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恋の咲かせ方を知らない花達~彼と彼女らは恋をする  作者: デブ猫太郎
Chapter1 出会いと始まり
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1-1 「小さな幼馴染」

* 9月1日 朝  自宅 *


「大ちゃん!大ちゃん!大ちゃんってばぁ!」


 ――馴染みのある甲高い声がする。久しぶりのうるさい目覚まし時計だ。


「大ちゃん!もう大ちゃんってばぁ!」


 ――体が揺さぶられているのを感じる。俺は眠りから無理矢理、意識を覚醒させられた。


「あー、起きてる起きてる。あと10分だけ寝かせろ」


 俺はそのうるさい目覚ましに対し、まだ眠いと訴えかけた。


「そんなこと言って、また寝るから起こしてるんでしょっ!?」


 そんな訴えは即座に撤回され、俺の体を包んでいた布団は、その目覚まし時計によって引き剥がされる。


 ぼやけている視界を回復させるため、目をこすり、ベットの横で立っている目覚まし時計じんぶつを視界に入れ込む。


 目覚まし時計は俺の横で腰に手を当て、少しだけ胸を突き出すような形をとっていた。


 赤みがかった茶色の髪、その髪は首丈まで伸びており頭のてっぺんにはアホ毛らしきものが動物のしっぽのようにゆらゆらと揺れている。背丈は小さく、スタイルは良く言って慎ましやかである。風貌だけを見れば、小動物を連想させる。


「そろそろ、自分で起きるってことを覚えてよね?」


 その目覚まし時計は未だに治らない俺の怠慢さに呆れを示していた。この目覚まし時計の正体は俺が幼稚園生だった頃からの幼馴染。幼稚園の頃から登校日になると勝手に俺の部屋に上がり込み、叩き起こしに来るお節介な奴。木之下きのした あかりだった。


 ――その目覚まし機能のおかげで、今まで遅刻なんか一回もしたことないんだが…。本当に助かってます。あかりさん。


 ――でも、今さら考えるとあかりの家の方が幼稚園の頃から学校が近いはずだよな?なのに、学校から逆方向の俺の家に起こしに来るとか、どんだけおせっ……もとい面倒見がいいんだろうか?こいつは俺の保護者か何かなのだろうか。あの意味、現在の行動を見れば俺の親より保護者らしいのかもしれない。


 ――小学校くらいの頃から、毎朝の光景が変わっていない気がするのは気のせいなのだろうか?もしかすると、あかりは小学校くらいの頃からあまり成長してな…。


「何か言った?」


 そんなことを考えている俺の前にあかりは自らの顔を勢いよく出してきた。そんなあかりの行動に首を大きく横に振って否定の意志を示すが、内心一瞬、いや少し、いやかなり驚いてしまい、声が出そうになってしまう。


 ――こいつは読心術でもマスターしているのだろうか?それとも人の心が見える能力者か何かなのだろうか?あと、あかりさん?口は笑ってるのに目が笑ってませんよ?


「夏休み明けだから、安全を喫して、いつもより早く来てみれば。やっぱりたるんでるんだから!!」


「いや、昨日は夏休みの課題に追われてたんだから、仕方ないだろ?」



 ――ん?俺…今…なんて言った…?課題…?課題ねぇ……。


 俺は机の方へと目を向ける。机の上には大量の紙の山。そして、俺が昨夜散歩に行く際に置いたペンがそこにはあった。





 ――……………あ。





「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 俺は昨日の出来事を思い出し、ベットの上でうつ伏せになっていた体勢から飛び上がった。そして、頭を抱えながら自分でもこんな声が出るのかというほどの奇声を上げてしまう。


 ――そうだった……。俺…、課題の途中で散歩に出て、そして…帰ってきて、すぐ寝たんだった。


「いっ…いきなり…大きな声出さないでよ!?ビックリするでしょ!?」


 頭を抱えたまま視線を横に移すと、俺の断末魔のような叫び声を聞き、あかりは尻餅をついていた。そのあかりに対して昨晩、電話で言おうとして言えなかった言葉をそのまま口にする。


「課題…終わってない…」


 俺の言葉を聞き、あかりの顔が驚いた表情から憤慨の顔に変わっていき…。


 ――これ…、怒られるな…。


「えぇ!?嘘でしょ!?もう登校まで2時間しかないんだよ!?」


 ――やはり怒鳴られてしまった…。


 ――そうだ!これは夢だ!俺はまだ夢の中にいるんだ!もう一度寝れば、課題も終わっているはず!そして、俺はもう一度眠りの中へと…。


「何でまた寝ようとしてんの!もう信じらんない!あれだけ課題終わらせといた方がいいよ?って言ってたのに!」


 ――夏休みの間に散々言われました…。


 俺の愚行に小さな閻魔様あかりがお怒りどころか、本気で舌を抜いてしまいかねないほど顔を真っ赤に染め上げていた。


「今回は……全く…これっぽっちも…返す言葉もございません…」


 こんなことになるのなら、昨日のうちに電話していればよかったと内心後悔した。俺は憤慨する小さな閻魔様あかりに対し、誠意を込めて床に手をつき頭を下げた。簡単に言えば土下座した。その謝罪に対し、小さな閻魔様は判決は寛大かんだいなものだった。


「はぁ…、しょうがないなぁ…」


 俺の愚行に憤慨していたあかりだったが【しょうがない】の一言で許してくれた。今は怒るよりすることがあると思ったのだろう。


「そんな所で手ついてないで、さっさと始めるよ?私が早く来てなかったら、どうなっていたか。………これだから、大ちゃんは放っておけない」


 最後の方は何を言っているかわからなかったが、あかりは鞄から筆箱と自らが終わらせた課題を出し始めた。そして、俺の机の上から課題の山を持ち出し床に置く。その行動は俺に課題を早く終わらせようと催促しているようだった。


「悪いな。恩に着るよ!」


「別にそんなことはいいから、早く私の課題、写しなさい!あとでジュース一本だからね!?」



 ――ジュース一本で許してくれるなんて、小さな閻魔様あかりの心はどれだけ寛大なのだろうか…。とはいえ………。



 斯くして、俺とあかりによる課題ファイトの幕が切って落とされたのだった。



 ――とか言ってる場合じゃなかった……。これは間に合うのだろうか?


 これがある人物との出会いの日の幕開けであった。

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