第三話 対面
そうして時はあっという間に過ぎていき、いよいよ異世界での兄と対面することになりました。
『兄』ということで少し身構えてしまいます……私にとって『兄』という存在は大きいですから。
とはいえ、私は『兄』が好きなわけではありません。
『兄さん』が好きなわけですから。いないからって、他の男に浮気をするなんてことはありえません。
「まあ、せっかくの家族なんですから。仲は良くしておきましょうか」
そう呟いて、遠くから馬車の音が聞こえてくる。
来客の予定などはありませんので、その馬車こそが私の兄を乗せたものなのでしょう。
……ああ、久々に緊張してきました。
もし、今から会う人が『兄さん』だったら――なんて、都合のいい夢のようなもしもを考えてしまう。
けれど、そんなことはありえないでしょう。
一緒に転生していることだって奇跡かもしれないのに、それがまた『兄』になってくれるなんてそんなことは……
「……久しぶりだな。シース」
「はい父上。お久しぶりですね」
「……」
その人は、私と同じ髪に同じ瞳。
まさしく兄妹、という風貌ですが……私はあまりの衝撃に、言葉を尽くすことが叶いませんでした。
「相変わらずお元気なようで、安心しました」
「ふん……お前も相変わらずの腑抜けた面よ」
困ったように零れた苦笑。
緊張したときに親指の爪で人差し指を突き刺す癖……視線を少し下に下げるのは、怒っているとき。
「あ、ああ……」
似ても似つかない。
私の知っている人とかけ離れているというのに、どうしても重なって見えてしまう。
何もかも、異なる容姿だというのに、一目でピンときました。
だって、その仕草に雰囲気。
見た目はほんとうに似ていない。けれど……妹の私にはわかります。
この人は、
「……『兄さん』」
「あ、ああ……ひ、久しぶりだね。ディーリヤ」
私の前世の兄――その人だったのですから。
「ふ、ふふふ……うふふふっ」
『兄さん』との対面を終えて、私は一人部屋で昂る心を抑えることができませんでした。
ああ、本当に夢のとおりでした……私の『兄さん』は本当に近くにいましたよ。
「ああっ、また一緒に居られるのですね。懐かしいですね、あの両親から逃れるように二人で暮らした小さなアパートのように近くはないですがまた家族になることができたのですから、いつでも会えますね……ああ、大丈夫ですよ。――今度は間違えませんので。さあて、何をしましょう? また一緒に料理を作りますか? それとも小さい頃のようにお背中をお流ししましょうか? なんなら、全身くまなくだって……そうして添い寝なんかしちゃったり……きゃぁー! そんなことしたら、私は幸せ過ぎて死んでしまいそうですね。でもしたいことには変わりないので、あとで『やりたいことリスト』でも作って一つずつこなしていくのもありですねえ……前世では叶わなかった子どももほしいですし――」
居もしない『兄さん』に向けて、言葉を尽くしていく。
少々見せられない顔をしつつ、将来について妄想を膨らませていく。……大好きな『兄さん』と再会することができたのですから、それくらい許してほしいものです。
本当なら、今すぐにでも抱きしめて、気絶させてひっ捕らえて……監禁して逃がさないようにしたいくらいなのですから。
そのすべてを管理して、食事から身の回りのお世話までこなしてあげたいくらいなのですが……いかんせん、周囲が鬱陶しそうになりそうでしたのでそこは自重です。
でも、少しくらい兄さんとの生活を楽しむことくらい……いいですよね?