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どうやら僕の先輩は極度の寂しがり屋なようで。

作者: わさびマヨ

連載のお試しで投稿している作品ですので、くだくだなこともあると思いますが、暖かい目で読んで頂けると嬉しいです。

「なぁ、そういえば学校から出されたアレ、ちゃんと終わらせたか?」



夕暮れ時に、見慣れた田んぼの間に作られた細道に少し古びた自転車を転がしながら、隣をテクテクと歩いている俊介がなんとなくといった感じで、僕に向かってボンヤリと語りかけてくる。


僕は左右にだらだらと垂らしていた両手を頭の後ろで組み、「うーん」と少し考える素振りを見せたあとに素っ気なく答える。



「まぁ、終わってないかなぁ」



そうボンヤリと答えると、俊介はクスクスと笑いながら「やっぱりな」と楽しそうに答える。そして、彼は自転車のハンドルに無造作に掛けられたコンビニのレジ袋から炭酸飲料を取り出し、チビチビと飲みながら話を続ける。



「っていっても、あと三日しかないぞ、夏休み」



俊介は、まるで僕を試すかのような口調で薄い笑みを浮かべながら語りかけてくる。



「そうは言っても、やる気が出ないんだよ。やる気が」



僕はそう呟くと、少し先に流れている小さな小川に向かって足を動かす。そして、そこらに生えた中くらいの木に貼り付いて鳴くセミの声を聞き流しながら、河川敷に流れ着いた平たく丸まった石を川の向こう岸に向かって思い切り投げてみる。



「ははっ。和也なら絶対そう言うと思ったよ」



投げた石がしっかりと岸まで届いたかと目で追っていると、隣で俊介が自慢の腕をしっかりと振るい、投げられた石は一直線に向こう岸へと向かっていく。



「でも、俺は案外楽しいと思うけどな、天体観測――」



俊介はそう隣でボソリと呟くと、自転車の篭に入れられた学生カバンから数枚の写真を取り出す。そして、その数枚の写真を僕の前の方で自慢するようにヒラヒラと見せてくる。


僕はその写真に何が写っているのか確認したくて、少し体を乗り出しながら写真に目線を落とす。


その写真に写っていたのは、暗闇の中で光る、輝かしい星たちの姿であった。色とりどりな星の光、一枚にだけ映る綺麗な流星、そしてなんといっても、辺りを明るく照らす天の川を見た瞬間、僕はとても懐かしい気持ちに包まれるような感覚を覚える。



「どうだ? 面白そうだろ?」



ボーッと写真を見つめていると、僕を起こすように頬をペチペチと叩きながら言葉を投げ掛けてくる。



「……まぁ、確かにな」



僕は自身の手のひらに握り締めている梅干しくらいの小石をコロコロと数回転がしながら、過去を懐かしむように呟く。


しばらくの間、遠い山をトロンとした目で眺めていると、不意に左回りの頬に冷たい感触が伝わる。夏独特の生暖かい空気を肌で感じていた僕は、その夏に場違いの温度に一瞬体が無意識にビクッと反応する。


そして、何があったと視線を左に動かせば、少し減ったグレープ味の炭酸飲料を小さく振りながらしてやったり、と爽やかな笑みを浮かべる俊介がそこにはいた。


僕はせめて反抗の意志だけでも見せようとそちらの方を睨み付けるが、あちらは相変わらずニコニコと笑っている。


そんな時間が数秒続くと、俊介はふと空を見上げたあとに、数歩足を動かして少し盛り上がった細道に止めてある自転車のサドルに腰を下ろす。



「ごめん、ちょっと雲行きが怪しいから先に帰らして貰うわ」



右片足でロックを外し、右手で空を差しながら俊介が申し訳なさそうな顔で話しかけてくる。



「……あぁ、分かったよ」




砂利道を進む時に鳴る、小石の音に耳を委ねながら、自身の右手で力強く握り締めていた石に目線を移す。そして、それと同時にその力を解放するように右手に持つ小石を川へと投げ込みむ。石は数回水面を跳ねたあとに水に沈み、いつの間にか砂利の音も聞こえなくなっていた。


そんな光景を数秒間ボーッと見つめのちに、僕はゆっくりと腰をあげ、夕暮れに照らされる道を一歩一歩歩いていくのであった。



※※※※※※※※※※※※※※



ぼんやりと道沿いに足を動かしてから数分後、心地よい音を出していた砂利道は姿を消し、いつの間にか目の前には車が通るコンクリート製の大通りが無気力に瞳に映し出しされる。


先ほどまで辺りを明るく照らしていた太陽も姿を消して、それに代わって道路に一定間隔に設置された街灯が淡く常に光を放っている。


そんな通りに面した一軒の家に、僕は住んでいる。


通りの先にぼんやりと家の輪郭が見えると、 僕は少し歩みを速めながらその家のある方に向かって歩いていく。


数歩歩いたところで玄関先にたどり着き、少し明かりが灯っている自身の家を視界の隅に置きながら、真新しい玄関のノブに手を掛けてゆっくりと開けていく。


扉を開けると、辺りは一面暗闇に染まっており、その奥にはぼんやりと階段の輪郭が現れていた。そして、廊下の端にスリガラスで作られた数個ある扉の中で唯一明かりが灯っている扉に向かって歩みを進め、少し丁寧な手つきで扉を開けてその中にへと入っていく。


扉を開けると、扉の隙間からひんやりとした空気が流れ込んでくる。そんな空気に一瞬肌が鳥肌を立たせるが、すぐにそんな空気の温度に慣れて、鳥肌は徐々に収まってくる。


そして、僕は目線をゆっくりと上げて、辺りの状況を確認しようと部屋の中を見回す。


最近作り変えられた真新しいフローリングの上には高校の制服とソックスが脱ぎ捨てられており、部屋の中にはスナック菓子特有の甘ったるい匂いが広がっていた。


そんな光景を数秒見ると、僕は大きく一回深いため息をつきながら目の前のソファーに座っているであろう自身の妹に向かって声を投げ掛ける。



「おい|涼風、部屋の中は綺麗にしろっていっただろう」



そう少し強い口調で目の前にあるソファーに向かって言葉を投げ掛ける。すると、ギギッとソファーのあたりから鈍い音がなり始め、ソファーの方からむっくりと不機嫌そうな顔をした我が妹が口を尖らせて言葉をぶつける。



「うるさいなぁ。それくらい良いじゃん、お兄ちゃんが細かすぎるんだよ」



「いや、そうは言ってもな……」



辺りを見回しながらどうするべきかと頭を悩ましていると、ついさっきまでソファーに腰をかけて足をプラプラしていた筈の涼風がこちらに乗り出すようにして話しかけてくる。



「あ、早くご飯作ってよね。私もうお腹が空いてペコペコなんだよ」



お腹を擦りながらいかにもお腹がすいていそうな態度を涼風は取る。



「あぁ、ごめん。今からちょっと用事があるから近くのスーパーで弁当でも買っておいてくれ」


そう呟くと、涼風は少し残念そうな顔をしながら話しかけてくる。



「えー、お兄ちゃんに用事なんてあったんだぁ。どんな用事?」



「あれだよ、夏休みの天体観測。明日からは台風が来て観測出来ないだろ」



僕は人差し指で窓から見える空を指すと、涼風「うーん」といった感じでなんとか納得してもらえたようであった。


そんな妹の様子を確認すると、リビングの扉の近くに掛けられたバックに手を伸ばし、観測のために必要な道具を片っ端から詰め込んで肩に提げる。



「それじゃあ、行ってくるわ」



リビングの扉に手を掛けて、後ろにいるであろう妹に向かっててを軽く振りながら、僕は自宅を後にした。


※※※※※※※※※※※※※※※



夜行性の動物も活動し始めるこの時間。十代位の若造が入る場所ではない山奥の中で、必死にペダルを漕ぐ青年がいた。



――ハァ、ハァ……。



真っ暗な参道に一人の男の荒々しい吐息と砂利の音が響き渡る。


青年は白色の少し古びたママチャリに跨がり、ただ地元で有名な星の観測場所である山の頂上へとペダルを進める。


苦しい、痛い。そんな悲痛な願いを体全体があげている。だが、そんな思いを無視するかのように僕はペダルを漕ぎ続けた。


そして、ふとした時には既に頂上へと到着していた。


いつ、着いたのであろうか。そんな疑問が頭の中を過るが、それを書き消すかのように今までの疲労感が身体中を襲ってくる。


僕は、そんな苦しい感覚を抑え込もうと近くの大きな石に腰をかけて息を落ち着かせる。


街灯のない真っ暗な闇の中で息が徐々に整っていくのを感じていると、ふと奥の方から人の気配を感じる 。


石に腰をかけたまま、そちらの方に目線を移すと、そこには一人の少女が立っていた。


その少女は長い黒髪をさらりとぶら下げており、学校の制服と思わしき服の中からはスラリと長い綺麗な脚が伸びている。空から降り注ぐ月光の美しさにを合わさっており、とても大人びた少女という印象を僕に抱かせた。


そんな光景をただ呆然と見つめていると、その少女にある変化が訪れた。


なんと、その少女が淡く光始めたのだ。光始めたといっても、蛍のようなものではない。その光はどちらかというと、この夜空に広がる星たちの光が合わさった儚い光といった方が良いであろう。


そして、光は徐々に強くなり、少女にまた新たな変化をもたらした。


なんと、少女の頭からピョコンと兎の耳のようなものが生えてきたのだ。そんな不可思議な出来事がきっかけとなったのかどんどんと少女は人間の姿を失いつつあった。


僕はその光景を呆気に取られたように見つめていると、その少女がくるりこちらの方に振り返る。


そんな少女の行動を見て、心臓が一瞬止まったのを無意識に感じていた。


二人の間に、沈黙の空間が流れていく。突然の出来事であり、何をすれば良いのか焦っていると、目の前に立つ少女は薄くクスリと笑って見せた。


僕はそんな彼女の行動に呆気にとられていると、彼女はこちらに向かって顔を近づけてこう告げるのであった。



――助けて、と。


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