一
『十万円弁当』
相撲取り、あれは図体の大きな奴らだからよく食べるんだ
弁当売り、路地を行くとせわしなくひとにつかまるんだ
「ねえ、これちょうだいよ」なんとか山が品書きを指差すのは、
十万弁当、豪奢な体によく似合う
でもそれだけじゃ足りないんだ、しゃっちょこ張って列並ぶ、かれらの体にまだ足りないと、
そのうち声あげ押しかける
何をしゃべっているかわからない、弁当売りはよそからきたから
かれらがなにをしゃべっているか検討もつかない
相撲取りが増えすぎて前も見えない、眼前にはただフレッシュ、
フレッシュそのものがただ在る
弁当売りは逃げ出した
そもそもこんな街くんだりまで売りに来る方が間違っていた
街の善たる面は顔を見せなかった。
ただ悪すら持たぬフレッシュあれには閉口した
だってその強制がどこに向けられているか分かったものではないんですもの、もうすっかり困ってしまいます
だいぶ無駄にしてしまった、弁当をだめにしてしまった
あれに抱きしめられると汗が洪水のようで、もうたまらない
十万円弁当、次はいつ作れるんだろうか……
「ねえ、これちょうだいよ、ちょうだいよ、ちょうだいよ」
ああ!
フレッシュが、ああこれちょうだいよ、これちょうだいよ、フレッシュ、フレッシュ、フレッシュ
『オルバトロスが発っては消えて』
アホウドリが島を発っては消えて、発っては消えて、ボクだけが取り残されていく
でもなんだか、かれらはもとのように戻ってきて、僕の頭上を飛び回るに違いないんじゃあないのか。そんな気がする
島がアホウドリを突き放す、突き放しては、漂っていなくなってしまうように感じられる
でもボクには、この島がまたあるべき場所を取り戻して、ボクの帰る場所でいさせてくれるんじゃあなかろうか。そんな気がする
ボクは英雄を夢見て都会を目指した。目指しては遠のいていく目標に諦念を覚えた
でも他の人達は大きく変わることのない日常を暮らして、それがずっと続いていくものと信じているんじゃあないのか。そんな気がする
オルバトロスが発っては消えて、ボクを突き放して、帰る場所をなくして、それがずっと続くものだと信じている
オルバトロスがボクの頭上を回っている
ボクは明らかに息を殺している
【だんな、ねえだんなったら! 行くんですかい? この島をお出になさるので? ああいやいや、答えをあせっちゃあいけません。もちろんここに残ることもできます。そして出ていくことも。皆が英雄を目指してこの島を出ていきます。そこに至るまであらゆる艱難辛苦を乗り越えてでも夢を諦めはしないと決心して出ていくんです。ねえ、あたしゃあいっつも、ここを出ていこうとする人にこう言ってるんです。あんたにだけは行ってほしくないなあ……ってね。え!? 残るんですかい? そりゃあ良かった。なんだかだんなとは気があいまさあ。今度一緒に飲みに出掛けませんかい? 今からでもいいんです。ええ。え? 気が変わった? やっぱり出ていく? そうですかい、だんながそう決めたんなら止めはしません、ええ! もちろん船を出しますとも、ええ。え? かれらってのは一体誰だって? 上を見てください、アホウドリが飛び回っているでしょう? そう、あのアホウドリがですよ。あれが、彼らでございまさあ。さあ、船を出しますよ……捕まってくだせえ、落ちたら二度と上がってこれない……。】
『メヒコには鯖がいない』
グラスゴーには鯖がいない
いるんじゃないかしら
てっきりいないものとばかり
グラスゴーには鯖がいない
本当にいるんだってば
ますます信じられなくなってきた
グラスゴーには鯖がいない
グラスゴーには鯖がいない
グラスゴーには鯖がいない
グラスゴーには鯖がいない
いるんじゃないかしら
てっきりいないものとばかり
グラスゴーには鯖がいない
本当にいるんだってば
ますます信じられなくなってきた
グラスゴーには鯖がいない
グラスゴーには鯖がいない
グラスゴーには鯖がいない
でもカンタベリーには鯖がいる
でもカンタベリーには飛行機も飛んでる
でもカンタベリーには階段がつらなっている
でもカンタベリーには日本式、リカーショップが並んでる
グラスゴーには鯖がいない
グラスゴーには鯖がいない
グラスゴーには鯖がいない
『シャツ』
手、手づから
着替えてでかけなさい……
コーヒーは空いたまま
ドアはそそがれたまま
着替えて、でかけなさい……
手、手づからシャツの封、封切って
水槽の中に水晶玉は、淀んでいるべきだった
『魚は、魚は! ああ! ああ! 柳の間に隠れてそのまま!』
でもみんなは僕のみえる、きこえるところで陰口をたたいて僕のしたことを非難するから
着替えてでかけなさい……
目覚まし時計はブラシされないまま
歯は叫んだまま
着替えてでかけなさい……
手、手づからシャツの封、封切って
着替えてでかけて帰ってこない
そしたら僕はみんなとはなれる。僕のしたことを非難すれども、僕に聞こえはしない
着替えてでかけて帰ってこない
手づからシャツの封切って
『葉を離れて』
指が葉を離れた
風がその隙間を縫った
離れた
それでも気にしないで
もしそうなったとしても
足に尋ねられた魚屋の軒下は朝日に溶けていった
風がその隙間を縫った
谷に風が通った
指が葉を離れた
風がその隙間を縫った
風がその隙間を縫って、谷へと逃げていった
『情動に涙が拍車をかけて』
(部屋のすみ、暮れる背中があと追って)
情動に涙が拍車をかけて
枯れたパンケーキが空に広がって、愛がそれを満たした
愛はあとからついてくる、愛はあとからついてくる
涙は先にだんだん見える、涙は先にだんだん見える
目隠しから見えるのは床だけだけで
つぎつぎに小さくなって、しまいには見えなくなった
塗装が汗に剥がれた。パンケーキのたねみたいな色に染みていった
情動に涙が拍車をかけて
枯れたパンケーキが空に広がった。
あとからついてきた愛は満たした。だから愛も一緒に引き伸ばされて、見えなくなった
『干し魚』
感じてしまうのは、僕がざるを軒下に開いては、公衆に開いていないから
でもそれはなんでもない
涼しくもないのに
だから僕は干したんだ
感じてしまう
なんでもなかったんだ
なんでもなかったんだトレード
噴水の近くで僕らはトレードした
きっとそれはなんでもなかったんだ
そう思いたい
でも僕が軒下にざると干した小魚は無駄になってしまったのだけれど
多分噴水が悪かったんだろう
そうであったらどんなに良かったか
感じてしまう
『猫』(改題)
時々おそろしくなる
ベランダで呼んでいる猫が、鳥を
猫が抱えてきた長い時間を
それが普通だと信じ込んでいるだろうこと
暇なんていう感情はおこらないのだろう
でなけりゃあ発狂しているにちがいない
ぼくは情報に暇している。
けどそれが新鮮味を帯びたものには違いない
猫はなにをしている? 水を飲み? ペットフードをかじり? 足場にのぼり? 毛綿のクズにうなり?
鳥を呼び
それが猫のすべて
キャッ、キャッ、キャッ、キャッ、キャッ、
もしぼくがあんなになってしまったら?
キャッ、キャッ、キャッ、キャッ、
おそろしい
『Just Say Hi』(改題)
感じているのに想っていられるのは幸せな内だけだ
ほこりっぽく淀んだ目で窓から公園をのぞく
感じているのに簡単に想えるのは幸せだからだ
噴水が中央に吹き出ている。三四くらいの児がベンチに腰掛けて、生のままの硬いもろこしをひとつずつちぎっては鳩にやっている。かれの身が焼けるほどまぶしい陽が激しく流れていた。
ぼくの目がほこりっぽく淀んでいるって云ったのは誰だったっけ?
でも、感じなくなってしまったらどうやって想えばいい?
そもそも想わなくてもいい?
just say hi
あいさつだけしてればよかったんだ
でも、想っては苦しい、それをしなければならないことすらついてきたらどうすればいい
『家を出よう』
僕が見るに、街を我が物顔で歩く外向的な人からしてみれば、『なんだ、ただかれの厭世がちょっと強いだけじゃあないか』とか思ってるに違いないってさ
そう思う
そう、まさに君のことなんてさ
ひとりだけオレンジ色のロッカーなのがそんなにいや?
なんだか恐ろしいよ 僕からしてみればさ
オレンジ色の……ラララ……
オレンジ色の……
ロッカーがそんなにいや?
街から出ようよ
まずは家を出よう
恥ずかしささえ覚える、不自然に固まったほほえみ
なんだかいいんじゃない
街から出ようよ
まずは家を出よう
厭世をひた隠しにして、大きな力に与している
なんだかいいんじゃない
街から出ようよ
まずは家を出よう
『ベラの干物(干し魚)』
この空も爆発してしまえばいい。
私を睨みつけて追いやるようなこの空も
アベニューに蹴っていった
草塊からは嗅いだことのない匂いがした
ああ、ああ。
よく干されているだろうなあ、
ああ、ああ。
私が干したベラを思えるだけ幸せだったことに気づけた。
でも、私がざるとベランダに干したベラはだいぶ無駄になってしまったのだけれど
指の腹のべたつきがどうしても消えなくて、空をいっぱい憎んだ
でも、ひとつぶのスパークリング・ブルー! へ抱いた羨望だけは消えなかった
空に広がるのはなにもブルーだけではない︰例えば私みたいな幸運を手にした人だけが見つけられるような光るものもそこには残されている。
『対話のやりかた』
・意志
・近づく、近づけられる
・ひらく、ひらかれる
・見せる、見せられる
・わかる、わかられる
・伝える、伝えられる
・閉じる、閉じられる
表情は
投射になって
反射になって飛んでいく
投射になって
反射になって飛んでいく
(表情は)
投射になって
反射になって飛んでいく
投射になって
反射になって飛んでいく
そのくせ
二度と戻らないアイデア
二度と戻らないアイデア
山ほどの、紅いココアの粉の上、鼠の死骸が残されて
そのうえ、二度と戻らないアイデア
二度と戻らないアイデア
表情は
投射になって反射になって飛んでいく
投射になって反射になって飛んでいく
『大衆を見て』
その時、唐突に自分は叫んだ
病み上がりのからだをまた全身でささえ歩くようにして
ピアノの上に大ノイズの上に立って叫んだようだ
轟音の鳴る頂点、囲む目線のなかだった
ああ!
ああ!
ああ!
ああー!、ああ、ああ!
筋のよく交差して入った人形に、いちばんカラフルでみにくい肉人形に、いままでかかえこんだ執念をぶつけたい!
ここにわたしの力をあまねくひらいて、皆にかかげたい!
見ろ! ああ! 見ろ! ああ!
.
『パパ!』
ぬるいコークの薬っぽい匂いに起きた
見るとなるほど雨の降っているのです
それですらあわせて起きたらしい
パパ! パパ! 石ドームが建っているよ
パパ! パゴダも建ってそこに
持ってきた、部屋の床の続きに在ったレスリーにはうんざりした
在るはずはない
ない、それすらないようだった
ないようだったレスリーに窓から晴れ間が差していた
パパ! パパ! 石ドームがただ在る
パパ! パゴダすら踊って立つ
『歯型』
ふりかえる暇なくみるみる広がっていった石の天蓋だが、
今 風の抵抗をしっかりつかまえた、
ゴンドラを、抑えきれない。
ああ、ああ、その間にも、こわれた、こわれた、こわれていった。
ゴンドラは、破壊されてしまった
風がやんで空がそれを見下ろした
もうすぐに空がまっすぐに槍となって、地がボクの肉になって、
向かってきた、向かってきた、めりこんだ。
ボクの心を木目が静かに、それでいて棘が激しく捉えて離さない、沈んでいる円い切り株だが、
視界に入ってくるのは年輪でなく、端にこそにじむ歯型であった
切り株の端の歯型に指をつけた
おい!
『にかわの雨がやんだ』
にかわの雨がやんだ
ドームは静まり返ってしまった
ここが踏ん張りどころだ
ここが踏ん張りどころ
扁平型の月が落ちてくる
もうすぐに
もうすぐに
想像していたものよりも
もっとひどい雨がやんだ
ドームの人びとの脱出はかなわなかった
月の落下の衝撃は少ない(これは想像よりも)
だが破片は散らばって見えなくなった
裏は見えなかった
そもそもどちらが月の裏かわからなくなってしまったのだから
ドームは今日の日も閉じているという
『七十年前』(改編)
男を欺かないで
蜂蜜の中に居たから
大道芸人の胃の表面に
本能を削りだす人だから
衒学の家と招いて
シカゴ美術館のポートレートを画いた栞
穴を空けドアノブに結った
シェリーが潺潺と湧く
鍵穴から漏れた
呑んだのはLucy
薄い筋肉を持つ彼女には渺茫たる考えが
ジャズ足取って船に乗る
花束片手に勢い余って飛び込んだ
抵抗は強かった
飲み込まれた様だ
エキストラクトされ単一に戻る
細かで何枚もの剃刀で
それが七十年前
青いリボンはどうせ永らえぬが
僕たちはもう一度あの頃を思い出して帰れたのだろうか
『左の親指』
おやゆびだけが 赤くなった
左手の親指の爪だけが 赤くなった
血だろう窓ガラスな 向こうに見た
からすがレコードをかける 赤くなった
手を横顔にかざした 赤くなった
どこまで伸びるのだろう 見えなくなった
月を着ようからすの 赤くなった
窓ガラスをつき破って 赤くなった
ヒットを打った打球が 跳んでいった
湖月を揺らした 赤くなった
ボートがきしんだ 赤くなった
それを枕にした ねむい
すじばった腕を晒した 赤くなった
いかりの入れ墨にはためいた 赤くなった
未知へと漕ぎ出した 消えていった
寝ていた。そのまま起きなかった。
くちびるの死んだ皮をさいた。赤くなった。
左のおやゆびが赤くなった。
デジタルに落ちてしまった 赤くなった
先に言って
死んだ皮、死んだ本、死んだティー、
『老人』(改題)
老人を 殺してください
手前にいる そこのあなたと
一列に並んだ みんなとあなたとです
老人を 殺してください
質を持たぬ 老人を 殺してください
性格を持たぬ 生活を持たぬ 老人を 殺してください
老人を 殺してください
一列に並んだ 老人を 殺してください
家を持たぬ 感動を持たぬ 老人を 殺してください
老人を 殺してください
まだ飯を食っていないと言われたら 殺してください
隠れるすべを持たぬ 老人を 殺してください
老人を 殺してください
支配しようとする 老人を 殺してください
ぴしゃりと打ってきたら 殺してください
老人を 殺してください
たんを吐きかけてきたら 殺してください
叫んだら 殺してください
老人を 殺してください
新聞を開いたら 殺してください
靴をかけたら 殺してください
老人を 殺してください
バーベキューに 殺してください
走ったら 殺してください
老人を 殺してください
粘ついた老人を 殺してください
老人を 殺してください
『着一時間』
また、一時間に帰ってくる
ずっと、先に行っても
また帰ってくる
また、一時間に帰ってくる
あの、一時間に
また帰ってくる
見て、執着に痛む顔見送るまで
ずっと、先に行くまで
また、帰ってくる
見て、頓着せずに飾る集団を
ざっと、数え終わるまで
また、帰ってくる
星が落ちてきて、時間は巻き戻って、あの一時間に
帰ってくる
夢が終わるまで、機会は逃げていって、あの一時間に
帰ってくる
あの一時間に帰ってくる
過去にさきのぼって
あの一時間に帰ってくる
過去を見つけようとして
『ふたつのボートとふたりの男』
耐えきれない朝に額して
ふたりはなった
ひとりは湖面に小舟を浮かべ
ゆれきらめいた水面に寝た
ひとりはいかりのタトゥーを入れて
まっすぐつづく海へとたった
耐えきれない朝は肌を焼いた
ふたりは退こうとしたがなせなかった
ひとりはあぶくをつっついて
歩虫のかゆみをいやした
ひとりは無音の雲海に発散し
やさしく怒る波を、槍のように貫いた
耐えきれない朝は沈んでゆく
ふたりはめいめい休みをとった
ひとりは紫の火をともして
よくひかる月を枕にしようと待った
ひとりは見えぬ果を探し求め
船にはかれひとりだった
どちらがしあわせだろう
『いかんを捨てて』
ずっと眉毛が気になっている
ので切り落とした
なぜか口をついて出るか源泉
源泉ではなくなって叱られている
源泉はいずれ枯れるだろうとどやされている
あなたは突き通そうと?
貫いていると? 見えないか聞こえないかどうせ
気難しいのはあなたばかりではない
自分が嫌になって相手が恐ろしくなるだけでそれに気づいていない
教室が灰色に見えていたんだ
ずっと眉毛が気になっているので切り落とした
汗が吹き出す
それでも言っていると叫んで怒鳴っていると?
なるべく早く逃げていこうとする言葉が放たれてからもう遅いと
物に当たると
そうだと
あなたは突き通そうと?
井戸は枯れましょうかと?
離れよう
貫いていると?
自分が正しいと思いこんでいる先生
ともすれば学校にいかなくなるところであった今も昔も変わっていないが
あなたのせいではないが、自分の反射ばかりが見えて責められているのがどうしょうもなくクズである
根暗は罪である
そしてやりたいことやりたくもないことすべて止めるものである
自分の中に自分の考えがある内に断ち切り消さなければならない
そして自分のアーティチュードを止める
転生の無しに
努力責任なくしてそれらはなせないが、今後もできるようになることはないだろう
自殺でさえ(!)
自分に責任がなければ若いうちにできることなど全てできない
『街の善』
自分を突き通そうとして、それをなんとも思っていない悪意こそがきみを育てたんだ
それを止められるのは街の善、コミュニティの善だってことを知っていながら
きみを育てた
啓蒙こそは、その事物を知っているものだけが、知らないものに、苦しめて教えあたえるという行為をさす
『無実の海』
幇間のメタはペルソナを生む
仮面を生む
悪である
この海は僕の背中をいっぱいに打ちのめす
僕の考えを
それすらも流し消す
また、仮面たちは、一番弱い僕の中の僕の立場をおいやる
探しきれなくなるまえに
探させないようにする
幇間のメタはまた別のペルソナを生む
別の仮面を生む
悪である
この海がいっぱいやってきて、僕の背中を打ちのめす。
僕の思い考え全てさえ、
それさえも流し消す。
『ラッカー』
(雲船と陽海が抱き合ってくれている)
通りを下りて笑う君
スケートボードでトリック決めて
黒鉛かすかに張り付くテープかけながら
聴き入る音は凪と揺らいで
土星が巨大な視線に見える
土星が巨大な視線に見える
ロッカーは落書きされて困ってる
スプレーのラッカー香って赤くなる
路面がかえって恥ずかしくなり
染み込むふたりのあいだを抜けて
雲船陽海からおいつめて
睨んでふたりをおいつめて
逃れて隠れ夭くしている
逃れて隠れ夭くしている
:死んだ布、死んだ皮、死んだ本、死んだ茶葉、
『はなだ色の畑』
具合が悪い時畑を見る
はなだ色の畑だ
交換の風のダブル
口をついて出るかダブリング
組み合わせて
口をついて出るか
機嫌がいいとき山を見る
そひ色の山だ
訓戒の混ぜのシングル
組み合わせて
ダブリング
『学校の公園』
近く、近く、近く、
学校近くに公園あって
二人で下校に寄ったんだ
クロイー今日は帰りたくない
クロイー今日は帰りたくない
僕んち隣にクロイーの家
三秒歩けばドアをくぐれる
ねえクロイーったら(エル・クルーエル)力抜いてよ
ねえクロイーったら
;ら、近く、近く、近く、
占める二人は部屋の中
クロイー寝ぼけてないでほら
学校近くに公園あって
二人で行ったの思い出すよね
ブランコ二人で乗ったりしてね
眠いのはやっぱり僕だ帰りたくない
クロイー今日は帰りたくない
どうしてどうしてどんどんどうしてン
やっぱり好きなの僕だけだった?
ホントのことをクロイー言って
言ってよクロイーホントのことを
シャツを破る手交わしうしろに
汗に透けては貼り付く肌えに
一千万の須臾に重ねて今夜の海がやってくる
:ねえ怖いよ
不和に、頭痛がしぶく
また、私は深刻に深刻に呼吸を求めて窓へ顔をつっこんだ。
毛穴をぬけていく風と血がいっしょになってふぶく
朝はまたとなく来た
そして、ふたりは顔突合わせては飴をにらんで笑ったらしい
またとない機会であった
『噴水が割れたような行人が風船のような』
ベンチと噴水そんなに遠くない
離れているけど近くはない
三四ほどの児が餌やっている
鳩がたかってもろこしついばむ
噴水割れたよ噴水割れたよな
風船行人針刺すような
割れたよな水また一条
アスファルトにこそ光りけれ
噴水割れたよ噴水割れたよな
風船行人針刺すような
一条の光りにしわをつくっては結線して終わっていく
割れたような光りであった。
眉間を縮める強さであった
しかめ顔では橋渡れない
ファットな桜の道遠くある
遠くの橋なぞ渡れない
頭痛と光る噴水のリバーブ光
苔で洗って逃げてく光り
光っていたのは原因は大理石のがくであることに気がついた
いまでは橋をこれみよがしに渡っている。
黄色の橋を人間の価値が決まる橋を
『時間』
何故?
人は変わってないよ、化粧の仕方が変わっただけ
良くなっても悪くなってもいない
過去もないもの。時間のベルト帯もない
箸でこんにゃく麺をつまんでみて。そのポイントが今。
過去が自分をもって来るかもしれない
だって、いかんを捨てたもの
小舟のルートがかすれて見えないかな
かすれて見えないって言ったもの
マッチを取り出し湖面になげうって
火柱たった、人のいかん
僕は自分で過去になったから
こんなになもかもないもんね
自分のそれと気づかなかった
だって美しすぎたもの
さあ、と身構えて
そのとき私は深刻に深刻に呼吸をもとめて
窓へ顔を
突っ込んでしばらくそうしていたかった
『切手』
彼女は切手を探すだけ
自分のアパートから二ブロックほど離れた切手屋に行って
一日棚から棚へ練り歩いては冷やかしている
その実すっかり買う気をなくしているのである
内心切手屋に気をうつしてはいないのである
車が行くように走って歩いている窓の外に内的のショーウィンドウを眺めながら
内心隕石が落ちてきやしないかと、自分も含めて切手屋のブロックがクレーターに帰してしまえばいいと思っている
自分が言語を顔に出している/いずとも他人にそれを見られることを嫌っている
それでいて見えていてほしいと願っている
そんな思いを深くしては歩行で消す
窓の外は雨に不動であった 車はとめどなく走ってはいるものの
客人は一人としていない
一人として! 魔法
眠れない夜に月のクレーターが太陽光を反射しているのを思っては、街がそうなってしまえばいいと帰り道の歩行で消した
彼女はブロックから離れて駅を作っては歩いて消していった
思う以外に彼女ができる一つのことだった
あるいは彼女ができてしまえることと気づかないで終えてしまった一つのこと
歩くこととは思いを消すことだった
歩行とは駅を消すことだった
思いはそれひとつひとつをつなぎ合わせる切手を消すことだった
駅に歩行がついてきて、歩行に思いがついてきて、思いに切手がついてきて、切手を彼女は探していた
よって、ウィンドウショッピングを窓の外と内から楽しむのは難しいことではなかったのかもしれない
そう語ってくれた彼女は切手を探していた
自分に迫ってくるものを一つずつ消していくためにも切手は必要だった
自分から一番近いものから探さなくてはならなかったが、ときには駅を歩行でつないでは次から次へと消していった
そのうちに構成の中に潜んでいるものに恐れを抱くようになる
彼女は探していた切手を見つけて自分のものにすることにもっと長い時間を要するようになって
そのうちに手に入れられなくなるものだが
その実いつまでも残っているものである
月のクレーターが街のクレーターを反射したがっている
彼女はそれを本当にするために歩いて月まで向かうつもりでいる
ビル群が倒れかかって預ける背中や肩を求めたがっている場合でも
歩いて月までいくつもりでいる
その考えに取り憑かれて、その実自分は寄生している
月のクレーターは求めているが、彼女を求めてはいない
ちょうど切手屋が彼女に出ていってもらいたがっているのとそう変わらないはずである
駅の残りを歩行で消して、その歩行を思考で潰して、思考を繋ぐ切手を燃やして、ようよう自分を保っていたのは今日も変わらなかった
変わったのは明らかに双方のクレーターが広がったことだけである
『晒される』
かび臭い感化に晒されて生きる
僕たちだ
どれほど前かも忘れてしまってレイタ・ッ・ナイ
かび臭い配列に揃って歩くレイタ・ッ・ナイ
かび臭い感化を昔から聞いてきた
僕たちは斜めに屋根がかかる集合に暮らしてきた
どれほど後を知るよしもなくレイタ、ッ、ナイ
やはりその文字列は好きではない;見るたびにそれにまとわるかび臭さを深くしていくから
バスはずっとコーナーまで続いていく予定である
見るか後に続く後ろの窓を見て
見つけて隠してレイタ・ッ・ナイ
コーナーの衝突に後ろ姿の逆光の差して
いずれは初めを忘れてしまってレイタ・ッ・ナイ
後ろ姿に逆光の差して
『病気』
病気、魔法のように視線を止めて
そのままそうしていたかった(契り)
陽のカーテンが「くるまって、くるまって、」
独りよがりに二あし踏んでは見捨てた赤子が手あげてタクシー呼んだら
昼の下がりに自転車漕いではラッパの豆腐屋もろ手でリフエイジ吹いたら
夜の居酒屋浮浪者留めては流しのギターが内的宗教打ったら
くるまって、くるまって、
二人の視線は留まる合図を知らない
そのままそうしていたかった(契り)
病気は二人の視線を打っては逃げてく誓い
そのままそうしていたかった
『飛んだ』
いつでもそこに行き着く資格はあるというものだろう
いつでも周りの何者をもぶん回して結局行き着くだろう。
急には変えられない戻らない
急には変えられない帰ろうとしない
が
私は足首にくっついて離れようともしない車輪を漕いで向かうだろう。
途方もなく遠く思い出せないくらい遠くからついてきた車輪だ
車輪に載っていたら一体私はつかれないだろうか?
おそらくつかれはしないのだろう
しかしあとからあとからついてくるような疲労であるにちがいない
私はその車輪を一度たりともかっこいいなどとはおもったことはなかった。
しぶくするをおぼえ、まわるなるをわすれ
そこにもともとあったはずの足首は?
足のひらを見下ろすことができないのがこんなに思い出せないなんて
まきづめの心配をしないでもよいのがひとつ救いであった
私は飛んだ。
私は車輪で飛んでいった
急には軌線を変えられない。
が
ずっとそこにないはずのつかれをおもいだそうとして飛んでいようとしているものだ
何者をも変えられないのに私は周りの人たちをぶん回していた
みんなは急には変わらない
みんなは帰らない
行き着くところはなくなってしまった
『ハッ』
ハッ
ぼくは立ち止まった
そこにあるものがそれだと感を深くしたんだ
ぼくはそれを見ているとき、ちょっと不快すら感じた
でも、ちょっと不快なくらいがちょうどいいのかもしれない
博物館の絵画コーナーはプールに竜巻をつくるように
ぼくは流されないように立ち止まって
ハッ
窓
がない
『屋敷』
(冬の名前も知らないのに)
あなたはたびたび鶺鴒のような居姿で
読む本もないのに机に向かっていました
しきりに『八時になった』と聞くものですから
私はそのつどこたえてやりました
オープンな庭を掻く庭師へ
『もう八時は過ぎましたか』
あなたは庭師との会話を試みたので
かれらの首をはねました
あなたはあまり外に出てはいけません
窓に向かう机
ただ座っていればいいのです
あなたは社会にでてはいけません
四角四面の屋敷
ただ居ればいいのです
冬の名前は港湾だと
やっとあなたは目を細めていいました
(私は心であなたの考えを想った)
『走って』
はず、きっと止まる
風船の
行人だから
あなたにはもったいない隙間にはもったいない名前をつけぬはもったいない
きっと止まる
噴水は週末にだけ、みんなに陽光への返事をみせるから
そのときにだけ食べてほしいあなたには食べてほしい商品を食べてほしい
いつかは消える
幼児には洗濯室すら足りていない座る椅子すら足りていない
さび臭い視線が焦点を見つけようとするだろう
でもそのときにだけ、目の代わりに生えているあなたのその角
役に立つから使ってほしいあげられないから使ってほしい
二度目はないから走ってほしい
足首車輪で走ってほしい
二度目はないから魔法のように
あなたを止めたりしやしないから
『夢を紡いだはず』
劇を観に行く夢を見た
綿棒が耳の中で折れてしまった。それを契機にして劇がかわった
二つ見たので得した気分になった
覚める直前ギターをひっくり返して弾こうと試みていた僕だった
空想も被空想(夢)も紡げば糸になるのに!
僕はその手垢のついた陳腐な考えがとっくに歌われていることをしっていた
そしてそれらの紡糸が自分にとって取るに足らないものだとすら信じていた
しかし自分の中にあるものだけは特別だと信じて疑わなかった。
紡いだはずの夢だけは!
特別なんだと考えていた
口をつぐんでみんな行く
夢は心にあるんだと言う
陳腐なそれはあたりまえ
だと、言う
夢を発露することは禁じられていたとそのときしった
『幼稚園』
昔、幼稚園に講習のため行ったとき
かの幼児がどんな言葉よりも流暢に泣くのが不思議だった。
涙は、コンクリートを黒くする雨より流暢に、
僕はあやさないでしばらく真向かいにかがんでいたが、先生が来て連れて行った。
紙芝居を読み上げてほしいと先生に言われたので、僕はみんなを集めて舞台に座り、厚い絵紙を取り出した。
こちらに来なかった子も何人かいた。
僕は、遠く眺めていつまでも始めなかったが、視線に気づいたかれらは歩み寄ってきた。
ようやく僕は昔むかしを言い出した。
『ゴミ』
こうやってゴミをためてしまう
癖が抜けない
手がかじかむ足だけ寒くなって
あっという間に紙くずやら、包装紙やら割り箸が山のようにうず高く
手がかじかむ足だけ寒くなって
それがなんにもならないことを知っているからなお
癖が抜けない。
手がかじかむ足だけ寒くなって
『コーラ缶/滝』
自転車はパンクした。
自販機のコーラ缶のプルタブに豚鼻をくっつけて涼む
ほこりの匂いがした。
引いて引いて引いて歩くも、親指の巻き爪が食い込んできた
僕はそれを契機と捉えたかった……。
みんなにとっては美徳なんだろう、美徳なんだろうとも!
ひとりひとりが取り組んでいる、翻訳作業に僕も参加したい
美徳の共有ができたらなあ……。
トラックは行った。
銀色の熊、
恐ろしい、恐ろしい恐ろしい
心に、すっと入って来るのが恐ろしい!
*
コンビニあるじゃないか缶を
捨てた。
『どう、いたまんして』
ムッ
こんな、こんな、なにが登るべき滝だ!
吐唾すれば溶けていった
擁されていった!
恐ろしい、こんなに恐ろしいことがあるもんか
抵抗すら泡もしぶきもなく元通りになってしまうなんて、
ああ、こんなに恐ろしい。
『小道』
僕らはこの小道を共有している
君が行って、僕も行った。
あなたと僕は「うん」。
この小道を共有して通ったり帰ったりしている
人名の数草
川を渡って
二人だけの秘密にはもったいないしものたりない
それでいて断じて問題にはしないのだが
『街路樹』
好きな言葉は
わたがしと感謝です
昨日のことすらずっと覚えているのです(契り)
川で洗って逃げてく誓い
明日の道すら探せないでいるのです(それでも)
好きなあなたは
鞠躬如としているものです
そのままそうしていたかった. (契り)
後ろを見ないで逃げてく決まり
花と道路は桃の皮
たまに発狂するものです(それであなたが苦手です)。
妊婦ははらを捨てたくて
道ばたに彼女自身を(置いていきたくて
新しいのをつくらなきゃね)…………。
(え?)………………………………………………………。
自動車に
坂は向かってくるのです
それでも洗って逃げてく(誓い)
街路樹の
根本に赤子が捨てられて
手を挙げタクシー呼んでいるのです
それでも彼女が残っているので
妊婦は彼女を彼女自身を
残ったあなたを回収するのです。
『死ぬことについて』
故郷と書いて
くにと読む.
あなたには物足りない
あなたのハートのそのマーク'ed.
猫はあなたに近づいて
階段登って近づいてくる。
深刻に深刻に呼吸を求めて
故郷を何度もあなたは呼んだ
でも事実は?
進化は?
深刻にそのとき脱けてほしいと思った
死んでほしいと思った!
ときに、かれ自身の逸脱と追悼のために
ソリストは顔をしかめて汚くうたったのだが
ソリストのための家はついにそのとき失われたのであって
あなたはかれの面倒を見なければいけない。
(まあ、それでも時代は変わっていくもので、昨日チークを踊っているのを見てわざとらしく恥ずかしがってみる試みなども今朝には失敗している訳である。チークは終わり、おのおのが持つ羞恥性すら失われた。
よって、新古品はただただ消費されていくだけであり、それらに反して品々をひた隠しにして誇りにすらしようとする挙動は間違っている。デッドストックがショーウィンドウを嫌って、あちらからお断りしているのである。
挙動を進めることがかなわなくなりそうになると、すぐにあれやこれやとメタを並べたて、周りを一切かえりみようともしない独りよがりにて優位に立とうとする行いが恥と代わる日も近い(というかもうとっくの昔に来ている。気づかないのはかれらばかりである)。
いわんや、それらや『準それら』を破壊しようとする行為すら陳腐なものに成り下がっており、共有のミームに堕している)
ときに、かれらによってかれらの行為などはすっかり古になってしまっている
この期に及んであなたはどんな言葉を投げかけられようか
私は古いものにまとわりついたかび臭いにおいが嫌いだ。
それらの言葉の泥のような響きすら好きではない。
あなたはどんな言葉を投げかけられようか?
『雨のそばに座って』
あのね、雨のそばに座って
このままそうしていたいの。
敷布団に倒れ込んで、畳の冷たさを手のひらで感じて
そのままそうしていたかった(契り)
『臥す』という言葉は時代につれて失われてしまったけれども
雨がその代わりになってくれて
僕はそのそばに座っている。
それってすっごく、素敵だねって言いたかったの
ええとね、接木で殖えた金木犀
重要なことはその過程で失われてしまったの
モーターの焼ける匂いが頬からする
そんなことすら大事に思われなかったものなのよ
合言葉はショーウィンドウ
道路が噴水をひっくり返したみたいに、桃の皮の匂いであふれたの
それってすっごく、素敵だねって言いたかったの
そうやって、クルーシファイは行われたの
生活のための挙動がどうしても恥ずかしくなって
そのうちなにもできなくなっちゃうの
あのね、ええとね、そうやって
かれらのようになりたくないの
泣きたくないのなりたくはないものね
でも車だけが僕の恐怖でありつづけるの
それってすっごく怖いのね
怖いのよ。