第十七話 完全敗北
――その魔力は突然、私たちの目の前に現れました。
「――ッ!」
「おや、おどろかせてしまったかな。いや、ゴメンね? つい、勇者がいたもんだから」
「あ、貴方は……魔族、ですね」
「うーん……まぁ、種族的にはそうなるのかな。光の勇者ちゃん」
その魔族は、私と変わらないほどの身長で、容姿なんかも少年そのものですが……その有り余るほどの禍々しい魔力は、まさしく魔族のものです。
……こんなところにまで現れるなんて、本当に神出鬼没ですね。
「ん? アハハ! すごいや、もう仲間がいるんだ……しかも、異世界人に勇者……それに聖剣の守り手。子孫だけども……懐かしいなぁ」
「ひっ――」
「ああ、そうそう。そんな感じで君のご先祖様も怯えていたよ。……ほら使って見なよ」
「あ、あぁぁ……【土塊の魔水晶】!!」
マキアさんは錯乱したように、切り札である【土塊の魔水晶】を起動し土魔法で攻撃を始めますが……そのどれもが、視えない障壁に阻まれて掻き消されていく。
その魔族は魔法の威力に疑問を抱いたのか、拳でその魔法を受け止め……いともたやすく振り払う。
「あれ? 柔い……ああ、そうか。まだ、そこなんだ」
「ど、どうして……くっ、この――」
「ああ、まだ早い。命を削るには、まだね……【眠れ、健やかに】」
「うっ……」
なんらかの魔法を用いて、マキアさんは眠らされてしまい……恐怖で動けなかったアレクくんはその魔族に突撃する。
「こ、このぉぉぉ!!」
「うーん……勇者の末裔、かぁ。遅いなあ」
「がふっ!? あ、がが」
「うん。練度が低い。魔法も学ぶべきだね」
「――【ダウンバースト】!」
「うん? あは」
後ろからの奇襲すら喜び、……顔を鷲掴みにしているアレクくんを放り投げるとその攻撃を真正面から受け止める。
アリスさんの攻撃は……跳ね返されてしまい、奇襲したのにも関わらずやられてしまっている。
「うんうん。発想は悪くないけど……代々、守り手はその名の通り、支援、防御に秀でている。そんな感じの魔法を学ぶべきだね」
「うっ……」
「さて――」
三人組がやられて、とうとう私へと視線を向ける。
私は、事を見守るだけでとくに戦闘態勢に移行していません。……だって、しても敵わないと悟っているので。
「そろそろ、僕の正体を言ってもいいかな?」
「いえ、予想はついていますよ。……『魔王』」
「アハハ! やっぱり光魔法の使い手は分かるんだ……この『闇魔法』の気配が」
「ちっ……この気配は兄さんだけだと思っていたのに」
「……あぁ、次代の闇魔法使いくんか。彼はどこだい?」
「私こそ、問いただしたいですね……兄さんはどこだ」
魔王が発する気配は、よく覚えている。
だって、それは兄さんが発していた魔法の気配そのまんまで……ああ、それは闇魔法というんですね。
きっと、手に入れたいのでしょう。ああ、魔王すら目に付けられる兄さん。……素敵ですけど、モテすぎですね。
「……兄さんを魔王にするつもりですか?」
「うん。だって、第二の魔王なんわくわくするじゃん?」
「まぁ、兄さんは喜んでやりそうですね……家族に裏切られたので」
「あちゃー……ま、そのうち説得してこっち側に引き込むよ」
「……見つけた場合はぜひご一報あるとうれしいですね」
「うん。その時はきっと敵同士だけどね」
「…………構いませんよ。生きているなら、それで」
記憶をなくして、どうしているのだろう。
今度会ったときは逃がさないように、いろいろと用意しておいてるのでそう簡単にはかいくぐれないはずなので……あとは見つけるだけ。
なので、こうして約束できるだけでもありがたいと思うべきなのでしょうね。
「さて、……そろそろ勇者として動きますか」
「お? くるの?」
「はい――【光の■盾】」
「……っ。命削るの早すぎない?」
「魔王、相手……ですし」
この不完全な魔法。
発音ができないせいか、完全に機能しているわけではないのであまり効果は期待できませんが……まあ、一度だけ完全防御くらいは期待してもいいでしょう。
「【光の剣】、それに【光速移動】」
「うわぁお……その歳でそこまで開花させてるのか」
「まぁ、兄さんのためですので」
「そっか」
私は踏み込み、光速となって剣を振るったはずなのに……なにか影のようなものを纏って簡単に受け止められますが……光の剣に魔力を全開に注ぎ込み、その影を晴らして、左腕を斬り飛ばす。
「――っ、【戻れ、あるべきところに】」
「回復までできるんですか……厄介ですね」
「……厄介なのは、その光魔法だよ」
しかし、宙を舞っていたはずの左腕は魔王のところへと巻き戻るようにして回復してしまう。
……なら、今度は首を切り落とす。そう決意して、魔力切れ特有の頭痛を感じつつ、全速力で【光速移動】を繰り出して、魔王へと詰め寄っていく。
「――――ッ!!」
「うわぁ、こわっ」
「ちっ……簡単に避けていおいて、それはないでしょう」
けれど、距離感をずらされ……私は、攻撃をはずし……わき腹をなにかで抉られてしまう。痛いですが、光の熱で焼いて止血しておきます。
「ぐぅっ……!」
「えぐっ……女の子がよくやるよ」
「構うもんですか。……あなたに届くまでなんどでも牙を向けてやるので、覚悟しておきなさい」
「うーん、そうしたいけど……あっちから増援がきてるみたいだから、ここで退散するね」
「待っ――」
闇に包まれ、魔王は忽然とその場から消え失せる。
私は、逃がしてしまったと若干の後悔を抱え――魔法を使い過ぎたと、そのまま意識を落としてしまうのでした。




