(6)A 2018年6月5日火曜日 ツノちゃんと加美さん
お昼休み。俺は学食に行くと天ぷら蕎麦を手に座る場所を探した。誰もいない島があったので陣取って七味唐辛子をパラリと掛けるとあまり気の乗らない感じで食べ始めた。週半分ぐらいは学食で済ませているが、今日はちょっと事情がある。まだお腹が重いのだ。
昨日、陽子ちゃんの家で夕食をご馳走になった訳だったが男子高校生の胃袋は巨大であると信じて疑わない陽子ちゃんのご両親がボリュームたっぷりで美味しい料理で歓待された上で陽子ちゃんが作ったというチーズケーキに俺のフルーツケーキとデザートも量が多くてほんと体が重い。朝はコーヒーだけにしてようやくお蕎麦ぐらいならというレベルに回復したのだった。
食べ始めた頃に牛乳のパックと弁当箱を手にした2年生の女子二人がやってきて同じ島の反対側、空いている場所に腰掛けて弁当を広げ始めた。一人は角田さんだったかな。昨年の古城の会長選と並行して行った制服アンケートの手伝いをしてくれた加美洋子の友達の子だった。
二人はそんな俺を気にせずに賑やかに弁当をついばみ始めた。一方の子が角田さんに身を乗り出すようにして「ようこちゃん」と言い出したので思わず聞き耳を立ててしまった。
「ツノちゃん、ようこちゃんの頼みはどうするん?」
「え、あの子の例の話?ちょっとここでは言いたくないけど面白い事やるから手伝ってって言われてる」
「そういう頼みを引き受けるのってやっぱり親友なんだ」
「そうかなー。あの子が私の事どう思ってるか分かんないから親友じゃないかも。でも去年もわざわざ私に手伝って欲しいって言われて」
「ああ、あれね。ツノちゃん、親切だなあって思った」
「あの時、あの子は私にスタッフ・リボンをどこでも良いからかわいらしく付けてって言ってくれて。なんだかうれしくって。だから私は親友だって思ってる」
「ふーん。ややこしい愛情の話だよね」
「まあ、いいの、いいの」
盗み聞きする気はなかったけど、どうやら陽子ちゃんではなく加美洋子を中心とした話らしい事は察せられた。
気がついたら蕎麦を食べ終わっていた。このまま聞き耳を立てていると不審がられるだけなのでサッと席を立って食器返却コーナーに向かった。




