰鬱なものです。
けれど、周りの誰もそれに気づかず――何も変わっていないと錯覚して訝しんでいる。
なぜ、私だけそのことに気付けているのでしょう? 妹だから? それとも、……あの不思議な夢で押し付けられた光の球体の影響でしょうか。
いずれにしろ、私以外に誰もその様子に気付いていないということに変わりなく……痺れを切らした父が兄さんに激昂を浴びせる。
「おい! なにをしておるのだシース!!」
「――ッ、す、すみません」
「言い訳はいい。それより、開花した魔法を見せてくれ。すでに零時を回っている……とっくに使えるようになっているはずだ」
「は、はい……」
兄さんはそういって、再び目を閉じてなにかに集中している。
しかし、いくら力を込めようと……その禍々しい何かはピクリとも動かず、むしろどんどん兄さんに吸収されていきます。
焦るように、必死な表情で兄さんは何かを集めようとしていますが……父はそんな兄さんにため息を吐いて、こう言い放った。
「もう、いい。お前は……魔法が開花しなかったようだ。おい!」
父は控えていた兵士に兄さんを取り押さえるように命令すると、あっという間に縛り上げられる。
「お父様、なにを」
「ディーリヤ。いいか……我がディバルト家には、魔法が使えない子などという汚名を被ってはいけないのだ」
「――ッ」
この人は本当に……っ! 見栄や名誉、希少価値が大切なことは理解できますが――それでも、我が子をいない者扱いするというのですか。
ほんとうに、ぶん殴りそうになってしまいます。
兄さんは、それを諦めたように受け入れ始めている。
……どうして……兄さんにはちゃんと、魔法は芽吹いているのに……それに気づいていないだけなのに。
私にはわかる。
兄さんは決して無能なんかじゃない。
魔法がどんなものなのかは分からないけど……今日と昨日の兄さんの違いを見比べてみたら、分かる。
どいつもこいつも……無能ばっかり。
「あ、……あははっ」
でも、そこで無力になにもできない私もまた……無能なんだろう。
連れていかれる兄さんを黙って見届けることしかできない私――なんてみじめなんだろう。周りに気を遣って、迷惑をかけないようにしよう? その結果がこれなんだ。
そんな我慢をしても……なにもいいことなんてなかった。
「私は、強く……ならないと」
力がほしい。
権力も、敵も、親も……私を縛る全てを引きちぎれるくらいの圧倒的な強さがほしい。
前世みたいに好き勝手できるくらいに、周り全てが弱ければいいのに。
「ああ、ごめんなさい兄さん。不出来な妹のせいで、こんな目に遭わせてしまって。……だから、きっと……幸せにしますから……強くなりますから」
静かにそっと誓いと立てる。
もう、誰にも止められない。止めようとしても、そのすべてを踏みにじって……今度こそ兄さんと幸せに暮らすのだ。
森の中に小さな小屋でも立てて、畑とかを一緒に耕すのもいいかもしれないし……遠い国でひっそりと生計を立てながら、いつかマイホームを持つことを夢見てもいい。
……でも、それらを叶えるためには、こいつらが邪魔だ。
「私たちの、幸せを邪魔する奴らは全員――」
ぶっ殺してやる。