六
編尾の二編は書かない時間が長く取られたあとやっと最近書けたもので(スランプと書きたくない(野球好きなひとが『おめーそれはイップスだよwww』みたいな言葉をあえて軽がるしく口に出して使って言わないように))、それで六部分を編集する気にやっとなったということだけを強調したいです 最近変な、自分の納得のいかない詩ばかり書いてしまって、その二編もクソつまらないと思っているのだけれど、それでもリハビリとしてまた少しずつ書きたいと思っています
『懺悔と不貞』
一
私が死ぬときには
その背後からでも私の香りをおもいだせるように
私は月の下でいつもいのっていました
私は日の下でいつもであっていました
いつも最後には 泣いて懺悔しました
いつも最初には ほほえんで不貞を繰り返しました
たまのように生まれた子五つ 全部そだててくださいね
全部そだててくださいね
あなたはついに私を真正面から見すえることなく
私はついにあなたと話す機会をもうけようともしなかった
問い詰められたときには 私じゃない私のような
誰かがやったことなのだとすがりました
あなたは許してくれましたね?
日の下で あんなにふらちな体を投げだして
月の下で あんなに涙を浮かべては
解離性同一性障害のせいなんだと私はなん度も叫びました
あなたのDVのせいでした 私はもう許してしまいました
あなたも許してくれますね?
私は死にます
私はついにそのおこないのためにとこに伏せるようになり 水差しから満足にくちうるわすこともできなくなりました
私は私のしたことのために死ぬのでしょう
あなたが許してくれればそれでいいのですが
五人の子どもが気がかりです 間男はみんな逃げてしまいました
あなたはきっぱり心を入れ替えて 全部そだててくださいね
全部そだててくださいね
二
かの女の背中をいつも追いかけていた気がする
ともすれば かの女が追わせていたような気さえする
かの女は英雄だった 俳優だった
つねにこころみに惑わされ ひいてはその身をほろぼすことになろうとも
かの女は僕を引き回した 自分でもそれを受け入れていたのだろう馬鹿すぎる
かの女が自らの内にいることになっても 僕は自分からなにかしてやるというようなことはなかった
かの女は僕にあきていたのだろう内心 危なげな妄想にひたっては
おのずから会いにいくようになるまでそうかからなかった
僕はなにも言えなかったなにもできなかった
僕はただかの女の月の光を浴びてひざをおって祈る姿だけをあこがれるようになった
かの女は許して許してねと僕の腰にすがりつくようなことさえあった
僕がそのときなにを言い放ったのかはおもいだせない おおかたひどいことをいったのだろう自分の部屋にとじこもるようになり ああして祈るほかは僕に姿を見せなくなった
僕はそんな状況になってもなにも できなかった
本当に全能感にひたっているのは自分なんだとおもうようになり僕は 自傷するようになった
僕の傷は手首から始まり 腕 ふともも 首筋
こぶしまでたんねんに傷ついていたのには驚いた 自分でやったのではなかったか覚えがないしおもいだせない
自分の傷が増えるたびかの女の傷も増えるようになったのは最後までわからなかった いえないのだろう僕もかの女もついた傷が
別居状態となった一つの家は荒れた 家じゅうにごみが散乱しほこりが床にこびりついた
かの女は不特定多数の男と関係を結んでくると 僕にあとのケアをさせるように約束をむりやり交わされた 断っておけばよかった
ひととおり自分のやったことを告白し懺悔に泣きはらすと最後に言った
全部そだててくださいね
僕がいままでそだててきたかの女へのおもいをぶつけそうになったそれでも好きだと愛していると
全能感にひたっていたのは僕なんだと いまならおもい返せる
かの女は家に病み関係に病みそれでも僕のことで病んで死んではいかなかった いや結局最後は死んだのだがそれでも僕のために死ななければ死んだような気がしない
僕は帰ってくるとかの女が寝ているのを見て そのひたいを殴った
かの女のひたいは円く陥没した 怒りのあまり流した涙とその血が僕のからだじゅうからあふれてとめどないようだった
僕の体液はかの女のひたいでプールをつくり きらきらひかっていたこれが最後の月のクレーターの陽光の反射なのだろう
『蚊の羽音』
僕はいま耳に飛び込んできた蚊を気にしていた
眠気の覚めるとともにその羽音が幻聴であったことに気がついた
べたついた肌は手と顔を洗えばなんとかなるような気がした
一人で聴くのに 幻聴
本当なのは 僕の妄想
あんたの想像を助けることだって大いにあっていいじゃない
毛羽だらけのかけタオルが小便臭い夏だった
僕は家にいてもしょうがないと思うようになった
そうさせたのは自分の家族だった
そのためにはフローシャだらけの図書館にいくことすらこばまなかった
モラハラを少しでも避けられればそれでよかった
僕はすでに 知っていたので虐待にたいしてヒスらなかったしパニックも起こさなかった
自分がおかしくならないくらいに我慢するすべをいつの間にか身につけていた これには我ながら ワア(言い淀むなスッキリ病めよ病人のクセして 自分の状況と自分の体を知っていたらヒステリーなんて起こさないしパニックだって抑えることができる)
知っていたら発作は出ないのだ 知っているから自分が自然と自分のことを 制御してしまう
それを我慢というのだから 僕は解離性同一性障害も発症しなかった
誰かほかのひとがやって来て この説教をかたがわりしてくれないかなあと一度は思った すぐにやめた自分が悪いのをわかってやめたのだった
ただ僕はトーシツだった
それだけはしょうがないと思うようになっているいまでは 軽度ですんではいるが こうやって思考の加速を隠しきれずにはいつまでもおれない
まあこのままいけば逸脱も自殺も怖くてできないんじゃないかな
風のうなっているのがバイクのエンジンに聞こる
もうすぐモラハラがやってくる
自分の痕跡をかくさないと
でもその行為によって僕はここにいれることになっているので 意味はあまりない
『太陽』
太陽はつきなかった
『シルビア』
エロ動画サイトで映画をみていた
画面の中の七十年代の肉は外に行ってみるよりずっと白かった
そこに閉じ込められている限りは白いままなのだろう
シルビア、ぼくがみているあいだずっと白いまま
聖人、女、悪魔
ぼくがみているあいだずっと白いまま
(この映画はぼくにけんかを売っているのだろうか?)
アメリカはポルノ映画の作り方を知らない
多分そうなんだと思うよ
図書館で借りてみるよりずっと白いから
試してみよう 試してみるのさ
外に出ても白いままか試しにいこう
ああこのままずっとひましないなあ
『推しの配信』
この間の推しの配信で言及されていた話がバズっていたので調べてみると
エクス・コミュニケーションについて話していた
ぼくは見逃してしまったので、ひとづてに内容を聞いた
若い世代の憂鬱と不安が文化を潰す 世間とかれらの破局について話していたという
ぼくの推しはその話のいう若者なのだろう かれはその身にまかせてあらゆる文化をクイックサンドしていた(あるいはスキップサンド)
憂鬱と不安が 文化を噛み砕く 新しい価値は付与される(それが会話だと知ってやるのである)
消化のただ中にあり、かれはかれ自身のはやすぎる新陳代謝によっていまにもはちきれそうだった
かれはいうのである わたしはいまをしか生きられない わたしに秘密があればなんだっていうの? 隠したいことは誰にだってあるし、誰にでも秘密を隠す権利は与えられているじゃない わたしがその方法によって文化を潰そうとしていたって、あれこれ過剰反応と過剰説明によってわめきたてられるいわれはないわ それこそコミュニティーを潰す悪そのものよ
若い世代のかれらではなくかれそのものだった。かれはすでにこの世に転がっている言葉に新しい価値を加え続けることでしか会話を続けようとはせず、いまにあろうともしなかった
同居人はシャワーに入っていた。この話をきかせようとすりガラス戸をひいたところ、牛乳石鹸にとけた肌と熱い湯のにおいがぼくの鼻をひりつかせた。ぼくにいわせれば、これがいまにあるということなのである。かれはそれをいったらおしまいだよといい、背中にかおる石鹸をゆらしながら、空調のきいた図書館にフローシャをみにいくことによってトーシツに近づこうとしてくるよといってそのまま裸で出た。
そんなに自分の安心を確かめたいなら墓地にでもいけばいいのにとぼくはおもったけどいわなかった。だってそれをいったらおしまいだからね。
コンビニにいたわさがあったら買ってきてとかわりにいうつもりだった
かれの姿はもう見えなくなっていた 玄関の前に立ち上がる坂が視界を埋めていた この坂こそが理由だった かれはこの坂のために仕事を休んでいた もう復帰するつもりのない休暇だった だからかれはああして坂を駆け上がることだってやすやすとこなせるのであった これもかれがいまにある理由だった
ぼくはレコーディングに戻りたかったけれど、夏の湿気のためにすっかりただれた耳の外側の溝に軟膏を塗っていたのでヘッドホンをつけることができなかった。ぼくにはレコーディングを続けることでいまにあることはできなかったけれど、レコーディングを続けないという選択を取ることでいまにあることはできた。
かれが帰ってきた 図書館は閉まっていたらしい コンビニに酒とつまみを買いに行ってきたんだといわれると、ぼくはなんだか、かれとぼくの秘密の方法によってつながっているような気がした セブンのたこぶつがおいしいんだおまえも食べるといい 新宿でおこなわれるうち最底辺の酒盛りがそこにはあった ぼくは噛み切れないたこぶつをずっとシイシイ噛んでいた 現在的な言葉遊びは酔いが深くなっていくにつれだんだんと終わっていった
かれの今度のネット頒布会に出す同人誌の原稿があがったんだよという言葉の投げかけと、スマホに到着した推しの配信の通知はほぼ同時だった。僕が思うに、敬語とは投げかけた言葉を終了させるためにあるものなのだろう。
ぼくの階段を駆け上がる騒音とかれの外出は、推しがさきほど言及した秘密の方法によって奇妙に似ていた。ぼくは自室の椅子に腰掛けると、緊張を隠さないままもみあげの髪をしきりにかき回していた。
そうして、そのようにして配信はとどこおりなく始まり、ぼくの推しはかぎりなくスムーズに引退を発表した。注意深く選択された敬語によってその配信は、いたってとどこおりなく終了した。最近相次ぐ引退は、配信者のあいだで流行っているくだらない内輪ノリであった。見る側からしてみれば、これほどままならないことはない。考えても考えても詮ないことであり、はなからぼくの関われる問題などではなかった。かれらは画面の中の存在であることをやめた。そのようにして今度は字面だけの存在であろうとした。
最後の配信は十八日だ。ぼくはその配信まで、配信を待ちながらいまにあろう。
配信を待つぼくの心持は、プールサイドを暴走するクラウンの突進に気づいたばかりの真正面から向かってぼくの隣を歩いているつれにプールへ蹴飛ばされたときのかれとの離別と、ぼくの肺に満たされる塩素のよく溶けた水の浸透だった。あるいはいないいないばあにともなう定められた情報の開示とその観音開きだった。
『マックの詩』
アルゼンチンの夕方は黄色なんだよと笑ってストローをくわえた昼を覚えている
バンドをやろうよといったその口端にのぼる泡も
きみがいった 四十五リットルの黒いゴミ袋と赤いボストンバッグと柔らかいギターケースに荷物をまとめて僕は行くよと答えた、錆びたはんだごてと配線と替え弦とパーツそれからギター、あとは忘れた
服は向こうで買えばいいよ
あのチューニングでバンドを休むことになるなんて思ってなかった
FBDFDEの、三弦めが気に食わなかったんだ
もっとうまい例え方があると思って、もっとうまい例え方を探そうとしたけれど
僕はあまりにも憂鬱の信徒に堕しており、きみはドラムを叩かなくなった
発見やひらめきが僕らを助けるといったって、妄想が想像の助けになるからといって、
僕ときみはそれをあえて反復しようとは思わなかった
きみはマックを買ってきて、味について書いてみてといった
歌詞を書く特訓だ修行だといって僕は原稿用紙にたくさん書かされた
きみの書いたもののほうがなん倍もましだったみたいだ
もっとうまい例え方があると思って、もっとうまい例え方を探そうとしたけれど、いくら頭の中をかき回してもきみに比べられるものではなかった
いくらかきみは得意になって、いつのまにか仲なおりしていた
きゅるちゃん、今日スタジオで合わせられる?
なにその呼びかた
だってさっきおなかがきゅるきゅる鳴ってたんだもの
行けるよ
じゃあいこっか
女の腐ったようなやつは、いつもからだから水の腐ったようなにおいをはなっている。そのときスタジオの受付にいた店員がそれだった
『自己紹介』
同じ呪いなら どんな名前でも似たようなものです
僕は○○に○○○とかいて○○○と読みます
でも本当は○○○○○です
同じ呪いなら どんな名前でも似たようなものです
僕は○○○○を名乗った初めての小説家です
でも本当の名前は教えません
同じ呪いなら どんな名前でも似たようなものですから
僕は本当の名前を名乗らなければならない段になっても名乗らないでしょう
同じ呪いなら 重ねて呪われ続けることで自分を守ることだってできるものですから
イニシャルに呪われ 音に呪われ 名に呪われている僕ですから
でも生活に生きる段になったら僕は生きていけないでしょう
自分の考えているものであったり 自分の書くものであったりするものが
なに一つ現実ではないのに どうして僕は生きられましょう
僕の信じているものすべては現実ではなく 意味を持ちません
僕はどんな世代に生きているのでしょうか 教えてくださいできるものなら
なに一つ自分から身を削って取り組んだ流行などないのに
なに一つ時間にあわせて感じていた問題などないのに
どうして現実に生きていると言えますか
それを責めてくるひとも本当はいないのに
どうして僕は過剰説明と過剰反応で自滅していくのでしょうか
同じ呪いなら 僕は重ねて呪われ続けるることによって自分を守りたい
自分の名前を隠すことによって自分を守りたい
でも本当はあまり自分をさらけ出したくありません
さらけ出す場もないのにそう言えるのは いつも最悪の状況を考えているからです
本当は○○○○でも小説家でもなんでもないのに
そう言えるのは自分か呪われていると信じているからです
信じているものも全部現実ではないのに
そう言えるのは考えているからです
考えているものは実を持たないのに
そう言えるのは思考を頼りにしているからです
そうして生きてはいないのに
まだ考えているのは
逃避だからです
書くことを
僕は逃避に
したくない
それでも僕が
書いているのは
反応です
そう言えるのは
なぜだろう
ふるえる女
おびえる女
どうしてだろう
『ぼくの年』
ぼくの年のうち半分は寝てすごしてそれでも憂鬱になることなんか少なくて もう半分は起きてすごす
やりすごす 寝てすごす
でもぼくの睡眠のうち半分はまばたきで終わってそれでも疲れることなんか知らなくて もう半分は夢をみる
やりすごす やりすごそうともしてみるけれど やはりたどりつけない
そんな夢ばかりみる
ああ困難な年が終わる
ああ打ちのめされてしまってはしょうがないと思う
けれども年が終わっていくよお
あああ、ああして、あああ、ああ。
年が終わっていくうー。
粘りをもった歩きかたでぼくをむかえた子を部屋に呼びだして 殴りつけると
とりもちのようにぐずぐずにつぶれてしまって それでもぼくの手を離そうとはしない
うああだよ、なんでこんなことしてるんだろう
こんなことしてるあいだにも 年が終わっていくんだからさ
なんで急いでいるかは教えないけれど 離してくれよお
あああ、ああああ、あああ、ああ。
歌えないカナリアのように手習いもすることができずに
終わっていくんだろうなあ終わっていくんだよう
駐車場は 風が強くて 鼻濁音も聞こえなくなる
ここでは なにをしてもみつからないよ
そのかわりなにもできないんだけどね
でもいいじゃん、年が終わっていくんだからさ
でもさ、さっき教えないとは言ったけれど、その実ぼくも納得できる答えなんかもってないのさ なくていいけど
年が終わっていくんだから
そしてカナリアと言ったのも
うぐいすならまだ練習のしようがあるだろうけれど、カナリアは歌えなくなったらそのプライドのためにおちおち練習もできやしないだろうからさ
けけけ、ああああ、ぴぴぴけけ。
そういうやりかたがおおかた必要になるだろうとにらんでいたからこそ ああしてとどこおりなくことを進められたんじゃあないか でなければ憤死しているさあ。
年が終わっていく。
『わし鼻って骨になってもわし鼻なのかな』
随分気にしていたんだね
ダウンタイムによりいっそう沈んでいたようだけど
きみのわし鼻はすっかりまっすぐになってしまった
骨になってもわし鼻なのかな
肉がとけ落ちて外枠だけになっても
まだそのかぎに帽子をひっかけられるのかな
軟骨のところはなくなっちゃうけどさ
ぼくはきみのそれ、結構好きだったんだよ
自分が気に入らないのならしかたがないね
ぼくに好きだって言われるためにわし鼻に生まれたんじゃあないものね
月のクレーターが太陽の光をそれはそれは効率よく反射して、吸収して
それがついに終わってしまっても
きみのダウンタイムはあくまできみの反省期間に過ぎなかった
それが終わってしまってもね
昔のひとはよく考えたものだね
夜空を渡す船の腹をみて、花にその名をつけたんだもの
きみの作ってくれたしおりはまだもってるよ
ずいぶんくすんでしまったけれど
不機嫌そうにそりかえった花弁をみるとき
いつもきみのわし鼻を思い出していたんだよね
ねえ、これからなにを契機に、あとどのくらいきみとの思い出のフラッシュバックによって苦しめられなければならないの? ぼくはわからないよ
きみとの思い出は、ぼくの教育実習で通った高校、きみとの出会いとその花やいでいた暮らしで止まっているからさ
そう、花を集めるのが好きなんですって言ってくれたよね
連絡先は交換できなかったけど、いまはいつもこうして監視しているから安心だね
きみの課題研究についていって、一緒に笑って山を駆けたあの日を覚えているよ
フナバラソウもそのときに見つけたよね
実を言うと、きみの笑顔はあの瞬間、ぼくの頭のなかで石化していて、ぼくの部屋に形として残っているんだ
毎日ぱらぱらと剥がれ落ちるかけらを口に含むとき、きみを思い出してざわざわする胸をおさえきれない 石像がなくなってしまってもまた作ればいいんだけどね
きみの、いっしょうけんめい机に向かっている、よく剃りあげられていたうなじをしゃりしゃりなでるとき
きみは飛び上がって驚いてみせた、あの振り返ったときの顔面の緊張も忘れられない
思い返してみれば、きみの好きな瞬間は全部クリップしておいて、あとで全てバストアップスタチューにしておいていたからそんな心配もないんだけどさ
ダウンタイムが終わったらやっとひと前に出られるね
一番最初に見せるのはだれなのかな
まあ最初にみちゃったのはぼくなんだけどね
完成形どころか、きみの人生で一番醜い途中経過までまじまじと見つめつづけていたんだけど
気づいていた?
ぼくにだけみせるのならそんなに気に病まなくてもいいことなんだけどね
きみの腫れあがった鼻筋を見たとしても正しく評価できるのはこの世で僕ひとりしかいないからさ
そうだよね、きみはぼくに好きだって言われるために生まれたんじゃあないものね
わかってるよ、きみのかけらを口に含む
一番きみのことをわかってるのはぼくなんだってことを忘れないでほしい
ぼくがきみのこころを、どんな方向であれ一番かき乱したのもぼくなんだってこともね
ぼくはそのためにいま苦しんでいるんだけどね
きみのせいだからね
わし鼻ってまっすぐになってもぼくの方を向いてくれるのかな
そうであってほしいな
今はもう僕を見ないけど
『色んな結婚』
色んな結婚がしたい
色んな結婚。
でもギターを弾くようになったら
あなたの指の腹は固くなってしまいます
あなたの指を見ていると
あなたの指のほかは、指だけを残して全部透明になっていくようです
そういう、あのひとが気持ち悪い
そう、逃がしがいるあのひと
言葉に逃がしが必要なひと
どんな、あのひとだろう
これではむりもない
あのひとは、ひとと話すことによって
自分の、生き方みたいなものを比較して考えるようになり
その蓄積の類推でしか自分が生きていると認識できないあのひと
弊害はあまりにも大きいように見える
利も大きい、でもそれはものを作る側に立たない人間のための利であって
僕の利ではない。
目を閉じる
尻をぷりぷり振りながらしそチーズせんべいを焼くゆういちが見える(これらは梅チューハイで下すものである)
ゆういちは僕が見るときに出すにおいをかぎとりつまみを作るのをやめて
ぴょこぴょこ跳ねて逃げていく
それが逃がしだ 言葉の 逃がし
そしていつも作る側とそうでない側の見ることと言うことはまったく違う
、そうでない側すら作る側であると言うのであれば、そうでない側は、そうでない側で伝えられているようなそうでない側の思うところを排さなければならないのではないか?
そうでない側がそうでない側としての作る側の思うところを得るのはそうしてからでも遅くはないではないか
立場がふたつに分かれるとき、どちらか一方の正義を固く守ることよりも、そのふたつのあいだに立ちどちらも考えようとするほうがずっと難しいように、
それら相反する考えををふたつとも自分の考えにいれることが難しいように
昔のアイドルの役に入ったようなねもねもした話し方が失われてしまったように
僕は
鍵を開けるときのノイズが偶然ビートを生むように
頭痛がイメージを固定させループさせるように
自前のギターのミドル位置にピックアップがひとつ据えられ、ワン・ボリューム、ツートーン(トレブル、ベース)ノブが全部で三つ嵌められてあるように
あまりに僕は
寝すぎたので、僕の体のあお向けになった上半分は千歳飴よりも白くてらてらひかりべたついて浮き、下半分はみそりんご飴の溶けかかった赤よりも赤く沈んでいた
みんなが逃げ出して、ソーシャルネットで居場所を獲得できない私達のためだけに現在にあろうとする無言歌のぱちぱち飴は献花される花よりも、こうこうとともされた照明を反射していた
なんで僕の葬式の話になってるの? ドウモスンズレイスマスタ
『ASMRの配信』
びっくりした
びっくりして冷や汗かいちゃったよ
ついでにめざめちゃったし
ASMRのマイクをダンボールの上に置いていたので
膝に落としてしまうときなどはけたたましい音に耳をつんざかれるおもいをしてめざめるのである
急いでチャンネル名のエル・クルーエルの字と概要欄の文章を目で追って
僕は少し落ち着いた
もうそれを買ったのだろうか
スタンド マイクだけ買ってもしょうがないだろうに
謝ってからやがて
ASMRのマイクを抱いて眠りに落ちるエルエル
エルエルの寝息を聞いていると
エルエルの部屋のかたちが想像できるようである
六畳間にチェアやデスクやメタルラック、の中に
床が抜けんばかりにものが
敷き詰められた空間を
つぶさに把握できたようなきがした
あるいは
エルエルの3D配信のときのように だろうか
僕はエルエルの部屋をわかるようになる
ああいま
チェアをひっくり返しておおきくすっころんだ
ありがとうございます
そういうの
ありがたいとおもいますから
ASMR配信で
エルエルの
マイクに向かってすっくりのびる腕からその二の腕をぺろぺろしたい
細く長い指に包まれたしなやかな指骨をはみはみしたい
だらしなく伸ばされた足からふとももの根本をもちもちしたい
骨格ストレートの
やわらかな肩幅に、肉の厚みの中に鎖骨の埋まったしみだらけのデコルテに歯型をつけたい
耐久性のないこんな書き方が、とたんにいじらしく見えてくるくらいには
Vtuberの存在が僕の考え方のひとつとして、決して小さくないものだと言えるし
新衣装の
そのガワだけに
僕は
エルエルの
ひた隠しにする
その奥のほうが見えるような気さえするものだから