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冷たい部屋

作者: 高遠 凜子



 夜中、ふと君は寒さで目を覚ます。左を見ると窓が開いていて、冷たい風を君のもとまで運んでいる。君は身を震わせながら上半身を起こし、布団をどけてから体を滑らせる。足を地面につけて、ここでもやはり君は冷たい地面に凍りながらも、地面を踏んで立ち上がる。



 静かに部屋のドアを開けた君は、家族を起こさないように静かに廊下に出る。しとしとという足音を雨音のように響かせて、君は暗闇の中冷たいドアノブを握りリビングへと入る。君は電気を付けるか一瞬迷って、少し笑いながら首を振る。出しかけた手を下ろして、代わりに大窓まで忍び足で近づく。



 カランッと音を響かせながら空いた大窓を開きながら、君は闇へと身を滑らせる。外履きをはいた君は、一歩だけ闇の中へと近づき、空を見上げる。雲で覆われた空を残念そうに見つめた君は、今度は下を見る。近くの専門学校の生徒たちがタバコと酒を片手に、何かを語り合っている。それを少しうらやましそうに見つめた君は、身を乗り出す。その状態でしばらく悩んだ君は、首を振り寒さに肩を縮ませながら、部屋の中へと戻る。



 しっかりと鍵を閉めた君は、今度はキッチンへと向かう。食器棚からカップを一つ、背伸びをしてとりだした君は、冷蔵庫を開け、重い麦茶の入れ物をとりだす。音を立てないように慎重に取り出した君は、ポンッと音を鳴らしふたを開け、カップの中へ静かに注ぐ。きちんと入れ物のふたを閉めた君は、あけっぱなしの冷蔵庫の中へ再び押し込み、満足げに麦茶を見つめる。ふと、手を戸棚に伸ばしかけた君は、やはり首を振り、静かに麦茶を飲み始める。



 麦茶が空になったころには、君は一つ決心している。カップを流し台に置いた君は、台所に手をついて数秒、もしくは数分空を見つめる。やがて諦めたかのように目を閉じて、おもむろに包丁をスタンドから一本とりだす。しばらく不思議そうに包丁を見つめた君は、切れ味を確かめるかのようにすっと指を滑らす。赤い筋が通ったのを見届けた君は、満足げにうなずくと、ゆっくりとした動きで、あらかじめ調べておいた頸動脈へ包丁を添える。そして君は、数回深呼吸をした後、震える腕で首を割く練習を行う。暫くして息を止めた君は、まっすぐ前を向く。そしてこういうだろう。



「バイバイ」



 もっとも、その音も、頬を伝うなにかも、君が気付いたころには意識なんてないんだけれどね。


(2020/3/25 改稿)

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