小さな光
僕はあの日から無気力な日々を過ごしていた。
いわゆる廃人というやつだ。
まぁ何と言われようが知ったこっちゃない。
ただ僕は途方に暮れた挙句、バイトも休みがちになり。
いつしかバイト先の店長から
「君ねぇー、何があったかは知らないけど、うちも迷惑してるんだよね、、、もう来なくていいから。」
と留守電に録音されていた。
剛とも会う気がしなくて、電話の着信音だけが毎日鳴り響いていた。
どれ位経ったのだろう?
次第にカレンダーも見なくなり、ただ唯一やる事と言えば、自分の食事と茂蔵へのご飯を上げる事だった。
何もしなくたってお腹は減る、茂蔵もご飯はちゃんとあげないと可哀想だと言う気持ちは残っていた。
そして、餌を上げるとベッドに横になり無心で天井を見上げていた。
「おい、いつまでそんな事続けるつもりか?」
、、、、えっ!?
何か聞こえた?
いや、気のせいだと思い、また天井を見上げた。
「おまえ、毎日そうしてて楽しいか?」
空耳ではない。
確かにこの室内から聞こえた。
とっさに僕は周りを見渡した、が、人間などいる筈もない。
ベランダを覗いてみたがそこにも人影などありゃしなかった。
「いい加減こっち向け。」
、、、
そぉーっと、、、僕は声のする方向、そう、足元をみた。
すると茂蔵がこっちを見上げてこう言った。
「よっ!相棒!」
とっさに僕も右手を上げて
「よっ!」
ここから僕のあまりにも奇妙な生活が始まったのだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
とりあえず僕は茂蔵のご飯が残り少ない事に気づいて近くのスーパーに行くことになった。
久しぶりの外出の様な気がして少し緊張した。
ニット帽を深く被り、マスクをして、明らかに傍から見たら犯罪者だった。
それでも今は人に見られる事の方が嫌だった。
そして自転車のカゴには茂蔵が。
最近ずっと家に居て暇だったから動きたいらしく、一緒にスーパーへ向かった。
「おい、どうやら俺はここから中へは入れないようだから少しはマシな食べ物買ってこいよ?」
なんて、生意気な猫なんだ。
いっその事口が聞けない方が良かったのに何故こいつは喋りだしたのだろう?
僕はまだ夢の中にいるのかと疑問だけを抱いて茂蔵に一言
「わかった。」
とだけ言い残してスーパーに入っていった。
スーパーには時間帯が夕方だって言うのもあって人が沢山いた。
僕は麻衣が居ないか心配で辺りをキョロキョロしながら歩いた。
何であいつの為に僕はびくびくしながら生きて行かなきゃ行けないんだ。
元はと言えば麻衣が全て悪いのに、、、
僕の脳裏にあの出来事が焼き付いて離れない。
あのシーンを振り切るようにキャットフードコーナーへと向った。
そこにはキャットフードが数えきれない程沢山並んでいた。
別に味とか変わるの?でも茂蔵は口うるさそうな性格だったのでなるべく高めなソリッドゴールドと言うキャットフードを購入した。
「ちっ、ソリッドゴールドか、、、まー、、無いよりはましか。」
こいつは相変わらず生意気な猫である。
「仕方ないだろ?今バイトもしてないんだ、直ぐお金が無くなってしまう。」
すると茂蔵はそっぽを向いて。
「ちっ、何で俺がこんな奴を、、、」
と言った気がした。
「え?何か言った?」
と聞き返すと。
「何でもねーよ、さっさと行くぞ。」
といって軽いステップで自転車のカゴに飛び乗った。
猫は良いもんだ、何を考えてるか分からないし考えて無いのかもしれない。
そんな能力を僕は嫉妬する程に欲しがった。
家に帰る途中近所の見た事のある人達と何人かすれ違い、その都度僕は、きっとこんな僕を哀れむ目で見ているんだ、同情するならするがいい。
と凄い憎悪感に囚われながら帰宅した。
「そんでまたお前はそうやって殻に閉じこもるのか?」
こいつは僕の心の的を突いてくる言い方をする。
確かにそうだ。
僕はこの家というのを武器に心の殻に閉じこもっている。
そこは否定出来ない事実だ。
だからこそ頭にきた。
「そんなの分かってる!だけどどうする事も出来ないんだからしょうがないじゃないかっ!」
何年ぶりだろう?
そう言えば進路の時に母と喧嘩したっけ?
僕が進みたい道に進ませてくれなかったのがもどかしくて、遂には爆発してしまった事があった。
それ位ぶりに僕は大声をあげた。
すると茂蔵は冷静に、そして迷惑そうに。
「そんな大声上げなくたって聞こえるわ、ってか人間よか耳が良いから鼓膜が切れるかと思ったわ、てか頭痛いわボケ。」
「あ、ごめん。」
やっぱり僕は弱い人間だ。
言い返されたらそれ以上の言葉は浮かばない。
進路の時も爆発はしたものの、結局母に良く言いくるめられて従ってしまったのだ。
だから僕は逃げ出したのだ、、、
そして逃げ出して辿り着いた場所がここの自分の住処(殻)だった。
思いたったかのように茂蔵がつぶやく。
「そんな殻ばっか籠ってねーで、たまには自分の力で破ってみたらどうなんよ?」
破ると言う言葉があまりしっくりこない僕は。
「破るってどう言う事?破って何か良い事でもあるの?」
すると、茂蔵はため息まじりに。
「はぁー鈍いねぇー、いつまでもここにじっとしてたってしょうがないでしょうが?女にフラレたんだかなんだかしらねーけどよー、こんな辛気臭い所にいつまでも居たら俺まで腐っちまうじゃねーか。」
「そんなの知らないよ、お前は猫だろ?猫だったらもっと自由に外とか散歩に出ればいいじゃないか。何でいつも僕の周りをつきまとうんだよ、それに僕はフラレたわけじゃないし。」
だんだん小声になってくる。
強気で言ったらこいつはきっと倍返しの様に文句を言ってくると思ったからだ。
しかし、茂蔵は怒りもせずに、半ば呆れ返ったかの様に。
「まあよ。俺も少しは同情してるんだぜ?あの大雨の中、何だかんだ俺を助けてくれたしな。だからさ、少しでもお前の力になれればよ。」
茂蔵の意外すぎる言葉に一瞬僕は言葉を失った。
そして少し、時間を置いて。
「少し、、、旅に出てみようかな。」
すると、「おぉーっ」と掛け声と共に茂蔵が近付いてきた。
「これで一歩前進だな。いいんじゃね?お前の気が済むまで東京離れたら。」
「そうだね。」
僕の表情が明るくなったのが自分でも分かる。
ただ僕は、今バイトもしてない状態で、ましてや猫の餌代もかかるのを計算して、そんなに遠くまで行けない事は自分でも分かっていた。
「そうだ、熱海に行ってみたい。」
さっき茂蔵のご飯の為にスーパーに行った時に袋の中に熱海のチラシが入っているのを思い出した。
割と近いし、この連休の無い時期なら料金も割と安いし。
で、パソコンで早速検索してみる事にした。
「おい、俺もちゃんと泊まれる所にしろよ?」
後ろでぶつぶつうるさいが、言われるままに、猫も一緒に泊まれる宿を検索した。
すると三件あてはまった。
どれも昔ながらの旅館で、優柔不断な僕は感じでどれにするか迷った。
が、茂蔵があっさりと決めた。
「何ちんたらしてんだよ、これでよくね?」
そういって割と高めのと言うか2番目に高い旅館を選んだ。
こいつは何故か1番高いのを選ばなくて、何故か2番目をいつも選ぶ。
多分こいつなりの僕への気遣いなのだろう。
そう思いながら旅館の予約をとった。
1番早い日にち、明々後日15時チェックインで予約。
人間様1人と猫1匹、と
心で喋りながらエンターキーを押す。
そして次の朝を迎えた。
僕は珍しく朝に起きて、昼頃に出掛ける準備をしていると。
どことなく気だるそうな茂蔵が近寄って来た
「なんだよ?珍しいじゃねーか、いきなり仕事する気にでもなったか?」
いや、僕の心はそんなに早く立ち直れる力は残念ながら備えていなかった。
1通り準備を終えると僕は珍しく自分から茂蔵を誘った。
「これからお前の籠を買いに行くんだ。でないと電車に乗れないだろ?」
すると、お前と言われたのが気に触ったのかなんだか分からないが。
「行くならお前一人で行って来い。俺は今日調子が悪いからこのまま寝てるわ」
何て天邪鬼なんだ。
自分から付いて来るくせに、僕が誘うとこうだ。
それすらも言い返す事もなく僕はただ頷き玄関を後にした。
出て行く間際に後から
「少しはまともな柄のやつを選べよ?」
と聞こえたがそれは僕は無視した。
「わがままな王様気取りかよ。」
と、小声で文句を言うのが僕の今の最大の反抗である。
そして僕は深くため息をもらしながら自転車にまたがり、隣駅の少し大きなペットショップへと向った。
この時何故か少しだけ気分が良かった。
2話目も見て頂きありがとうございます。
茂蔵が喋りました。
これに対しては自分も驚いておりますが、こう言うツンデレ?な猫が欲しいなーと切実に思う今日この頃。
果して僕は自分を見つけだす事が出来るのか。
それが最終地点だとは思ってもいないのですが。
ある程度目標がないと物語としては面白くないでしょう?
なので大きな目標としてそこに向かって僕は進んでいきたいと思っております。
まだまだ僕と茂蔵の物語は続きそうなので、これからも暖かく見守って頂けると幸いです。
おかぴ先生




