第九話 決着②
「ん? ああ、そうか。お嬢さんは知らないのか。……自慢の息子、ランデルだ!」
王様はそういうと、少年――王子を抱きかかえて、私に見せつけてくる。
仲がよろしいようでなによりですが、とっとと話を進めてはくれませんかね?
「んんっ。そうだな……まずは、ディバルト公爵を呼びつけたのは他でもない。少し、込み入った話があるからだ」
「込み入った話、でございますか?」
「ああ。……此度の魔族討伐についてだ」
「……っ!」
父はその言葉で思いきり、動揺を表に出してしまいます。それには気付かぬふりをして王様は話を進めていきます。
「知っての通り、王都には魔物、魔族を遠ざける結果が張られている。……にもかかわらず、なぜかディバルト家の屋敷に魔族が出現した」
「そ、そうですな」
「だが――そう、まさに運命だったのだろう。……そこに新たな勇者が誕生したのだからな」
そして、私に一気に注目が集まり……私はそこは余裕たっぷりにカーテシーを取る。「おおっ」と周囲の人々たちからどよめきが聞こえてくる。
父は、頭を下げたまま……あまり人には見せられないような、勝ち誇った顔をしていた。きっと、自分の娘の価値が爆上がりしていることを喜んでいるのだろう。
「うむ。そこでだな――勇者として、魔族を討伐したディーリヤ嬢、個人に褒美を取らせたいと思ってな」
「はい……は?」
「ん? なにか不明なところがあったのか?」
「っ、いえ、なにもございません……っ」
そこで、予定が崩れたのだろう。
父は、当主であり親である自分にも褒美がくるものだと思っていたのか……呆けた顔をして、こちらを睨みつけてくる。
しかし、当の私といえばどこ吹く風やら、といった様子で――とくに気にも留めていなかった。
「そうか。それでディーリヤ嬢。褒美はなにがいい? なんでも申し付けてみよ。我が許可する」
「では――」
「お言葉ですが陛下ッ! 娘はまだ十歳……過分な報酬は今後のためになるとは思えません!!」
「ふむ……それも一理ある、が、それに見合う功績だと我は考えているのだが?」
「う、ぐぅっ……」
そうして押し黙ってしうまう父。
子どものため――という言い訳も使えなくなって、打つ手なしとなり……満を持して、私の出番となった。
「さて、改めて報酬はなにがいい?」
「そうですね。……『勇者』として、貴族に対する優越権と、魔族、ひいては魔王討伐のために王族の全面協力でしょうか?」
「ふうむ……それは、つまり王族が後ろ盾になるので、この国での勇者の活動を認めよ……ということか?」
「はい。わたくしは思いました……魔族は非常に強力な種族。勇者の力なくしては勝つことは叶いませんでした。そして、今後もそのように勝てるとは到底思えません」
ここまでは、流れ作業です。
事前に取り決めていたように、つらつらと言葉を並べているだけ。……そして、さりげなく混ぜた貴族に対する優越権は、これからの布石です。
「そこで支援を、か。よかろう。――ここに、正式にディーリヤ・ディバルトを『光の勇者』と認め……この国に住まうあらゆる貴族はこの勇者を独占、私欲のために利用を禁じ、勇者、魔族に関する出来事はあらゆるものより優先とする。……さらに、国王の名において全面協力することをここに誓う」
そして、国王の名で契約は結ばれ――私は続けて宣言します。
「わたくし――ディーリヤ・ディバルトは、勇者としてこの国に降りかかる魔王、魔族の災厄と戦うこと。並びに、この勇者の特権を悪用しないことをここに誓います」
「うむ。よろしく頼むぞディーリヤ嬢――いや、勇者殿」
そうして、私と国王は固く握手を結び――これを貴族の連中は祝福するように喝采を送りますが……内心では、きっと勇者を引き込むことを封じられて焦っていることでしょう。
唯一焦っていないとしたら、私の父くらいでしょう。
……まあ、それもすぐに驚愕と憤慨に代わるでしょうけど。
「ところで陛下――さっそくで申し訳ないのですが、一つ……勇者としてこの場で為さなければいけないことがございます」
「……申してみよ」
そこで、私は告げる――今までの兄さんへの仕打ちの恨みを込めて……そのすべてを吐き出すかのように。
「私の父――ハロンド・ディバルトが、魔族と繋がっている裏切り者です」
国王はわかっているはずなのに、どうしてそんな顔をするのでしょう。
こうすることは、事前に話し合っていた。私が実の父を裏切り者として始末することは、了承済みなので……だから、何の遠慮もなく私は言葉を並べていく。
「父は、魔族と結託しこの国を乗っ取るつもりでした。それを偶然聞いてしまった私は、父が差し向けてきた魔族によって殺されかけてしまいました」
「な、なにを言っている!? そのようなことがあるはず――」
「では、なぜあの場に『勇者』の私を探している魔族が現れたのですか?」
「そ、それは偶然に決まっている!」
? なぜだか、予想以上に慌てています。疑問に思った私はしばし考えて、その結論に至りました。
どうやら本当に、魔族と結託していた……とかでしょうか。
どうやら、私がむりやりこじつけしなくてもあの書斎を漁ったり、残留魔力を調べるだけでもよさそうですね。
「かもしれませんね。ですが、一度かけられた疑いというものはそう簡単には解けません」
「だ、だったらどうするというのだ!?」
「ええ。私にはつい先程ですが、魔族に関する出来事にはあらゆるものより優先されるという特権を得ています」
「……!」
「お気づきですか。そういうことです」
――貴方の書斎……調べても構いませんよね?
私がそういうと、父はどこへ行こうとするのか……慌てた様子でこの会場から逃げ出そうとしていますが、勇者として魔法に目覚めた私にとっては水の中のサメとニンゲンです。
言うまでもなく、私がサメです。
「うごぁ!」
「さて、これはいけませんよねえ? 私が魔族に関することで調べものをしたいというだけなのに、それを拒否するということは……国家反逆罪に捉われても不思議ではありませんよ」
「くっ……なぜだ! なぜ、肉親に対してこのような仕打ちができる! ディーリヤ!!」
「………………………………………………」
「…………は?」
なぜ? 仕打ち? 肉親に?
その言葉は全部自分に返ってくる来ることを理解していないのですか? あなたが兄さんにしたことは、つまりそういうことですよ。
私が気付いていないと思いましたか? あなたが食事に少し毒を混ぜるように指示したこと。メイドに命じて、兄さんの部屋のものをすべて取り払って、ベッドもなく寒い夜を過ごしていること。
そして、極めつけには……殺そうとしたこと。
そのすべては、あなたが肉親にしてきたことではありませんか?
「ねえ、どうなんですか!? あなたが兄さんにしてきたこと、そして今私がしていることは、一体何が違うというのですか!?」
「ふ、ふんっ。あんな出来損ない、……もはや我が息子にあらず」
「~~~~ッッッ!!!」
「ぶへぇっ!?」
その額を思い切り踏みつけ、頭蓋を割ると、ぐりぐりとヒールの踵で捻じってやる。
もう、自分の感情を抑えることが難しいです。
こんな生物を一時でも『父』として見ていたことが、少しでも平和な家庭だと勘違いしていた自分を許せそうにない。
――……ああ、やっぱり、両親というものはどこまでも子という存在を縛り上げる。
前世から何も変わらない。
親とは、私たちには必要ないどころか……ただただ邪魔でしかない。何が悲しくて、このような存在を縋って生きなければいけないのですか。
「もう、どうでもいいです。あなたは終わりだ。……さあ、陛下」
「あ、ああ。……おい、こいつを牢に閉じ込めておけ」
……衛兵に連れていかれ、随分と短い間でみずぼらしくなった父が連れていき――祝いの席は幕を下ろし……私はようやく兄に会いに行けると、うきうきで屋敷に帰宅するのでした。
ちなみにここで父を捕えなかったら、この国は大変なことになってた。




