1-2「変態キャプテン」
* 天陽学園 昇降口 *
――ハァハァハァ…。間に合った…。
俺は膝に手を付きながら、先ほどの行為のインターバルを取る。すると、前の方から威勢のいい声が聞こえてきた。
「よう!お二人さん!今日も熱々だね!…って何でそんなに汗かいてんだ?…っ!さては、さっきまで夜のファイトでもしてたのかな?」
俺に話しかけてきたのは坊主頭の男。しかし、顔立ちはとても整っていて、体がとても引き締まっており、見るからに筋肉質なのが分かる。意気揚々と話しかけてきて、いきなり下ネタの方に走ろうとする不逞な輩、あかりと同じく俺の幼馴染であり、クラスメイトの河本 流だった。
坊主頭から分かるように野球部で、三年生が抜けて副キャプテンだった河本はキャプテンに昇格したうえにエースになったらしい。噂に聞いた話ではだが。
元気が良くて、優しくていい奴なんだが、こいつは女子のスタイルを総評する癖があるため、女子から嫌な目で見られることが多々あるのだ。しかし、残念なことに顔がイケメンだから、こいつの性癖を知らない女子からはかなりモテているらしい。
――周りの女子の皆さんはしっかりと中身を見てから判断しようね?息もだんだん落ち着いてきたことだし、馬鹿らしい河本の問いに仕方なく答えてやろうと思う。ちゃんと正確にな。
「ああ、熱々だよ。それにさっきまで課題とファイトしていたよ」
なぜ俺たちがこんなに汗をかいているのかはしっかりとした理由があった。その理由を聞けば、誰しもが朝から大汗をかいてしまうのも当然の事のように思えてくるだろう。なぜなら――
――ここまで全力ダッシュで坂道を上ってきたのだから。
俺とあかりは何とか課題を終わらせたものの、終わった頃には登校時間まであと20分を切ってしまっていた。あの時の俺とあかりは少し絶望した。
俺達の通う学校、天陽学園は海花町の一番上層部にある。この町は元々が扇状地からできたため、傾斜がとても多く、全体的に坂道が多いのだ。
俺の家から直線距離にすれば、坂の頂上にある天陽学園まで15分くらいしかかからないわけなのだが、それは直線距離での話であって、坂道を徒歩で歩くと早歩きでも30分くらいはかかってしまうのだ。
「はははっ!それを20分かからず来たってんなら、そりゃあ汗ビショビショになるよな?」
河本は俺からこれまでの経緯を説明されると腹を抑えながら、今のように語った。俺はお前みたいにスタミナがあるわけじゃないんだよと心の中で悪態をつく。
「もう…、ホントに疲れたー。朝から走ることになるなんて【中学以来】だよ。課題を手伝わされた挙句、朝から走らされたこっちの身にもなってよね?大ちゃん!」
俺の横にいたあかりは手で顔から流れる汗を拭った後、息こそ切らしていなかったが俺を鋭い目で睨みつける。
しかし、汗は俺と同様に大量にかいていて走ったせいで体が熱いからだろうか、制服のシャツの一番上のボタンを開けて少しでも体温を下げようと手を扇風機のように回していた。
――他の女子がすればこの光景も艶めかしいのだろうが、こいつがすると…、何故だろう…。艶かしい雰囲気は微塵も…。………これ以上コメントは控えよう。あかりが不憫に思えてくる。
すると、そんなあかりの姿を見て、河本の口から意味不明な言葉が飛び出した。
「あかりちゃん!気を付けて!いくら背が小さくて、胸が無かったとしても、ボタンなんか開けていると大地が狼になって襲ってくるかもしれないよー?」
――何言ってんるんだ?こいつは…。それに今の発言はいくら何でも直球すぎるだろ。キャッチャーミットじゃなくて、あかりの心にストライク投げてどうするんだよ?野球部エース。
河本の発言を聞き、あかりは今の自分の姿を確認する。とっさに胸を抑えるような仕草を取ったあかりの顔が見る見るうちに赤くなっていく。
「なっ!にゃに言ってんの!?しょんなことあるわけないじゃん!ねぇ?大ちゃん!?」
リンゴのように顔を赤く染めたあかりが俺に必死の目線を送ってくる。平静を装っているつもりなのだろうが口調から分かるように平静を保ててないのは明らかだった。
俺はその視線に答えなければならない。俺は右手の親指を立て、あかりに言い放った。
「ああ!あるわけない!心配するな!」
――これであかりも安心だな。
「う~…………」
何故だが残念そうな態度をとり、地面に跪いていた。
――俺なんか悪いこと言いました?あかりさん?
「こりゃあダメだな」
河本は呆れた顔で、首を左右に振っていた。
――いや、20秒前を思い出してみろ?俺の発言よりお前の発言の方が誰がどう見ても、あかりに対して失礼だった気がするんだが…。
俺は自分が言った言葉と河本が言った言葉を比べ直し、河本の方が酷いという結論に至った。あかりにその審議を振ろうと思っていたのだが。俺はその行為を取りやめてしまうほどの衝撃的なものを見てしまった。
河本の背後から、ものすごい勢いで近づいてくる鬼のような女子の姿を――