魔獣討伐と神の微笑み
「ねぇー!それでこれからどーするの~?」フェンリルがおもむろに口を開く。
僕達は鍛冶屋を後にし、近くのお店で朝食をとっていた。
「そーじゃのぉ。4人分の生活費を稼ぐとなるとなぁ……あのエルフ娘に聞くのが手っ取り早いのぉ。」リブはそう言いながら、イスが高いようで足をぶらぶらさせる。
「そうですか。それならダンジョンに入られるのが1番なんですけど、皆さんのランクはFランク。一番下のランクで、ダンジョン入場資格としては、その1つ上のEランク以上になりますので………」
残念そうな顔をするリィサさん。彼女はギルドの受付嬢であり、僕達の担当をしてくれている。ただエルフであり、その特質上あまり見た目で年齢は判断しにくいらしい。そのうち教えてくれるらしいが……
「ダンジョンかぁーー!それで?どーやったらEランクになれるのじゃ?」目をキラキラさせながらリブがリィサさんに詰め寄る。
「地道に依頼をこなしていくと言うのも有りますが、皆さんのうち、2人は神様と悪魔で、ルルムさんはあの千彩侯の1番弟子と言うことで。特別に魔獣討伐依頼を出しますので、それをこなして頂ければと。」………僕だけ名前が呼ばれなかったことで落ち込んでいると……
「魔獣とーばつ!?わくわくするねー!!」少し前まで討伐対象だったフェンリルも目をキラキラさせながら………
「悪魔が魔獣討伐って大丈夫なの?」僕は疑問に思う。
「馬鹿にしないでよ-!ウルちゃん!悪魔と魔獣は天と地の差があるよんだよ!!月とすっぽんだよー!仲間だなんておこがましいよ!!」狼の悪魔であるフェンリルが説明をしてくれる。
何でも、少しでも魔力を宿す生き物を魔獣と呼ぶらしい。もちろん中には悪魔が下界で暴れている場合もあるらしいが………
「それでなにを討伐したらいいんですか?」ルルムが話を戻す。
「一応4人パーティと言うことなのでEランクの上位相当に当たります、『ガーゴイル』1体の討伐をお願いしたいと思います。」
ガーゴイル………羽の生えた人の形をしていて全身石で出来ている。大昔に神聖なる宝を盗みに入った不届き者を神が、そのまま宝を守る番人として石化さしたと言われている。動きは鈍く、同じ石の魔獣であるゴーレムの下位互換といったところらしい。
「この間フェンリルさんがいたデオン山脈の麓にある村の近くで単体で居るところを発見されたんです。」
「よし。決まりじゃな!行くとするかのぉ。善は急げじゃ。」まだ何か言いたげなリィサさんをよそに赤髪幼女はそそくさとギルドを後にする。
それにつられて僕たちも………
「とーーーちゃーーく!!」
麓の村までは狼の姿に戻ったフェンリルに乗って直ぐに着いた。
どうやらある程度体力があれば、姿は何時でも変えられるらしい。大地を揺らすものにして、太陽と月を喰らいしもの。その姿は妖艶で優美な気高き狼。声と性格はその正反対に位置するのだが…
「スンスン。んん!さすがガーゴイルだね!!魔力のにおいがほんの少しするだけだよぉー!多分こっち!!」そういってフェンリルは森の中にずかずかと入っていく。狼はイヌ科に属し、嗅覚は人の数千万倍を越える。そして特筆すべきはその記憶能力の高さである。多くの匂いを覚え判断するらしい……まぁ悪魔に当てはまるかは分からないが……
少し歩いて行くと、蔦に侵略された白塗りの教会が姿を現す……
とその入り口を守るように1体の石像がおもむろに動き出す。
「困ったやつじゃのぉ。我に祈る民達の邪魔をされてはのぉ」リブはやれやれと言わんばかりに声を上げる。やっぱり世界には鍛冶神に祈る人たちも居るんだろうなぁ。さっきのドワーフの人たちとか……キット
「それでー?どーするの~?ちゃちゃっとやっちゃっていいー?」フェンリルが横から声をかけてくる。
リブに聞いたのだが、人型のままででも力は健在らしい。
「いや。お主はサポートじゃのぉ。いかなる場合でも強大な力は人を堕落させるからのぉ。自分たちで切り開いて貰わねばな」
「んーー!仕方ないね!!じゃあ僕はお昼寝でもしとくから!帰るとき起こしてねー!」そういうと近くの木下で眠り始めた……どーやらフェンリルのサポート性能は皆無に等しいらしい。というかあれこそが、堕落ではないのだろうか……とリブに目をやる。
「奴は極端なやつじゃからなぁ。戦いにかり出せば一騎当千。千軍万馬の百戦錬磨じゃがのぉ。手加減をしらんからのぉ、これぐらいの相手なら一撃必殺じゃろうから致し方なしじゃ」リブはそー言い残すと自分もまた地面に座り込む。
「さぁお前さんよ。まだろくに活躍していないお前さんよ。今こそ輝くときではないかのぉ。終われば我も起こしてのぉー」そーいってフェンリルから生えているフサフサのしっぽを枕に眠りに落ちる………僕の活躍は見る気0のようだ。
「頑張らないといけませんね!ガーゴイルは動きこそ鈍いものの防御力は高いですし。油断してると危ないですから!後方支援は任して下さい」ルルムがそーいって杖を構える。
それをみて僕もビカースを抜く。するとそれは石の剣から。いつもの。青白い宝剣へと姿を変える。
僕がガーゴイルに向かって走って行くと後ろから、石の像に向かって魔法が飛んでいく。さすがは鍛冶神が作った道具のようで、その効果は想像以上らしい。
「はぁーーー!!!」ルルムの魔法を喰らいバランスを崩しているガーゴイルに神剣ビカースを縦に振り下ろす。一刀両断する勢いで…
ガキーーン腕に衝撃が走る。見るとひびの1つも入っていない石像が僕を捕まえようと腕を伸ばしてきていた。
慌てて距離を開ける。もしビカースで無ければ先程の一回で折れていただろう。まだ腕にしびれが残っている。
「全く効果なしって感じですね…」ルルムが疲労がこもった声を出す。どれくらいたっただろうか。相手の攻撃は全く当たらないが。表面がとても堅く。魔法でも剣でもまったく歯が立たなかった。
「少しでもひびを入れればね…」僕が返す。ガーゴイルが堅いのは全ての石がお互いを支え合っているかららしい。よって少しの綻びが出来れば、強度は一気に下がるそうだ。リィサさん情報なのできっと正しいはずだ。
「それなら私に考えがあります。あまり得意では無いのですが、爆発系統の魔法なら少しくらいは……」ルルムは全属性を扱える魔法使いであり、魔法使いの頂点と言われる千彩侯の1番弟子だ。
「燃え盛る爆炎よ……我の声に反応し……思うがままにその身を爆ぜよ……そして速き風よ……我の願いに答え…気高き炎を…我に仇なす……者の元へと……運びたまへ」
ルルムはゆっくりと詠唱を始める。彼女は小さい頃から千彩侯の元で学び、1属性魔法なら殆ど詠唱なしに放てるそうだ。ただこの間みせたサンダーストームといった雷と風を用いるような、幾つかの属性を使う、多属性魔法は詠唱が必要不可欠らしい。
「ボムショット!!」すると彼女の手から小さな、真っ赤な炎が目にも止まらぬスピードでガーゴイルに向けて飛んでいく………
その炎はガーゴイルの胸に当たったかと思うと一瞬にして消え去る……それも束の間、轟音を立てて爆発をする。こちらまで熱風が届くほどに……『フェンリルの爪腕輪』で魔力を押さえられているとは思えない威力だ。。。
爆発によって起きた土煙が開けていく………!!そこには余裕綽々と動く石像の姿が…いや。それでも。しっかりと。胸にはひび割れが起きていた。
「後は任せましたよ。ウルさん」ルルムはそういって力無く地面に身をゆだねる。相当無理をしてくれたのだろう……
僕はガーゴイルに向かっていく。ガーゴイルをそれに気づき、ゆっくりとその腕を伸ばす……僕はその手をかいくぐり後ろへと回りこみ、足の関節へと宝剣を横一線振り切る。
ガキーーーーーーッン今までで1番大きな音を立ててガーゴイルは後ろへとその体を落とす。
僕は剣を落としそうなほど震える腕でビカースを握り直し、大地を蹴り上がる。
高々と宙に上がった僕はビカースに全体重をのせ、全神経を尖らせて、先程ルルムが作ってくれたガーゴイルの胸にあるひびに向かって…剣先を下にして…落ちていく。
ガシャーーン!!一瞬、胸だけだったひび割れがその全身に走ったかと思うと、次の瞬間には、ガーゴイルはガラガラと崩れ去っていった。
「やったぁーー!!」僕は大きな達成感に包まれ皆の方を振り返る。
「まぁなんとかギリギリの及第点じゃな」いつの間にか起きていたリブが、狼の姿になっているフェンリルの上から声かけてくる。
「まぁ狼に負けかけていた時から考えればじゃがな」皮肉も忘れずにと言わんばかりに……
「でもびっくりだね!!ルルムちゃんの魔力量は!この間はビカースに隠れて見えなかったけどさー!僕感心しちゃったよーー!」ルルムを背中に乗せながらフェンリルは口を開く。
「まぁお前さんも初めてにしては頑張ったということじゃよ。どーじゃ?よしよしでもしてやろーかのぉ?」とフェンリルの背中にのると赤髪幼女が近づいてくる。
「リブーー!危ないよー!落っこちたら怪我ではすまないんだからーー!!」
「むぅ。残念じゃなお前さんよ。楽しみはお預けじゃな。1人で我によしよしされなかったことを思い出しながら悶々とするがよいわ」
そういって絨毯のような背中に倒れ込む神様を見ながら僕は呟いた。
「リブありがとね。君のおかげで……」
「礼には及ばんぞお前さんよ。我は物好きでは有るかも知れんが見る目はあると自負しておるからのぉ。お前さんは我の認めた人間じゃぞ。胸を張るがよい」リブは僕の方を向いて微笑む。
さすがは神なのだろうか。僕の心なんてお見通しだと言わんばかりに。