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戦争狂奏曲  作者: 無暗道人
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あとがき

年表

帝国歴393年

 霊帝崩御。蒼州(そうしゅう)公フリードリヒの反乱事件。昌国君(しょうこくくん)朱耶(しゅや)克譲(なりちか)の手により早期鎮圧される。

394年

 ユウキ公爵がフリードリヒ公の長子を担ぎ反乱。ユウキ合戦勃発。朱耶克譲、征東将軍に任じられ鎮圧の総指揮を執る。蒼州公派は破れ、ユウキ公爵家は断絶。

395年

 ゲオルク、命令により傭兵団を設立。イエーガー男爵家当主が没し、相続争いにジギスムントが勝利する。

 オステイル解放戦線が勢力を拡大。

 フリードリヒの遺児ユリアンを立てて、蒼州公家の再興が成る。蒼州総督府軍と戦が起き、蒼州公家勝利。

396年

 ゲオルク軍によりオステイル解放戦線リーダー、オイゲン・ノイベルク討たれる。蒼州公家と総督府の和平交渉の席で、総督が殺害される。

 ジギスムント、正式にイエーガー男爵家の当主に就く。

 蒼州公派がインゴルシュタットに本拠を移転。ゲオルク傭兵団の砦がオステイル解放戦線の残党に襲撃される。

397年

 エルンスト・オルデンブルク。主君キム・ケルジャコフを討ち、独立。各地で蒼州公派と総督府派の争いが激化する。

398年

 蒼州公派、州都フリートベルク攻撃を行うも敗退。アイヒンガー伯爵家滅亡。オットマール・フォン・アイヒンガーは逃亡。

 第二次フリートベルク攻撃。敗北し、蒼州公派は崩壊。朱耶克譲の反撃により、インゴルシュタット失陥。

 ティリッヒ侯爵家、ヴォルフガング・シュピッツアー男爵の攻撃により滅亡。

399年

 コストナー伯爵家の内乱集結。インゴルシュタット市民暴動事件。

 ゲオルク軍主体の蒼州公派残党軍と朱耶軍含む総督府軍の決戦。

 統制を失った兵の暴走により、州都フリートベルクが壊滅する。後に州都劫掠(ごうりゃく)と呼ばれる様になる。ゲオルク、死去。


400年

 秋。朱耶克譲死去。朱耶克用(なりちか)(16)が家督を継ぐ。


 ジギスムント・イエーガーが勢力を拡大。ウォルフガング・シュピッツァーとの覇権争いに勝利し、蒼州の覇権を握る。シュピッツァーはジギスムントの傘下に入る。アルブレヒト・フォン・ヴァインベルガー、ジギスムントを支持し、多額の融資をする。ジギスムント、徐々に中央政府と対立せざるを得ない情況に陥っていく。


402年、

 冬。安東(あんどう)子爵家で安東高星(たかあき)がクーデター。父を殺して家督を奪う。



人物小辞典

朱耶(しゅや)克譲(なりよし)

 昌国君(しょうこくくん)の異名を取る名将。かつて霊帝の片腕として絶大な信頼を得たが、霊帝の死後は疎まれがち。本作における最大最強の敵。

 終盤のゲオルク軍との戦いでは、強すぎて作者の頭を悩ませた。絶対的に不利なゲオルク軍を圧倒しすぎて、ゲオルクが死んでしまう。かと言って、弱くする訳にもいかない。それでもやはり、作品の都合で弱体化が入ったような気がする。


ゴットフリート・ベルンシュタイン

 ゲオルクの後輩騎士。元々才能はあったが、ゲオルクの指導と実戦により、急速に成長した。まだまだ成長の余地はある。赤隊の全滅とゲオルクの死を乗り越えて、人間的にも成長する事だろう。

 ゲオルクの死後は、ゲオルク軍の残党を中心に、独自の傭兵団を率いて各地を転戦する。


テオドール・フォン・ネーター

 将としては情けないが、領主としては優秀な素質を持った兄。

 兄妹どちらも領民思いで、領民でなくても民衆に優しい。ただしテオドールの方は、必要とあれば冷徹に切り捨てる事ができる面も持っていた。

 ゲオルク傭兵団におけるテオドールの功績は計り知れない。地味な事務仕事に終始していたが、軍を支える兵站や経理は、彼がゼロから築き上げた。

 テオドールは謀略にも手を出したが、そちらの方はオルデンブルクという上手がいた。本能的に危険を察知してゲオルクが止めなければ、深入りしすぎて消されていた可能性もある。

 蒼州公派滅亡後、ゲオルクが夢見た平和な国作りにこそテオドールの才能は必要とされたが、それは叶わなかった。


ハンナ・ネーター

 猛将型の妹。口は悪いが、兄の事は心配していた。嫁の貰い手が無い事も、テオドールを一人にする事が心配だからと誤魔化していた。

 再会した元婚約者シルヴェスター・シュレジンガーにいきなり斬りかかって試すなど、無茶な行動が多い。ただ一線は超えない思慮分別は持ち合わせていた。

 始めのうちは、対オステイル解放戦線戦で、女子供を殺す事を躊躇するなど未熟な面もあった。彼女の成長をもっと丁寧に描きたかったが、脇道が長くなりすぎると考えて断念した。

 勇将の下に弱卒無しを地で行き、ゲオルク軍最精鋭の赤隊を育て上げる。女に負けては面子が立たない、という心理も働いて、とにかく勇猛だった。兄妹揃って、ゲオルク軍の柱として活躍した。


ディアナ・ワールブルク

 ネーター兄妹の師匠である、歴戦の女傭兵。熟練した指揮は非常に頼りがいがあり、安心感がある。

 彼女の最大の功績は、序盤で描いた新兵育成だろう。人間は自分が殺されそうになっても、明確に人を殺す行動を取れない者がほとんどだというアメリカ軍の研究がある。そのため近現代の戦闘は、人を殺しているという実感をできるだけ薄め、責任を感じない様にするという。

 彼女の調練はその逆で、まず人殺しを強制的に体験させるところから始まる。剣や槍が主体の戦場では、人を殺した責任から逃れる事は出来ない。逃れられない以上、無理にでも向き合わせる。それが彼女の鬼軍曹的教育だった。

 彼女の過去は、ほとんど書かなかった。設定が固まっていないというメタ的な理由もあったが、人に話したくない思い出も多かったのだろう。


アルブレヒト・フォン・ヴァインベルガー

 田舎領主の子だが、早くに両親を失い、大学も決闘騒ぎの果てに飛び出して傭兵となり、ゲオルク軍に加わって、白隊隊長に就いた。

 性格がかなり歪んでいるが、それを自覚し、表面上は上手く取り繕う事ができるので、ゲオルク軍で大きな問題や軋轢を生む事は無かった。むしろその本性を知らぬ部下からは慕われていた。事実、将帥としても領主としても、優れた才能を持っていた。

 皮肉屋で、何事にも斜に構え、常に部外者・傍観者の様な立ち位置にいて、全てを冷笑して見ている。その対象は、自分自身も例外ではない。彼にとっては自分の事すらも他人事に等しかった。

 だがそのため、全ての事を客観的に見る事が出来た。そのため彼の進言は、最終的には外れた事が無い。だが正しいからと言って通るほど、世の中は単純ではなかった。くだらないしがらみや、個人の心情で正しい事が通らない。彼自身それを理解しているから、常に淡白で、熱と言うものが無かった。


ヴィルヘルム・レーヴェ

 傭兵団レイヴンズのリーダー。盗賊と区別がつかないような傭兵が多かった中で、傭兵をビジネスと捉え、実績を上げた。傭兵の一つの典型。

 常に総督府に雇われていたが、これは結局は総督府派が最終的な勝利を得るという読みと、苦しい時も見捨てない事で大きな恩を売り、将来の見返りを得る事を狙ったものだった。

 情況に合わせて軍勢の規模や、配下の兵達の武装を変える事で、どんな情況でも活躍できる、便利な部隊としての価値を売りにしていた。それは当たり、総督府派のエース部隊の一つとして実績と名声を上げる。

 ゲオルクのライバルとして考えていたが、ゲオルクの目は昌国君という大きな敵に向かってしまった。これは作者も想定外で、結果的に不遇な扱いになってしまった。

 だがその分、ゲオルクが昌国君に抱いたのと同じ、自分よりも強く、先を行く、自分の事を見ていない相手を振り向かせたい、という思いをゲオルクに向けてくれた。

 ゲオルクはそれを自分が受ける側だという事に気付かず、気付いてもすぐにはその思いの強さが分からなかった。それが、最終決戦直前で左腕を失う事になった。

 書き上げてみて私は、レーヴェはおそらく、ゲオルクの腕を奪った事に満足して死んだと思っている。



 『戦争狂奏曲』は、『流刑人形の哀歌』でたびたび語られる蒼州の大乱を、一度書いておきたいと思って執筆を始めた。それにより、流刑人形の世界を重層的にできれば、という目論見である。

 しかし書く以上、流刑人形のおまけでは済まされない。どういう人物を主人公に据え、どういう物語を展開するべきか。

 主人公ゲオルクの境遇は、実は最初、現代のサラリーマンとして思いついた。大企業でそこそこの出世コースにも乗り、人生安泰だと思っていたが、不祥事で企業が倒産。残った資産をかき集めて作った新会社から、新たな子会社の設立を命じられ、金も人員も何もない中で、厄介事ばかり押し付けられて四苦八苦する。そんなアイディアを、この舞台に移し替えて設定した。

 そうである以上、主人公は特別な人物ではない。むしろ後世に名の残らない人物であり、全ての出来事に関わる訳ではない。本人の知らない所で起こる出来事に、振り回される。

 ゲオルクは正確には主人公ではなく、登場人物の一人にすぎないのだ。ただ物語は、ゲオルクの視点で進んでいく。

 そこが決まれば後は、様々な登場人物達を配置すればいい。中にはゲオルクとすれ違った程度で、あまり活躍させられない人物も出てしまったのは、作者として彼らに謝るしかない。

 蒼州の大乱の発端である、フリードリヒ公の反乱事件~ユウキ合戦という大事件を想定し、そこを軸に人物を置いて行く。必要な人物を配置し終わったら、何人か新たに創造した人物をランダムに置いていく。どんな風に動いてくれるかは、当初私にも分からなかった。

 結果として、予想以上に生き生きと動いてくれた者もいれば、あまり動かなかった者もいる。だがそれぞれに、思い入れのある人物達である。

 そして何よりも、昌国君こと朱耶克譲を書く事が出来た。彼をあえて主人公ではなく、ラスボス的立ち位置に置いたのは、間違いではなかったと思っている。

 ただ、不満や後悔が無い訳ではない。ゲオルクの視点のみで進めたかったが、神の視点が混じってしまった。説明も過剰になりがちだったと思う。これは私の悪癖である。

 そういう満足も後悔も全てひっくるめて、この『戦争狂奏曲』を書き上げられて良かったと思うし、今後の創作の糧になればよいと思っている。

 この『戦争狂奏曲』というタイトルは、H・ベルリオーズの幻想交響曲から取った。幻想交響曲第四楽章が『断頭台への行進』であり、第五楽章が『ワルプルギスの夜の夢』である。ただし、借りたのは題名のイメージのみで、内容とは関係が無い。

 最後に、なぜ作品タイトルを『戦争交狂曲』ではなく『戦争狂奏曲』としたかだが、実はこれ、私の記憶違いで決めたのを、そのまま採用したのだ。

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