初ダンジョンと悪魔の囁き
「さすがですね。ではこれでウルさん、リブさん。フェンリルさん。ルルムさんの4人のランクをEランクに上げさして頂きますね」
あれから僕達は、クエスト完了報告のためにギルドを訪れていた。
「ではでは!エルフ娘や!はよぉ我等にダンジョンに案内するのじゃ!」リブがリィサさんに詰め寄る。というか、フェンリルはまだしも、リブをパーティーメンバーとして認めるのはどうなのだろうか。何もしてないし………
「申し訳ないのでが、ダンジョンの入り口はこの町、バグールには無く、首都のエルダットにあるのです。なので今日は準備を整えて頂いて…距離自体はさほど遠くないので、馬車で3時間ほどかと…皆さんとこれでお別れかと思うとすこしさみしいですけどね」そう言って少し悲しそうに笑うリィサさん。
あまり会う時間は少なかったが、面倒見も良く言いお姉さんだったのになぁ。僕が残念そうな顔をしていると…
「何を言うか!馬車で3時間ほどならフェンリルに乗れば30分もかからんじゃろぉ?折角作った拠点じゃ大事にせねばなぁ?お前さんよ」リブが僕を見て微笑む。
「そうだね!」きっと彼女は僕のことを気遣ってくれたのだろう。
今日の朝に鍛冶屋のドワーフに何時でも好きに使って言いと言われたからなんてことは万に一つもない……ハズダ。
「それはそれは。恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね。どうぞこれを。首都エルダットまでの地図です。では今日はこれで。」ペコリとお辞儀をするリィサさんに挨拶をして、僕達は夜のバグールに繰り出していった。
「ランク昇格祝いじゃー!!皆のもの!存分にはじけるが良いぞー」
「いえーーーい!!いいねぇいいねぇ!お祝い事の時ほど美味しいお酒はないよね-ーー♪」派手に騒ぐ神と悪魔。
その横で僕はルルムと話していた。
「そう言えばルルムっていくつなの?」
「15ですよ。」
「えっ!僕と同じなんだね。もう少し下かと思ってた。」予想外の回答に素直な意見を口走ってしまう僕。
「ふふふ。よく言われます。師匠から聞いた話なんですけど。魔力を多く体に宿す人は他の人より少しだけ老いるのが遅くなるらしいんですよ。私からすれば、老いると言うより成長ですけど」
最初見たとにに感じた荒々しさは何処に。ただただ僕はこの一時を楽しんでいた……
「なになにー!?僕達を置いて2人で楽しんでるなんてずるいぞーー!!」
「小娘よ。我が眷属を口説くならまずは主である我に話を通すのが筋じゃろぉー!?」
酔っているのだろう。顔を真っ赤に染めた狼人間と赤髪幼女が絡んでくる。いや。酔っぱらいの幼女って色々と問題があるだろ。
いくら神様で、今の姿は仮の姿にしてもさすがに不味い……
そうして僕達はそそくさと。逃げるように。宿への帰路に着くのだった。
「ここが首都となぁ!さすがと言ったところかのぉ。バグールより一段と賑わっておるのぉ」リブが僕の肩から声を上げる。
エルダットはルード王国の首都であり、街の中央にダンジョンがあることもあり、冒険者や武器や道具を売る商人、宿屋に飯屋にいたるまで、国内外から多くの人で溢れていた。
「ねぇー!みてみてー!あそこのお店に並んでるスライムアイス美味しそー♪」
「こらっ今日は初日ぞ。とりあえずダンジョンじゃろうが!」
フェンリルが次々に店を見つけてはリブが拳骨を喰らわすといった流れを数え切れない程繰り返し……僕達は漸くダンジョンの入り口に立つ。
見た目は神殿のようなつくりで、大きな入り口があり、この中から会談で地下一階層に降りるそうだ。そこからはダンジョンの中で地下へと続く階段を探すと言ったように下へと降りていくらしい。
もちろん下に行くにつれて、ダンジョン原産の魔結晶などの鉱物の質や量も高くなり、魔物の強さも上がっていくらしい。
「ここのダンジョンは少し特別なようで、モンスターは殆ど変わらない用ですが、幾つかの階層を省いて、毎日地形が変わるみたいですね」ちゃっかりとガイドブックを読みながら説明してくれるルルム。
「なんと!?それは楽しそうじゃのぉ」そういってリブは僕の背中からフェンリルの背中へと飛び移る。
「ほぉ!お主の背中はふかふかで気持ちがよいのぉ。幾らでもねれる気がするぞ」
「ほんとにー?僕は大人の姿のリブの方が綺麗で格好良くて、好きだったけど!今のリブもやっぱり可愛いねー♪」
緊張感0の2人…というか多分ダンジョンでもこの2人は基本は傍観者を貫くつもりらしい。
「さ!はやくいこうよー!」僕も緊張感0とまでは行かないが初めてのダンジョンに緊張より期待が肥大といったようだった。
と言うわけで4人で神殿の入り口をくぐる。
「むぅー!もっと煌びやかな所を想像していたんじゃがなぁ。ただの洞窟じゃな」リブからすれば期待外れだったようで…つまらんと言わんばかりに、直ぐにフェンリルの背中で寝息を立て始めた。
ダンジョンの内部はダンジョンによって様々らしく。廃墟のような作りであったり、田園風景のようなつくりであったりと。中でも洞窟のような作りは、1番スタンダードでオーソドックスなものらしい。
「あっ!みてみてーゴブリンだよー!喋れるかな-?ねぇ?君はなんて名前なの-?僕はフェンリル!宜しくねー!」
突如ダンジョンから現れたゴブリンと握手しようとする狼の悪魔フェンリル………
勿論握手するはずもなく、ゴブリンは躊躇無く手に持っていた斧を振りかざしてきた。
「いやいや!ゴブリンが話すわけ無いでしょ!!」僕が突っ込む。
「その考えがま・ち・が・い!なんだよ?魔界ではゴブリンやオークは普通に生活してるんだからね!まぁ地位は凄い低いけど。」どうやら魔界はその種族などによって地位が別けられた階級社会らしい。
「ま!話せないゴブリンなんてスライム以下だね!ウル君!やっちゃって-!」丸投げだった。気持ちいい程に。。。
僕は神剣ビカースを抜く。ビカースは鍛冶神リブから与えられた神具であり、神具の中でも特殊な『成長する剣』である。持ち主とリブの力で姿形から強度まで変わるらしい。いつもはビカース専用の鞘に入れている。リブ曰くこの鞘も神具であるらしく、どんな状態のビカースでも入り、入れると姿は1番弱い石の剣へと姿を変える。まだ何か用途が有るらしいのだが……それは後のお楽しみらしい。
いつもの青白い宝剣へと姿を変えたビカースをゴブリンの喉元に突き立てる。
「グギャアア」断末魔を上げたかと思うと、溶けるようにダンジョンに吸収されていった………とその跡に一粒の小さな赤紫色の石がキラッと光る。
「これ……は?」僕は答えを求めてルルムを見る。
「魔石ですね」ルルムが答える。
魔石とは魔獣の体内で造られるもので、空気中の魔素を吸収し造られるらしい。
「あれ?でもこの間のガーゴイルって落としてたっけ?」
「はい。少し見つけるのが大変でしたけど。これですよ」ルルムはそう言ってポケットから黒みを帯びた灰色の。まさしくこの間の戦ったガーゴイルのような色の。先ほどよりは一回り大きい石を取り出す。
どうやら魔石はその魔獣の種類によって色や形が様々らしい。
とりあえず僕達4人は……といっても戦っているのは僕とルルムだけだが、ダンジョン地下一階でただひたすらゴブリン、ゴブリン時々スライム。
ただスライムが出てくるたびに戦線を離脱するルルムにより、僕は一人でネバネバドロドロ………ここでふとスライムの叫びが頭をよぎる。
そうだよな。お前もどうせ倒されるなら…僕みたいな男じゃなくてルルムやリブ、フェンリルとかの方が……
「やばっ。ル……ルルム。フェンリ。ル。やば。い!たす……けて」僕はスライムの中から助けの声を上げる
「えっ!ウルさん。大丈夫ですか!?」
「ウル君!?今行くよー!」
直ぐにルルムとフェンリル。フェンリルの背中で寝ているリブは半強制的に、僕の方へ近づいてくる……
「えいっ」僕の体から解き放たれたスライム達は意気揚々と彼女たちに襲いかかる………
シバカレタ。
「スイマセンデシタ。ゴメンナサイ。モウシマセン」
かくして。僕だけ多大なダメージを受け。
ダンジョン攻略1日目は幕を下ろしたのだった。
「それは…ウルさん…最低ですね」
リィサさんからも怒られてしまった…