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華族と家族  作者: どばどば
第1節 華の咲く場所
2/37

ー2

単語の説明です。

また、外来語に関しては、漢字読みしていただいても差し支えありません。例えば、本作品では「テーブル」は「洋卓」と表記されていますが、「ようたく」とお読みになっても構いません。


・学院

 街の唯一の学校。男子部、女子部に分かれており、初等科、中等科、高等科がある。一般に中等科までだが、華族は高等科まで進学が許可されている。市民は、成績優秀者に対して進学が許可される場合がある。


・円(単位)

 1円は現在の2万円。

 其れから二月(ふたつき)が経った。あの日から週に四回程の間隔で大淀に会いに行った。

大淀と会う様になる前からずっとだが、華街から帰ってくる度に姉に怒鳴られた。

 でも、そんな事は気にすることもなく、俺は変わらなかった。


「・・・」

「ほら、起きて。」

「・・・」

「もう六時よ。仕事が有るのでしょう。」

「仕事・・?」

「ええ、然うよ。」

「・・今日は何日だ・・」

「長月の十四日よ。」

「・・・今日は休みだ・・」

「あら、然うなの? 今年は無理だと言っていたのに。」

「・・嗚呼。」

「其れなら、一日空いているのよね。」

「・・嗚呼。」

「一緒にお出掛けしない? 其れから、夕食も一緒に、ね。」

「夕食だけなら、な。」

「如何して? 一日空いているのでしょう。」

「会わないといけない人が居る。午前中から。」

「まさか、華街ではないわよね。」

「違う、が、華街は夕方から行く。」

「! こんな日まで華街に行くの!?」

姉は俺の布団を剥いだ。

「そんなに華街が良いの!?」

「如何した。」

「もう良いわ! 勝手に行ってきなさい! 夕食も一緒でなくて良いわ!」

「・・・」

姉は俺に布団を投げつけた。そして、扉を乱雑に閉め、部屋を出て行った。



 俺は姉が何故怒ったのか、今一分からなかった。正確に言えば、何故華街に行くことに其れ程怒るのか。確かに、今日という日を考えれば、分からなくはない。だが、華街に関しては分からない。姉は華街が嫌いなのか。だとしたら、何故そんなに嫌うのだろうか。

 一先ず、俺は支度をして、朝食を済ませた後、屋敷を出た。



 目的地は愛馬で一時間程の所に有り、門の所で俺は馬から降りた。暫く其処で、屋敷を眺めていると不意に話しかけられた。俺は半歩退き、声の主の方へ体を向ける。

「山城さん? 何か御用でしょうか。」

八雲(やぐも)さんですか。」

「ええ、然うです。」

「お話したいことが有るのです。少々お時間をいただけますか。」

「主人に聞いてみます。中でお待ちください。」

其の女性は俺を応接室に案内した。暫くすると、男の人を連れて戻ってきた。俺は一度立って挨拶をする。座るよう促されてから座ると、女性は持ってきていた紅茶を洋卓(テーブル)の上に置いた。

「では、ごゆっくりどうぞ。」

「いえ、貴女もお座りください。」

女性は驚いた様で、戸惑いながら座った。



軽く礼を言い、俺は本題に入った。

「単刀直入にお聞き致しますが、娘様について、お話していただきたいのです。」

「・・娘、ですか。申し訳有りませんが、娘は居りません。」

「何処かに出掛けていらっしゃるのですか。」

「いえ、そもそも娘が居ないのです。」

「では、赤子を拾ったことは。」

「!・・・」

「いえ、有りません。」

男が何も言わなかったからか、女性が慌てて答えた。

「本当にご存じありませんか。其の赤子は羽染(はぞめ)という姓なのですが。」

「! 何処で聞いたのですか・・!」

女性が驚きと怒りが混ざった様な、そんな声で言った。

「落ち着きなさい、山城さんの前だ。」

「!・・・ごめんなさい。」

「失礼致しました。其れで、山城さんは何故其れを?」

「其の娘を捜しているのです。いえ、というのも、其の娘の母上、羽染彩羽(いろは)さんから頼まれたのです。」

「然し、ご存じの通り、羽染家は先の戦後に処刑されています。」

「ええ、然うです。実は羽染彩羽さんとは、面識が有ったのです。僅か三年でしたが。彩羽さんは羽染家が処刑されることを分かっていたのでしょう。一人娘を置いてきた、と処刑の前日話していました。私は其の遺志を受け継ぎたく、此方(こちら)に来た次第です。詳しくは申し上げられませんが、お赦しください。」

「・・然ういう事でしたか。確か、其の様な事が赤子と共に置かれていた手紙に書いてありました。




深夜、妻と自宅に居た時のことです。門の前に赤子が籠に入れられ、置かれていたのです。其の儘にする訳にもいかず、妻と私は家の中に入れ、休ませました。其の時、先程申し上げた様に、手紙が有ったのです。綺麗な字で、娘をお願い致します、と書かれていました。私達は其の娘を大切に育てました。ただ、羽染家の子供だということを知られないよう、ずっと気を付けていました。



十三歳の時です。ある日、こんな事を言ってきたのです。

『お父さん、お母さん。』

如何した。

『私、華街に行くことにしたの。』

華街? 如何してそんな所に。まだ十三歳だろう。其れに、あの場所には、行ってほしくない。

『・・・でも・・』

でも、如何した。

『・・もう、お父さんやお母さんには迷惑をかけられないから。今まで、育ててくれたことは、とても嬉しいし、感謝も、してるの・・・でも・・だから・・・これ以上は・・・・』

無理しないで。其の気持だけで充分よ。

然うだ。大丈夫だからな。全く迷惑ではない。

『ありがとう・・・でも・・どうしても、なの・・お願い・・・』



恐らく、数日前に話したからでしょう。娘が其の様に言う数日前、私達は全てを話したのです。拾い子であること、手紙に書いてあったこと全てです。

娘が華街に行った其の日から、会っていません。元気にやっていると良いのですが。




話が長くなってしまって申し訳ございません。」

「・・十三歳・・・華街・・其の娘は――!」



「山城様! 如何なさったのですか! まだ十八時でございます! 申し訳ございませんが――」

「あの娘は居るのか!?」

「!・・あの娘・・ですか・・・?」

俺は華街に急いで馬を走らせてきた。入口の扉を乱雑に開け、案内人に詰め寄り、大淀染音の名を告げる。

「・・はい、居りますが如何――」

「其の娘を引き取りたいんだ! 駄目か!?」

「引き取る・・!? 山城様何を――」

「駄目なのか!?」

「山城様、一度落ち着きなさってください・・・!」

其の言葉で我に返る。案内人にお願いし、水を一杯飲ませてもらった。落ち着いてから、家庭事情を理由に引き取りたい旨を伝えた。

 真の事情など、本人以外には言える筈も無かった。



 支配人まで話を通してもらうと、支配人は何処か嬉し気に承諾した。だが、本人の意志を確認する為、奥の部屋へと通される。暫くして、部屋に()()が来たのだが、いつもの様に俯いた儘だった。

 其の部屋は染音と俺しか居らず、静かだった。俺は出来る限り本当の事は言わず、其れらしい理由をつけて、俺の家に来るよう説得した。染音は何も言わず、ただ俯いているだけだった。



暫くして、染音は小さな声で、ごめんなさい、と呟いた。

「如何した。」

「・・・華街からは、出られません・・」

「其れなら心配は要らない。支配人には許可を貰った。」

「!・・・そう・・なんですか・・・」

「嗚呼、だから安心しろ。」

「・・・でも・・それでも・・駄目です・・・」

「・・何故だ。」

「・・・借金が・・あります・・今は、私はちゃんと働くことが出来ません・・・・だから、もう少し、大きくなったら・・・ちゃんと働いて・・華街へ・・・返さないと・・今は・・・」

「・・然うか。」

「・・・ごめんなさい・・」

「其れならば、其の借金は俺が返そう。幾らかは分からないが、払えるだろう。」

染音は驚きつつも、顔を伏せた儘だった。

「気にするな。元は俺が染音に来てほしいと言った。」

俺は少々間を空けてから言った。反応は得られなかった。



「荷物は俺が持とう。」

「!・・ありがとうございます・・・」

俺は染音から鞄を受け取った。だが、染音は長く四角い箱だけは抱いた儘だった。

「其の箱は大丈夫か。」

「!・・はい・・これは大切なものなので・・・ごめんなさい・・」

「然ういう事ならば構わない。其れで、馬には乗れるか。」

染音は小さく首を横に振る。染音を愛馬の横に連れ、軽く説明をした。支えられながら、染音が足をかけようとした時、愛馬は低い鳴き声を出して、そっぽを向いた。

「如何した。

 大丈夫だ、此の娘は悪い子ではない。

 心配するな。」

愛馬に言い聞かせると、愛馬は仕方無さ気に低く唸った。俺は一言礼を言った。そして、染音を支えてやりながら、乗馬させる。予想外の高さに驚いている様だった。俺も乗馬し、染音を両腕で挟む様にして手綱を持つと、愛馬に合図をして、走らせた。



「あの着物は如何した。」

「・・・置いてきました・・あまり・・見たくないので・・・」

「然うか。俺はあの着物姿の染音も良かったが、染音が然ういう事ならば、尊重しよう。」

「・・・」

「如何だ、久方振りの外は。もう暗くなってしまったが、そろそろ月が綺麗な時間だな。」

「・・・・二年前と・・あまり・・変わらなくて・・・懐かしいです・・」

「近々、街を巡ってみても、悪くないだろう。」

「・・はい・・・」

「今日は、何が食べたい。」

「・・・何でも・・大丈夫です・・・」

「然うか。遠慮しなくて良い。何か有れば気楽に言ってくれ。」

「・・ありがとう・・・ございます・・」



「お帰りなさいませ、結城様。」

「嗚呼、只今。今日は夕食の方を頼む。」

「かしこまりました。」

「其れと、突然の事で驚いただろうが、先程連絡した通り、今日から此の娘も此の家に住むことになった。娘の夕食も頼む。」

「かしこまりました。」

侍女は礼をして、台所の方へ歩いて行った。俺は中央の階段から二階の南側の部屋へ染音を案内した。

「今日から此処が染音の部屋だ。自由に使ってくれ。まだ基本的な家具しか無いが、近々俺の方から、其れと、姉さんの方からも何冊か本なら直ぐに用意出来るだろう。」

「・・・お姉さんが・・いるんですか・・・?」

「嗚呼、居る。然うか、まだ染音には言っていなかったな。丁度向かい側の部屋に居ると思うが。」

「・・・」

「取り敢えず、先ずは荷物の整理をすると良い。夕食時になったら呼ぶ。」



 十時を少し回った頃、遅い夕食となった。だが、夕食の間の空気は最悪だった。

 俺の前に座っている姉がとても機嫌が悪そうだったからだ。夕食を共にするのが久方振りだから、普段の事は分からないが、其れでもいつもとは違うと思う。恐らく今朝の事が有ったし、何より染音が居ることが一番の理由だろう。姉からしてみれば、突然、夕食を見知らぬ少女と共にしなければならなくなったのだ。

 染音を見ると、ずっと俯いている。慣れない手付きで食べていた。時々向かい側の姉を見ては、亦直ぐに俯いた。そんな染音の体が少し震えている様に見えた。

 俺も姉も、染音も一言も話さない。



 姉は食べ終えると、何も言わずにそそくさと自室に戻った。染音と俺も食べ終えると侍女に一言言ってから染音を部屋に連れて行った。自室に行く為に、中央階段を降りていると、姉が部屋から出てきた。

「結城。」

「・・姉さん、済まない。」

「謝らなくても良いわよ。取り敢えず、話がしたいの。」

「・・・然うだな。」



 俺は姉を部屋に連れてきた。姉は迷うことなく、俺の寝台(ベツド)に座った。

「聞きたいことは何か、分かるでしょう。」

姉を見ると既に落ち着いた様子だった。

「引き取らせてもらった。」

「誰から。」

「華街からだ。」

「・・何故華街から?」

「・・・」

「其の前に、あの子は誰よ。」

「・・・羽染染音だ。」

「・・羽染・・? 何故其の家系の子が・・!」

「姉さん、静かにしてくれ。」

「出来る訳が無いでしょう!? そんな事を知――」

俺は姉の口を押さえた。勢いで其の儘後ろに倒れ、俺が姉に被さる様になった。



 暫くして、姉の口から手を離した。

「染音が羽染家の唯一の生き残りだと知っているのは育てた両親と俺等だけだ。」

「・・・」

「他の華族や市民に知られれば、染音は殺される。たった十六年前の事だ。姉さんも知っているだろう。」

「・・・然うね。ごめんなさい。」

「・・俺の方こそ悪かった。驚くのも無理は無い。」

俺は一度立ち、部屋を出て、侍女に珈琲を二杯頼んだ。淹れてもらったものを受け取ってから部屋に戻ると、姉は姿勢を戻していた。

「姉さん。」

「あら、有難う。気が利くわね。」

珈琲を手に取ると、姉は一口飲んだ。

「其れで、染音は何故華街に居たの?」

「・・学院を辞めたんだ。育ての親から経緯を聞き、其れ以上迷惑を掛けられないと思ったらしい。二年前、染音はまだ中等科弐年だったが、働きに華街に行ったんだ。」

「・・・」

「華街でも苦労したそうだ。何とか雇ってもらったものの、性格の事も有って全く出来なかったそうだ。接待の仕方を覚えるのが遅ければ、雑用の仕事でも失敗ばかりしていたんだ。他の遊女からは嫌がらせを受けていたとも言っていた。其れと、金でも問題が有った。華街では、遊女は売上の大半を納めることで暮らしている。染音は当然払えないからな。一年で低く見積もっても四〇〇円。俺が会った時は二年程経っていたから、既に八〇〇円は超えていた。」

「其れで、結城が肩代わりしたのね。侍女が小包を持って行ったのも分かったわ。」

「・・悪かった。」

「別に良いのよ。お金なら幾らでも有る。」

「・・・」

「今は、あの子は如何しているの?」

「風呂に入るように言っておいた。」

「・・・」

「如何した。」

「・・今朝はごめんなさい。」

「何故謝る。」

「何でもないわ。明日の仕事も頑張って。」

「・・嗚呼。」

姉は気付けば、全て飲み干していた。茶碗(カツプ)を机上に置くと、扉の方へ向かった。把手(ノブ)に手をかけると、一度止まり――


「染音の事は心配しないで。」


とだけ言い、部屋を後にした。



 あの口振りからすると、姉が世話でもするのだろう。侍女を信頼していない訳ではない。だが、侍女に加え、姉が面倒を見てくれるのであれば、安心だった。











連載小説2本目をお読みいただきありがとうございます。

1本が短いほうが区切りをつけやすいと思い、今後も1万字に満たない分量で投稿させていただくつもりです。

引き続き、更新がありましたら、お読みくださると幸いです。

意見等ございましたら、遠慮なさらずにご連絡ください。

お待ちしております。

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