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恋の咲かせ方を知らない花達~彼と彼女らは恋をする  作者: デブ猫太郎
Chapter1 出会いと始まり
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1-1番外「世話のかかる幼馴染」

この物語はたまにヒロイン目線で描くことがあるので、そちらも楽しんでいただけたらと思います。

* 9月1日 朝  自宅の自室 *


 ピピピッと目覚ましの音がする。私は朦朧とする意識の中、目覚まし時計を手探りで探し、時計の上のストップボタンを押す。


 ――もう起きる時間かぁ…。といっても、まだ朝の6時なんだけどね。


 時計の針は朝の6時を指していた。いつもなら朝の7時に起きるのだが、今日は夏休み明けの最初の登校日だ。早めに起きて、夏休み中に生活リズムを崩しているであろうあの馬鹿を起こしに行ってあげないといけないと思い、目覚ましをいつもより一時間も早くセットしていたのだった。


 私は眠気を覚ますように大きく背伸びしながら欠伸をし、ベットから立ち上がる。そして部屋の扉のドアノブを回し、部屋を出た後、下に降りるために階段へと向かう。


 階段降りる時、あまり音を立てないようにしないと【あの子】が起きてしまうと思い、音を立てないように気を付けながら階段を静かに降りていく。


 一階へ降りるとリビングの方から良い匂いがする。たぶんお母さんだ。毎朝こんな時間から起きて朝食を作るお母さんも大変だとしみじみ思う。たまには手伝ってやろうと思い、私はリビングの扉を開けた。


* 自宅 リビング *


 リビングに入ると、パジャマの上からエプロンを付けているお母さんの姿があった。テーブルに朝食が並べられているところを見ると、調理の方はもう終わってしまったらしい。


「おはよう!お母さん」


 手伝えなかったことを少し残念だなと思うが、そんなことを悟られないように元気な挨拶をする。


「おはよう!あかり…って今日は早いのねぇ」


 お母さんも今日の私の起床時間に対し、疑問を持ったようだった。


「今日は夏休み明け初日だからね!あのバカを早めに起こしていってあげないと」


 私はその疑問に答えを出すように早く起きた目的を告げる。すると、お母さんは口に手を当てて、いつものように少し笑みを浮かべた。


「大地くん?あなたも懲りないわねぇ?」


 ――何、その含みのある言い方。ちょっと…、ムカつく…。いつものことだけど。


 お母さんは大ちゃんのことになると、いつも私をからかってくる。本当に我が親ながら酷い親だ。


「いいの!余計なお世話だよー!大ちゃんは私が見てないと、ダメ人間になるんだから」


 私はすぐさま朝食を済まして、洗面台へと向かう。顔を洗った後、自分の歯ブラシを取り出して歯を磨いていく。これが私の一日の始まりだ。その後にリビングに行くと、お母さんがアイロンをかけた制服を椅子に掛けた状態で用意してくれているはずだ。


「あかり。制服、アイロンかけて椅子に掛けておいたからね?」


 お母さんは私の予想通りの行動を取る。それだけ、この行為が当たり前になっているということだ。


「ありがとう!お母さん!」


 私は寝間着を脱ぎ、椅子の上に掛けてあるシャツを手に取って、腕を通した後、一番上のボタンから留める。そしてスカートを履き、学園指定の鞄を肩に掛ける。これもいつもと変わらない私の生活習慣。


 ただ一つ違うのはいつもより起床時間が早いというだけだった。誰かさんのせいで私の習慣が崩れてしまっているのは少し釈然としないが、制服を着終わった私はリビングの扉のドアノブに手をかける。そして、最後にお母さんへ。


「行ってきまーす!」


「行ってらっしゃい!気を付けてね!」


 お母さんは私の食べた朝食の食器を洗っている途中で手を止め、笑顔で手を振って送り出してくれる。このやりとりで私の自宅での朝は終わるのだ。


 お母さんはいつも懲りもせず、大ちゃんを起こしに行く私をこのように笑顔で見送ってくれるのだ。お母さんに別れを告げた後、私は玄関へと向かい、下駄箱から学園指定の革靴を取り出す。あとは革靴を履いて玄関を出るだけなのだが、不意に後ろの方から声がかかった。


「お姉ちゃん?」


 声をかけてきたのはうさぎの絵が描かれているパジャマに身を包んだ少女だった。


「あちゃー。起こしちゃったかぁー。ごめんね?しずく」


 私の朝の行動で起こしてしまったのではないかと思い、謝罪をするが、少女はその言葉に微笑を浮かべた。


「謝らなくてもいいよ?そんなこと、全然気にしてないし」


 この子は私の一つ下の妹 木之下きのした しずく。


 私と同じく赤みがかった茶色の髪、その長さは私と違って、首丈より少し下の方まで伸びている。そして、毛先はくせっ毛のせいでカールしていた。その風貌は可愛らしいパジャマとマッチしており、小動物というか子犬のような可愛らしさを漂わせていた。


 しずくは寝起きだからなのか、寝癖で髪の至るところが跳ねていた。我が妹ながら超可愛いなと妹を絶賛するが、少し気に入らないのが妹のくせに私より背が高くて、胸が大きい。


 ――お姉ちゃん悲しくなるよ…。


 しかし、こんな可愛らしい妹にはたった一つ、気がかりなことがあった。


「こんな早くから起きちゃったら、体にさわるよ?」


「私はいつも家にいるだけだから、いつ起きても変わらないよー」


 しずくは私の問いかけに笑顔で返すが、実際の所は分からない。しかし、しずくが笑顔がみせてくれていることが私の妹に対するただ一つの救いだ。しずくは昔から病弱でよく体を壊して、休学することが多い。


 ――高校も一学期の途中までしか来ることができなくて…。本当はしずくも普通の生活を送りたいはずなのに…。


「お姉ちゃん?なんか難しい顔してるよ?」


 私が考え事をしているとしずくが私の顔を覗き込むような体勢で問いかけてくる。どうやら少し顔に出てしまっていたようだ。


「ううん!何でもないの!」


 私は妹にあまり悟られないように注意しつつ、革靴を履き、玄関のドアノブに手をかけ、しずくの方を向く。


「……それじゃあ、行ってくるね?」


「うん!行ってらっしゃい!」


 私の別れの挨拶にしずくもお母さんと同様に笑顔で手を振って見送ってくれた。それを見届けた後、私はドアノブを回し、外へと出たのだった。


 ――本当に私は……【家族】に……恵まれてるなぁ……。



* 大ちゃんの家への道 *


 玄関を出た私は学校の方へは行かず、その反対方向にある大ちゃんの家への方へと足を進めていた。


 ――いつからだっただろう?こんな風に毎朝、大ちゃんを起こしに行くようになったのは。幼稚園の頃だろうか?それとも小学校?中学…はないか。そんなことはいつでもいいや。


 この道を歩いていると大ちゃんとあった出来事の色んなことを思い出す。昔からは大ちゃんは世話のかかる子だった。幼稚園の頃に公園で野球していて、大ちゃんが近所の家にボール投げ込んだ時、私も一緒に謝りに行ったりしたっけ……。それから小学校の頃、大ちゃんはいつも宿題してこなくて、先生に説教されてたのが見てられなくて、私がいつも手伝うようになったんだよね……。


 ――なんかこんなこと考えてたら切りがないなぁ。大ちゃんとの思い出は酷い思い出ばかりだ。昔は背も小さくて、泣き虫で、世話もかかるうえに、私が何度も慰めてたのに。今ではあんなに大きくなって…、何か少し寂しい気もしてくる。


 そんな事を考えているうちに、いつの間にか大ちゃんの家の前まで来ていた。そして、玄関の横に設置してあるインターホンを押す。


「はーい。どちら様ですか?」


 ――この声は瑠璃るりさんかな?


「あかりです!おはようございます!瑠璃さん」


「あら、おはよう!あかりちゃん。今日は一段と早いのねぇ。勝手に上がって、叩き起こしに行っていいわよー」


「ありがとうございます!お邪魔しまーす」


 私はインターホンから瑠璃さんの許可をもらった後、玄関のドアを開け革靴を脱ぎ、入り口付近に設置してある階段を上がっていく。この行為を昔から何回繰り返してきただろう。


 階段を上り終えると廊下があり、その左端にある部屋が大ちゃんの部屋がある。そこへ歩いていくと、扉には大地だいちと書かれたプラカードが掛けてある。私は大ちゃんの部屋のドアノブを捻った。


 ――やっぱり寝てるし。


 扉を開けた私の視界に入ってきたのは、ベッドの上で枕に顔を埋めるように仰向けで寝ている大ちゃんの姿だった。部屋へと入った私は大ちゃんが寝ているベッドへと近づき、枕に埋めている横顔を覗き込む。


 ――寝顔もアホみたいな顔して…。ほんと…バカ大ちゃんなんだから……。


 ――こんな奴でも時には頼りになるんだよね。【あの時】私は大ちゃんに救われた。大ちゃんの前で弱いところを見せてしまった。昔は私が逆の立場だったのに…。


 でも、もうあんな弱いところを見せてはいけない。あの日にそう決めたのだから。そうでなくては恩返しできない。こんな些細なことしかできない私を救ってくれたヒーローに。


 ――だから……。


 私は寝ている大ちゃんに手をかける。一度大きく息を吸った後、耳元に顔を近づけて、口を開いた。




「大ちゃん!!大ちゃん!!」




 【いつか大ちゃんにも、そういう時が来たら私が……救ってあげるからね】


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