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戦争狂奏曲  作者: 無暗道人
chapter5・ワルプルギスの夜の宴
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ダム防衛2

 総督府軍の船団が到着し、時を置かずに陸上部隊も再び押し寄せてきた。

 船団は五十人乗りの大船が一艘。二、三十人乗りの中型船が一艘。四、五人乗りの小舟が五艘だ。

 船団と陸上部隊は歩調を合わせて進んでいる。


「予想よりもでかい船が出てきたものだな」

「潜水部隊は大丈夫でしょうか?」


 流石にゴットフリートの声音にも、不安と弱気がよぎる。


「本人がやると言ったのだから、やるだろう。お前は陸上の敵に集中しろ」

「はっ」


 表向き、ダムの防衛が目標である以上、船団をダムに接近させる訳にはいかない。

 しかしこちらには、デモフェイの潜水部隊しかいない。大船を止めるのは、難しいかもしれない。

 それならそれで、ゲオルク軍には最初から無理な事だったので責任は無い。そう主張して、報酬を得ながら負ける、という事もできるかもしれない。

 だがどちらにせよ、陸上の敵は撃破する必要がある。ゲオルク軍は十分な働きをした、という事を示す事にもなるし、安全な退却をするにも、敵の撃破は必要だ。

 そしてそのためにはやはり、いかにして陸上と水上の敵を分断するかが、最初の鍵になるだろう。

 敵は横一線の横陣を敷いている。ゲオルク軍の騎兵では、正面から突破するには戦力が足りない事を見抜かれた上での陣形だろう。

 敵の騎兵は左翼のやや後方、川から一番遠い所に位置し、自由に駆け回れるように備えている。前回の敗北を踏まえ、今度は情況を見て動くつもりだろう。

 こちらも横一線の陣を敷き、やはり騎兵は川から一番遠い右翼に配置した。

 赤隊をあえて川岸の最左翼に配置した。下手を打てば最精鋭部隊が水上からの攻撃に晒されるが、上手く(はま)れば切り札になるはずだ。

 デモフェイの潜水部隊は、すでに水中で待機しているはずだ。ここからは、その様子は窺えない。節を抜いた竹筒を使って、水中にいながら息をしているらしい。

 にらみ合う、という事をほとんどせずに、敵は動きだした。船を止めておけないのだろう。こちらもそれに合わせて動き始めた。

 ゲオルクは前に出た。歩兵のぶつかり合いに先んじて、敵の騎兵に正面から挑む。敵もそれを受け、前に出てきた。

 その間に、歩兵の前進を斜めにずらした。敵の方が数は多く、横に広いので、敵と正対している事は変わらない。しかし、僅かに川岸からは離れる。

 水上では、潜水部隊も行動を開始していた。先頭の船をやり過ごし、いきなり船団中央の船に、水中から襲い掛かった。瞬く間に小舟が沈められ、船団が混乱する。

 ゲオルクが全体を見る余裕があったのはそこまでだった。騎兵同士のぶつかり合い。正面からぶつかる、と見せかけて、直前で右に避け、横から突っ込む。

 しかし敵も巧みに方向を変えて、正面からのぶつかり合いに持ち込んでくる。やはり朱耶(しゅや)家の騎兵は、他とは一線を画している。

 左を取ろうと動く。敵も、同じ動きをしてきた。同じ場所をぐるぐると回る。膠着。お互いに、相手の僅かな隙を窺っている。

 敵が僅かな隙を見せた。誘いだと思ったが、乗った。突っ込む。ぶつかる寸前に、敵が散った。次の瞬間には、三つになった敵に、三方向から囲まれている。

 左の敵に突っ込んだ。突き抜ける。何騎か犠牲を出したが、敵にも同程度の犠牲を出させたはずだ。痛み分け。

 また正面からのぶつかり合いをぎりぎりで(かわ)し、敵のすぐ傍を駆け抜ける。後ろを取り、後ろから食いちぎれる。

 いきなり、横から殴られた様な衝撃が走った。敵の後ろ半分が、こちらの横腹に突っ込んできたのだ。動きを読まれた。隊列が千切れる。痛恨のミスだ。

 全力で逃げた。他にしようがない。逃げながらも、なんとか部隊をまとめ直そうとする。

 敵が迫ってくる。ゲオルクのそばにいる兵は、あまりに少ない。剣を抜き払い、敵に向かった。

 振り下ろされる剣を受け、敵を掴んで馬から投げ落とした。次の敵は、太刀筋を掻い潜り、喉を突いた。

 三人目。掴み合いになり、同時に馬から落ちた。しかし、落ちた後の体勢は、こちらが有利だった。頭を押さえ、喉を掻き切った。

 馬に飛び乗る。身構えたが、次は来なかった。敵が、まとまっている。退き始めていた。

 ようやく戦場全体を見る余裕ができた。赤隊が敵の中央を突破し、敵が敗走を始めている。

 歩兵を川から離れる様に斜めに移動させた真の狙いは、赤隊を敵の中央に移動させる事だ。それも、敵を警戒させずに。

 水上戦力がいるこの情況で、川から離れるように動けば、当然川からの攻撃を警戒しての動きだと思う。

 赤隊が精鋭と知られている以上、初めから赤隊を中央に置けば、敵も中央を警戒しただろう。しかし水上からの圧力で押されて動いたとなれば、いつの間にか中央に赤隊がいても、警戒されにくい。

 敵が警戒しないうちに、中央を赤隊の突破力で突き破る。目論見は、見事に当たった。

 敵の騎兵は、味方の立て直しに掛かりきっている。残念だが、追い打ちを掛ける余裕はない。こちらも一度退いて、体勢を立て直すしかない。

 陸の戦はどうにかこちらが制したが、水上の様子はまだ分からない。戦略的には陸戦の如何に関わらず、船団が突撃すればダムは奪回されてこちらの負けだ。

 一刻も早く、水上戦の様子が知りたい。気が(はや)るに任せて、川岸まで馬を疾駆させた。


「おお!」


 大船が沈んでいる。潜水部隊が水中から這い上がって、大船に斬り込んでいた。船底にも穴を開けたのか、船は見る見る傾いていく。

 大船が沈められた事に動揺したのか、まず小舟が。次いで中型船までもが反転し、退却していく。


「我らをの勝利だ。勝鬨(かちどき)を上げろ!」


 応、と大きな勝鬨が上がる。正直なところ、これだけの勝利が得られるとは思ってもいなかった。

 しばらくして、デモフェイら潜水部隊が戻ってきた。今回の戦における、最大の功労者として、歓呼の声で出迎えられたのは、言うまでもない。


「デモフェイ。よくやってくれた。見事な手柄であった」


 上半身裸のデモフェイの肩に手を置いて、功績を讃える。その背後に並ぶ潜水部隊の面々を、ざっと見まわした。


「少し、減ったな」

「四人、犠牲を出しました。流石に、大船に斬り込むのは無茶をし過ぎました」

「戦だ、悔やむまい。立派に戦果を上げたのだ、無駄死にではないぞ」

「俺も、こいつらにそう言ってやりました」


 肯いた。それ以外に、してやれる事は無い。

 翌日は、後退した総督府軍とにらみ合いに終始した。船団も小舟を徴用している様だが、動きは見せない。

 勝ち過ぎたか、と思った。勝ち目を見いだせなくなった敵が消極的になり、テロの準備が整ってしまうのも、こちらとしてはあまり望ましくない。

 流石にこのまま指を咥えて見ている、という事は無いはずだが、敵が動かなければ、わざと負ける事も出来ない。

 夏場の事なので水量は少なく、ダムの貯まりも遅い。だが、にわかに土砂降りが降って、一気に水量が増すという事もありえる。

 実績は見せた。早いうちにこの戦を終結させたい。

 さらに翌日、軍を立て直した敵が、押し出してきた。こちらも受けて立つ。だが、敵は陣を熱くして、慎重に進んでくる。

 明らかに本気でぶつかる気は無く、潮合を測っている。敵がこうでは、こちらから仕掛けても、まともなぶつかり合いになる前に逃げられるだけだ。

 船団の方も、下流に止まったまま姿を見せない。デモフェイが一度、こちらから攻め込む事を提案した。潜水して移動できる自分達なら、反撃も受けにくい。こちらから積極的に船団に仕掛けるべきだと。

 しかし、あまり勝ち過ぎると自然に負けられなくなる事と、敵中に寡兵で斬り込む危険を考慮して、却下した。

 形は違うが、結局は昨日と同じ膠着に終始するか、と思い始めた。


「御注進! 背後から敵。銃撃を受けて、ダム防衛部隊は混乱中!」

「後ろだと!」


 総督府軍の動きには目を光らせていた。目の前の敵だけでなく、州都に残った軍勢の動きもだ。迂回して、ダム防衛部隊を急襲するような事は、特に目を光らせていた。

 総督府軍は動いていない。それはほぼ確信だ。ならばつまり、諸侯軍。この短期間で、どこかの諸侯の応援を取り付けたという事だ。


「敵の所属と規模は?」

「まだ分かりません」

「早く情況を把握しろ!」


 不意打ちを受けたにしても、情けない。

 それよりも、この機に総督府軍が全面攻勢を仕掛けてくる可能性が高い。潮時とも言えるが、このままでは被害の大きな敗走に陥りかねない。


「ダム防衛部隊への攻撃は、銃撃だったな?」

「はっ。初撃は、推定で百程かと」

「騎兵のみで急行する。歩兵は、踏みとどまれ」


 野戦における銃兵ならば、騎兵の敵ではない。まずは背後の不安要素を潰す。

 ダムの防衛地点まで駆けた。ダムを占拠していたはずの部隊は、見る影もなく混乱している。


「静まれ。敵の所属と数は?」

「敵はシュピッツァー軍。数は三百以上!」

「シュピッツァー。ウォルフガング・シュピッツァー男爵か」


 蒼州公派と総督府派を渡り歩き、ティリッヒ侯爵家を併呑してその領地を我が物とし、今や日の出の勢いの梟雄だ。位置的には納得がいく。どんな条件で説き伏せたのかは、この際どうでもいい。


「三百と言うのは、まことか?」


 それにしては、敵兵の姿が見えない。


「三方向から銃撃を受けた。もう囲まれているに違いない」


 と、次の瞬間、銃声が高く鳴り響いた。数騎が撃ち倒される。


「こっちだ、続け!」


 銃撃の来た方に駆ける。一発撃ってしまえば、次弾を装填する間に至近に迫れる。二段、三段に構えていた所で、馬の脚の前では同じだ。

 敵の姿を捉えた。


「騎兵?」


 敵は全員、馬に乗っている。銃兵ではないのか。いや、確かに銃を抱えている。


「追え!」


 しかし、追いつけない。むしろ、引き離されている。敵は馬を疾駆させていた。速いが、三十分も駆け続ければ、馬が潰れる。

 無理に追えば、こちらの馬への負担が大きすぎた。それに、味方から引き離される。やむなく、元の場所へ引き返した。

 引き返すと、四方に斥候を放った。今追った敵は百人程。他に、敵がいる様子は無かった。大軍に囲まれているという事は、絶対に無い。

 寡兵を大軍に見せかけている。それは間違いないだろう。実数がどの程度かが問題だ。

 また銃撃。先程とは違う方向からだ。追ったところで、やはり追いきれないだろう。

 斥候が戻って来る。銃撃を浴びせてきた敵はおよそ百人。全員銃兵だが、移動は乗馬して行っていた。それ以外に、敵影は見つからなかった。

 百人の敵、一部隊だけだ。その一部隊が移動と銃撃を繰り返し、大軍に偽装している。仕掛けが分かれば単純だが、逃げ回る敵を追いかけても、容易には捉まらないだろう。


「噂だけは聞いた事がある。ウォルフガングの猟兵(イェーガー)か」


 馬に乗って移動し、馬から降りて敵を銃撃し、また騎乗して逃げ、移動する。騎兵に銃を持たせるなど、聞いたときは色物としか思えなかったが、実際に相手にしてみると、なかなかに厄介な相手だ。

 一撃離脱戦法を繰り返すだけなので、こちらの被害自体は大きくない。しかし、少しずつでも損害は出すし、士気に与える影響も大きい。なにより、まとわりつかれたまま敵主力と接触すれば、ゲオルク軍本隊ですら、非常に危険な状況に陥るだろう。


「この隊の指揮官はどこだ!」

「お呼びか。ゲオルク殿」

「これまでだ。撤退しよう」

「何を言うか。それでは何のために――」

「もはやお前らは持ちこたえられん。我らがもう少し踏みとどまる。その間に逃げろ」


 残党軍の隊長が唇を噛む。それに対して、一片の情も感じなかった。


「敵船団が猛進してきます!」


 半ば悲鳴じみた声。見ると、敵の船団がもうすぐそこまで、猛然と突進してきていた。

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