Classroom
初めて書いた小説です。
下手糞ですが呼んでもらえるとうれしいです。
3年最後の文化祭。
「3年間の思い出はなんですか?」とアンケートを取れば、部活、修学旅行などと並び、確実にベスト3には入るものだ。
その文化祭も1週間後に控え、学校内は活気にあふれていた。
どのクラスも大忙しで盛り上がっていることだろう。このクラスを除いては・・・。
重く暗い空気。緊迫感と不安感、それが恐怖感へとつながる。
教室で今、1番の悪役と化しているのが春日陽輔だ。陽輔に対し最も怒りの感情を表面に出しているのが、大門傑。
この2人は、同じサッカー部に所属していて、仲が良かったのにだ・・・。いや仲の良さが尚更だったのかもしれない。
「オマエさぁ、運営委員のクセによくこう、毎日毎日、帰れるよな?」
こみ上げてくる感情を抑え、震えながら傑は言った。
「ワリィ・・・。今日も用事あんだ」
いつもその一言を残し、学校を帰っていた陽輔。
「だから・・・!!!・・・その用事をせめて言えって」
抑えきれず、怒鳴った傑。拳を握り締め、今にも飛び掛りそうだ。
だが誰一人として、彼を止めようとは思っていなかった。
「・・・・・。言えねぇ」
陽輔はうつむいて、力なくそう言った。
陽輔と傑の関係じゃなかったら、陽輔がクラスの人間に嫌われ、陰口を言わる程度ですんだはず。
だが、傑は陽輔だからこそ、許せなかったのだ。
「お前・・・。また何にも言わねェのか!!」
「・・・・。言いたくねぇんだ」
その一言は傑の頭の線を1本キった。傑は窓側の机のあるところから、ドアの近くにいた陽輔の距離を一瞬にして縮め、握り締めていた拳をついに、陽輔の左頬に放った。
骨と骨がぶつかり合う鈍い音が教室に響く。その勢いで、陽輔はドアに向かって弾き飛ばされた。
ぶつかった衝撃でドアは外れるが、かろうじてその場に残り、陽輔を支えた。
陽輔の頬は真っ赤に腫れて、口を切ったのか血も流れていた。傑の拳もただで済むわけが無かった。
教室にはほぼ全員の生徒が残っていたが、誰も止めることが出来なかった。ただその目の前に繰り広げられた衝撃的な光景を何も出来ずに見ていた。
「・・・痛っ・・てぇ」
陽輔は体を起こし、拳を硬く握り締め傑を見た。が、傑を見ると同時に目に入った物で、その拳から力は抜けていった。
その物とは、いや、物ではなく人。水城梓という娘の存在であった。
梓は陽輔にとって幼馴染であり、クラスでただ1人、陽輔が帰る理由を知っていた。梓は他の生徒とは明らかに違う感情でそれを見ていた。梓の不安そうな表情を見た陽輔は、とてつもない罪悪感に包まれ、その拳を下ろしたのだ。
「っち・・・。殴り返すことさえしなくなったんか・・・。前は絶対やり返したけどな。大会2ヶ月前に部活辞めてから、やっぱヘタレ野郎になったんだな」
陽輔は何も言わず、ドアを無理やりこじ開け、帰ろうとした。しかし、傑は許すわけが無い。
肩を掴み無理やり引っ張った。
勢いで陽輔はふらつき、教室の中央辺りに尻餅をついた。
傑は陽輔を見下していた。
「理由を言うまで帰さないからな」
傑は言った、今までで1番声の張りは無かったが、心底力強さもあった。
陽輔は一息ついて立ち上がった。陽輔は周りを見渡す。
恐怖で泣き出している女子。ただ睨みつける男子。見てもいられなくなっている女子。無関心な男子。
「ごめん・・・。どうしても言いたくない・・・。傑・・・。皆ごめん・・・。手伝わなくて・・・。でもどうしても帰ってやる事があるんだ。協力できるところは何でもやる。休み時間だって俺は準備をする・・・だから・・ごめん」
陽輔はそういって深く頭を下げた。それを見た傑はまた陽輔に歩み寄り、首もとのシャツを掴んで陽輔を起こした。傑はここまでしても、理由を言ってくれない陽輔に怒りを通り越していた。
傑は自分でも自分を制御できなくなり、3年間ボール以外の物を蹴らなかったその足で初めてボール以外のものを蹴った。
陽輔は腹のみぞにそれを受け、うずくまり、むせて、耐えていた。
「ワリィ・・。・・・ワリィ傑・・・」
必死に陽輔はその言葉を吐いた。
「なんでだよ!!・・・なんで何も教えてくれなぇんだよ!!」
傑は涙目になり叫んだ。うずくまってる陽輔の両肩をしゃがみこみ、両手でしっかりと掴んだ。
「教えろよ!!帰る理由も大会前に辞めた理由も!!関係してんだろ!?教えねぇともっと蹴るからな・・・!!」
傑は陽輔を揺さぶった。
陽輔は腹を手で押さえながら傑の顔をじっと見た。
「すまん・・・。言いたかねぇんだ・・・」
「バカヤロー――――――!!!!」
それを叫んだのは傑ではなく、梓だった。梓も涙をながし、陽輔に近づいて座り込んだ。そして陽輔をじっと見つめた。
「バカだろ!!お前!!なんでそこまでされて言わないんだよ!!理由言えばみんなわかってくれるだろ!!傑くんだって分かってくれるよ・・・・」
泣きながら必死の梓。それを見た陽輔は少し笑った。
「アズ・・・。俺の安っぽいプライドってヤツだよ。俺なんか、かばってんなよ」
陽輔は立ち上がった。傑と梓はそれと同時に見上げる。
その瞬間。あろう事か陽輔は傑と同じく、ボールしか蹴ったことの無い足で、傑の後頭部を蹴り飛ばした。
「さっきのお返し・・・!!。これで俺は完全に悪役。アズ・・・。俺はこういう人間なんだ」
「陽輔・・・」
陽輔は再び帰ろうとドアに歩み寄った。が、今度目の前をふさいだのは、クラスの2人の女子だった。
「もうここまで来たら帰さないよ!陽輔君」
「梓!陽輔君が言わないなら梓が言ってよ」
戸惑う陽輔。
「なんだよ。どけって」
「どかないよ!それとも無理やり蹴っ飛ばして出てく気?」
この2人の勇気ある女の子の行動によって、教室の空気は一気に変わった。
「そうだよ!梓言ってよ!」
「何があったんだよ。傑と陽輔仲良かったじゃんよ!!」
「その2人にまでなんかするなら、今度は俺がゆるさねぇぞ!!」
「文化祭前にここまで空気悪くしたんだから、責任取りなさいよ!!」
「なんなら俺らが押さえつけてやるぜ!!」
今まで泣いてたり、睨んだり、うつむくだけだったり、無視してたりとしていた人間がいっせいに、陽輔に向かって叫んだ。
梓も傑も陽輔も驚き戸惑いながら周りを見渡していた。少し早く梓は陽輔に言った。
「陽輔!!いいでしょ!?言っても」
陽輔は梓のほうを振り向いた。起き上がった傑と目が合うが、気まずそうに目をそらした。
もう一度クラスを見渡す陽輔。
「・・・・。わかったよ。アズが言わなくていい。俺が言う」
陽輔はその場所に座り込んだ。教室は静まり返った。
「言っとくけど、たいした理由なんかじゃないんだ」
全員が陽輔の言葉に耳を傾けていた。
「大会の3ヶ月前に、親が・・・離婚・・・したんだ。・・・それでも、余り変わらないと思ってた。でも現実じゃあ、親父がいなくなって!母さんは仕事を限界までいれて、家にほとんどいなくなった。でも、家の事は、婆さんがいたから良かったんだけど・・・。大会の2ヶ月前にガンで倒れて・・・。今も入院してる。・・・。だから、下の弟の面倒とか、家事とか。バイトもしなきゃいけなくなっちまってさ・・・。それで・・・だよ」
陽輔は精神的にもかなりまいってる様だった。
「バカヤロゥ・・・。なんでそんな理由・・・、隠してたんだよ」
傑は言った。
陽輔が傑のほうを見る。
「まぁ・・・。お前のことだ・・・。どーせ同情とかされたくないみたいなもんだろ?」
「う、うるせー・・・。別にいいだろ」
陽輔は少し顔を赤くした。
「だからバカだって言ってんだよ。早く言やぁ、協力ぐらいしてやれたのによ」
「協力?それが迷惑だから言ったんだよ」
陽輔と傑は睨み合った。しばらく沈黙して、思わず2人とも吹いて笑ってしまった。
「陽輔らしいな・・。やっぱ・・・。・・・。帰んな。このクラスにはお前がやる仕事はねぇ」
「は?」
思わず陽輔は傑に聞きかえした。
「うん・・。こっちも手伝ってもらうことは無いよ」
「オッケー。こっちもほぼ完璧」
「いらない。いらない。陽輔なんて帰っちまえよ」
クラスは自分一人一人は猫の手も借りたいほど忙しい状態なのに、そう言っていった。
傑は陽輔にも気を使ったのだ。
「そっか・・・。いらねぇんなら帰らせてもらうわ」
陽輔はそう言ってドアに向かった。
立ちはだかった女子もその場所にはいなかった。
「よーすけ!!」
梓が叫んだ。
振り向く陽輔。
「ね?分かってくれたでしょ?」
梓は微笑んだ。
陽輔も笑いながら教室を出て行った。
陽輔が出て行った後、傑の声が聞こえた。
「よし!陽輔の分は俺がやってやる!!」
その言葉は陽輔にも聞こえていた。
何だ――――――。
簡単なことだった――――――――――。
誤解してた―――――――――。
皆が俺を信頼してないんじゃなくて―――――――――。
俺が皆を信じていなかったんだ――――――――――――――――。
1週間後。
全員が満面の笑みで写る・・・1枚の集合写真が撮られた。