俺がホモになると世界は滅ぶ
とりあえず最後まで読んでもらえたら嬉しいです。
目を覚ますとそこは見知らぬ空だった。
「……あれ? 俺外で寝てたのか?」
空は一面黄色に染まっており、遠く見えない程の登り坂の上は薄紫色に霞掛かりこの世の物とは思えない景色であった。
「……お前はこれからホモになる」
「―――!?」
骨まで響く低音のそれは、ニタリと薄気味悪い笑みを浮かべ俺をジロリと見下ろしている。
「……何を、言っているん……ですか?」
どんなに薄気味悪いオヤジだろうが初対面である以上敬語で話し掛けてみたが、反応は芳しくない。
「ここは黄泉比良坂……ノンケとホモの狭間の世界だ」
(……頭イッチャッテル系か?)
「おっと、俺の事をキチガイ野郎だと思うなよ? 現実のお前はまだ夢の中だ。兎に角今はだまって俺の話を聞け」
気持ち悪いオヤジはポケットからジグザグに折れ曲がった葉巻を取り出し適当に火を着けた。そして大きく煙を吐き出すと、大きく舌打ちし、静かに語り始めた。
「バタフライ効果って知ってるか?」
「蝶の羽ばたきがやがて竜巻になるとか何とかのアレか?」
「ふぅん……ホモ予備軍のくせに多少の学はあるんだな……」
(……なんなんだホモ予備軍って?)
俺は突然ホモ呼ばわりされ苛ついたが、ココが見知らぬ場所故大しく話を聞くことにした。
「お前がホモになると……世界の人口の半分が死ぬ」
「―――はぁ!?」
俺は思わず声を荒げた。そんな馬鹿げた話聞いたことない。
「これは紛れもない事実だ。異常気象が多発し、世界は壊滅的なダメージを受ける。全てはお前のせいだ」
「ふざけるな! 俺が何をしたって言うんだ!!」
「―――ホモった」
「……そ、それだけか!?」
「……そうだ。たったのそれだけで世界は終わる。俺はそれを阻止しに来た」
「ど、どうやって……!?」
「お前を…………殺す」
「なっ!? 世界を救うために俺を殺すのか!!」
「そうだ。残念ながら何故お前がホモ化するのかまでは分からなかった。故にお前には死んで貰う」
「ふざけるな!!!! そんな訳の分からぬ理由で死んでたまるか!!」
「ほう……『ホモにも五分の魂』とやらか? よかろう。ならば現世で確実にお前の命を刈り取ってやろう。フハハハハ……!!」
──ピピピピ!
──ピピピピ!
「―――ふわぉ!!」
目覚ましの音で目が覚めると、俺は慌てて布団から起き上がり辺りを確認した。布団は寝汗でぐっちょりと濡れており、全身に謎の倦怠感が走っている。
「うへぇ……なんかかなり嫌な夢を見た気が…………ハッ!」
壁にぶら下がるカレンダーを見ると、今日は月美ちゃんとのデートの日。俺は慌てて着替え待ち合わせの場所へと向かった。
「ヤバいヤバい! デートに遅れる……!!」
月美ちゃんは同い年の付き合って三ヶ月になるクッソ可愛い彼女だ。SNSを通じて知り合った彼女を見て一目惚れした俺が告白したら一発OKで、俺は今幸せの絶頂に居る。
──ドンッ
「あ、すみません!!」
「……いえ」
何やら薄気味悪いオヤジとぶつかったが、今の俺はデートに遅れる事で忙しい。
「―――ご、ゴメン! 遅れちゃった!!」
「ううん、大丈夫だよ。それより凄い汗。ずっと走ってきたの?」
「あ、ああ……月美ちゃんと早く会いたくて……」
「ふふ、嬉しいな♪」
月美ちゃんが両手をモジモジとさせながら俺を見る。恥じらいポーズで頬を赤らめる月美ちゃんがマジで可愛い!
「ね、最初は何処に行く?」
「地獄へ行け……」
「ふぇ?」
──ブオンッ!
「危ねぇ!!」
後ろから振り下ろされた鉄パイプをギリギリで躱し、俺は月美ちゃんを自分の後ろへと下げた。
「な、何だお前は!?」
「ククク……俺を忘れたか?」
それは先程の薄気味悪いオヤジだった。ニタニタと黄ばんだ汚い歯並びで俺を見下し、鉄パイプをブンブンと振り回す。
「お前なんか知るか!! 月美ちゃん! 逃げよう!?」
と、月美ちゃんの方を振り向くと……何故か月美ちゃんは焦点が定まらぬ顔のまま固まって動かなくなっていた。
「……え?」
「この世の時間を止めた。暫く様子を見ようと思っていたが、やはりお前が一時間後にホモになる未来は変わらなかった……」
「は? はあ?」
「まだ思い出せぬか? 昨日の夢に出た俺だよ……」
(オッサン? ホモ……? …………!!)
「―――俺にホモの濡れ衣を着せたオヤジか!!」
「思い出したか。ならば死ね!!!!」
──ブオンッ!
「危ねぇ!!」
鉄パイプの突きをギリギリで躱し、俺は止まって動かない人の隙間を必至で駆け抜け始めた!
「すばしっこいホモめ……!!」
「クソ! 何なんだこれは!! まだ夢なのか!?」
空には鳥が羽ばたいたまま固まっており、車は動かず自転車も人が乗ったまま動かない。正しく刻が止まった世界になっていた―――!
「待ってくれ! 俺がホモになるのが原因なら、今この刻が止まった世界で性犯罪したい放題だろ!? それならホモにならないじゃないか!!」
走りながら俺はオヤジに交渉を持ち掛けた。時が止まったなら男子がやること間違い無しの欲望ワールドだ。これならホモにはならないだろう!
「……ダメだ。それは『急に時が動き出し、最中だったお前が捕まり刑務所でホモに目覚める』未来が見える」
「何で急に時が動き出すんだよ!!」
「お前の行為を見て俺の集中力が切れるからだ……」
「訳分かんねぇよ!!」
俺はがむしゃらに街を駆け、身を隠せそうな大型ショッピングモールへと駆け込んだ。丁度自動ドアが開いた瞬間だったので、オバチャンとドアの間をスルリと抜け、食品コーナーへと走った。
──カラカラカラ……
本来人の賑わいや音楽が聞こえるはずの店内は、奴が鉄パイプを引き摺る音だけが響き、とても無機質な世界になっていた。
(クソ! 何なんだこの状況は!!)
鮮魚コーナーの商品に手を伸ばす女性の谷間がモロに目に入った俺はどう考えても女好きだ。それが小一時間でホモになるなんて考えられない……!!
(チクショウ! 今なら乳揉みたい放題なのに……!!)
為べからずホモエンドらしいので揉まずに居たが、本来だったら4秒で性犯罪を犯しているだろう。
「何処に隠れた! 木を隠すなら森の中、ホモを隠すならホモの中かぁ……?」
薄気味悪い笑みが近付き、俺は慌てて日用品コーナーへと逃げた。足音が聞こえるとマズいので、靴は脱いでその辺のマダムの買い物カゴへと入れて置いた。
「こっちかぁ?」
まるで弄ぶ様に俺を探し回るオヤジ。
──ガシャン!!
「うおっ!」
商品棚の向こう側から突如鉄パイプの突きが俺を掠めた!
「みーつけた!」
「クッ!!」
急いで走り出すも奴を巻くことは出来ず、何故か俺の居場所がバレてしまう。
「ククク……! 貴様からホモ臭がする限り、俺から逃げることは出来んぞ?」
(……ホモ臭だと!?)
何の臭いかはさっぱりだが、どうやら俺から特殊な臭気が漂っているようだ。
「……ならば!」
俺は周りを見渡し使えそうな物を物色した。洗剤コーナーで洗剤と入浴剤。そして日用品コーナーでホッカイロとライターを手に入れ慌てて調合を始めた。
「んん? コソコソと何をしている……!?」
俺はホッカイロの袋を破り、中に入浴剤を入れて揉み混ぜた。そしてライターで火を付ける!
「工業高校で化学専攻なのがこんな所で役に立つとはな……!!」
「……何か臭うぞ! 貴様何をした!?」
「仕上げがまだだ」
俺は焼いたホッカイロに洗剤を大量にぶちまける!
ホッカイロはシュワシュワと泡立ち、忽ち腐卵臭が辺り一体を包み始めた!!
「ぐぅ!! 何だこの腐った様な臭いは―――!!」
「硫黄たっぷりの入浴剤で作った硫化水素だよ!! これで俺の臭いは分からなくなっただろ!?」
「クッ……! 小癪なホモめぇ!!」
俺は再び走り出し、止まったエスカレーターを駆け上がって二階の衣類コーナーへと逃げ込んだ。
臭いは分からなくなったが、いつまでも逃げてばかりではいられない。何とか反撃のチャンスを覗うため、俺は辺りを見渡した―――!
「このクソホモォォォォ!!!!」
──ブオンッ!!
「のわっ!!」
なり振り構わず鉄パイプを振り回すオヤジが俺の目の前へと現れた!!
「何故だ!? 臭いは上書きしたはずなのに!?」
「グヘッ! グヘヘヘヘ!!」
オヤジの鉄パイプは衣類コーナーのマネキンをぶち壊し、試着室のカーテンが破れ中に居た着替え中のマダムにマネキンの頭が当たった。
必至で衣類コーナーを逃げ回り、オシャレな服を着たマネキン達の隙間へと入り込む。マネキンのフリをしてやり過ごす作戦だ。
「…………」
(来るなよ……来るなよ……!!)
「…………」
オヤジはキョロキョロと俺を探し、マネキン達の近くをすり抜けて行った…………。
(危なかった……)
俺は安堵の息を漏らした。
「……死ね」
「!?」
──ブオンッ!!
「あがぁ……!!」
後ろから鉄パイプが俺の左肩を直撃した!!
「幾ら隠れても無駄だよ……バーカ!」
「クッ……」
左肩に激痛が走り、左手が力が入らなくなる。
「ヤバ……」
俺は現実に迫る死の痛みで頭が真っ白になり、訳も分からず家電コーナーへと逃げ出した―――
家電コーナーは全ての機械が止まっており、テレビ画面が止まった世界を映し出す。ニュースキャスターが口を空いたまま固まっており、野球中継ではヘッドスライディングした選手が滑り込んだまま固まっている。
「何処だぁ!! 何処へ逃げたホモ野郎!!」
オヤジが激しく暴れ回り、電化製品を片っ端から鉄パイプで殴り付けている。
俺は半分諦めた様にテレビにもたれ掛かり、左腕を庇い死を覚悟した……。
しかしオヤジは中々俺に辿り着けず、しつこく電化製品を壊しまくっていた。
「……なんだ? なぜ壊す?」
俺はポケットから先程仕入れたホッカイロの残りを取り出した。
「……まさか」
あることに気付いた俺はまたもや走り出した!!
そして片手で持てるマッサージ器を失敬し、再び衣類コーナーへと突入した!!
「そっちかホモ野郎!!」
俺に気付いたオヤジがいきり立って後を追いかける。
俺は歯でホッカイロの袋を破り、手当たり次第オシャレマネキン達に振りかけまくった!
「これでお前の熱感知も使えまい!!」
「な、何故バレた!?」
「お前がさっきまで動いていた電化製品を手当たり次第壊していたからだよ!!」
「クッ! ホモの浅知恵めぇ!!」
キョロキョロと見渡すオヤジ。俺は衣類コーナーで適当な服を身につけ、完全に気配を絶つ。
「ココかぁ!!」
──ガチャン!!
「コッチだよアホ!!」
──ゴツンッ!!
マネキンをぶん殴ったオヤジの後ろからマッサージ器で思い切り後頭部を殴り付ける。鉄パイプ程ではないが、そこそこ効くはずだ!
「小賢しいホモめぇ……!!」
ヒットアンドウェイで一撃離脱を繰り返す俺。マネキン達はホッカイロの鉄粉でホカホカに温まっており、熱感知では俺とマネキンを区別することは難しい。
「ホモのクセに!! ホモのクセにぃぃ!!!!」
「うるせぇ!! そのホモにやられて正しく『ホモ、猫を噛む』って奴だな!! トドメの一撃を喰らえぇぇ!!!!」
──ガシッ!
「うお!?」
「!?」
俺が振り下ろしたマッサージ器を、見たことも無い美女が片手で受け止めた。絵に描いた様なビーナスを体現したその美しさに、俺はホモでは無いことを再認識する。
「何をしているのです……」
「ガ、ガブリエル様っ!! も、申し訳在りません!!」
おい、今ガブリエルとか言わなかったか? たしか、かなり凄い天使様……だっけ?
「人間の子よ、我が従者が数々の非礼、実に申し訳ないことをした」
ペコリと頭を下げる美女。どでっかい乳がぷるんと揺れ、俺は自分がホモでは無いことを再々認識した。
「えー……っと、何? とりあえず……何?」
何からツッコめば良いのか分からず、アホみたいな質問しか出て来ない。美女はニコリと微笑み、俺の左肩に手を置いた。すると痛みが忽ち消え失せ左腕に力が入るようになった。
「うお! すげぇ!!」
「世界が滅ぶ未来が変わりました……。我々はこれにて撤退致します。……そして世界を救うためとは言え、人の子を殺めようとしたお前は始末書を五枚くらい書いて貰いますよ?」
「へぇ!? そ、そんな……!!」
謎の光に包まれ、美女とオヤジが消え始めた。
「人の子よ、早く元の場所へと戻るのです。じきに時が動き出します……」
辺りは一面滅茶苦茶に壊され、今時が動き出したら間違いなく俺が犯人扱いされるだろう。て言うか直してから帰れよ…………。
俺は月美ちゃんの隣へと帰ってきた。途中で何度も性犯罪を犯したくなる衝動を抑え、最後に月美ちゃんの手をぎゅっと握った。未だに世界は止まったまま。俺は少しだけ世界が動き出すのが惜しくなった。
「月美ちゃん……好きだよ」
俺はこっそり止まったままの月美ちゃんにキスをした―――
──パチパチ
(なにやらまつげが動いてる気が……)
うっすらと目を開けると、そこには赤面した月美ちゃんが目をパチクリとさせていた。
「あ……ココで動き出すんかい…………」
止まった世界が動き出し、俺は公衆面前の前で彼女にキスをしてしまったのだ。
「……もう! ……責任取ってよね♡」
「オッケー!!」
──ガバッ!!
俺は月美ちゃんに激しく抱き付いた!!
そのまま月美ちゃんのスカートの中へと手を入れたい衝動は抑えつつ、俺は月美ちゃんをガッシリと抱きしめた。
──ムニュ
(嗚呼……月美ちゃんの股間から何やら盛り上がった何か……が……あぁ!?)
──ガバッ!
月美ちゃんから離れ、俺は月美ちゃんの股間を無言で指差した。
「……!? ……!!」
「へへ……私ね……おとこのこ……なの♡」
照れながらモジモジと指を絡める月美ちゃんは、ぶっちゃけるとさっきの美女より可愛かった。
「うん、もうホモでいいや♪」
世界は救われたが、どうやら俺がホモになる未来は変わらないようだ―――
最後まで読んで頂きましてありがとうございました!!
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