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(7)B 2018年6月6日水曜日

(承前)


 放課後、肇と陽子ちゃんは生徒自治会室に行った。陽子ちゃんが当番の日だったのだ。古城はこの日もやって来てコーヒーを選挙管理委員の子に奢っていた。職員室から何か配布物とかあるからという伝言を持ってきた子がいて古城が選挙管理委員の子二人を連れて職員室へと向かった。俺と陽子ちゃんが留守番になった。


 窓際でコーヒーを飲んでいたら陽子ちゃんが寄って来た。


「肇くん、あの子の要望断った理由ってそういえば聞いてなかったね」


陽子ちゃんはいい勘をしてる。


「してなかったな。これは陽子ちゃん限りにして欲しいけど」


陽子ちゃんはしっかりと首を縦に振った。


「私から誰かの口に漏れる事はないよ。肇くん」


無論、俺は陽子ちゃんを無条件で信じている。


「要するに親父とおふくろの間でゴタゴタがあった真っ最中だったんだよ。ほどなく離婚が成立しておふくろは家を出てしばらくして別の人と知り合って幸せな結婚をしたよ。親父とは年の差あったからな。やり直せて良かった」


陽子ちゃんは俺に近づくと優しく抱きしめてくれた。


「辛くなかった?」

「なかった。母親の幸せを祈る息子がつらい訳がない。親父は仕事人間で家庭なんか放ったらかしの人だ。母親はちゃんと一人で生きていける人だし、そういう事を尊重する人と一緒になるべきだった。俺のために不幸せであり続けるより遙かにいい」

「肇くん」


そう言って俺の背中を撫でてくれた。俺は陽子ちゃんの肩にそっと手を置いて離れた。


「ありがとう。陽子ちゃん」


 そんな事を言っていたら引き戸が少し開いて止まった。古城の眼がじっと俺を見ている。古城が余計な事を想像していると瞬時に確信した。


「古城、さっさと入れよ。変な事を想像してるならお前の勘違いだからな」

「別にいいんですけどー」


引き戸が開いて古城がそんな事を言いながらプリント類を抱えた1、2年生の選挙管理委員と一緒に生徒自治会室へと入って来た。


「邪魔したんじゃないといいけどなー」

「古城、そういう事実はない。1、2年生も余計な事を想像するなよ。変な噂聞いたら怒るぞ」

「隠さなくてもいいと思います。鉄仮面さんがお姫様にラブラブだって周知の事実ですし」

「それが余計な事だっての」


全く。俺はともかく陽子ちゃんにとって良くないだろうが。


「あら、私は気にしてないけど。ラブラブというのはどうかなあって思うけどね」

「分かりました。陽子先輩のお願いなら私たち言いませんから」


 陽子ちゃん支持者の多い事よ。それで余計な噂が出ないのならそれでいいけどさ。ちょっとひがんでしまうな。


 定時になり選挙管理委員の子が古城と陽子ちゃんに手を振って帰っていった。


「私、職員室に鍵戻してくるから待ってて」


 そういうと陽子ちゃんが階段を駆け上がって行った。


 俺は古城を問い質した。なんなら詰問と言ってくれてもいい。


「古城、加美の奴が来ないのって心配じゃないか?」


 あっけらかんと笑う古城。


「まだ明日があるよ、肇くん。慌てなくてもなんとかなると思う」

「ひょっとして1年生が出馬考えてるって話が前提か?」


 あっさり古城が頷いて来た。


「その噂は私も聞いているよ。その子は明日立候補届けを出しに来ると思う。もう時間もないし」

「まさか、古城。その1年生の信任投票で良しとしてるんじゃないよな?」


 俺はちょっと怒っていたと思う。いくらなんでもそれで良しとするのは無謀だと思ったからだ。


「そうなるのは良くないよ。でもそうはならない。私個人としては大丈夫かなって思ってる」


俺は納得できないぞ。それじゃ。


「根拠は?」

「私の直感かな。今、説明したくないな。明日、事が決してなお気になるなら教えるけど」


 古城にすれば水面下で起きていた駆け引きの存在を推測できる材料があったんだろうと思う。俺にはまだこの時点ではそういう構図は見えてなかった。


 陽子ちゃんが階段を降りて来た。


「ごめん。さ、帰ろ」


 帰り道、自転車を押して歩く古城と陽子ちゃんはニコニコとたわいない話に興じていた。俺は古城が何を見てどう考えているのかばかり考えていた。


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