(7)A 2018年6月6日水曜日 吉良と麻野
朝、登校すると思い立って北校舎2階の2年生の教室に行こうとした。中央校舎から北校舎への渡り廊下に曲がると麻野が後ろから声をかけてきた。
「日向先輩!」
仕方なく足を止めた。チャイムまでそう時間はない。加美に会って一言声をかけて昼休みか放課後に会う約束をしたいと思っていたので気が急いた。
「なんだ、麻野。俺は忙しいんだが」
「日向先輩は加美さんの事を何故そんなに気にしているんです?」
「あいつが隠しているのが何か知りたい気分になってるだけだ」
「日向先輩。彼女は先輩向けの伝言のように彼女のやりたいようにやるでしょう。そろそろ静観された方がいいと思うんです。先輩は一人で踊ってるだけですよ」
その時後ろから強い声が飛んで来た。
「こらっ、麻野。先輩に言い過ぎでしょうが」
女子生徒の声が廊下に響いた。麻野を諌めたのは中央校舎の方からやって来た吉良小夜子だった。
「さっさと教室に行きなさい。もうチャイムが鳴るよ」
有無を言わせぬ吉良。麻野は吉良と俺に一礼して北校舎の方へ去って行った。
「戻ろう、日向くん」
俺は吉良に引きずられるように中央校舎の教室へ戻った。廊下を歩いて行くと吉良がこんな事を言った。
「昨夜、メッセ貰った後で麻野とは少し話をしたけど、日向くん、加美さんとは中学校の時の因縁があるんだって?」
「生徒会で少しな」
「で、その時あの子からの生徒会長立候補要請を蹴ったって?」
「事実だよ。色々とあったんだよ、あの頃は。多分加美はわかってないと思うけどな」
母親が離婚すると言って家を飛び出した頃だったのだ。親父の仕事人間が招いた事態。その中で色々とあって俺は親父の元に残る事を選んだ。別に母親が嫌いなわけじゃない。その方が母親の幸せにつながると思ったから。
ただ、そんな最中に会長になる気力なんてなかった。それだけだ。
「うーん。あの子が人に聞いて回って情報整理する能力は高いよ。君の事情なんて今じゃ丸裸でも驚かないけど」
「それで今回の立候補と関係するか?」
「さあ?私は麻野から聞いた情報から推測しているだけだから。ただ今回主導権は彼女にあるからもう様子見てるしかないと思うけどな……あっ、チャイム鳴ったから先に行くね」
吉良はそんなご神託を俺に言うと自分の教室へと小走りで去って行った。
昼休み。陽子ちゃんから誘われて昼食を学食に食べに行った。
「1年生で出馬しようかって思ってる子がいるって噂、秋山さんから聞いた」
「本当ならすごいね」
「眉唾だと思うか?」
「可能性はあるんじゃない?推薦人も同学年でいいなら集められるだろうし」
「それで信任投票になるのはどうなんだろう?」
「選ばれるのはいいけど、選択肢なしはどうかって事?」
俺は頷いた。
「そういう意味なら同感。ただ2年生で立候補がないとしたら私達の執行部をどう見てきたかという事なのかも」
「そりゃ俺たち当事者としてはキツイ展望じゃないか?」
陽子ちゃんは首を縦に振った。
「でも冬ちゃんが何故か不思議と楽観視してる。何故そう思うのか言ってくれないけど複数の候補者が出る何か目算あるんじゃない?」
陽子ちゃんの古城への信頼感もたまに不思議になるよ。




