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恋の咲かせ方を知らない花達~彼と彼女らは恋をする  作者: デブ猫太郎
Chapter1 出会いと始まり
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1-6「地味な転校生とお世話係」

* 天陽学園 二年E組 朝のホームルーム *


 黒髪に髪型はお下げに眼鏡とは、また随分と地味な印象を受ける。そんな彼女を見てクラスの一角で男子グループがひそひそと話をしている。


 ――あれは確か…オタク達のグループだったかな?


 背丈は女子の平均くらいはありそうだし、スタイル的にも普通というかむしろ良い方なのではないかと思う。それでもってこのような恰好や雰囲気を漂わせていれば、ああいう奴らが騒ぐのも分からなくもない。地味っ子系キャラって感じだし。


 そんなことを考えていると、右隣から妙な視線を感じた。


「なんだよ?あかり」


 俺に妙な目線を送ってくるあかりに、その視線に対して疑問を返す。


「別に?やけに見てるなーなんて思っただけだけど?これだから大ちゃんは……」


 あかりは頬を少し膨らませ、頬杖をついていた。


 ――何か…やけに不機嫌そうだ。俺、こいつに何かしたんだろうか?それに最後の方は小声過ぎて、良く聞こえなかったけど。特に気にすることはないだろう。


 そうして、俺は教室の前方に視線を向ける。


「あの…先生?」


「どうした?茎元?」


「私は…どこに座ったらいいんでしょうか?」


 転校生は教室のどこに座っていいかも分からず、目線を泳がせながらオドオドしていた。


「そうだな。うーーー……んっ!!」


 先生は一旦教室の全体を見渡した後、何かを発見したようだった。


 ――なんか先生と目が合った気がするんだが…。


たいらの横が空いているな!あそこに座るといい!」


 ――やっぱりそうか………。


「あっ…はい!分かりました」


 転校生はようやく自分の居場所を見つけることが出来て、胸に手を当ててほっと一息をつく。彼女の顔から自然とオドオドした表情は剥がれ落ちていく。頬を緩め、とても安堵しているように見えた。その姿は餌を与えられたペットと変わらないものだった。


 そして転校生は小走りでこちらに向かって…来ると思ったが、転校生は忽然こつぜんと姿を消した。


 ――下の方からドテッと音が聞こえたようだったが。あれ…転校生どこ行った?


「あいたたたっ!!」


 下の方から何かに痛がるような声が聞こえてきた。俺が下を覗くと、何もない平坦な床で転校生は転倒していた。


 そこに段差とかがあるのならまだ分からなくもないのだが、ズレなど1ミリもない平坦な床でつまづくなんて…ドジすぎる。俺はクラスの一角の男子グループから視線の集める彼女を少し不憫に思った。


 転倒していた転校生は自分がクラスの視線を集めていることに気づくと、慌てて起き上がり手でスカートの汚れを掃って、歩を進める。そして、ようやく自分の席に辿り着き着席することができた。着席した彼女は右隣の俺の方を向き口を開いた。


「あっ…あの。茎元くきもと 若葉わかばといいます。今日からお隣さんですね?よろしくお願いします」


 なんか引っ越してきた時の近所への挨拶みたいだと思って心の中で微笑するが、その挨拶に答えることが今この場にいる俺の彼女に対する礼儀だと思った。


「おう。俺の名前はたいら 大地だいち。よろしくな。茎元さん」


 俺は軽い自己紹介も兼ねて彼女の挨拶に返答した。


「はい。よろしくお願いします。平くん」


 彼女は頬を緩めながら、そう答えた。近づいてみてようやく顔を確認することができたのだが、その時に茎元が見せた笑顔はなぜだかとても魅力的に感じてしまい、思わず赤面してしまう。


「……?どうかしましたか?」


 茎元さんはこちらの視線に疑問を感じたようで、こちらに問いかけてきた。


「いっ…いや何でもない!」


 俺は悟られるわけにはいかず、すぐさま返事をする。彼女は変な人ですねと言いたげな感じで首をかしげた。

 茎元さんとの初めての会話が終わり視線を教卓の方へ移すと、そんな俺たちを見ていた先生が不敵な笑みを浮かべていた。


「おっ!いきなり気が合ってるみたいだな!よし!平、お前を茎元さんのお世話係に任命する!」




 ――えっ…今なんて?




 俺の思考が一時停止する。


「先生、言ってる意味がいまいち分かりません」


「そうだな!転校してきて色々分からないだろうから、学校の案内をしたり町の案内をしたり…」


「そういう意味じゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 俺は思わず席から立ち上がってしまった。しかし、それと同時に右隣の奴も立ち上がっていたようで。


「先生!どうして大ちゃ…大地がお世話係なんですか!?」


 立ち上がって先生に最初に反論したのは、俺ではなく右隣のあかりだった。


 ――そうだ!その通りだ!あかり!もっと言ってやれ!


 助力をしてくれるのではないかと思い、俺はあかりに期待の目線を寄せる。


「こんなアホな奴にお世話係なんて務まりません!それだったら私がやります。大地より面倒見がいい自信ありますし!それに女の子と二人になんかしたら危ないですし!」


 そんな思いを打ち砕くような発言だった。


 ――あかりさん…さりげなく俺の悪口言っていませんか?


 あかりの発言を聞き、先生は俺の事は何でも知っている風なドヤ顔をあかりに向けた。


「木之下。お前は平がそういう奴に見えるか?俺はそいつが意外に面倒見が良いことも知っているし、何より優しいやつだ!」


 反論をするために立ち上がったあかりが先生の発言を聞き、少し俯く。


「それは…私が一番知ってます…」


 あかりは少し小声になりながらつぶやいていた。


 ――あの……お二人さん?俺のこと忘れてませんかね?


「よし!じゃあ決まりだな!平、よろしく頼むぞ!」


 先生は笑顔を俺に向けてきたため、仕方がないかと思う。俺はあえなく了承しようと席を立つ。すると、左隣の茎元が申し訳なさそうに立ち上がった。


「いいですよ、先生。お世話係なんて。平くん嫌がってますし。私、一人でも大丈夫ですので……」


 少し苦笑いで答える茎元さんに俺も少し驚いたが、言われた先生はそれ以上に驚いたようだった。


「そ…そうか。それは悪かったな。そ…それじゃあホームルーム始めるぞ!」


 茎元さんの発言に少し怯んだような声で先生がホームルーム開始の合図を出す。茎元さんは俺の方を向き軽く頭を下げた後、静かに着席した。その後、授業が始まっても俺達が会話することは一度もなかった。



* 授業中 *


 朝の一件以来、茎元さんとの会話はなく時間だけが刻々と過ぎていた。その後の茎元さんはというと、ずっと窓の外を眺めている。俺にはその顔がとても寂しく感じた。


 そして、俺には確かに聞こえた。茎元さんの内側に宿るものが、本音が、心の傷が。小声過ぎて周りには聞こえなかったかもしれないが、俺はその発言に心を打たれしまった。




 なぜなら――




『いいですよ、先生。お世話係なんて。平くん嫌がってますし。私、一人でも大丈夫ですので………』





 【慣れてますから】



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