三
『悩み』
僕は悩む必要などないというのに
悩む意味などないというのに
まだ生活に悩んでいた。
悩むほど生活に困っているわけではなかった
その悩みは悩み尽くされていたので
僕は悩む必要がなかったのだ。
また、生活に関する悩みは他の人によって悩まれていたものと同時に同じ悩みを宿していたのであって
僕は悩む必要などなかった
悩む資格はないものだと
悩む資格は取り上げられて
悩む資格は公然に忘れられていった
それでも皆悩んでいるから悩まなくてもいいのであった
悩まれている悩みによってまた悩みが遮られているとき
個人の悩みは悩みとしてあるのか
僕はそれを悩もうとしたけれど、生活のための悩みがそれを邪魔した
生活のための悩みはぐるぐる悩んでいるから
悩む必要はなかった
それでも不安が悩みをぐるぐるさせるのであって
悩みをやめても不安が増すだけで
悩みをやめることすら不安になって悩みたくなる
不安が悩みを増大させる
悩みは生活の糊口を悩んでいた
自分のどうしようもないさがを、悩んでいた
自分が、いかになにもできないものであるかを悩んでいた
しかし、悩みが解消したときの自分が想像できないのでずっと悩んでいた
健康な自分が想像できないとき自分が健康でないことについて悩むことは自分の悩みをぐるぐるさせるだけであって、行動が悩みのゴールを道開けていると同時に立ちふさがっていた
よって悩みは無意味とともに意味である
悩まなければ不安が消えない
不安が消えないから悩む
不安は単純な問題であるによって
不安は単純な悩みであるからして
不安はずっと消えない
行動が僕を、虐待する
ただ行動すればいいだけなのに行動は僕を殴る
行動が僕を虐待する
僕が糊口について悩むとき悩みは馬鹿である
行動が僕をおいつめる
僕が糊口するために行動するだけでいいのに、不安はベッドになって行動はこぶしになった
悩みは生活を悩んでいた
生活の悩みは無意味である
生活が悩むとき、悩みは無意味である
僕は無意味である。
行動は僕を虐待する
行動は僕をおいつめる
行動が、行動は意味である
行動は僕を悩ませる
僕は行動に悩んでいる
悩みは僕を無意味にさせる
行動が僕を殴る
行動は意味である
行動は僕を被害者ではありえなくする
それはあたりまえの事である
しごくまっとうな意見である
悩みは、ゴールが目の前にあるのに僕は、悩んでいる、そして行動にうつせなくて悩んでいる
悩みと生活と不安と行動はゴールをうらやんでいる
僕はみんなのせいにした
僕の罰であることをわかっていながら
僕はみんなのせいにした。
イーティン、フレンズ、イーティン、イーティン、マイ、フレンズ
サムシン、イアリー、ケイム、マイ、ホーム
ザッツ、マイ、フォーt、ゼアズ、ノー、ファン
イーティン、フレンズ、イーティン、イーティン、マイ、フレンズ
アイ、レット、ヒム、イン、マイ、ルーム
ザッツ、マイ、フォーt、アイム、アンクール
アンキシエティー、ラステッド、フォー、デイズ
ザッツ、マイ、フォーt、バット、エブリワン、メイ、ノウ、アマ、ティピカル
アイ、レット、ユー、イン、パトパイアレへ。
(ワーシップ、ベンディング、ロウイング、イナ、ドリーム)
『騒ぎ』
(レイ、光線……。)
あなたの宗教捻じ曲げて、それからずっと夢を漕ぐ。
あなたの宗教、捻じ曲げたいかな。
宗教したい、かな。
それから
夢を漕ぐ
飽きるまでずっとそうしていようかな。
めめしい勘違い
めめしいめめしい勘違い
そんなひとがいっぱい増えて増えつづけてる
飽きるまで続けるんですけどね
あなたの宗教は捻じ曲げて、押し返したいかな。
そうしたら、桃色としてそだってくれるよね
宗教したい。僕のかな。
ゆゆしい乱痴気ばか騒ぎ
ゆゆしいゆゆしいばか騒ぎ
いっぱいいっぱい増えつづけてる。
悲しい恩赦、肉としてあり、
たしかに僕に立ちはだかる。
見えない無音の肉として、
悲しい恩赦の肉としてある。
いちにち僕の肉として
いちにち僕の肉になるなら、
僕は自分の肉なのに
自分の肉じゃないみたいだ。
なのにどうしてこの肉は、
舌のもつれと足ひくびっこに、
うまく話せず、かれの歩みもおぼつかない。
たったそれだけ、それだけで、
なんにもしらず、青い顔。
こんなにうまくいかないことが、
まるで自分の肉みたいだ。
『レッキー』
あのさ、もし、変わらないでいてくれてたとしたら
僕のために、うん。
僕は嬉しいし喜んでるの
マーキー、トーキー、モッキー、レッキー。
ぼくうれしいしよろこんでるの
マーキー、トーキー。
よろこんでるの
あのさ、僕のための不変が終わらないとしたら
あなたのために?
僕は嬉しいし嫉妬するの
モッキー、レッキー。
ぼくにくんでるの
あなた。健康とはいえない。
僕は明朝、きみのために健康ではいられないだろう。
健康は癒えないだから
きみのために月を待とう
小康化、小康A。
あることないこと月を待とう。
今夜のための月待って
二度目はないから魔法のように
あなたを止めたりしやしないから
知見のために智のため徳のため
あなたの類推意味なさないから
『軒下』
軒の下
あなたの
宗教、メディテーションに
なりたいな
陽の真下に昼ありて、宗教、治療になりたいな
(頭上に窓、窓、見上げれば軒)
暮らしている昼があって、暮らしている。
頭上に窓窓見上げれば軒下暮らして、
メディテーション。
リリジョン、治療に、なりたいな。
軒下暮らしてメディテーション?
見上げて暮らしてメディテーション
はるかな天然自在のゲーム
泣いて宗教リズムマシーン
たる。昼。
僕らは暮らしている。
『手のひらの大きな』
手のひらを握って起きた
水の球が湧いていた
開いてみれば乾いていた
擦り合わせても出てこなかった
(僕が鍵だ)
もう一度握った
湧いた
開いて
乾いた
私は、
(僕が鍵だ)
握りこぶしを重ねて高く掲げた
雑巾を絞り出すように湧き水を飲んだ。
手のひらの大きな
かびくさい男が叫んだ
『配列』
無声になってしまうかれらをどうくちしるせよう
『思いで』
ついにとうとうこんどこそはと
あなたのものに、なったのね。
あなたのものになったんだけどね
ごめんね。ごめんね。
ついに言えなくなってしまった。
無くした夢は、消えない思いで
残ったままで、子供のままで
無くした夢は、光に消えない堅い思いで
ふと顔あげて、思いだしては消えたくなるの
ごめんね。ごめんね。
ついに言えなくなってしまった。
あなたのものになったんだから
こんどこそはと楽しみに楽しまなきゃね!
いつだってなんだから。
こんどの遠征はひどいものだった
楽しまなきゃね。
一緒にしないでね
卑劣なかれら/彼女らと一緒にしないで
『牛いるか』(改編)
十畳張りに部屋一人いて
こんなに広い、ひよることがある。
僕の語ろうとしていること
キャンバスに針で打つようだ(どうしてもやるせなくうつむきたくなる)
飛散して、飛散して
十畳目張りに部屋一人いて
おさまらないことをおさめようとしている
おさめようとしている(考えきれない海ほたる)。
牛いるかは打ちのめしにやってくる(海から……)。
おさまらないことが僕の思索にやってくる
『考えてくれよすこしすこしは考えて』
思えない。広がるおさめきれはしない
十畳目張りに部屋一人いて
こんなに考えきれないことがあろうかと
あるんだな。
舞台せしめて打ちのめすんだな。
おさめきれないのに
かんがえようとしている
飛散する
冗長になる
ふわついて
道路に飛びだす。
牛いるか。
ぼくかんがえきれないでどうしようかな
『エポキシ』
鈍く、窓がぼやけて
エポキシ樹脂の空が流れ込む
もう起きていたのが
僕は起きていたのか
ハッと見ると起きていたことを忘れた。
嘘みたいになって、
起きていた
ぼやけたのは僕の視界だったのが
嘘みたいだ
空落ち込んできて、
フィニッシャー
(リガーは別室行きです)
固まった、僕の部屋、空落ち込んで、
ダブリング、
起きていたのか
嘘みたいになってしまって
セルフィッシュ
肉と歯車の間の柱で(固まって)
(歯?)
(肉だ)
肉と歯車の柱の間で
シュー、ドロドロドロ。
僕はもう起きていたことを忘れて起きていた。
空落ち込んで、エポキシ樹脂が固まって
肉の柱で歯車で、固まって、
どうしてそんなにセルフィッシュ
ダブリング重ねてそんなにも?
(だから、リガーは別室行きですってば)
セルフィッシュ。
『宇宙人』
ぼくはきみがはなしていたのをきいていたんだけど、
いわく、ぼくは負の綺麗事というものをよく言うらしい
たとえば、最近の人間は感傷に欠けるだとかなんだか機械みたいだとかかれらのおぞましい馴れ合いが嫌いだとかどうせ真の美しさなんて手に入らないんだとか(真の美しさはない。言っておくけど)生きがいなんてないんだとかかれらはコンクリートの見過ぎで自然に触れることができていないとかこのままだとマニュアル人間に育ってしまうとか
この世の真理をかたっているようで、その実、正常な尋常な定型なかれらを悪者にしているような考えを、負の綺麗事と言うらしい
ようするに、綺麗事を否定しているようで、悪者になったかれらとぼくらとをさかさまにして責任転嫁してしまって、負の綺麗事に落ち着いて安心してその時点で思考をやめてしまい(それこそ宗教だろ? 固定観念だろ?)、じぶんたちが嫌っていたものになっていることに気づかないでいる考えのこと
でも、そんなのはみんなおりこみずみで、それなりに暮らしているらしい
ぼくは最初しんじれなかった(きみたちが僕の『凝り固まった』考えにこきおろされたと思って怒ったとしても許してほしい。でも社会に溶け込みたいのに、最低限のかたちばかりの社会の考えをを否定して本質(あまり本質という言葉を使いたくはないけれど)を見失っているのはどっちなんだい?)
いわく、ぼくはたいへんなおもいちがいをしていて、そのうえおおばかでおろかな思考を持っているらしい
負の綺麗事とは考えるだけ無駄なことで、いまさら突っ込んでちゃちゃをいれるようなことがらではないらしい
『ものを考えるとき、ここをよくつかうことだよ。ぼくたちは徳についてフラットじゃなきゃね』
ああ
徳ってなんだよ
そうぼくは思った
いわく、徳というものは不快なことを不快だと認識できる能力のことをいうらしい
徳は優しさと似ている。そのときそう思った。
そしてきみは知的、身体、精神障害者について話してくれた
いわく、障害者のもつ傲慢さは人間の核であり、かれらの障害がそのリミッターを外しているだけらしい
だからぼくが障害者に会うたびに『障がい』と表記しなくてはいけないしそれをすすめない社会は糞だと言うのも、もうそんなことをしなくてもいいんだよ。みんなわかってるからとも話してくれた(かれらは頭がいいんだ。みんなおりこみずみなんだよ)
そして飲酒は障害だとも(これはあまり関係がない。たしかに、障害者にとっての『障害』とはあくまで障害物として立ちはだかるのに、かれらのリミッターを解除させる装置としてその実際をはたしているということは興味深い事実ではあるけど)
ああ、徳ってなんだよ
障害者と会うたびによくわからなくなる
どうせ面白いことなんておきないし、始めようと思ってもそれが終わってつまらなくなるときを思うと始めたくなくなる
そしてこう話してくれた
ぼくみたいな発達障害(あるいはそれに準ずる精神)を有している人間と、定型発達者を分ける違いについて
いわく、定型は年齢を重ねていくにつれ、それに応じた成長をとげ、かれらはその年齢でできるであろうことをなんなくこなすことができるし、精神もそれなりに大人になっていくらしい
いわく、非定型は、定型の成長ベルトを何倍にも引き伸ばして、みんなができることを一生かけて気づいていこうとしている人らしい
いわく、本来発達障害者は定型の平均寿命を大きく上回る平均寿命を有しており、かれらは地球の外からやってきた、あるいはいまある地球文明とは違う文明にあった宇宙人らしい。
ぼくらは宇宙人になった
そりゃあ、みんなと比べて精神の成長がおそいのはあたりまえなんだよなあ
最後にきみはこんなことを話してくれた
宇宙人のみんなに考えてもらいたいことがあるんだ。
先のことを、ずーっとずーっと先ざきのことを考えながら、つぎ自分がしなければいけないことを数珠つなぎに確定していく。
目先と次へその次へのことに集中していれば、ちょっとは自分の『寿命の長さ』を解決できるんじゃないかな(ものごとが終わりなく続いていくのなら先のことを考えるのはあんまり意味がない。実行に移すことが難しいとわかっていてもね)。
それと、社会にある綺麗事を知っているのなら、じぶんたちの負の綺麗事と戦わせてみることだよ
そうすることで、きみたちのすごしにくさ、いきにくさは緩和へとちかづいていく(ばからしいとおもった? でも、どんなにばからしいことでも、自分の考えを持つことさ。そして実行することだね。)。
実行するのが難しくても、実行のないことには社会は遠い。
考えることは簡単だから、まずは考えることから始めることだよ。
長くなってしまったけど、本当に最後
僕の考え、これらが全部間違っているとしても、正しいとしても、疑い続けず、信じ続けてはいけない。
思考をやめてはいけない。
行動はもっとやめてはいけない。
『椅子』
根をはりカフェにてあんたが化けた
テラス席
日
根をはりあんたが
陽光差されて燃えるんだから
ぼくはそれをまむかいに座って見る
『きっと、ひとりなんでしょう』
店員さんは手に持つ盆をひじで支えて、て
(ア、ア、ア、ア、アルトッケ。カテゴリー:ン)
『リラックス、リラックス。』
(ぼくらはみんなこどもなんだから
(鼻をならしてふんすふんすしつづける))
(およびそのようにしていばっている)
陽光差されて
されて
されるんだから
リラックス、リラックス。
そして効果!
あ、あ、あ、あ、ひとりです
ひとりですから(根をはりあんたが化けてしまったから椅子に)
手に持つ盆が手のひらが盆だ
人書いて(あるいは人呼んで、読んで、うん)
リラックス、リラックス。
一六桁の番号を入力して、通話ボタンを押して、音声にしたがって一を押して、シャープを押して、ゼロを押して、一秒待ってから喋りだす瞬間にもういっかい一を押して、六を押して、もういっかいシャープを押して、メッセージ(押して)、子供
『眠る』
なんだか栄養足りなくて
目が覚めるんだ
みんなが寝ている時間にさ
なんだか頭がさえてんだ
みんなが寝ている時間にさ
目が覚めるんだ
外はもう
みんなが起き出す時間でさ
なんだか眠気がやってくるんだ
みんなが起き出す時間にさ
なんだかからだが重いんだ
目を閉じるんだ
みんなが昼寝に眠っているのに
自分だけが調整できないままでまわりは進んでいく
みんなが寝坊に起き出してるのに
自分だけだよ
直さないのは
もう逃げ出そう
まわりの世界がほかの世界が
みんなが遠くに小さくなって
消えてしまうまで眠っていよう
ゴールにつくころ起き出してみよう
きっと向かうから、直さないままでいいんじゃない
小さい頭を自分でしめつけて
大きな間違い見つけられなくて
みんなが人並みにできることとかをさできないでいるんだしないでいるんだ逃げているんだ怠けているんだボーッとしているんだ
みんなはみんなの世界に暮らしているのにさ
僕は、僕の世界で目を覚ますんだ
『鮫の嵐だどこまでも(There is the Sharks) Everywhere』
鮫鮫鮫、いっぱいの鮫! 鮫の嵐だ、どこへでも
バケツいっぱいのイワシもたぶんそれなりの値がつくようになるだろう(だから打ちやらないで)
便所サンダルとテレフォン・セックスでもしてればいいさ
エンジェル・スタイルの男の子たちも踊ってる、あいつらも嵐を食らってしまえばいいのに
チューブ・ジャンキーはバスに声枯らして叫んで拳を振りあげて殴っているし、荷台にビニール袋、中には死体
移動式アイスクリーム屋さんの脇をすり抜けるオナクラ娘がふたりして、語るには
『わたし、小さくなったらお嫁さんになりたいな』
『なにが?』
『胸が』
『それってダジャレ?』
『ううん』
『うん……?』
それにつけてもナッツ頭痛だ! 見るも無残なチャバネゴキブリ引き連れて
その頃パリではスク水の寓話だ!
見るも無残な外車の往来だ!
太平洋に大挙している嘘と確率とかいう漢字が読めねえ
そう、子供たちの頭の中に押し寄せてくる大波がだよ
さて、鮫鮫鮫、いっぱいの鮫! 鮫の嵐だどこへでも
いってしまえばいいのさ嵐
バケツいっぱいのイワシに値段がついたら一杯やろうさ、酒場へと
なん人か娘を引っ掛けて行こう
便所サンダルにアイスクリームでも載せてもらってさ
そしたらエンジェルボーイも浮かばれるだろうさ
嵐乞いの男の子たちは鮫の嵐がさっても踊ってる
気づいた? あいつらがみんな裸になって体じゅうにグリスを塗りたくっているのを
あれで波に乗って竜巻になるらしいんだ。鮫と一緒に気象になるんだとよ
そら、チューブ・ジャンキーが天使扮した(天使様した)ショタたちにアグロ変えたところだぜ
脇汗と濡れ犬と精液と腐ったキャベツのにおいがする酒場に行って
ビール飲もうぜ。一杯やろうぜ。
俺は明日の天気を知ってるぜあいつらをみんな連れて行くんだ
『わたしにしてね』
なんだか栄養足りなくて
なんだか頭がさえてんだ
なんだか栄養足りなくて
起きられないんだ鳥を聞きながら
起きてはみたが起きてはみながら
目覚めてないんだ海を聞きながら
海を見たのはいいものの
海を見たのはいいものの
なんだか海を見てると時間を見ているようです
海を見てると時間を見ているようです
夜が逃げて陽が上ってしまいには
しらんでくると頭が悪くなりそうなんです
そのときに、わたしの悪いところに気がついて
そのときに、わたしのいった言葉をおもいだして
わたしにしてね
なんだか栄養足りなくて
カウントアップをしてみても
なんだかききわけが悪くて
カウントダウンに堕してしまうの
暇をみつけて手をさしだして
海を見てるのビープ音には耳傾けないで
警告音には耳貸さないで
わたしにしてね
たくさんの海(思い出して)たくさんの場所。
ひとびとは枝状に起き出している
わたしは海におしよせている
わたしにしてね
脳がなくて……わたしには考えがない。
だから理由を持ってその言葉をおもいだしてみる;理由を持つためには理由を持たなくてはいけなかったとしても
なんだか栄養足りなくて
みんなが寝ていると目がさえてしまう
なんだか栄養足りなくて
友達がいないの
わたしには
わたしにしてね
してみてね
練習してね
目がさえちゃって……
『傷口/女の会話』
万年筆かえしてよ
うわ、もう片方は自分で書いて
袋に袋に
自分の傷口
袋に自分の傷口
最大百人最小二人間の
てか万年筆かえしてよ
もう片方は自分で磨いて
袋に袋に
自分の傷口
袋に自分の傷口だよ
最小二人間の
女の会話
誰だかわからない最低のコミュニケーション
最低二人間の
『傷口女の会話』
撫でる
猫
傷口見るは
噴水広場の挨拶抜きで
アイスクリーム移動式
木の精霊晴れ間にのぞんで
袋に傷口
くちつけてよんで
轢か轢か轢か轢か……
最低の二人間の
階段の中でいつまでもスキップを繰り返したインタビュアー
『逃げ出したのか』
俺は逃げていくのか
俺は逃げていくのか
鏡面にバナナが映るとき
逃げていくのか
逃げていくのか
逃げだしたのだ
逃げていくのか逃げ出したのか
そのどちらなのかたったそれだけなのか
逃げていくのは俺ばかりではない
逃げていくのか逃げ出したのか
『呉の港で』
呉の港で悪魔に会った
あなたは黄色な目をして言った
『三度洗ってわたしに会って』
ぼくは顔を洗った。
呉の港であなたに会った
あなたはみどりの足して駆けた
『すべてのバイクが国道走る』
馬車も一緒に向かうらしい
アスファルトにはちとまだ早い
アスファルトには僕の有利
呉の港はわたしのものなんだぞ
日の照る朝にはハイウェイ駆けた
馬車とバイクが競争していた
呉の港で悪魔にあなた
『すでにわたしに会ったとしても』
『三つの包装解いたあなた』
僕などはすでに会っていた
『海に』
行った。
あなたは茶色の踊りで砂蹴った
僕は体育座りでそれを見ていた
紫色してバイクが僕を引きずった。
馬車は幅寄せ、もう片方から半身を裂いた。
あなたは笑って飛んでいた
あなたは虹色、羽根の軌跡で
『二度目はないから魔法のように』
『あなたを止めたりしやしないから』
『ふたりのひとかたまり』
ふたりのひとかたまりが道路に転がっている
見渡せる限りではずっと続いているらしい
粘着質の岩石様のそれらを見るとき
僕はかれらがいとなんでいる世界から追い出されているような気がした……
ふたりのひとかたまりが
ついに世界を埋めてしまった
新しい地面に新しい世界に
新しい思考
ふたりのひとかたまり
僕はそのかたまりのひとつを引き裂いて潜り込んでみることにした
かたまりの、ひとつになってしまった脳のなかは
砂漠であった
ハイウェイが遠く抜けていた。
街並みが道路脇に湧いて暮らしていた
町人らはやはりふたり組みしてそこらを歩いていた
僕が裂いて潜り込んだそのふたりの顔をしていた
みんなが、である
僕はかれらのいとなむ世界から追い出されているような気がした……
頭の中のふたりは言った
いわく、僕が来た外の世界に残されたふたりは肉体であり、中のふたりは精神であると
肉体が男性性であり、精神が女性性であると
そして、中のふたり組みはそれぞれおすめすのつがいであると
僕はふたりの言い分がよくわからなかったので質問をした
じゃあ、女性性がふたりになっておすめすのつがいをつくっているんですか?
そうです。だからふえない。ふえないかわりにたくさんいる。いなければならないというわけではないが、たくさんいるにこしたことはないからね。
じゃあ、ふたりでいる必要がありますか
あります。これは本能でわかる。ふたりの世界にはふたりが必要だから。
ハイウェイを抜けていくには骨が折れます。燃料も必要でしょうし、泊まっていきなさい。
僕はいつのまにかこの世界から帰らなくてはいけなくなった。
それはすなわちハイウェイを抜けることを意味していた。
ガソリンスタンドの上にモーテルが建てられていた。部屋はガソリンの匂いがした。僕はかたまりが転がっている世界のことをふと思い出して、あの世界でもう一度ガソリンのにおいがかぎたくて、寂しくなった。寂しさに窓を見た。同じ月が出ていた。
ハイウェイの朝日を浴びると肌が焼けただれて解け落ちてしまうような気さえした。
ふたりは僕のバイクに燃料と水と食料をぱんぱんに詰め込んでおいてくれた。
シャワーを浴びて、ハイウェイを抜けようと思った。
バイクは太陽熱を持ったアスファルト地にゴムをへばりつかせながら、鳥のように駆けた。
同じ太陽だ。当たり前ではあった。昨夜月をあんなに狂おしくあこがれたことを恥じた。
そのかわり、あの世界とこの世界をつなぐ太陽を誇った。
誇りが落ちて、恥が上って、恥が落ちて、誇りが上った。その数をかぞえ、かぞえ忘れても燃料と水と食料はつきなかった。太陽はあった。それで太陽をゴールだと思った。ハイウェイを抜けることは、太陽にたどり着くことを意味していた。ふたりは僕にゴールを設定させ、それを乗り越えさせようとしたに違いない。
空をひっくり返して地面にすると、太陽が池になる。さっき水に太陽がうつったのでそう思った。
飛んでたどり着けなかったら太陽の池に飛び込もうと思った。思ったと思えば、それがゴールにたどり着くこと唯一の方法だということに気がついて、それを実行にうつすことを確信した。
町を発ったときと同じような天気だ。僕は太陽の池に飛び込んだ。そしてゴールした。
あの世界だ。戻ってきたんだ。ふたりのひとかたまりが地面になっていた。その上に木が立ち花が並んでいた。太陽は初めて太陽として上った。月は初めて月として落ちた。ここが僕の世界だ。