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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界転生する前に謎の美少女と自分のステータスを選ぶような話

「死んでようこそ、子宮神殿へ。あなたの担当をさせていただきます、ヨハネです。どうぞよろしくお願いします」

「……」


 あー、なるほど。俺死んだか。

 記憶がはっきりと覚えている。今いるこのふざけた名前の神殿に来る前まで、たしか俺は駅のホームにいたはずだ。

 毎日の残業、上司のパラハラ、生きがいなどはなく、死んだ親父が作った借金を返す日々を過ごしていれば、心が壊れるのは時間の問題だった。


「足立圭一、享年三十歳。毎日狂ったような残業に借金の返済にて心を病み、駅のホームで投身自殺……。合ってますか?」

「……はい、合ってます」


 この修道服を着るヨハネと名乗る黒髪美人女性は、いったい何者か……。

 それ以前に、この神殿はなんだ? 俺は死んだんじゃないのか?

 何も分からず呆然とする俺を見て、ヨハネさんは手に持っていた俺の経緯が書かれているであろう一枚の紙を投げ出し、こちらの顔を覗き込むようにじろじろと見はじめる

 その近さ何と十センチ。生前童貞の俺にはちとドキッとするものがある。


「……まぁ、あれですよ。死んでラッキーですよあなたは。どれくらいラッキーかって言いますと毎日違うロトシックスの当たりくじが自分のポケットに入ってるってぐらいラッキーなんですよ。なんせこの神殿に来られる人間なんて四億人に一人の確率ですからね。 しかも日本人なんて、あなたを除けば織田信長さんだけなんですよ。あ、織田信長って知ってます? 戦国武将さんなんですけど――」

「いや話がなげえわ! 自分がとてつもないラッキーマンってのはまぁ分かったけど肝心のここがどこかってのが聞けてねえんだけど……。あと顔近い」

「あっ! そうでしたそうでした。いやぁ、すみません。自分、人と喋るのが随分久しぶりなもので。ここがどこかって話ですね。あ、まず言っとくとおっパブではないのでそこの勘違いはしませんように。いやぁ、以前に織田信長がここをおっパブだと思って――」

「おい待て。おいおいおい、その話しは長くなるんかおい姉ちゃんおい。あと顔近いぞおい」


 なんなんだコイツは……。大阪のおばちゃんの長話ぐらい話が迷路するんだが。迷宮かここは?


「……はぁ。洒落のない人ですねあなたは。えぇ、教えてあげますよはいはい。この子宮神殿はですね、来世の自分を好きに選択できる素晴らしき神殿なんですよ、はい」

「……お、おう。それは凄いな。うん」


 ふざけた名前だが、俺の想像している通りならここはかなりすごいとこだぞ。

 自分の来世が選択できる……。つまり、来世を自分の好きなようにできる。

 つまり前世の俺がベリーハードだとすると、来世の俺はイージーを約束されたようなものだ。

 人間、死んで見なきゃ分からないものだな。


「あ、ちなみに今なら、現代日本、異世界ファンタジー、サッカー選手のどれかをまず選べるんですけど、どれがいいですか?」

「えっ……。じゃあ、異世界ファンタジーで」

「分かりました。少々お待ちくださいね……」


 そう言うと、ヨハネさんは俺に背を向き始め何か独り言をぶつぶつとつぶやき始めた。

 一体何しているのか分からないので、とりあえずつっこまないでおこう。

 しっかし、つい条件反射で異世界ファンタジーを選んじまったが、大丈夫だろうか。まぁ、現代日本にはかなり苦しめられたせいで良い思いがないしよく考えても異世界だなこれは。

 なにより異世界ファンタジーはいろいろ夢があって楽しそうだ。

 イージーモードを確約されてるから、勇者とかになって世界を救うってのも悪くはないな。うん。


「……足立さんおまたせしました。準備が出来ましたので早速、足立さんには来世の自分のキャラメイクをしてもらいます」


 おっしゃ来た! 待ってました!


「目の前に選択肢を出しますので好きな方を選んでください。それでは一つ目です」


1.『① 無敵の勇者+モザイク or ② 村人+畑』


 ……ん? なんか思ってたのと違うな。

 いや、確かに目の前に選択肢が現れたんだけど……二択なの?


「お、無敵の勇者ですか。早速レジェンド級の選択肢が出ましたね」

「あ、あの、すみません……」

「ん? なんですか?」

「いや、あの、そのー……こういう感じなんですか?」

「こういう感じって言われましても……まぁ、こういう感じですね。あ、ちなみに大事なことを言い忘れてましたけど、これがあと九回ありますのでよろしくお願いします」

「あ、そうですか……」


 まぁ、こういう感じのシステムがあと九回あるらしい。

 人生は選択の連続であると、かの有名な劇作家は言うがそれは死んで幸運をつかんでも変わらないらしい。

 では、ここでもう一度目の前に出た選ぶべき選択肢を見てみよう。


『① 無敵の勇者+モザイク or ② 村人+畑』


 ……うん、明らかに異質なものが一つ混ざってますねこれ。


「あの、このモザイクってなんすか?」

「それはもう、モザイクですよ。部分的にモザイクになのか、全身がモザイクなのかは私には分かりませんが」

「え、モザイクって画面越し以外で見えるものなんですか?」

「見えるものなんじゃないんすかね……」


 えー……。

 いやぁ、ここはぜひとも勇者を選びたいのだがモザイクがブラックボックスすぎてな。

 ……まぁ、あと九回あるしここは安牌で②の村人と畑を選ぼう。


「選択を承認しました。続いて二つ目です」


2.『① 可愛い幼馴染がいる+自分はブサイク or ② 友達はゼロ+自分はイケメン』


「おぉー、可愛い幼馴染とはいいですね。やっぱヒロインは幼馴染ですよ」


 なるほど、これまたいい選択肢だ。

 だが、まぁこれは一択だな。


「②を選択する」


 前世で俺は学んだのだ。イケメンというのはそれだけで価値があるのだと。

 それにもう一つ、友達はいなくても何とかなる。これ、俺の人生経験な。


「はぁ……。選択を承認しました。続いて三つ目です」


 あれ、今ちょっとがっかりしました? 。



3.『① 身長が高い+両親が他界 or ② 身長が低い+背中に乳首』


 どっちも選びたくないなぁ……。

 なんだこの選択肢。韻踏もうとして滅茶苦茶になったパターンだろこれ。


「お、いいですね背中に乳首! 私も生やしてみたいものです」

「気でも狂ってんのかあんたは」


 ていうか今日一番の嬉しそうな声がでたな。表情は無だけど。

 いやそんなことはどうでもいい。

 この選択肢、選ぶ上で必要なものは割り切る勇気。そして非情になる心。

 来世にとって、この選択肢はターニングポイントとなりえるが故に選ばなければならない。

 心を殺せ、足立圭一。


「さぁ、どっちにしますか?」

「……①で」

「……ちっ。はい、選択を承認します。あー、足立さんは、親不孝者ですね。両親より乳首の位置を取るんですか。せっかく産んでくれた親御さんが可哀想でなりませんよ」

「……てか、こうなったのはこんな選択肢を出すお前のせいだろ!」

「いや、私が出してるわけではありませんから。公平なる天の采配によって出てるんですよこれ」

「なっ!? これのどこが公平だって言うんだ!」

「公平な采配なんですから公平なんじゃないんですか? 知りませんけど。では、四つ目です」

 

4.『① 伝説の剣+呪いのダサい兜 or ② 呪いの魔剣+絶対防御の黒タイツ』


 あー、うん。いや、うーん……。あ、どうなんだろうこれ。


「伝説の剣とはこれまたレジェンド級ですよ。これはもう一択しかありませんね」

「そうなんだけど。うーん……呪いのダサい兜ってどんな呪いなんだ?」

「さぁ、つけてみないと分かりませんね。ダサいですけど」

「そうだよなぁ……。ダサいんだよなぁ……。まぁ剣が欲しいので、①で」

「選択を承認しました。では五つ目です」



5.『① 村人で勇者をも圧倒する筋力に成長する+生意気な乳首に育つ

 or ② 村人で勇者をも圧倒する魔力に成長する+冷酷な乳首に育つ』


 最悪だ……。乳首からの逃げ道が無いのが来ちまった。

 もう、意味が分からない。なんだ生意気って、なんだ冷酷って。

 これはあれか? 乳首に感情を与えるという事なのか? いや、言ってて頭が痛くなるわ。


「これは…………………………勇者をも超える村人の誕生ですよ」

「おい、乳首から目をそらすな」

「なんですかセクハラですか? 殺しますよ?」

「もう死んでるがな……」


 あぁ……。どっちも選びたくねえ。乳首から逃げてえ。

 ……よし、見なかったことにしよう。乳首を見なかったことにして筋力と魔力のどちらかで悩もう。

 どうしようかなどうしようかなどうしようかな。うん筋力の①で!


「生意気な乳首を承認し、しま……す。アッハハハハハハ! アーッハハハハハハハ! はい六つ目です!」


 めっちゃわろとるがな。こんなことで初めてヨハネさんの笑顔を見れたよ。かーわい。

 この笑顔に免じて天の采配さん、もう乳首はご勘弁を……。


6.『① 姓をデカプリオ+名をチチガに or ② 姓をクラウ+名をラッセルに』


「これはもう一択ですね。魅力的な名前と言えばもう①に決ま――」

「②以外ありえない! ②を選択する!」


 ②という神がかりな選択肢を前にして①はありえない。


「はぁ……。はい選択を承認承認。じゃあ七つ目です」


 どうやらこのお方は真面目な選択が嫌いなようです。


7.『① スキル:破壊神(何でも一撃で壊す絶対の力)+コンタクト(乳首と喋れる) or ② スキル:守護神(何をも攻撃を通さない力)+テレパシー(他人の乳首と念話)』


 でたよ乳首シリーズ。

 もうね、乳首と会話なんか始めたら人間おしまいですよ?


「いいなぁ……。私も一回でいいから乳首と喋ってみたいなぁ……」


 乳首と喋るヨハネさんか……。

 うん、地獄絵図だわ。

 これ想像すると嫌でも喋りたくないなぁ。でも逃げ道ないなぁ……。

 仕方ねえ。5.の選択肢のやり方で行くか。ぶっちゃけ乳首を意識しなければ最高の自分になっているはずだからな。


「……俺は①を選択する」

「選択を承認しブハァァァァァハッハッハッハ! アーッハハハハハハハ! わ、私も乳首と会話してえええええええええ! アハッ、アハハ、アハハハハハ!」


 もうキャラ崩壊もいいとこですよヨハネさんや。

 ……はぁ、しかしあとこういうのが八個もあるのか。

 ここまで来たらなるようになるしかない。

 できれば、まともな選択肢が来るのを祈って俺は次の選択肢へ思考を移す……。



「十の選択、お疲れ様です。ではあなたの来世を発表しますね」

「……はい」


 あれから8.9.10.と強烈な選択肢を通り抜けついに自分の来世を決め終えたのだが、この試練を潜り抜けた今の俺の心は『無』の一文字だった。


「あなたの名前はラッセル・クラウ。職業は畑を耕す村人だ。

友達がおらず、両親が他界しており天涯孤独の身。

高身長で誰をも認めるイケメンなのだが呪いで外れないダサい兜を装備してしまう。

伝説の剣を受け継ぎ、勇者をも圧倒する筋力と破壊神のスキル持つ。

相棒は乳首でとても生意気に育ち、乳首と会話できるスキル:コンタクトを使用し乳首と会話することができる。

完全無欠と思われるラッセルだが弱点が存在し精神攻撃に弱く、とても便秘になりやすい。

二つ名はオシャレ乳首とダサ兜。

決め技は伝説の剣を用いたチクビカリバー。乳首と伝説の剣を融合させた一撃必殺の破壊光線を放つ……。どうですか?」 

「後半が地獄だわ」


 もう途中乳首しかねえじゃねえか。どうして乳首な選択肢しか天は与えてくれないんだよ。

 天界で今流行ってるの? 空前の乳首ブームなの? チクビームなの?


「さて、そろそろ来世へ旅立つ時間となります」


 ヨハネさんの言葉と共に、気付けば俺の体が光の粒子に包まれていくのが見える。

 そうか……。俺は行くのか……。


「寂しくなりますね足立さん……。いや、ラッセルさん……」

「そう……だな……」

「……あなたに良い来世が訪れることを、ここから祈らせてもらいます」


 ヨハネは俺に向かい祈りのポーズをとると、目を瞑り俯いた。

 その時にはもう俺の体は光の粒子となり天へ上っていた。

 己の選択が、せめていいものになることを願い続け……。



 俺がこの世に生を受け、もう二十年になるか……。

 ここ数年はただひたすらに戦い続けたっけ……。村人でありながら、勇者など手に届かない領域まで上がり詰め、相棒であるチクビ・エクスソードと共にひたすら強力な魔物を狩り続けたんだ。

 一生外れることはないと言われた呪いのダサい兜を被りながら、右も左も分からない俺をチクビは生意気ながらも引っ張ってくれていた。

 死ぬときも一蓮托生。俺がチクビに対する思いはそれほど強かった。

 今日、このときが来るまでは……


「お前との時間も、悪くなかったぜ」

「くっ……。なら、ならどうして!」

「気に入っちまったのさ。魔王の右乳首のポジションをな……」


 魔王城に乗り込み、あとは魔王を倒すだけだった。

 裏切りは早かった。絶世のイケメンである魔王を見た瞬間、チクビは俺から離れ魔王の右ポジに収まった。

 その瞬間俺の体から急激に力が抜け始める。

 もって数秒。撃てて一発。……もう、これしかなかった。


「おい魔王来るぞ。今はもう残滓とはいえ、あいつの攻撃をくらえば只ではすまないぞ」


 チクビの言葉に応え、魔王は剣を上段に構える。

 俺も相手に合わせ。これまで一緒に使い続けた伝説の剣を両手で下段に構える。

 あぁ、これで最後だ。


「じゃあな元相棒のダサ兜さん……。いや、ラッセル!」

「こちらこそおしゃれ乳首さんよぉ! いや、チクビ!」


 互いに力を込め、大地が揺れる。

 人間と魔族の争いに戦いに、決着を!


「「チクビ……カリバァァァァァァァ!」」


 互いの破壊を極めた最後の一撃。

 結局俺は、最後まで孤独だった……。



「死んでようこそ、子宮神殿へ。あなたの担当をさせていただきます、ヨハネです。どうぞよろしくお願いします」

「……」

「……あれ? ラッセルさん? 聞こえてます?」


 ……そうか。そうかそうか。


「……どういうことだ?」


 記憶が混乱していた。

 俺はこの場所を知らないはずだ。知らないはずなのに……あ、思い出してきた。

 そうだそうだ。俺は確かここで選びに選んで選んだ結果……。


「……滅茶苦茶だぜラッセル・クラウ」

「ん? あなたはラッセルさんなのではないのですか?」 

「いや、ラッセルなんだが……ここに来ると足立としての俺がかなり強いな」


 言うならば、足立圭一の中にラッセル・クラウというもう一つの人生が刻まれているようなものだ。

 あまり気持ちのいいものではない。記憶が絡まり過ぎて、頭がぐらぐら揺られている感覚だ。


「フフッ、ならば今は仮にあなたをラッセル足立と呼ばせてもらいますね」

「売れない芸人みたいな名前だな」

「では、売れるように……選んで行きますか?」


 そう言うと、俺の前に三つの選択肢が現れる。


『異世界 or 現代日本 or シルバニアファミリー』


 来たか……。まぁ、まずここから決めていくか……。


「どうです? もう一回異世界ファンタジーでも?」

「いや、あんなことはもう懲り懲りだ。ここは……現代日本で行かせてもらう」

「現代日本の選択を承認……。でもいいんですか? 足立さんは日本で嫌な人生を送ってきました。それなのにまた……」

「だからこそさ。俺はこの機会に、もう一度日本で幸せに暮らしてみたいんだ」


 異世界に行って分かったことがある。

 争いのない世界こそ、俺の居場所があるのだと……。

 生まれ変わって、たとえどんなに苦しいことがあっても日本でなら努力できっと這い上がれるはずだ。


「さぁ、来い選択肢。今度こそ俺は生まれ故郷で幸せを掴み取って見せるぜ!」


1.『① 陽キャラ+一日一回、変タイミングで目から光線が出る or ② 陰キャラ+一日一回、一時間後死ぬ人が挨拶してくる』


 ……うん、最初から飛ばしてきますね。


「おー! 目から光線が出るなんてカッコいいじゃないですか!」

「いや、それ以前に平和な国である日本でいきなり目から光線出すのはまずいでしょ。俺は②を選択する」

「選択を承認……。全然悩む素振りを見せませんでしたけど何でですか?」

「いや、この二択ならどう考えても②だろ。考える余地なんてねえよ」

「ふーん……。では、次は二つ目です」


2.『① 文系+一週間に一回、変なタイミングで上からエロ本が落ちてくる or ② 理系+一週間に一回、変なタイミングで人体模型がエロ本を届けに来る』


 どう転んでもご褒美じゃないかこれ。

 人体模型に届けてもらうってのはよく分からないけど。


「い、いいですか! えっちなご本は十八歳からですよ!」

「あー、はいはい。十八歳からですねーはいはーい。①を選択しまーす」

「選択を承認します……。これも悩む素振りは無いですね」

「どう考えても①だからな」

「そうですか……。では、次は三つ目です」


3.『① ゲーマー+女キャラが全員お母さんボイス or ② 読書家+ラノベの女の子キャラの挿絵が全員お母さん』


 どっちも嫌過ぎるなぁこれ。

 俺にとってのお母さんはパンチパーマに厚化粧の四十八歳という闇鍋のような女を言うんだ。


「これでどちらを選んでもお母さんの温もりを身近に感じられますね」

「よほどの美人でなければかなりの精神的苦痛を味わうことになるけどな! ②を選択する!」

「……選択を承認します。これはかなり悩むと思ったのですが?」

「活字なら影響はないから、どう考えても②だと思うがな」

「確かにそうですね……。これなら……続いては四つ目です」



 前回の時と違い、悩みながらもどれもすらすらと選択し続け気付けば最後の十択目の前まで来ていた。


「ここで今の足立さんの来世を時系列順に整理してみましょうか」

「え、まぁしてみるか」

「あなたの名前は暗鬼イデヨ。俗に言う陰キャラで一日一回一、時間後に死ぬ人が挨拶にやってくる特異体質を持つ。

 親は離婚し、母親に引き取られるがその際かなりのストレスを感じてしまいレントゲン越しの心臓の部分がへのへのもへじになってしまう奇病に陥ってしまう。

 ライトノベルを好む読書家だが、これも過度のストレスのせいか、挿絵の女の子が全てお母さんに見えてしまう。

 高校に進学が決まった日を境に一ヶ月に一回、家のポストにマグロの刺身が入れられる悪戯を受ける。

 そのまま順調に大学に進学しますが、生徒の九割がカッパであり、文系に進むが一週間に一回変なタイミングでエロ本が落ちてくるという怪異にまとわりつかれる。

 なんとか大学を卒業後、ホワイト企業に見事就職するが、またこの日を境に全ての記録媒体に映る自分の目に黒い線が入ってしまう。

 使用機種はアイフォンで、故障なのか電話越しの自分の声は全てボイスチェンジャーのような声になってしまう……。以上です」

「地獄かよ……」


前回よりはマシに見えるが、前回より意味が分からないな。

忌み子でしょ、もうこれ。


「これは面白い来世になりそうですね」

「いつか自殺しないか俺?」


 または精神病棟に隔離かな?


「大丈夫ですよ。さて、それでは最後の選択肢です。ぜひ、選んでください!」


 なんかやけにテンションが高いなコイツ……ん?


10.『① ヨハネを貰い、来世へ連れて行く or  ② ヨハネはいらない』


 ……は?


「きゃー! もらうなんてそんなー! で、でも? 足立さんになら、いや暗鬼さんになら――」

「おい待て待て! な、なんだよこの選択肢は!」

「え、何って見ての通りですよ。私を貰ってくれるんですか? それとも貰ってくれないんですか? この二択ですよ」


 そんなものは見れば分かる。

 俺が引っかかるのは、ここにきて俺にとって理不尽のない選択肢についてだ。

 とりあえず、一番気になるところを質問してみるか


「ちなみによ、俺が①を選択したらどうなるんだ?」

「あなたに添い遂げることを誓います」

「うぐっ……。じゃあ、②を選ばなかったら?」

「私とこの神殿は消えますね」


 ……は? 本日二度目の、は? なんだが?


「消えるって……なんで?」

「うーん、まぁ全然人が来ないのも理由の一つですが、簡単に言うと上の人が飽きたしいらないってなっちゃったからですね。それに、この子宮神殿が消えれば私がいる意味もなくなりますからね」

「意味もないって、そりゃどうして……」

「どうしてって、私はこの神殿のガイドとして作られた人形ですからね。ここ以外知りませんし……だ、だから……」


 その目に微かな涙を浮かべながら、手を上げ俺の目の前に選択肢を出す。

 

10.『① ヨハネを貰い、来世へ連れて行く or ② ヨハネはいらない』


「選んでください……。私は、あなたの選択に……従います……」


 ……こいつは自分のことを人形と言うが、俺の知る人形ってのは涙なんかださないんだがなぁ……。

 まぁ、そうだなぁ……。


「お前と一緒にいると、人生楽しそうだな」

「……ふぇ?」

「俺は①を選択する。さぁ、早く承認しろ」

「……は、はは、はい! 承認します! 承認させてください!」


 ヨハネが承認すると、突如神殿が大きく揺れ始める。

 地面にひびが入り、大量のステンドグラスが割れ破片が頭上から落ちてくる。

 だが、破片が俺の体を貫くことはなかった。

 俺とヨハネはあの光の粒子に包まれ、体はどんどん透明化してきて今すぐにと来世へ向かう準備が出来ていた。


「実は私、足立さんが二回も着てくれてすごく嬉しかったんですよ。いっぱい笑わせてくれて、いっぱいおしゃべりしてくれて……でも私にとって時間は一瞬で……人形なのに欲なんか持っちゃって……わ、私……」

「……これから、いっぱい楽しいことがあるさ。これ以上楽しめないってぐらい……楽しんじゃおうぜ」

「う、うん!」


 お互いこれ以上ない笑顔を浮かべ、粒子となり天へと旅立った。

 神殿は崩壊し、俺がここに来ることはもうないだろう。

 約束された明るい未来に感謝し、俺はこの奇妙な転生体験を死んでも忘れないだろう。



「うわ、またポストにマグロ入れられてるわ……」


 珍妙すぎる悪戯にはもう慣れたもんよ。なんせさっきは上からエロ本も落ちてきたし、それに――。


「おぉ、あんちゃん、おはよう。お前さんは元気でな」


 一時間後には死ぬおじいちゃんとの挨拶を何十年も続ければそりゃ感覚も麻痺するよ。

 はぁ、今日は会社に入って初めての出社日か……。なんだかもう鬱々してきたよ……。

 まぁ、こんなときは……?


「ヨハネー! 仕事行く俺に元気を注入してくれー!」

「もう、イデちゃんったら……ほら!」


1.『① ヨハネちゃんによるほっぺのチュー or  ② ヨハネちゃんによるハグ』


「①と②で!」

「も、もう……」


 俺には変な特異体質がある。もう何度もこんな自分が嫌で死んでしまいたいと思ったけど、今ではヨハネちゃんのおかげで毎日が楽しくて仕方ない。

 人生は選択の連続である。楽しいこともいっぱいであれば、苦難を乗り越えなければならない時もいっぱいある。

 俺如きではみんなの心に響く言葉を伝えるのはきっと難しいだろう。

 でもこれだけは是非とも伝えたい。


 貴重な時間を、ありがとう。


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