1-11「与えられた答えと勇気」
* 自宅 部屋 *
俺は木之下家での作戦会議を終えて自宅へと帰宅し、床に就いていた。
勝負は明日の放課後、答えは簡単だった。しずくちゃんの機転から俺をその答えへと導かせてくれた。上手くいくかはわからない。けれど、これで過去の自分と向き合うための布石を打つことができるはずだ。
だから、あの姉妹には感謝してもしきれない。あかりが道を作り、しずくちゃんが答えをくれた。協力してくれた二人のためにも、明日の勝負には絶対に勝ってみせる。いや、勝たなくてはいけない。そうでないと協力してくれた二人が報われない。
俺の見立てが正しければ必ず茎元さんは絶対に俺が蒔いた【餌】に食いついてきて、勝負の土俵に上がってきてくれるはずだ。そこからは俺と茎元さんとの勝負。これは過去の自分との勝負でもある。
だから、ここで終わらせる。あの時から変わってしまった自分を。人の心に踏み込むことが怖くなってしまった自分を消し去るために――
* 9月2日 朝 天陽学園 二年E組 *
昨日と同じく一緒に登校してきた俺とあかりは教室である人物を待ち構えていた。そして、教室の後方の扉が開かれその人物がこちらへと歩いてくる。その人物は俺の前に立ち止まり軽く礼をした後、口を開いた。
「おはようございます。平くん」
すごく単調な口調だ。それはただ他人に挨拶しているだけのような、そんな挨拶だった。
「ああ。おはよう。茎元さん」
茎元さんは俺から返事を受け取ると、その場から歩き出し俺の左隣の席へと座る。鞄から教科書を取り出し、引き出しを開ける。茎元さんは引き出しの中に何かがあることに気づいたようだった。
これこそが昨日の夜、俺とあかり、そして、しずくちゃんが考えた茎元 若葉を釣るための【餌】だった。
* 昨夜の作戦会議 *
「大地さん。その茎元さんって転校生さんと………どうなりたいですか?」
「どうなりたいって…」
俺はしずくちゃんの言っていることが最初は意味が分からなかった。けれど、次の発言でしずくちゃんの思惑が薄っすらと見えてきた。
「そうですね。その人とどのような繋がりを持ちたいか?ってことです。簡単に言えば、人間関係の形成です」
人間関係の形成。それは人間が生きていくために必要な手段だ。
「つまり、茎元さんとどのような人間関係でいたいのか?ってことなのか?」
「そういうことです。大地さんは転校生さんのことが放っておけないと思っている。転校生さんの力になりたいと思っている。ならそれを素直に伝えればいいんですよ。その人の力になってあげられる人間関係の初歩といえば、一つしかありませんよね?」
――そうか。そうだった。簡単なことじゃないか。俺は何を悩んでいたんだ。悩む必要なんてない。お世話係なんて肩書き…必要ないんじゃないか。
「しずくちゃんの言いたいことは分かった。でも、それをどう伝えよう?」
俺はしずくちゃんに問いかける。しかし、口を開いたのは俺の対面に座っていたあかりだった。
「大ちゃん?言ったでしょ?その人がこうしろとか、こうしてほしいとか、そういう感情って誰かが行動しないと生まれない感情だと私は思うって。だからさ、行動してみようよ?どうしようとか悩んで進めなくなるなら、行動するのが一番だよ。」
「行動するって言っても…」
俺の弱気な発言にあかりは頬を膨らませた。そして、少し拗ね気味に言い放つ。
「そんなの、どうにかして茎元さんを呼び出せばいいの!それくらいわかるでしょ?」
「それは俺も考えたさ。でも、それって図々しくないか?」
今の俺に強く言っても仕方ないと思ったのか、あかりは拗ね気味の態度から一変して頬を緩めた。
「大ちゃん?まだ怖いんでしょ?」
「っ……!!」
俺はあかりの問いかけに沈黙してしまう。そして、自分の中に人の心に踏み込むのが怖いと思う自分がいることに気が付いてしまった。
――さっき、過去と向き合うって決めたじゃないか。そう決心したじゃないか。なのに、まだ勇気が出ないってのかよ…俺…。
「怖いのは分かるよ?でも、私はそういう関係って図々しいくらいが丁度いいんじゃないかなって思う。人の心に踏み込むって…そういうことなんじゃないかな?だから、大ちゃん…頑張ってみようよ?」
おそらく、あかりはまた俺の心の内を察したのだろう。先程とは打って変わって優しく発言する。
――本当に優しくなったこいつはずるい。そんなこと言われたら、勇気出すしか選択肢がなくなるだろうが。
「図々しいくらいが丁度いいかぁ。そうだな。協力してくれた二人のためにも頑張るとしますか!」
過去の自分と向き合うために二人が力を貸してくれているのに、当事者の俺がへたれてどうする。俺は机の上に置かれた飲みかけのお茶を一気に飲み干し、その場から立ち上がった。
「二人のおかげで答えが出た気がするよ。だから二人とも…、ありがとう!」
俺の発言に二人はお互いの顔を見つめ合った後、くすくすと笑った。
「どういたしまして!それでこそ大ちゃんだ!」
「どういたしまして!それでこそ大地さんです!」
* 天陽学園 天の棟 階段 放課後 *
一段ずつ階段を上る――
俺はある場所へと向かっていた。そこは俺のお気に入りの場所であり、今から彼女と勝負する場所でもある。その場所を選んだのは俺が一番落ち着ける場所、自分をさらけ出せる場所だと思ったからだ。
俺は階段を上り終えると、扉の前に立ち止まった。少し扉が開いているのを見る限り、どうやら先客がいるようだ。
――やはり引っかかってくれた。茎元さん、茎元 若葉なら来てくれると思っていた。
彼女が来ている以上、この扉を開ければもう後戻りはできない。俺はドアノブに手をかける。これは過去と向き合うための第一歩だ。こんな所で躓くわけにはいかない。絶対に成功させてみせる。俺は勢いよく、扉を開いた。
そして、決戦の地へと足を踏み入れたのだった。
次はこの話の番外編となります。茎元若葉視点で書こうと思ってます。




