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戦争狂奏曲  作者: 無暗道人
chapter3・戦野の風景
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物資貯蔵基地強襲3

 傭兵団の作戦が成功した事で、コストナー伯爵家は兵站に大打撃を喰らった。これで少なくとも、今年一杯は身動きが取れないだろう。

 コストナー家の蒼州(そうしゅう)公派は、この機に反撃に出るという事はなく、一息つけるだけで御の字、といったところらしい。やはり、牽制以上の戦力として期待はできないようだ。

 一方、総督府派の伯爵家も、傭兵団が物資貯蔵基地を強襲していた頃、七騎士家のシュルツ家の領内に侵攻し、炭鉱施設を破壊して引き揚げていた。

 かつて、傭兵団が奪回に動いた事もある炭鉱を潰されて、シュルツ家の経済は痛手の様だ。しかし、軍需物資を大量に失った事を考えれば、コストナー伯爵家の打撃の方が大きいだろう。

 そもそも内乱を抱えているというのに、他所にちょっかいを出している時点で駄目だろう。地盤固めに本気で取り組んでいるとは思えない。

 当主が傀儡で、重臣達は自己の権益しか頭に無い。それが如実に表れた結果がこれだろう。

 ただ、いつまでもこのままでいるとは限らない。朱耶(しゅや)家の軍勢が五十騎いた事は、どういう意味を持つのか。

 政権上層部の見解は、軍事顧問ではないかという事だった。

 コストナー伯爵家から招いたのか。昌国君(しょうこくくん)から送り込んだのか。それとも別の誰かの意思が働いたのか。

 いずれにせよ、コストナー伯爵家の軍事を指導する目的で送り込まれた部隊、という見方がされている。

 あの五十騎以外に、朱耶軍が伯爵家に入り込んだ様子も無い事から、まあ妥当なところだろう。

 また、コストナー伯爵家への支援だけではない。昌国君は傭兵の活用と、ゲオルクらが戦いの中で確立した戦術の研究と活用にも、本腰を入れてきている。

 おそらく、ゲオルクの知らない所で、他にも色々と手を伸ばしているのだろう。戦場の外での戦い。戦場に立つ前の戦いというものを、本気で取り組み始めているのだ。

 ゲオルクは、それに関われない。関われるとしたら、傭兵団の戦術を更に深めるといった程度だけだ。戦略的な、戦の前の戦には、関われない。

 関われたとしても、ゲオルクにはそういった知識は無い。戦場で戦う。それしかできないのだ。

 それならそれで、戦場で戦う力を高める事に専念するだけだ。今は、そう割り切る事ができる。元々、その方が性に合っている。


「ゲオルク殿。白隊が帰還しました」

「そうか」


 朱耶軍によるリントヴルム市占拠で時間を稼いだおかげか、総督府派は盛んに軍事行動を起こしている。

 と言っても、ほとんどが小規模な小競り合いだ。それを為すのも、総督府が雇った傭兵が主体だ。

 多分総督府は、そうやって使える傭兵を見極めようとしているのだろう。

 ゲオルク傭兵団にもしきりに依頼が来る。その全てを受けるのは、とてもではないが無理だ。かと言って、全く無視する訳にもいかない。

 そこでテオが出兵の可否を判断し、各大隊が交替で各地の戦場に出ている。

 実戦で戦術の研究をする良い機会でもあるので、悪いばかりではない。皮肉な事に、傭兵団の財政も潤っている。


「何か、変わった事は有ったか?」

「何も。お互いに直接的な戦闘は避けて、輸送部隊を襲ったり守ったりに終始していますので。ああ、そう言えば――」

「そういえば?」

「ホルスト・フォン・マンスフェルトが野垂れ死んでいるのが発見されたそうです」

「野垂れ死に? 確か、リントヴルムで我らが破った後……まあ、破った事にしておこう。行方知れずだったそうだが」

「配下の傭兵を失ったマンスフェルトに価値はありませんからね。その上、あれは相当恨まれていましたから。多分、どこの街にも入れなかったのでは」


 リントヴルムで兵を失い、雇い主を得る事も、略奪も、自衛すらも出来なくなったという事か。


「崖下で死体が見つかったそうです。転落事故か、突き落とされたのか」

「まあ、落ち武者の末路など、そんなものだろう。大勢に影響がある事でも無い」

「そうですね。正直なところ、あんな厄介者はさっさとくたばってくれてありがたいです」

「マンスフェルトの事はどうでもいいとして、新しい武器の運用はどうだ?」

「それは、ヴァインベルガーに聞いた方が良いでしょう。悪くは無いようですが」

「分かった。行って聞いてこよう」


 新武器の運用状況を聞きに、帰って来たばかりの白隊がたむろする庭に出る。白隊は傭兵とは思えないほど、きちんと整列していた。


「ヴァインベルガー、時間はあるか?」

「これは団長殿。団長殿の御用件とあらば、何時間でも」

「そこまで時間は取らせんよ。新しい武器の使い勝手はどうか、実戦で使ってみた者の意見を聞きたい」

「そういう事でしたら」


 傭兵団の新武器は、長大な両手剣(ツヴァイハンダー)だ。長槍による槍衾(やりぶすま)に対抗するため、ワールブルクが即興で剣を槍の柄に継いだ事を元に作らせた、全長が2~3mもある大剣だ。

 これで槍衾を切り払う。従来の剣では槍を切り払うより先に突き殺されるが、これならば比較的安全に槍衾を切り払える。

 もちろんあくまで比較的にであり、槍衾を切り払うのが、非常に危険を伴う事は変わりない。

 しかしこれが上手く機能すれば、槍衾対策の切り札となりうるはずだ。


「槍衾を切り払う、という目的は、十分に達せられます。ただやはり、改良点や弱点がいくつかありますな」

「ほう。それをすでに見切ったと。ぜひ聞かせて欲しいな」

「改良点としては、刀身の根元の部分は刃を無くす事を進言いたします。これだけ長大な剣は、柄を持って運ぶのは重く、長すぎます。より中心に近い部分を持てれば、利便性が向上するでしょう。根元の部分は、槍を切り払うという観点からしても、刃は不要です」

「なるほど。形は剣だが、事実上槍に近い方が良いのかな。弱点は?」

「長槍と同じと言えます。懐に潜り込まれ、接近戦になれば無用の長物です。別に接近戦用の武器は、必須でしょう」

「まあ、それは仕方がないな」


 元々、個人の武芸の差が意味をなさない集団戦をするというのが、傭兵団の基本理念だ。そうでなければ、素人も多い傭兵が騎士には対抗できない。

 だからといって、接近戦を完全に捨てるという訳にもいかないだろう。通常の剣などは、どうしても必要だ。

 だが長槍、両手剣、剣と武装を揃えれば、重くなりすぎる。武装を運搬隊に預けるという事をこれまでも偶にしているが、素早い武装の切り替えができず、即応性に欠ける。

 さらに言えば、重量が増す分、さらに機動力は犠牲にするしかない。


「しかし、これらの問題点を考慮しても、価値はあるものと思われます。特に槍衾を切り払えれば、騎兵が存分に活躍できます」

「我らが下地を作って、騎士からなる騎馬隊が突撃する?」

「そういう連携も、可能になるでしょう。そうなれば我らの価値も、より高まります。我らの価値を高めるのであれば、この武装の導入は有効であると結論付けられると思います」

「価値を高める、か」

「相手にとってなくてはならない存在であれば、捨てられる事も、無茶を言われる事もありません。断交すれば、困るのは向こう。そういう関係であれば、こちらが優位に立てます」

「なんと言うか、打算的だな」

「傭兵ですから」

「まあいい。ツヴァイハンダーの有用性については、良く分かった。これからも使って行くから、意見があれば上げてくれ」

「はっ」


 ツヴァイハンダーの運用に関しては、問題なさそうだ。

 それよりも、ヴァインベルガーの発言の方が頭に残った。無くてはならない存在でいれば、優位に立てる。優位に立っていれば、保身もできる。

 マンスフェルトは一時期総督府に重用されたが、兵を失うと野垂れ死んだ。無くてはならい存在から、価値の無い存在になったからだ。それを理解していれば、兵を失うような事は避けただろう。

 コストナー家はどちらの派閥も、それなりに後援を受けて存続している。

 はっきり言ってお荷物と言っても良いほどだが、それでも見捨てられないのは、ポンメルン郡が敵対派閥の支配下に入る事を防ぐのに役立つからだ。

 弱くても愚かでも、価値があり、必要とされる限り、形だけでも生かしてもらえる。

 蒼州公の遺児ユリアン。総督府。ユウキ一族は滅んでしまったのに残るユウキ家の名。全て、まだ価値があるから生き延びているのだ。

 傭兵もまた、生き延びるには必要とされる事だ。そして傭兵が必要とされるのは、戦働きにおいてだ。


「ゲオルク殿、難しい顔をしてどうなされましたか?」

「テオか」

「ツヴァイハンダーの運用に、何か問題が?」

「いや。ヴァインベルガーからいくつか指摘は受けたが、問題は無い」

「では、何が?」

「我々は死ぬために戦っているのだろうか、と思ってな」

「らしくもないですな。戦う以上、死を避けられない事もあるでしょう」

「そうではない。ヴァインベルガーが言ったのだ。必要とされている限り、生かしてもらえる、とな。我々の目的が達せられれば、戦は無くなる。そうなると、我々はもう必要とされなくなる」

狡兎(こうと)死して走狗()られ、高鳥尽きて、良弓(しま)われる。ですか」

「戦の無い世を願って戦うのは、自殺願望の様なものなのではないか、と思ってな」

「確かに功臣が粛清された話は多くありますが、上手く身を退いて天寿を全うした話も少なくはありません。気に病み過ぎでは?」

「私やお前はともかく、部下の傭兵達に戦場を離れた生き方ができるだろうか? 彼らはもう、戦場でしか生きられないのではないか?」


 テオは言葉に詰まった様子だった。否定しきれないのだろう。意地の悪い事を言ったかもしれないと思った。

 しかし、テオもまた感じているという事だ。傭兵団の抱える傭兵達は、もう戦場以外の場所で生きる事ができないのかもしれないと。


「先送りのようですが、そういう事は、戦に勝ってから考えてはどうでしょうか。まだ勝てるかどうかも分からないうちから勝った後の事を考えるのは、それこそ獲らぬ狸の皮算用でしょう」

「……そうだな。気が早かったか」


 勝つ前から勝った後の処理を考えておくのは、上に立つ者として当然なすべき事ではないか。そういう思いは口にしなかった。

 テオだって、それが分かっていないはずはないのだ。分かっていても、どうしようもないから、今考えなくても良いだろう、なんて事を言うのだ。

 これもまた、理不尽と言うのだろうか。どうにもならない事を理不尽と言うのであれば、そうだろう。

 戦には勝てても、理不尽には勝てないのか。負ければ滅ぶのはもちろん、たとえ勝っても、その先にあるのは破滅の運命なのだろうか。

 ならば、今ここで戦う事に、何の意味がある。

 そう思ってもやはり、戦う事を止められはしない。理想があるだのなんだの、それに色々理由を着ける事はできる。

 しかし本当は、自分もまた、戦場以外に生きる場所を知らない存在になってしまっているのかもしれない、と思った。

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