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恋の咲かせ方を知らない花達~彼と彼女らは恋をする  作者: デブ猫太郎
Chapter1 出会いと始まり
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1-9「似た者姉妹と親の思い」

* 木之下家 リビング *


 木之下きのした しずく。あかりの妹にして、俺の学校の後輩であり、生徒会の会計を担っていた女の子。性格は姉と違い、しっかりしていて成績もトップクラスの優等生である。


「だっ…大地さん!?」


「よう!しずくちゃん!体調の方は平気か?」


 しずくちゃんは俺がいることに意表突かれたのか、現在位置から二歩ほど後ずさった。それに寝起きなのだろうか、髪の至るところが跳ねているうえにパジャマのボタンまで外れていた。


 しずくちゃんは今の自分の姿を確認し、硬直した。そんな無防備な姿が恥ずかしかったのか、すぐさま扉の後ろへ隠れ、顔の半分だけ出して涙目でこちらを覗いていた。


 ――本当に子犬みたいだ。


「平気ですけど…な…なんでいるんですか…?いつもなら…お見舞い来るって連絡くれるじゃないですか…?」


「今日は別件で、あかりに用事があって来たんだよ」


「お姉ちゃんに?そういう事だったんですか。……来ると知っていればおめかししたのに」


 最後の方はよく聞き取れなかったが、元気そうで何よりだ。しずくちゃんは自分の涙を手で拭った後、俺の後ろへと視線を移して空さんをものすごい形相で睨んでいた。


「お母さん。何で言ってくれなかったの…?」


 しずくちゃんなりの反論なのだろうが、それを受けた空さんは全くと言っていいほど動じていない。


「だって~。言わない方が面白いじゃない?」


 それに加えて、この仕打ちだった。


 ――やはり、この人は悪魔だ。


「っ!!もう!!お母さんのばかぁぁぁぁ!!私、着替えてくる!」


 しずくちゃんは身を翻し、逃げるよう走っていった。しずくちゃんをプードルと例えるなら空さんはドーベルマンとでも例えればいいだろうか。


 ――勝てるわけがない…。


 階段を駆け上がる音がしたと思うと、今度は真上からとてつもない物音が聞こえてきた。どうやら、しずくちゃんの部屋はこの部屋の真上らしい。


「空さん!しずくちゃんまでからかって……」


 俺は娘に対しても酷い仕打ちをする空さんに対して、怪訝な視線を向けた。


「大地くん。いつもお見舞いに来てくれてありがとね」


 そんな俺に空さんは感謝の言葉を述べてきた。その表情はいつもの空さんとは違う、もう一つの一面を見せていた。


「しずくね、大地くんが来るといつも元気になるの。普段はあんな表情…見せることないのよ?」


「そうなんですか?いつもあんな感じな気がしますけど」


 今の空さんはいつも俺をからかってくる空さんではない。その表情は完全に親の表情だった。


「あの子、いつも言ってるの。大地さんと話していると自分が病気なんだってことを忘れられるって」


 ――そうだった。いつもしずくちゃんは闘っているんだ。病気と、自分を蝕んでいるものと。辛くないわけがないのだ。自分がしずくちゃんだったら苦しいし、辛いに決まっている。


「あの子、大地くんと仲良くなってから辛いって言わなくなったの。本当はあの子もいろんなことをしたいはずなんだと思う。周りは元気な子ばかりで辛かったと思うわ。昔のあの子は根暗で無表情の子だったから。でも、そんな時に大地くんに出会って、励まされて表情を出すようになった。大地くんのお見舞いが少しずつあの子を前に進めているんじゃないかしら」


「そうだったんですね」


「ごめんなさい。こんな重たい話をしちゃって。私らしくないわね」


「いえ、そんなことないですよ!なんていうか、すごいなって思いました!」


「そりゃあそうよ。私はあの子たちの親だもの。子供のことを一番に思っているし、愛しているわ」


 いつもは俺をからかってくるような人なのに、この時の空さんはとてもかっこよく思えた。親とは偉大なものだと示すように。


「だから、大地くんはいつものようにまたしずくのお見舞いに来てくれたら私は嬉しいかな?」


「当たり前ですよ。俺がお見舞いに来てしずくちゃんが元気になる手助けができるなら…いくらでも」


「ありがとう。まぁ…大地くんが来なくなったら、私も暇だしね?」


 そして、またいつものようにいたずらな笑顔で俺をからかってくる。でも、そんなからかいが――


「さっきの会話が台無しですよ?」


 なぜか心地よく感じた。


 そんな会話をしていると、廊下の方から近づいてくる足音と鼻歌が聞こえてきた。どうやら、あかりが風呂から上がったらしい。そしてリビングの扉が開かれ、俺は扉の方へと顔を向けた。


「お母さん!お風呂上がったよー!……え」


「あっ……」


 その瞬間、場が凍り付いた。なぜなら――


「大ちゃん!?来てるなら来てるって言ってよ!」


「言えるわけないだろ!お前、風呂入ってたんだから!てか、早く服着ろ!服!」


 風呂から上がってきたあかりは首にタオルを巻き、下着姿のまま現れたのだった。あかりは赤面し、扉の後ろに隠れる。そして、顔の半分をこちらに覗かせて目には涙を浮かべていた。


 ――あれ…この光景、さっきも見たな。


「……見た?」


「見てない見てない」


「嘘!さっき、服着ろって言ったじゃん!」


 そんな俺達の会話に割って入ったのは空さんだった。


「いいじゃない?いずれ見せるものなんでしょ?あかり?」


「っ!!」


 あかりの顔がさらに真っ赤になり、頭が爆発したように見えた。どうやら、とどめの一撃だったらしい。


「ううーーーー………!!大ちゃんの……ばかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ――なんで俺なんだよ。確かに見たのは悪かったけど、今のは空さんのせいだろ。


 またしても階段を駆け上がるような音が聞こえ、真上…ではなく左斜め上から物音がする。


 ――そういえば隣同士だったな、しずくちゃんの部屋と。


「ふふっ!似てるでしょ?」


 空さんの性格は娘達にもきちんと適用されているようだ。


「大地くんが来ると、娘達もからかい甲斐があって楽しいわ」


 ――先程、かっこいいって思ったのは訂正することにしよう。


 俺は空さんはいつものように笑っているのだろうと振り返る。けれど、俺が見たものはそんな言葉とは裏腹に真剣な眼差しで――



「こんな日々が……ずっと続けばいいのにね…」



 その表情はとても寂しそうに見えた。

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