(6)B 2018年6月5日火曜日
(承前)
放課後、生徒自治会室に行った。陽子ちゃんから友達から相談を受ける約束があるから今日はゴメンねというメッセが来ていたので一人だ。
生徒自治会室の引き戸をガラッと開いくと10個の目がこちらに向いたので手を上げて「よお」と挨拶しておく。古城と姫岡と秋山さん3年生3人と1、2年生の選挙管理委員2人が先に来ていた。
「今日の当番って姫岡だったよな」
頷く姫岡。横から秋山さんが言った。
「部活休みの日だから姫岡くんの仕事ぶりを監視に来た」
「ふーん」
監視も何も立候補者の受付業務って大半が待ちだから。古城も1、2年生の選挙管理委員も微笑ましそうに見ている。案外本人達に自覚がないのだよな。
秋山さんに宿敵バスケットボール部を体育祭の運動部対抗リレーで破ったバレーボール部の本業たる公式戦の様子を聞くと結構強いらしい。
「へー。そりゃ、応援に行かないと」
そんな事を古城が言った。
「あ、古城さん、だったら姫岡くんを連行してきてよ。応援するぐらいの義理はあるでしょ?って認めさせたんだけどさ、逃げ出しそうで」
「えー。約束義理ごとと言えば姫岡くんって思ってたけど」
古城は案外こういう話に食いつきがいい。
「秋山さん、僕はちゃんと行くから。そういう疑いの目で見るの止めて欲しいな。なんで信用がないのだろう?」
そういう姫岡に対して間髪入れず秋山さんがツッコミを入れた。
「信用できないもん!」
思わず苦笑。二人とも痴話喧嘩の自覚がないのは困るね。
そんなやり取りがおさまって姫岡と俺は生徒自治会室を出てちょっとした用事をしに行った。いわゆる連れション。俺が部屋を出たらすぐ姫岡が追ってきた。
「さっきの秋山さん、何か怒らせた事があったのか?」
「秋山さんと他の友達と一緒に映画見に行くことになって待ち合わせしていてお婆さんが道に迷っていたから案内したらお茶をご馳走するからって言われて。面白い人でついつい抜け出しにくくて」
「なるほど」
姫岡ならありそうな話だ。
「で、遅れて電話したけど秋山さんだけ映画見ずに待っていてくれて、連絡ぐらいさっさとしろって怒っていて」
「そりゃあ怒るよ」
「そうしたらお婆ちゃんがその子も近いなら呼びなさいなって言ってくれて秋山さんもお茶とお菓子をご馳走になって許してくれたかと思ったんだけど、折に触れて怒り出す」
「うーん。姫岡、秋山さんもそのうち忘れてくれるさ」
秋山さんってそういう事で怒るとは思えず姫岡に絡むネタにしてるだけだと思うので同情だけにしておいた。秋山さんが飽きるか新しいネタが出来るまで繰り返されるな、これ。
「ところで日向くん。今日、ここが終わったら甘いもの食べに行こうって秋山さんと約束していて一緒に来ないか?というか来て欲しい」
「なんで、俺を誘う?二人で行けばいいだろうに」
「いやあ。古城さんも誘ったけど用事があるからゴメンって言われてさ」
「分かった。考えておくよ」
下校のチャイムが鳴り響いた。古城は家事当番の日で妹さんと買い物の待ち合わせがあるとか叫ぶとバタバタと自転車置き場の方へ姿を消した。姫岡も秋山さんと俺に「ちょっと待ってて」と言うと自転車を取りに行った。
秋山さんは俺の方を向くと手を合わせてきた。
「この後、甘いものを食べに行こうってあいつと約束してるんだけど古城さんと日向くんも誘おうって言ってたんだけど古城さんはおうちの用事で帰ったから、日向くんだけになるけど一緒に来てくれない?」
「秋山さんの頼みなら付き合うけど、あいつとデートじゃないの?」
「えー。何を言ってるのかなあ。あいつとはそんな関係じゃないから!」
秋山さんの顔は真っ赤だった。
残された俺と姫岡、秋山さんの三人でどこに行くか喧喧諤諤の論争の末、学校にほど近いパフェの美味しい喫茶店へ行った。夏は果物をふんだんに使ったかき氷も美味しいのだ。
喫茶店に入るとテーブル席に陣取った。
「私はイチゴかき氷」
「僕はフルーツパフェで」
「じゃあ俺はこのベリー・アンド・ブルーバードで」
俺の頼んだかき氷はブルーハワイシロップにベリーアイスクリームやベリー類をあしらったもので紙製コースターには青い鳥があしらわれていた。見た目の爽やかさ重視なのかなと思いながら頂いたらほんのりとラム酒が香った。意外に大人の味付けらしい。
1年生で出馬を考えている男の子がいるねえと風紀委員会に関わっている姫岡が教えてくれた。そういう子の噂はあるらしい。
「2年生といえば麻野くんは?」
と姫岡がつぶやいた。知っている範囲でやれそうな2年生は加美を除くと彼ぐらいしかいない。
「あいつはインターアクトクラブの次期部長になるだろうから無理じゃないか?」
「でもあそこ、後継部長は別の子になりそうって松平さんから聞いたよ。彼が部長にならないって不思議で、不思議で」
それって秋山さん、本当?そういう事は早く言おうよ。
「麻野が部長じゃない?でも会長選立候補もしてないって、じゃあ、あいつは何をやる気だ?」
インターアクトクラブは校外での生徒の社会体験を支援する。災害ボランティアなど体験重視で春先から準備期間を終えて取り組みを進めていた。吉良小夜子と松平桜子がこの1年間基盤作りに奔走していて2代目部長の役割はとても重要。それをやるなら麻野くんだろうと俺は思っていたし、それは秋山さんも姫岡も同様だった。
店を出て秋山さんを送っていく(というか送ってくれるよねと言われた)姫岡の二人と別れるとスマフォを取り出してメッセした。
肇:吉良、ちょっといいか。教えて欲しい事があるんだ。
吉良:何?図書館で勉強中なんだけど。
にしてはレス早いよ。
肇:麻野、会長選に出るのか?
吉良:私の知る限りそれはない。あいつが出るなら私に推薦人頼むでしょ。
すごい確信だな。確かに麻野が吉良に頼まなかったら驚くが。
肇:そうだろうな。
吉良:何か隠し事しているとは思う。何かは今は言えないって言ってる。麻野のくせにもう!
吉良小夜子に麻野が秘密事か。でもそれがどうつながるのかまだ全体像が見えていなかった。




