MISTY
「ちっ、こんなのしかなかったのかよー。」
茂蔵がこっちを見ながら訴えかけてきた。
「しょうが無いじゃないか、この花柄のが1番安かったんだから。」
あれからペットショップに行き、猫の籠を探しに行った結果、色々あったのは良かったが、やはり金欠なのが後々響くだろうと思い、一番安い花柄の可愛い籠を購入したのだ。
「しかもこの電車も先が長そうだし、いい加減足が疲れてきたわ。」
籠の中で丸まっている奴が何を言う?
っと本人にははっきり言えなかったが心の中でとどめておいて、僕はその言葉を流して窓の外を見た。
さっきまで都会の高いビルが電車の早さと共に移り変わっていったが、いつの間にか平地や田園の見える景色に変わっていた。
なかなか都内から外に出た事のない僕にとってみればとても新鮮で、見る物全てが珍しく思えた。
「おい、いい加減退屈だぞ!俺も外の景色を見せろ。」
いい加減茂蔵が退屈したのだろう、籠の入り口の網をガリガリしながら僕に訴えかけてきた。
「もう少し我慢してよ、しょうが無いだろ?籠を上に上げる事が出来ないのだから。」
そう言うとまたチッ、と舌打ちをして籠の奥に消えた。
っとその時だった茅ヶ崎駅に辿り着いた頃、ふと電車が動かなくなった。
そこに場内アナウンスが流れた。
「えー、誠に申し訳ございませんが。停止信号が発生致しましたので少し停車致します。繰り返します。停止信号が発生致しましたので少し停車致します。」
なんでこのタイミングなんだよ、、、
とわ思ったが、今は別に時間に縛りの無い僕は焦る事も無い事にふと気づき只々のんびりと待つ事にした。
「おい、暫く動かないのか?だったら少し外に出ようぜ。ずっと電車の中だと息苦しくて苛々してきやがる。」
お前はいつも苛々しているじゃないか。
っと素直に言えないまま僕は茂蔵を連れて待合いの席に座る事にした。
時間に余裕のある僕は持ってきた本を読み始める。
電車が動かない事に諦めた茂蔵は丸まって寝始めた。
っとその時だった。
ふわぁっ、と柔らかい風が吹いたかと思えば白いワンピースにツバが長い麦わら帽子に、そこから覗きこむ肩位の長さの髪の毛が女性らしさをかもしだしていた。
そんな女性に共通点がある事に直ぐ気づいた。
薄いピンクと白のチェックがらの籠ををもっていたので、この人も僕と同じだ、と安心感が湧き出てきた。
中にはいかにも高級そうな猫が黄色に輝く目でこちらを見ていた。
そして彼女が話しかけてきた。
「あのー、隣の席座っても良いですか?」
その時の彼女の笑顔は今でも忘れない。
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「高級猫は手入れがされてていーねぇーお姫様」
急に茂蔵が呟き始めた。
「あら?貴方だって随分と良い物を食べさせてもらってるじゃない?」
「まー、割とな、だけどこいつ今働いてねーからいつ残飯に変わるかわからねぇ」
「あらま、それは大変ねぇー、ま、私は一生裕福が保証されてるからいいわ。」
「ちっモフモフ風情が、それ以上太ると早死するぜ。」
「あら?貴方の方が食べる物も無くなって私より早死するわ?まー、死に方は私の方が幸せな死に方よね。あとね、私はモフモフって名前じゃないわ、ミスティって素敵な名前があるよの」
「へぇー可愛い名前だね」
と、僕が独り言の様に呟くと。
洋猫ミスティが驚いた感じでこっちに振り向いてきた。
「え?貴方、私の言葉が分かるの?」
と同時に白いワンピースの女性も
「何がです?」
とこちらの顔を覗き込みながら訪ねてきた。
「あ、いやっ、えーっとー、なんでもないんだ!独り言独り言!」
と一人と一匹に聞こえる様に言った。
悟ったかの様に茂蔵がだるそうに
「こいつはどうやら俺達の言葉が分かるらしいんだ、俺も最初は驚いたがな。」
「ふーん、世の中には変わった人間も居るものね、まー不思議じゃないわ」
そう言って茂蔵に対しあまり無関心のミスティはひと眠りについた。
「貴方の猫ちゃんは、綺麗な色をしてますね。」
「あ、そ、そうですねっ」
と、突然にワンピースの女性が話かけてきたので最初は戸惑ったのだがそこは人見知りの僕でも直ぐに話に溶け込めた。
何だろう?話しているととても安らぐ。
こんな事、前にもあったような。
昔から人見知りの激しくて、今でゆうコミュ障な僕は勿論人と話すのが苦手で、特に女性と二人きりではもってのほかで。
でもそんな僕でもちゃんと距離を保ちながら接してくれた舞衣が僕の心の支えだった。
でもその距離を保つのが舞衣にとってとても辛くて、結果そんな僕に飽きてしまったのは後になって分かった事だ。
とても懐しい思いに浸りながらワンピースの女性と猫について暫く語った。
僕は猫の事なんて何一つ詳しくは分からなかった。
ただ、ワンピースの女性が楽しそうに僕に話しかけているのを只々黙って聞いているだけで、とても幸せな気持ちになれた。
どれ程の時間が経過したのかもすら分からない、むしろこのまま時が止まってしまえばいいのにといつしか僕は思っていた。
だが時間というのは時には残酷で、、、
僕はまだまだ聞いていたかったがその場を切り裂く様に場内アナウンスが鳴り響く。
「大変遅れて申し訳ございませんでした。そろそろ発車致しますのでまだ席に着いてない方はお席に御戻りになってお待ちください。」
するとハッとワンピースの女性は何かを思い出したかのようにスゥッと立ち上がり。
「ごめんなさい。私ったらお話に夢中になってて気がついたら一方的に話てて、これが私の行けないところだって分かってるんだけどね、本当ごめんなさい。私グリーン車だから。ありがとうございました。」
何度も頭を下げながら花柄の籠をもって早歩きでグリーン車の車両へと歩いて行った。
少しだけ、時間が止まった気がした。
なんだろう、寂しい気持ちとどこか温かい気持ちが心の奥底で残る感じがした。
「何ボーッとしてんだ?そろそろ発車するぞ?」
と茂蔵が僕の覚ました。
足取りは重いが少しの幸せを胸に
僕は列車へと乗り込んだ。
「あ、せめて名前だけでも聞いておけばよかった」
別に名前を聞いたからどうって事はない
でも僕の心の歯車を久しぶりに動かしてくれた人物を、僕の物語にせめて登場人物として刻んでいたかったのだ。
「もう一度、止まればいいのに、、、」
列車はそんなわがままを聞きもせず、直通で熱海へと向った。
今回も最後まで読んで頂いた方にお礼を申し上げます。
遂に長くて短い様な、そんな旅が始まりました。
予定では1泊2日になります。
僕は何かを発見出来る事が出来るでしょうか?
10月は割と僕自身イベント事でバタバタしてしまい頻繁には投稿出来なくなってしまうかもしれないですが、最後までお手に取り読んで頂けると幸いです。
短い文ですみませんが今回はこの辺で失礼させて頂きます。
おかぴ先生




