王様にふさわしい料理大会
「わしが料理大会の審査員?」
大臣から渡された料理大会のお知らせと書いてある紙に目を通しながら尋ねた。
「はい、来週の収穫祭で最も素晴らしい料理人を表彰する催しがあります。
その決勝審査をぜひとも王様にしていただけないでしょうか。
もちろん王様にふさわしい料理をお持ちいたします。なにとぞお願いできませんか」
この国では年に一度、収穫を盛大に祝う祭りがある。
その日は街中に出店が出てよその国からも観光客が来て毎年大変な賑わいだ。
そのような場で表彰されれば注目の的となり国中の話題になるだろう、
そこへ王様のお墨付きという言葉が入れば更なる売り上げへの貢献になるだろうな。
…それに、毎日の食事も代わり映えがしなくて飽きてきている。
「良いだろう、審査をしてやろうではないか」
王の返事に大臣が礼を言いながら頭を下げて退室していった。
さて、どんな旨いものが出てくるのか。あと一週間もあるのに、なんだか腹が減ってきた。
あっという間に時は過ぎ収穫祭当日となった。
王が座る一段高い審査員席からは祭りの様子がよく見えた。
いつも馬車が通るレンガ道には出店が並び、小さな子供が串に刺した何かの肉を持って走っていく。
あれはなんという料理なのだろう。気が付かぬ内に口の中にヨダレがたまっていた。
これから出される料理への期待が高まる。
「料理、楽しみにしてるぞ」
つい、隣に立つ大臣に声をかけた。
ニッコリ笑みを浮かべた大臣が大会の説明を始める。
「今回、王様が直々に料理を審査して下さるということで最終審査ではテーマを決めた特別メニューを作らせることになりました。そのテーマですが、あちらをご覧ください!」
勿体つけてそう言う大臣の指差す場所を見てみるとそこには真っ白なのぼりが立ててあった。
そこに徐々に字が浮かび上がっていく。なかなか面白い演出だ、さてテーマとは一体なんだろう。
[王様が毒殺されにくい料理]
一瞬時が止まった。大きなのぼりが風でたなびいてバタバタと鳴っている。
[毒殺]という字が目に痛い。
「え!?わし嫌われてるの?」
別の意味で唾を飲み込んだ。
大臣が気にせず説明を続ける。
「王族にとって食事は常に危険がはらむものでございます。
どれだけ屈強な兵といえども一度王様の口に入ったものを防ぐことはできません。
そういう意味では、毒殺されにくい料理とは万の軍勢にも勝るとっておきと言えるでしょう」
大臣のいう事が屁理屈にしか聞こえずゲンナリとした。一気にやる気がそがれる。
「そもそも何故食事のたびに毒殺を心配せねばならん、
毒見役がおるのだからなにも問題はないであろうが?」
さっきと変わらぬ笑顔の大臣が今日からはいませんと小声でつぶやいた。
一体なにがあった!
驚いた顔で大臣を見るが、まるで気づかなかったようにそのまま話しが続いた。
「さて、今回王様に召し上がっていただくのは決勝に残った2品です。
どちらが最も王様にふさわしい料理かを選んでいただければとおもいます。一品目をここへ!」
大臣が声をかけると高いコック帽をかぶった若い料理人が、深い皿に入った料理を持ってこっちにきた。
目の前に置かれた皿の中身はスープのようで芽キャベツやヤングコーンが具として入っている。
若いコックが緊張した声で料理の説明を始める。
「ミニ野菜のスープでがす。スープなら大なべから取り分けるので、一つの皿に毒を盛るのは難しいでがす。具は丸ごと煮込める小さな野菜にして、一目で毒草かどうかを見分けられるようにしてみやした」
なるほど、流石は一流の料理人。こんなわけわからんテーマでも十分うまそうなものをつくるのだな。
さっそくスプーンを手に取って食事をはじめる。薄味だが野菜の甘みが十分に出ている。
豪華な濃い料理もうまいがこれはこれで悪くない味だ。
「王様、これは減点する必要がありそうですな」
料理を味わっていると隣の大臣が声をかけてきた。目を向けると何故かスープを飲んでいる。
お前は審査員ではないだろう、そう思ってにらんでみたが大臣は気にしていないようだ。
「この料理はテーマを無視しています。このような料理では王様を容易に毒殺できてしまいますぞ。
料理を配膳したあのコックが毒を持っていたらどうしますか?
誰の目にもつかない位置で皿やスプーンに塗ることも可能だったでしょうな。
王様、仮に私が暗殺者なら王様の命を3度は奪えましたぞ。」
鼻息荒く自信満々の大臣の顔を見ていると、むしろ大臣を捕まえておいた方が良い気がしてきた。
大臣の顔を眺めながらこいつをなんの罪で捕えようかなと考えていると、
これでは毒見役が化けて出てきそうですなという声がボソリと聞こえた。
「やっぱりなんかあったのか!?」
「次の料理を持ってきなさい!」
大臣が慌て気味に声をかけると、長いヒゲをはやした太った男が現れた。
着ている服はコックコートではない、研究職が使うような前で閉じる白衣のように見える。
男はキラキラと妙な光沢のある皿を重ねて持ってきた。
皿を重ねて?中身は?
皿をテーブルに並べ終わると男の説明が始まった。
「わしは料理よりも器にこだわってみました。
材質を普段使われる銀ではなくミスリルに、皿のフチには浄化の呪文が刻まれています。
この皿に料理を置けばあらゆるものが一瞬で浄化され毒すら美味しくいただけます。
ぜひお試しください」
「毒を盛らせないではなく毒を食べられるようにするとは、まさに逆転の発想ですな」
「料理はどうした」
嬉しそうに褒める大臣に思わず突っ込みを入れる。
やはり皿には何も乗ってない。料理ではない、これはスゴイ食器だ。そしてコイツは鍛冶屋だ。
「ふむ、確かに効能を見るには試食してみなければいけませんな」
大臣がアゴをなでながらなにかをぶつぶつ言ってる。
しばらくすると両手をポンと叩いてこちらに向いた。
「そうだ、この皿に昨日の王の晩餐を入れて持ってこさせましょう。」
だから昨日の料理になにがあったんだよ!?
結局、審査結果は引き分けになった。
白衣の太った男からこの皿にさっきのスープを入れてはどうでしょうという声が上がったからだ。