(9)最後の秘密
日曜日の昼前。俺は陽子ちゃんと駅で待ち合わせて一緒に電車に乗ると立川駅でモノレールに乗り換えて母の住むマンションに向かった。
幸い雨は降らず、気温も思ったほど暑くならず気持ちよく二人で歩いて行く。
「すまない。母に陽子ちゃんの家でごちそうになった事つい話してしまったら今度来る時、お礼にごちそうしてあげたいから連れて来てって言われて」
木曜日、鍵を返しに職員室に行った際に陽子ちゃんに事情は説明して快く招待を受けてもらえてはいた。
「ぜんぜん。肇くんのお母さんってどんな人か楽しみ」
ありがたい事に陽子ちゃんもこう言ってくれていてうれしい。母も陽子ちゃんの事はいい友達だと思ってくれるに違いない。それは確信していた。
ただ、一つだけ言ってない事があるんだよな。言おうかと思ったけど少々恥ずかしいものがあって言えなかった。
目的地のマンションが見えてきた。エントランス近くでは赤ちゃんを抱いて手を振っている女性がいた。
「肇くん。手を振ってる人ってひょっとして?」
「うん。母さんと妹。妹の名前はニコル。今度一歳になるんだ。ニコちゃんって呼んでる」
流石にこの歳で妹が出来たというのは何故か恥ずかしいものがあって事前に言えなかったのだ。陽子ちゃんは小走りに母親とニコルに駆け寄ると「初めまして。肇くんのお母さんですか。私、三重陽子って言います!」と二人に自己紹介。ニコちゃんはその名の如く笑っていた。