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華族と家族  作者: どばどば
終節 月下美人
36/37

ー10

単語の説明はありません


[前回のあらすじ]

 一夜明け、部屋で編み物をする染音の元に鷯の母が訪れる。昼食の為に呼びに来たのだが、鷯の母は、染音の、長く四角い箱が気になっている様であった。

 染音が再び学院へ行くと、またしても滌堂院と久城と出会う。再び染音に不満を露わにしつつも、滌堂院は染音を屋敷へ送るのだった。

 滌堂院と関わりを持つことに動揺する鷯の母を横目に、二日後、久城が屋敷を訪れた。滌堂院が染音を気遣い、目薬を用意したというが――


「・・染音さん。」

「・・・・」

揺れる馬車の中、私は名を呼ばれましたが、何か返事をする気になることは出来ませんでした。



 揺れが収まると、手を握られ、其の儘連れられて行きました。

「只今戻りました。」

「鷯さん、如何(どう)でしたの。完治にどれ程掛かりますの?」

義母様(おかあさま)と思しき声がしました。

「・・完全に失明し、見込みは無いと。」

私の両目は、頭部を一周する様にして巻かれた包帯によって覆われている様です。

「!・・然うですのね。」

暫く静寂に包まれました。

「然う言えば、鷯さん、軍の会議では無かったのですか。」

「然うですが、此の様な時では――」

「こんな事で欠席したのでは示しが付きません! 鷯さんも志布志家に恥を掻かせるのですか!」

「っ・・・お母様は染音さんよりも評判の方が大事なのですか!」

「当然でしょう! 兎に角行きなさい!」

「!・・・・分かりました!」

数瞬の後、鈍い音が響きました。

「全く・・染音さんの事となると口五月蠅(くちうるさ)いですわね。漸く話すべきことを話せますわ。」

「・・・・」

「先程退学届を提出致しましたわ。」

「!・・退学・・ですか・・・?」

「っ・・当然でしょう。何も出来ない上に、晒し者になることは明らかですわ。外出は禁止です。」

「あの・・でも・・・(ゆき)さんのお散歩は・・」

「・・・・」

(また)静かになってしまいました。

「分かりましたわ、其れだけは認めます。今はお部屋へ行きなさい。」

其の後、直ぐに足音が響きました。次いで、別の女性の声がしました。

「染音様、此方(こちら)です。」

侍女のお姉さんだと思います。背に何か――きっと手だと思います――が触れ、直ぐ傍に気配を感じました。其の儘私は誘導されていき、ゆっくりと階段を上がりました。そして、然程(さほど)歩かない内に椅子に座るよう言われ、座りました。



 傍に気配が無くなったと思うと、別の音が徐々に大きくなってきました。

「――!」

「!」

聞き覚えの有る吠え声、きっと樰さんです。

 今度は足元に大きな気配を感じました。そして、再度吠え声が聞こえました。

 恐る恐る手を伸ばしていくと、さらさらとしたものに触れたので、しっかりと掌を当てました。温かみが有りました。

「・・・樰さんですか・・?」

「――!」

「・・良かったです・・・」

私はゆっくりと立ち上がろうとしましたが、体勢を崩してしまい、直ぐに膝を突きました。少し膝が痛みましたが、幸い樰さんが支えてくれて、倒れずに済みました。

「・・・ごめんなさい・・」

「――」

「・・こんなに・・・大きかったんですね・・」

腕を回して、体を寄せると、とても大きく感じました。



 其の時間は余り長くありませんでした。其の大きなものが動き、小さな音と共に気配が無くなった様に感じました。上体が倒れそうになってしまい、私は急いで両手を突きました。

 きっと、何処かに居ると分かっている筈ですが、私は大きな不安に駆られました。自分が屋敷に居る筈だと分かっていても、(ぬぐ)えません。何か変わるとは思えませんでしたが、私は椅子に座ろうと思い、ゆっくりと手を這わせていきました。

 しかし、幾ら探しても、絨毯の感触しか無く、何かに当たる様子は有りませんでした。服が汚れると、(また)義母様(おかあさま)に怒られてしまうと思い、私はそっと立ち上がりました。以前当然の様に立っていたことが嘘かの様に、脚の震えが止まりません。



 私は暫く其の儘の状態で落ち着きました。其れから、手を小さく出して、小さく足を踏み出して行きました。

 突然脚が何かに当たり、私は其の儘倒れて行きました。前に、何かの気配は無い。けれど、若しかしたら、気配を感じていないだけで、机が有るかもしれない。無駄だとしても、手を出さずには居られませんでした。

 私は全身を打ち付けたのでしょう、胸から足先まで、痛みました。

「うぅ・・・」

何とか上体を起こしました。此処で安定しているということは、きっと床なのでしょう。

 すると、甲高い音が聞こえてきました。

「染音様! ご無事ですか!」

突然背後に感じた気配に、私は肩を震わせました。手を握られ、私はそっと立たせられました。

「椅子にお座りになって、お待ちください。」

「・・・あの・・寝台(ベッド)に、お願いします・・・」

「分かりました。」

誘導され、座るよう言われ、支えられながら腰を降ろしました。先程と異なり、ある程度深く沈みました。

「お夕食の際、お呼び致します。」

然う言われ、小さな音がしました。

 私は手を突き、ゆっくりと体を寝かせていきました。そして、脚を乗せ、伸ばすと、とても落ち着きました。



「・・・」

「染音お嬢様、お早うございます。」

「・・・?」

暖炉の前にしゃがみ込んでいた女性が立ち上がり、私の方を向き、然う言いました。其の女性は、結城さんの屋敷の侍女のお姉さんに似ていました。

「既に夕食が出来ております。結城様がお待ちです。」

「!・・結城さんが・・・?」

其の女性は微笑むばかりで、其れ以上何も言いませんでした。

 歩いて行ってしまうので、私は慌てて寝台から立ち上がり、連いて行きました。

 階下の食堂の前に行くと、例の場所に結城さんが座っていました。

「・・結城さん・・・!」

結城さんの元へ駆け出そうとしましたが、目前に腕を差し出され、足を止めざるを得ませんでした。

「食堂へ入ってはいけません。」

「・・・?」

結城さんは洋卓(テーブル)の朝食を食べていて、私達に気付いていない様です。しかし、私は結城さんの向い側に用意されている食事が気になってしまいました。

「・・他に誰か・・・」

「丁度居らっしゃいました。」

突然、私の横を一人の女性が通りました。其の女性は結城さんの向いに座り、食べ始めました。

「姉さん、染音は。」

「まだ眠っていたわ。きっと、夢でも見ているのでしょう。」

「然うか。」

二人は其れ以上何も言いませんでした。

「・・如何(どう)して、結城さんと結衣さんが・・・?」

隣の女性に尋ねました。

「お二人が居らっしゃるのは当然でございます。此処(ここ)は、山城家の屋敷なのですから。」

「・・・でも・・結衣さんは・・・」

「難しくお考えにならずとも良いのです。此方(こちら)で、暫しお二人をご覧ください。」

「・・・」

其の女性は(また)微笑むだけでした。



「――」

「・・・」

私の名を呼ばれている様な気がしました。

「染音様。」

「・・・はい・・」

「お夕食のお時間です。」

まだ意識がはっきりとしていませんでしたが、私は上体を起こしました。

「お疲れだと承知しておりますが、此の様なお時間にお眠りになるのは宜しくございません。」

「・・ごめんなさい・・・」

先程と同様にして、私は連れられて行きました。

 私が座ると、直ぐに、目前で音がしました。そして、直ぐ傍に気配を感じました。



 決してお料理が美味しくなかったという訳ではありませんが、夕食はあまり気分が良いものではありませんでした。自分では出来ないので、食べさせてもらったのです。だから、次からは部屋で、一人で食べたいと言ったのですが、義母様(おかあさま)の叱責を受けることになってしまいました。其の様なはしたない真似をするな、家具や絨毯が汚れてしまう、と。

 お風呂でも、侍女のお姉さんが付き添いました。



 翌日、私は樰さんの散歩へ行くことにしました。手に、手綱――手綱という程のものではないかもしれません――を結んでもらい、引っ張られる儘に歩いて行きました。

 どれだけ、歩いたのか分かりませんが、靴越しに感じる地面の感触が変わった様に思いました。然う思うと、(また)直ぐに変わりました。同時に、乾いた、擦れる音もする様になりました。

 其処(そこ)で、引っ張られる感覚が無くなりました。

「――!」

「・・・樰さん・・?」

「――!」

突然、手綱が結ばれた手に、生温かい感触がしました。少し硬いものも当たっている様です。

「――!」

樰さんは何を・・・手綱が引っ張られ、手が痛みました。私は、咄嗟(とっさ)に手綱を外してしまいました。すると、其れまで感じていた気配が突如として消えました。

 私は思わず、其の場に崩れ落ちてしまいました。

「・・・何処に・・」



 今日は、晴れていないのかもしれません。風が、冷たく感じます。















36本目をお読みいただき、ありがとうございます

引き続き、本作品をお楽しみください


しばらく2000字程度の部分が続いておりましたので、少々長く感じた方もいらっしゃるかもしれません

次回以降もこの程度になる見込みですので、ご了承ください


また、質問、意見、感想等ありましたら、遠慮なくお声かけください

お待ちしております


今後ともよろしくお願いいたします



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