出会いの章
「すべてお前のせいだ」私の人生はこの言葉で始まった。
産みたくて産んだんだろう?私の事を。違ったならすまないね。でも責任は貴方にあるよ。
ねぇ母上?
愛を知らずに育つ子は親を殺めるらしい。私流の考えだがね?
手と下駄、美しい花柄の着物も今では赤色で台無しだ。
手から滴る雫は床に水溜まりを作る。
母上と2人きりの書店のステンドグラスから差す光が水溜まりに反射し本棚から壁までを一斉に虹色に照らしあげる。
「まるで幼い頃飲んだラムネのビー玉みたいだね、母上のおかげでそんな昔の事を思い出せたよ。」
「ありがとう。」
そんな無感情の礼をひとつこぼし私は書店を後にしようとしたがこの書店の雰囲気はなかなかに良いものだった。母上を殺めてしまったその状況を含めてもね。
「このまま殺人現場として厭忌にされてしまうのも勿体ない。此処にこのまま住んでしまうのも悪くないが母上の香りが染み付いた古本を読みその香りに心地良さを覚えてしまうのはあまり良い気分がしない。第1に死んだ母上をどう片付けようかそれが問題だ…。」
ここまでを考えてから母上を殺すんだったな…
考えて考えて考え続けて思いついた案は全てダメだった。
私はあまり頭の良い方では無いんだよ。
もう考え続けた時間なんて気にならなくなった頃それは突然現れた。
『カランカラン』
「まったくこれも考えつかなかったなんて自分に失望してしまいそうだよ。」
勢いよく音を立てて開くドア、ベルは軽いを音を立てる。
尾骶骨から脊髄をゆっくりと舐め上げられる様な感覚を感じ一気に不安が募る。あぁ母上さえ殺さなければ私は今頃野良猫にでも煮干しをやってるのだろうかなんて考える。
きっと私は死刑になるのだ。実の母を殺めたのだからそれくらいの仕打ちがあって当然だろう。
だがその不安は一気にかき消される。
入ってきたのは勢いよく鳴ったドアの音と反してまだ幼い少女だった。
少女は息を荒らげ
「たすけて!」
ただそれだけを言い私に抱きついた。
母上なんかには目もくれず水溜まりを踏みつけワンピースの裾に染みを作る
「どうしたんだい?そんなに慌てて」
細く滑らかな毛を撫で問う
「助けて欲しいの。」
「何かに追われていた?」
「追われていないけれど…」
「けど?」
「逃げ出したの」
「家からかい?」
少女は無言で頷き抱きつく力をより一層強くした。
「そうかそうか、で、私にどうしろと?」
少女は少し驚いた顔をしていた。自分がまだ幼いからすぐにでも助けてもらえるとでも思っているのだろうか。
生憎私は殺人犯そんな安易に人など助けている場合では無い。
母上の処理を考えねば…
「少しの間でいいの、ここに住ませて!こんな歳じゃ働けもしないし…行く宛てが見つかればすぐに出ていくから!おねがい!」
「…」
「何でもするから!」
「じゃあ、」
少女は唾を飲む
「これの処理方法を一緒に考えてくれ」
少女はきょとんとした顔をしている。実に子供らしいそんな表情だ。
「それだけでいいの?」
「いや、今はこれだけだよ。でも、君頭は冴えている方かい?」
「普通だと思うわ。」
「普通…か、まあ、私よりは良いはずだ。じゃあ考えようか」