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恋の咲かせ方を知らない花達~彼と彼女らは恋をする  作者: デブ猫太郎
Chapter1 出会いと始まり
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1-7「過去と向きあうための義務」

* 天陽学園 二年E組 放課後 *


 ――茎元さんの最後のあの言葉。


『一人でも大丈夫ですので………慣れてますから』


 ――慣れてますから…かぁ…。


 その言葉が頭から抜けてくれない。なぜなら、その時の茎元さんの表情や声が苦しそうだったからだ。俺は放課後の教室で椅子に座りながら考え込んでいた。


「はぁ…どうしたもんかねぇ…」


「何が?」


 俺が気が抜けたような声に反応するように、俺の横からあかりが勢いよく顔を覗かせる。驚愕して思わず声が出そうになるが、間一髪で口を手で抑え込む。


「大ちゃん!もう放課後だし、生徒会行こう?」


「あ…ああ!そうだな」


 俺達はこの天陽てんよう学園の生徒会の一員である。俺が書記であかりが副会長、その他に会長と会計がいる。なぜ落ちこぼれの俺達が生徒会に入れられたかというと、この学園の生徒会は指名制で先生方が勝手に俺達のクラスを指名して、その中でも仕事が出来そうな奴が選ばれたというわけだ。風紀委員の山盛やまもりも同じ要領で選ばれた。立候補も出来るので、役員になろうと思えばいつでもなれてしまうわけだが…。俺達は放課後になると生徒会の仕事を行うため、毎日生徒会室に赴くのだ。


 そして、俺は机に掛けてあった鞄を手に取りあかりと共に教室を後にした。



* 天陽学園 陽の棟 二階廊下 *


「それでどうしたの?」


 あかりは先程の話題を掘り返してきた。やはり気になっていたらしい。こいつには躊躇ちゅうちょというものが無いのだろうか。いや、こいつの性格上…仕方のないことか。何かあると、放っておけないおせっかいだ。


 ――特に…、俺に関しては。


「いや…茎元さんのことだよ」


「ああ、あの転校生の子ね。まぁ、お世話係断られちゃったしねー?落ち込んでるのー?」


 あかりはざまあ見ろと言わんばかりの笑顔を向けてくる。俺は真意を悟られたくないため、あかりの言葉に食いついていく。


「ああ!はいはい!そうだよ!笑うなら笑え」


「あははっ。なーんて嘘だよ?本当はあの子のことが気になるんでしょ?顔に書いてあるもん」


 そうだった。こいつに嘘は通じない。昔からそうだ。俺が何か考え事をしていると、すぐに現れて優しい言葉を向けてくる。その優しさが俺の口を動かさせる。それが自分の甘さだと知りながら。


 ――俺は昔からこいつに甘えっぱなしだな…。


「少し気になることがあってな…」


「気になること?」


「ああ。でも、俺にどうこうできる話じゃ…ないのかもしれない」


 その言葉をあかりは驚いた表情で受け取った。しかし、その顔はすぐに変異し頬を緩めて優しい表情へと変えていく。


「そっか。でもね?大ちゃん」


 あかりは少し小走りで俺の数歩前へと出てくる。そして、振り向きながら言い放った。


「大ちゃんは大ちゃんの思った通りのことをすればいいんだよ?私はね、こうしろとか、こうしてほしいなんて、誰かが行動しないと生まれない感情だと思うんだ」


「ん?どういうことだ?」


 俺は言葉の意味が分からず、素朴な疑問を返す。すると、あかりは察しが悪いとばかりに頬を膨らませる。しかし、あかりは構わず言葉を続けた。


「こんなこと言うのは余計なおせっかいかもしれないけれどね。つまりさ、行動してみないと相手がどう思うかなんて分からないってこと。私には大ちゃんが茎元さんに対して何を思っているかなんて分からないけれど、これだけはわかるよ?…………放っておけないんでしょ?」


 ――っ!!


 俺はその言葉に一瞬の心の緩みが出た。しかし、あかりはその緩みを見逃さない。嘘をつこうとした俺を逃がそうとしてはくれない。


「私はね、大ちゃんが困っている人を見ると放っておけない人だって知ってるよ?あの時もそうだったように」


 言葉で人の事情に、心に、ずかずかと踏み込んでくる。それは、俺があの時失ったものであったように。


「確かにあの時は失敗しちゃったかもしれない。それが怖くなったかもしれない」


 しかし、あかりはそれを許してはいなかった。もう一度取り戻せと、あの時の俺を、思いを、そう言っている気がした。 



 そして、これがあかりの俺に対しての断罪おせっかい――



「過去と向き合わなきゃ、あの時と同じだよ?」


「…っ!!」


 あの時、俺は人の心に踏み込むのをやめた。たった一人も救えなかった。


 けれど、同じことを繰り返してはいけない。あんなに【可愛い】笑顔をみせる子から笑顔を失わせてはならない。あの子を放っておけない。この思いはとんでもないおせっかいかもしれないけれど、その感情は俺がお世話係に選ばれたからでも、誰かの干渉を受けたからでもない。俺自身がそう感じた事だ。


 これはあの時に背負った罪に対する償いだ。俺はその罪を償う【義務】がある――



 ――だから。



「まったく………あかりはとんでもないおせっかいだな」


「何よ!そんな言い方……」


「でもさ!」


 俺はあかりの反論を遮った。こいつはいつも答えをくれる。こいつがくれたこたえがもう一度俺を向きわせてくれる。だから、そんなおせっかいな幼馴染あかりに精一杯の感謝を送ろう。


「ありがとう!」


 あかりはその言葉に笑顔で答えた。


「どういたしまして!それでこそ大ちゃんだ」


「じゃあ今日の夜、お前の家で作戦会議だ!」


「えーーー!そんなの聞いてないよーー」


「そりゃあそうだろ。今、考えたんだから」


 俺達は生徒会室に向けて廊下を歩いていく。その歩みは、あの時から止まっていた時間からも進んでいるような気がした。




 だから、今度こそ救ってみせる。罪を犯した過去の自分と向き合うために――


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