第四話 妹として
――兄さんと再会してからというもの。訓練の時間を除いて、ずっと付きっ切りにすごしていました。
初めは困惑気味な兄さんでしたが、かわいい妹が素直に甘えてくることは悪くないのか次第にほだされていきます。
「ふふ」
「ん? どうしたのディーリヤ」
「いえなんでもありませんよ? ただ、兄さんが隣に居てくれてうれしいだけです」
「そう? そう言われると兄冥利に尽きるってもんだよ」
今は蔵書室で一緒にくつろいでいる。
適当に引っ張り出してきた本を読むふりをしながら、集中して魔法の本を読みふける兄さんの横顔を堪能していく。
すっと細められた眼差しを向けられる本に嫉妬するくらい、かっこいい横顔です。できることなら、もっと近くで見たいですが……読書の妨げになってはいけませんので。
私は気遣いのできる妹ですから。
ですが、嗅覚を全力で研ぎ澄まして、兄さんの匂いをその身に取り込んでいく。
不思議なことにあの頃と全く変わらない匂いがして……ちょっと涙がでてきそうになる。
「ああ、ほしいぃ……」
気を抜けば、兄さんに触ろうとする右手を左手で押さえつつ……自分の欲を理性で窘める。あなたのことをこんなにも付け狙っているというのに、隙だらけな兄さんがかわいらしくてしかたない。
どうしてそんなにも油断できるのか……私は嫌われたくない一心で綺麗な私で在ろうと必死だというのに……ズルいです。
でも、そんなところも大好きです。
「さて、兄さん。少し休憩しましょう。そんなに本を眺めていては体に悪いです」
「ああ、そうだね。ありがとディーリヤ」
「お気になさらないでください。妹として当然のことを申したまでですから」
そう。妹は兄のすべてを気に掛けるべきなのです。
一挙一動を細かに観察して、把握するべきです。まあ、そんなことできるのは私くらい『大好き』でないといけませんがね。
「どうぞ」
そっと用意しておいた御茶を注いで兄さんに渡す。
多少時間が経っても、保温されるポッドを使っているので淹れたてのように熱々です。
「ふぅ……おいしいな」
「ふふ、ありがとうございます」
「え、これってディーリヤが淹れたの?」
「はい。修行の成果です」
「へえ……頑張ってるんだね」
そう言って、私の頭にそっと手をのせて……そのまま髪を梳くように優しくなでてくれる。……ここで取り乱さなかった私を褒めてほしいくらいです。
なんとかカップを机に置いて、うれしさと多幸感に包まれて……抱き着きたい衝動を抑えることで手一杯になってしまう。
「~~!?」
「あ、ごめん。……慣れ慣れしかったかな?」
「い、いえ! そのようなことは!! ……ただ、少し」
「少し?」
「……照れくさかっただけです……」
そう告げると兄さんはおもしろそうに「あはは」と笑うのでした。